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Perfect DIVA-悪神の軍団-(第3回/全3回)

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Perfect DIVA-悪神の軍団-(第3回/全3回)
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 一方、側路をはさんだ別のフロアでは、トゥマスと裕樹そしてガルフォードと海月の戦いが続いていた。
「ガルさん、もうやめましょう!」
 海月はヒット&アウェイを繰り返すガルフォードに叫ぶ。今ではガルフォードも傷を負っていた。単純に数だけなら海月の方が多いが、効果的にカウンターで斬りつけていった海月のつけた傷の方が深い。銀色の毛をところどころ赤く染め、前足を血が伝っていた。
 それでもガルフォードはやめようとしない。牙をむき、うなり声を上げて海月にむかっていく。
 そしてトゥマスもまた。
「裕樹、どうした? 今度は奥の手ってヤツはないのか? タネ切れか?」
 アンボーン・テクニックを駆使して裕樹を容赦なく柱へと追い詰める。
「……俺の奥の手がそんなに見たいなら、見せてやる…!」
 水平に振り切られたCa−Li−Barnを、ギリギリ身を沈めてかわす。Ca−Li−Barnの刃先が柱へ食い込んだ直後、柱を蹴り、彼はトゥマスへタックルをかけた。
「これが俺の奥の手だ!」
「――なっ…!」
 利き腕を固め、向かいの柱まで全力で突き込む。裕樹の肩と柱に挟まれた衝撃に、トゥマスの肋骨が激しくきしんだ。
「がはっ!」
 彼が痛みに動けないでいる隙に裕樹は半回転し、背中をトゥマスに押しつけた。そうして柱と自分の体で彼を固定し、動けなくしてからサタナエルの銃口を自身の腹へと向ける。
 裕樹が何をしようとしているか悟って、トゥマスは衝撃のあまり硬直してしまった。
 彼を絶句させられたことに、裕樹は切れた口元でにやりと笑う。
「これなら確実におまえを止められる」
「何言ってんだ! そんなことしたらおまえだって死ぬんだぞ!」
「兄さんっ!」
 彼らの様子に気付いた海月もまた、口をおおって絶句した。ガルフォードは無言で2人の成り行きを見守っている。
「……おまえの言うとおりだ。俺じゃあ、どうしたっておまえには勝てないからな…。
 だがおまえに、絶対、これ以上ひとを傷つけさせるわけにはいかない。これが俺なりのケジメってやつだ!」
「……マジかよ…」
 大マジに決まってる。裕樹はそういうクソ真面目でまっしぐらなバカだ。
 本気でトゥマスがしたことを自分の責任と思って、命を捨てようとしている。パートナーだからというだけで。
「――ったく…」
 しようのないヤツ。そう言いたげな笑みが口元に浮かぶ。
 次の瞬間、トゥマスの足が裕樹の足を強く払った。
「!」
 トリガーへと裕樹の意識がそれた、わずかな刹那だった。
 ほぼ同時に発射された銃弾は体勢を崩して倒れる裕樹はかすっただけにとどまり、トゥマスの脇と柱をえぐって壁に穴を開ける。
「トゥマス!!」
「……ほだされちまうなんてなぁ…」
 こふっと血を吐いて。赤い口元で、それでもトゥマスは笑った。
「俺の負けだ、裕樹…。やっぱ、おまえには勝てなかった。どうやったって…。
 それに、ケジメってなぁ、本人がつけるもんだ。
 なあ……これでいいんだろ? ガルさん」
 近寄ってきたガルフォードに話しかける。ガルフォードはフンフンとトゥマスのにおいをかいで、ペロッとほおをなめた。
「兄さん……トゥマスさん…」
 トゥマスの枕元に座り込んでいる裕樹のとなりに、ぺたりと海月がひざをつく。
 ばたばたと彼らに駆け寄ってくる複数の足音が響いてきた。
「大丈夫ですか?」
 脇から覗き込んできたのは国軍兵士だった。腕章は救護部隊のものだ。
 トゥマスが重傷を負っているのを見るや、てきぱきと治療を開始する。
「おまえたちは…」
 裕樹はいまだ状況が飲み込めない。
 裕樹の治療を受け持った別の兵士が説明をした。
 彼らは裕樹たちと同じ教導団員シャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)の要請によって派遣されてきた兵士たちだった。
 シャウラ自身は今、教導団にいる。
 そこで、地下施設の爆発した通路の現場検証や、破壊されたエレベーターのドアや基盤の修理等の処理に携わっている。
 そして来れないながらも、遺跡攻略に向かった仲間のためにせめてもと国軍の派遣要請をしたのだった。
「ただ、本隊の到着はかなり遅くなるでしょう」
 同じく通路で治療活動をしていた兵士のうちの1人が垂に説明をした。
「なにしろここは密林の真ん中ですから、重装備ではなかなか…」
「そうか」
「はい。それで――」
「こちらも負傷者でしょうか」
 青い髪の青年が、床の上に寝かされたライゼを覗き込んでいた。
「ああ、その子は寝ているだけ――っと、ユーシスか」
 名を呼ばれて青年が顔を上げる。
 静かな湖水を思わせる青い瞳が垂を見返す。これだけ騒がしい場にありて、まるでそこだけは別空間のような静寂をまとっているかのような、少し異質な雰囲気を漂わせている者。
 シャウラのパートナーで吸血鬼のユーシス・サダルスウド(ゆーしす・さだるすうど)だ。
「おまえも来ていたのか」
「ええ。シャウラの代わりに。
 彼もこちらへ来たがってはいたのですが」
「いや、分かる。ありがとう」
「ライゼちゃんは見たところ、どこもけがはしていなさそうですね」
「ああ。だが精神的に疲労して、憔悴している。多分まだしばらく眠り続けるだろうから、連れて行ってくれないか」
「分かりました」
 ユーシスは細身でありながらもそれを感じさせないほど軽々とライゼを抱き上げた。
「シャウラによろしく伝えてくれ」
 垂の言葉に軽く会釈を返して、ライゼを抱いたまま、元来た道を帰って行く。
「現在はユーシスさんの小型飛空艇で入り口の草原との間をピストン輸送してもらっているだけですが、もう間もなく徒歩の後続部隊も到着するでしょう」
 兵士が途切れていた説明を続ける。
 回廊の罠は裕樹の銃撃で破壊されているが、パペットはまだ1〜4階を徘徊していた。兵士とはいえ軽装備の救護部隊、しかも今の人数ではとても捌ききれない。
「人数が揃い次第、掃討に移るとのことでした」
「了解した」
 兵士は敬礼をし、救護活動へ戻って行った。