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最後の願い 前編

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最後の願い 前編

リアクション

 

『見付けた――っ!』
 轟く声に、彼等は上を見上げた。
 大型飛空艇、アイランド・イーリが上空にあり、そこから、拡声器を使って、小鳥遊美羽が大音量で叫んだのだ。
「……迂闊。
 話に気を取られすぎていた」
 巨人が顔を顰める。

「降りられませんわ」
 此処は、険しい峡谷地帯で、飛空艇が着陸できるような平地が無い。
「ユーベルは上空に待機してて。
 小型飛空艇か箒が無い人は、相乗りするか適当に飛び降りて!」
「……無茶言うわね」


 オリヴィエらの周りに集まる者達を見て、巨人は意外そうに言った。
「随分多いな。お前、自分への評価を改めた方がいいのではないか?」
「そうかなあ……」
 確かに多いね、と彼も呟く。
 どうやって此処を逃げようか、と言っているのを見て、
「あんな言葉を言い残したのは、『捜してね』ってことかと思ってたよ」
と、早川呼雪のパートナーの吸血鬼、ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)が言った。
「うーん」
「じゃあ訊くけど、博士が殺そうとしているのは、“シャンバラ女王”? それともアイシャちゃん個人?」
「……女王だね」
「もうひとつ。
 女王殺害は目的じゃなくて、本来の目的の為の手段?」
「うーん」
 オリヴィエは苦笑する。
「ノーコメントにしておこうかな」


「今晩は、博士。初めまして、巨人さん」
 ソア・ウェンボリスの挨拶に、
「やあ」
とオリヴィエも答えた。巨人は無言だ。
 続いて、きょろ、とソアは周囲を見る。――半ば予想はしていたが、やはり、ハルカの姿は無い。

「間違いなく、同一人物ですね」
 明るい月光に照らされる巨体を見て、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)のパートナー、剣の花嫁、エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)はそう呟いた。
 オリヴィエの元を訪れたという巨人と、演習場を襲撃した巨人が同一人物なのか、自分の目で確かめるまでは、今ひとつ信用できないでいたのだ。
 だが、もう疑いの余地はない。回って来ていた映像と、確かにその巨人は同じ容姿をしていた。
 オリヴィエを発見して、花妖精のリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)が真っ先に確認したのは、ハルカの安否だった。
「一緒じゃないの?」
「これ以上は付き合わせられない」
「えっ……大丈夫なの? 今頃迷子になっていなの?」
 連れ歩いていたとしても、無茶な野宿をさせていないかとか、色々心配なのに、一緒ではないとさらりと言うので、余計心配になる。
「監督不行き届きよ!」
「悪いね」
「食事はちゃんと取ってたんですか、博士も、ハルカちゃんも」
 エオリアの言葉に、オリヴィエは笑った。
「そんな心配をされるとは思っていなかったなあ」
「笑い事じゃないぜ」
 エースが半ば呆れ、半ば怒ったように言う。
「どういうことなんだ。ちゃんと話してくれよ。協力するから」
 彼の力になりたいと思っている。
 本当に彼が女王殺害を企てているのなら、ハルカがついて行く筈がないと思う。
 女王殺害を謳う裏で、一体何を考えているのか。
 大体、何故博士もハルカも、先に助けを求めてこないのだろうと憤ろしく思う。水臭い。
「直接話を聞かなきゃ!」
と飛び出したエースに、
「……やれやれ」
の一言で同行した吸血鬼のメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)も、直接話を聞かなければ真実は解らない、という思いには同感だ。
「そもそも、何故今なのです?」
 メシエは訊ねた。
「本当に、殺害しなくてはならないのであれば、もっと早い時点で……それこそ、女王が認められる前かすぐ後くらいの方が、理にかなっていると思うのですが」
「そうだね」
 オリヴィエは頷いた。
「でも、そういうのは、別にどうでもいいんだ。
 ……ただ、もういい加減潮時かなと」
「潮時?」
 訊き返した言葉には、答えない。
「喋り過ぎかなあ」
と、小さく呟いた。
「では何故、今こんな所にいるんです? 宮殿は空京ですよ」
「……普通に空京へ行っても、途中で阻まれると思ってね。
 直接祈祷所まで行った方が確実だろうと」
「直接?」
「ただ、解らないのが、祈祷所の場は、宮殿の最上階か、最下層か……うん、そのどちらかだろうとは踏んでるんだけど」
 知らないかい、と問われ、メシエは眉を寄せた。
「知りませんし、知っていても言うわけがありません」
「そうだろうね」
 勿論、答えを期待してはいなかったのだろう。オリヴィエは頷く。
「……じゃあ、女王を殺害しようとしてるのは、フェイクじゃないんだ?」
「違うね」
 確認したエースは、ぎゅっと拳を握った。
 何故、と思う。
「ハルカちゃんは、それを知って、ついて来ているのか!?」
 何故、この期に及んでも、真意を隠そうとするのか。

