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リアクション
第2章
「……そろそろいいわね」
一方、パーティ会場からビル内部、各テナントが入る予定のフロアへと侵入したのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)だ。
会場からベルフラマントを利用して怪しまれることなく退場し、人目がないことを確認して姿を現したところだ。
「そうだな。ここはただのテナントフロアで、特定の監視カメラもないようだし、問題ないだろう」
その傍らにはパートナーのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が。
「急ごう、ルカ。向こうはすでに行動を開始している」
「うん……恋歌の言うとおりなら、ハッピークローバー社の社長、四葉 幸輝は裏で怪しい研究をしているということになるよね。
それに、恋歌のパートナーを幽閉しているというなら、それはすでに研究ではなく、犯罪よ。
――とはいえ、世間的にはそれに犯罪行為をもって対抗するというのも……必ずしも通らないでしょう」
ルカルカとダリルは、恋歌からのメールを思い出していた。
「ああ。恋歌自身も認識している通り、いきなり地下施設に乱入して人間ひとりさらってくるのは、こちらもまた犯罪行為だからな。
まずは情報がいる。真実へと繋がる情報がな」
そのためにルカルカとダリルが取った手段が、テナント施設からの研究施設コンピューターへのハッキングであった。
「……」
その頃、また別のテナントの事務室には、すでにコード・イレブンナイン(こーど・いれぶんないん)がハッキングを開始していた。
「……よし、まずは外部への警備施設への連絡はカットできた」
現在の状況を随時、ダリルへとテレパシーで伝える。
ダリルとルカルカが別の経路でコンピューターへのハッキングを開始する前に、可能な限り施設の情報を入手したかった。
しかし、当然施設側にもハッキングの対策は練られているだろう。こちらもダミー映像や囮の情報を流し続けることで対策を講じてはいるが、こちらの居場所が特定されてしまうことも充分にありえる。
ゆえに、コードとダリル達は別行動にする必要があった。コード自身のハッキングを囮にすることで、その隙にダリルが情報の中核へと迫ることができる。
「どうにか……研究内容や救出対象の素性まで知ることができればいいのだが、な
パートナーを一刻も早く救い出したいという気持ちは、このパラミタの者ならば誰でも共感できるものだ」
誰にも聞こえないようなコードの呟きをBGMに、ハッキング作業は続いていく。
「よし、こちらもまずは順調だ」
ダリルとルカルカもハッキングを開始した。コードとテレパシーで情報を交換し、警戒しながら情報を探っていく。
「まずは、知らなくっちゃ。
地下に幽閉されているアニー……恋歌のメールだと、親子の『幸運』というものに関係があるのかしら……。
たとえばホラ、座敷わらしみたいに家に留めている間はその家が繁栄するっていう……?」
作業を進めながら、ルカルカは呟いた。
「分からん。だが、その為に意識不明の状態で幽閉とは、褒められた手段ではないな。
……それが……人権が適用されるべき人間ならば、尚更だ」
暗がりのモニターに映し出されたダリルの横顔を、ルカルカは覗き込む。
その瞳から、何らかの感情の動きを読み取ることはできなかったけれど。
「うん……そうだね。そんなのダメだよね」
それきり会話を止めて、2人は作業に集中していった。
☆
「ふむふむ。やっぱり来たわね」
それと同刻。
ハッピークローバー社の地下駐車場のさらに下。四葉 幸輝の地下研究施設の一室で、天貴 彩羽(あまむち・あやは)は呟いた。
「こちらの施設の概要……まあそうよね。まずはターゲットの居場所を特定したいわよね……」
彩羽は手元のキーボードを次々に操作してリアルタイムで情報を更新していく。
「あらまぁ……あっという間に外部への連絡が切られているわ。想定内とはいえ、やるわね……」
彩羽は裏ルートで四葉 幸輝の仕事を請けていた。特に情報対策が得意ということで、ハッキング対策を任されていたのだ。
「とはいうものの……」
仕事を受けたはいいが、多少なりとも研究施設の中を見た彩羽には、幸輝に対する猜疑心が芽生え始めている。
恋歌のメールの件は彩羽も知っているので、どうも幸輝の研究施設の傾向とアニーに関するメールの一件を照らし合わせると、彩羽が毛嫌いしている人体実験などの匂いが感じられるのだ。
「……どうにも気乗りしないのよね……とりあえず時間は稼げているからいいけど……」
彩羽は仕事に取り掛かってすぐ、研究施設や研究内容についてのデータのダミーを大量に作っておいた。
もちろん、よく調べればそれらがダミーであることはすぐに分かるだろう。だが、その中のどれが本物なのか、またそもそも本物が混じっているのかは、その研究を知る者でなければ判断しにくい。
今まさにコードが情報に潜入し、その多数のデータを収集しているところだった。
「……あれ、こっちもか」
その時、また別の経路からの侵入者を感知して、彩羽は呟く。
こちらはビルの外。その近くに止められたトラックの内部にいるのは、アレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)だ。
手元の機器を操作しながら、アレーティアは呟く。
「ふむふむ……やはり一筋縄ではいかぬのう」
こちらは無線による情報探索を狙っての潜入である。
すでに先行してパートナーである柊 真司(ひいらぎ・しんじ)とリーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)。それにソーマ・ティオン(そーま・てぃおん)は行動を開始していた。アレーティアの目的は真司達が地下への侵入するための経路を目立たずに見つけることにあった。
「正面突破ではいかにも芸がない。……とはいえ……研究内容や事情まで知ろうとするのは、あまりにも膨大じゃな」
トラックの中で、アレーティアはハッキングを続けていく。
「さてさて……どうしたものかしらね」
一応はアレーティアの動向を見守りつつ、彩羽は独り言をこぼした。
これほど多くのコントラクターが恋歌のパートナーを助けようと動いている。
それが彼女の人徳によるものか、何らかの報酬が目当てなのかは彩羽には判断がつきかねていたが、少し状況を調べてみる必要があった。
「侵入者を撃退しながら自分でもハッキングをかけるとは……我ながら矛盾を感じるわね……」
苦笑いを浮かべつつも、彩羽も独自にアクセスを開始する。
ハッキング対策を任されたとはいえ、幸輝から全面的な信頼を得られたわけではない。
その証拠に研究の内容やアニーの居場所などは、彩羽には知らされていないのだ。
もちろん、それらのデータに関する部分へのアクセスの権限も与えられていない。
「まぁ、つまり厳密には完全なハッキング対策にはならないっていうことよね……。
ここにあるデータ程度は見られてもいい、ということかな。
まぁでも多分、私の敵になるべき相手かどうかの判断は、充分につけられるはず……」
四葉 幸輝の研究とアニーの関係。目には見えない電子の波の中をかきわけ、皆が情報を探っていく。
たったひとつの、真実を求めて。
☆
「そもそも……今の状況を見ると恋歌さんは必ずしも『幸運』とは言えない、と思うんだよね」
と、榊 朝斗(さかき・あさと)は呟いた。
場所はビルの地下駐車場、恋歌からの情報によると、このあたりから研究施設への潜入が可能だという筈だった。
「そうよねぇ……メールから判断するとかなり良くない感じの事件に巻き込まれているワケでしょう。
何しろ恋歌さんのパートナー、アニーさんを幽閉しなければならない理由は何なのか、が不明ですものね」
朝斗のパートナー、ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)も同意する。
「でも、事情はどうあれ……パートナーを助けたいっていう気持ちはよく分かるなぁ。
……朝斗だってそうでしょ?」
と、問いかけたアイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)の言葉に、朝斗は大きく頷き返した。
「もちろんだよ。誰だってそうじゃないかな、きっと。
まずは真相をハッキリさせるために、早く研究施設への入り口を見つけないと……」
朝斗達3人は、警備員のバイトを装って地下駐車場の警備をしつつ、地下への入り口を探索していた。
恋歌を通じて大まかなビルの構造図面は入手している。秘密の施設なのだから、そう簡単に入り込める場所ではないはずだと考え、朝斗達は現場と図面との相違点などを探り始めたのである。
ディメンションサイトなどを活用し、空間に対する違和感を少しずつ埋めていく。
地道ではあるが、確実な作業ではあった。
☆
「……よし、大まかな配置終わりっとぉ」
七刀 切(しちとう・きり)は図面から顔を上げて、警備にあたる人員配置を完了させた。
切は研究施設内、主に監視カメラや警備システムに対する警備を担当する部門へと回されていた。
「んじゃ、各自警戒よろしくなぁ」
図面を元に警備システムの特性上見逃しやすい場所をあらかたチェックした切は、そこに幸輝が雇った人員を配置している。そこを交代で警備することで侵入者を発見しやすくできるだろう。
「はい――了解しました」
切の配置に従い、雇われたコントラクターが数名、移動していく。
その中に、師王 アスカ(しおう・あすか)とルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)はいた。
人員の配置を完了し、部屋に誰もいなくなったことを確認してから、切もまた独自に動きだした。
「……さて、こっちも行動を開始するか……こっからが楽しい小細工の時間だからなぁ♪」
「……とりあえず潜入成功、てとこねぇ」
持ち場に移動し、誰もいないところで、アスカが口を開いた。
だが、対するルーツは無表情に切り返す。
「……無駄口を叩かないことですよ。何しろ、今回の任務は失敗できないのですから」
警戒を解かないアスカは、思い直したようにルーツに合わせた。
「……失礼、そうでしたわね」
2人は恋歌からのメールを受け取った後、どうにかして幸輝の地下施設への潜入を試みていた。
その結果として、やっと裏ルートからの幸輝の地下施設警護の依頼にたどり着き、施設の浅い部分ではあるが、警備の仕事に就くことができたのだ。
そこで2人は、わざわざ髪を染め替えてカラーコンタクトを入れ、互いに口調まで変えて変装して潜り込んだのである。
「メールから察するに……恋歌ちゃんのお父さんなら、娘の知り合いの顔くらい調べていてもおかしくないわよねぇ。
なら、こちらも変装して行きましょう!」
というアスカの提案が元である。
「……そうだな、考えられることは手を打っておかないと。
最終的な救出はもちろんだが……まずはアニーという娘の状態を確認することだ。
弱っているなら、最低限の回復ができるように魔力は温存しておかないと。
恋歌のパートナー……あのロケットの写真の娘か……必ず……」
以前、ちょっとしたきっかけで恋歌が持っているペンダントのロケットに入っているアニーの写真を、ルーツは見たことがあった。
肌の黒い、15歳くらいの少女だったと、記憶している。
そのルーツの横顔を、微笑みを浮かびながら眺めるアスカ。
「……何だ」
「……ううん? そこまで深刻になってるルーツも珍しいかなぁ。
恋歌ちゃん……あの娘のこと、気になってるのかなーって」
半ばからかうような、アスカの台詞。
だが、ルーツは気にもせずに思い出していた。あの日の、恋歌の言葉を。
「恋歌は言った。彼女は一番大事な人だと。あの時は、彼女は地球にいるはずだとも言っていた。
何があったのかは分からない。
けれど我にできることは……どうにかして恋歌のパートナーを助けることだけだ。
それが、彼女の望みならば」
ぐっと、右手を握り締めた。
「……必ず、助けないと」
あの日の彼女の涙を、救うために。
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