「……博士」
 呼雪が口を開いた。
「あの人は、俺達には、到底女王を護れまいと言ったが」
 それは、演習場襲撃の際の、巨人の言葉だ。
「本当の意味で女王を護ることなんて、誰にもできない……。
 護られているのは、生かされているのは、俺達の方なのだから」
 それは、シャンバラで生きている以上、望むと望まざると。
 オリヴィエは、ふっと微かに表情を変えて呼雪を見、それから微笑した。
「ああ。……その通りだ……」


「念の為訊くが、ここのところ起きてる宮殿関係者への襲撃は、博士の知り合いとかじゃねーのか?」
 雪国ベアが訊ねた。
「え?」
 オリヴィエは訊き返す。
「いや、それは別件かな?」
「そうか。
 ……だが、それで今、宮殿の方は警戒が厳重になってんだからな。
 下手に襲撃しても無駄だぜ」
 安堵しつつも、ベアは続けて言い放つ。オリヴィエは肩を竦めた。

「博士」
 そこへ、強い口調で言ったのは、美羽だった。
 結局彼は、はぐらかしてばかりで、重要なことを言っていない。
「私達が、女王を護るロイヤルガードなのは、知ってるよね。
 でも、何も理由を知らないうちから、博士を止めるようなことはしたくないの。
 だって今回も、きっと何か理由があるんでしょ?」
 それは、理由。彼の動機だ。
「そうだね」
 オリヴィエは、あっさり頷いた。
「理由は、あるよ。
 でもそれは、君達が知る必要はない。巻き込んで済まないね」

「そんなんじゃ、全然納得できないんだよ!」
 レキ・フォートアウフが言った。
「ちゃんと話してくれないなら、博士を拘束して、然るべき場所に連れてかなきゃならないんだよ」
 話し合いに来た。
 だが、話してくれないのなら、実力行使に出るしかない。
「待て、早まるな」
 呼雪が止めたが、レキはキッと呼雪を見返す。
「だって! 博士はこっちの話を全然聞いてくれない!
 何か理由があるなんてことは解ってる! でもまずは、女王を殺すのを止めなきゃ!」
 戦いに来たわけではない。
 けれど邪魔をするのなら、契約者達とだって戦って、博士を連れて逃げることも選択肢にはあった。
「……参ったな」
 オリヴィエは困ったように笑う。
「一旦、此処を逃げられないかな?」
 巨人に向かって言った、その直後――。
「レキ、気をつけよ!」
 ミア・マハが叫んだ。

「逃がすくらいなら、殺す」
 後方から、光弾が飛んで来る。
 魔法のものらしき、禍々しい光の矢が、オリヴィエの胸を貫いた。
「…………ッ!」
「博士!」
「ラウル!」
 受け止めようと、巨人が手をのばしたが届かず、オリヴィエは、深い谷底へ落ちて行く。
「ええい、しまった、気配が多過ぎて捉えきれなんだわ!」
 ミアは神の目を以って、相手の姿を曝す。
「誰じゃ、貴様は!」
 見知らぬ、黒髪の男。
 ウーリアは、姿を曝されても動揺する様子を見せずに、にやりと笑った。
「ラウル・オリヴィエとはな。珍しい奴を見た」
「はかせ――!」
 更にその後方から、驚愕の叫び声が上がる。
 刀真翔一朗らに連れられ、オリヴィエと合流しようと追って来ていたハルカだ。
 ウーリアは、ハルカ達の後をつけて此処まで来、間近で先回りしたのだった。
 ハルカは駆け出し、オリヴィエが居た場所へ行こうとする。
「ハルカ、待てっ……」
 引きとめようとしたが、遅かった。
 バチッ、と、翔一朗の施した禁猟区が反応する。

 にやりと笑ったウーリアは、素早くハルカに駆け寄ると、その腕を掴まえた。
「ハルカを離せ!」
 剣を抜きながら叫んだ刀真に、素直に手を離す。だが。

「――ふん、最も良さそうと思ったが……随分非力な体だな。
 まあいい、この体は頂いた」
 ハルカは、ハルカの声で、全く別の者の言葉を吐いた。
「ハルカ……!!?」
 漆髪月夜が、愕然と目を見開く。
「後は任せた」
「心得た」
 ハルカとウーリア――それまでウーリアを憑依させていた男は、それぞれ別の方向へ逃げる。
「待て!!」
 ウーリアが何らかのスキルを使ったのだろう、夜の闇に紛れて、その姿はすぐに見えなくなってしまった。
「……あっ」
 呆然としていたファルが、はたと振り返る。
 いつの間にか、巨人の姿もなくなっていた。




 一連を、巨人が去るところまで黙って見届けた国頭武尊は、ついに最後まで干渉することなく、その場を後にした。

 一瞬、谷底へ落ちたオリヴィエを追うのかと思われた巨人は、姿を晦ましながら、全く別の方向へ去った。
 オリヴィエの行方よりも、当初からの目的を優先させるつもりなのかもしれないが、自分のすべきことは、予測を立てることではなく、見届けた全てを、ジャジラッド・ボゴルに報告することだった。
 

担当マスターより

▼担当マスター

九道雷

▼マスターコメント

 
ハルカ「皆さんこんちはなのです!」
ヨシュア「お久しぶりです」
ハルカ「前編をお届けするのです。
 皆色々大変でお疲れ様なのです」
ヨシュア「戦闘描写は、毎度解りにくくて申し訳ありませんが、時間軸は上から下に進んでいるのではなく、遡ったり同時進行したりしています。
 フィーリングで読んでやってください。
 今回、対巨人での戦闘判定は、かなりものすごく厳しいことになっているそうで……すみません」
ハルカ「皆も頑張ったですけど、巨人さんも頑張ったのです。どんな厳しいです?」
ヨシュア「まず、2人のパイロットランクの平均値が一定値以上であること。
 それと、2人のパイロットランクのバランスが取れていること。
 そして、作戦内容、だそうです」
ハルカ「一定はいくつなのです?」
ヨシュア「そこまでは……」
ハルカ「バランスは何なのです?」
ヨシュア「えーと、2人のランク差が6以上あると、2人の操縦は噛み合ってない感じ、かな。
 差が大きいほど、連携が取れていない感じ」
ハルカ「一緒の操縦は大変なのですね」
ヨシュア「ハルカちゃんが乗ってた博士のゴーレムは、一人乗りなんですね」
ハルカ「ハルカが自分の手を動かすつもりでいたら、ゴーレムの手が動いたのです」
ヨシュア「……それにしたって、全く博士は無茶すぎると思うけど……」
ハルカ「はい?」
ヨシュア「いえ、何でもないです。
 ちなみに、アルゴスさんは、勝敗はともかく、生身で向かって来た人に対してだけ質問に答える、というつもりだったそうです」
巨人「顔も見えない相手と話をする気は無い」
ヨシュア「……本当にイコンがお嫌いなんですね……」
ハルカ「ケンリューガーさんはヒーローなので顔見えないですよ?」
ヨシュア「ああ、フルヘルメットみたいになるんですね?」
巨人「まあ、生身だろう」
ハルカ「はかせのガイゴーレムも、動かす時は中に乗るので見えなくなるのです」
ヨシュア「ガイメレフ……」
巨人「全くあいつは、無粋極まりないものを造ったものだな」
ヨシュア「その博士は、大変なことになってしまっているようなんですが……。
 ハルカちゃんも、敵に憑依とかされちゃってるんですよね?」
ハルカ「何だかよくわからないのです……」
ヨシュア「アルゴスさん、助けに行ってくれないんですか?」
巨人「そんなことをしていたら、予定が狂う」
ハルカ「はかせ……、死んじゃったのです……?」
ヨシュア「なっ、泣かないで! えーと、その辺の突っ込んだ話はまた後編で。
 よかったら、皆さん次回もよろしくお願いします」
ハルカ「よろしくなのです」

ヨシュア「あと、九道のシナリオでは毎回、最終回で、通常アクションとは別に、エンディング用アクションというものを募集していましたが、今回は、それはありません」
ハルカ「エンディングないのです?」
ヨシュア「代わりに、後編の後に、打ち上げイベントシナリオ、というのを予定しています」
ハルカ「エンディングだけでシナリオやるのです?」
ヨシュア「まあ、そんな感じ。
 後編が終了した時点で、思うこともある人もいるかな、って。
 ただ、ひとつ問題があって、これ、後編の展開次第では、もしかしたらできないかもしれないです」
ハルカ「えっ、どうしてなのです?」
ヨシュア「ぶっちゃけた話、ハッピーエンドにならなかったら、できないかも……」
ハルカ「皆で打ち上げやりたいのです」
ヨシュア「打ち上げまでで全3回、とこじつけて、無理矢理扉絵描いて頂きましたしね……」
ハルカ「扉絵! すごく素敵なのです!」
ヨシュア「ちなみに、秘鷲絵師様に描いて頂きました。ありがとうございました」
ハルカ「それでは、また後編でお会いするのです!」
ヨシュア「よろしくお願いします」