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【アナザー戦記】死んだはずの二人(前)

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【アナザー戦記】死んだはずの二人(前)

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♯11


「なるほど、おおよそ想像していた通りだったのですね」
 セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)が語ったブラッディ・ディヴァインの末路を聞いたアナザー・マレーナは、驚きはしなくともあまりいい内容とは受け取っていないようだった。
 彼女達の話から、黒血騎士団はブラッディ・ディヴァインとの類似性は否定できないものの、別の組織であると判断された。
 黒血騎士団の構成員にとって、アナザー・マレーナは恩人であり保護すべき相手。アナザー・マレーナにとっては、彼らはかつてのシャンバラの接近の際の被害者であり、自分が地球で生きていくために必要なものであるようだ。
「互いに利用しあう、そういった協力関係です」
 とはアナザー・マレーナは語るが、その言葉ほど冷たい関係でもないのはなんとなくセルフィーナでも読み取れた。
「アルベリッヒという方ですか?」
 話の折に、セルフィーナはアルベリッヒについても尋ねてみたが、アナザー・マレーナの反応は薄かった。傍らに居た、どちらかというと軽薄そうな護衛の方が、何かを思い出したように語る。
「確か、親父の友人だった気がする。歳が近いとかで、紹介されたけど俺とは気が合わなくって、それっきりだな」
「父親?」
「ああ、さっきあんたが話してた、なんとかって組織のボスやってたルバートってのがオレの親父なんだよ」
「そうなのですか、それは……」
「もう一人のつったって、別人じゃん、んなのオレにも俺達にも関係ねーよ。それより、そのアルベリッヒって奴、確か死んだんじゃなかったっけ、えーと、ああ、そうそう、自殺したってニュースになってたな」
「ああ、あの騎士の―――、確か、宇宙開発に関わる研究をしていたとか、宇宙服に関する特許を取ったとか、そんな人でしたね」
 比較的落ち着いている方の護衛も、思い出したようだ。
 しかしその様子は、テレビの向こうの芸能人について語るような、他人事のそれであり、関係はほとんど無いようだ。
「まぁあれじゃね、天才には苦悩があるんだろ。凡人にはわからないような苦悩って奴がさ」
 昨日のテレビの話題のように、アルベリッヒについての会話はこれ以上出てはこなかった。
 丁度その頃、大きな揺れと轟音が地下にも届いた。
「予定よりも早いな」
 クローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)セリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)が慌しく連絡を取り合う。地上での囮部隊が、敵を積極的に攻撃せよ、から、自身の生存を優先せよ、に切り替わった合図だ。最終的な状況判断は個人に委ねられるが、事実上の撤退指示である。
 囮部隊の撤退先は、ここではなく別の地点だ。陽動も兼ねているが、敵が彼らを積極的に追うか否かはわからないところも多い。地下にて様子を伺っている自分達にとっては、いい知らせではない。
「で、このまま待機でいいのか?」
 駅の進入口の一つから視線を外さないまま、セリオスが尋ねる。
「先ほど念を押されたよ、動くな、とな。敵が来たらこの地点を防衛するとも付け加えられた」
「何か策があるってわけか」
 既にある程度の連絡網が完成しており、クローラ達のようにこの場に居る者だけでなく、別地点で行動している仲間とも連絡が確保できている。
 既に闇雲に怪物を蹴散らす段階は終了しており、次の段階へと全体は推移しているようだ。
「しかし厄介だね。お姫様がまだ遠くに逃げていないと敵に思わせつつ、かつお姫様の安全を確保するなんて」
「そうだな。だが、難易度のぶん見返りは大きい。幸か不幸か、敵は主力も指令級も伴ってこちらに居るのだからな」
 街中を闊歩する怪物達にはいくらでも代わりがいるが、黒い大樹にそれはない。黒い大樹は言わば怪物の生産拠点だ。一定の質を伴った怪物を工場製品のように量産する黒い大樹の損失は、怪物達にとって大きな損失になる。
 アナザー・マレーナと黒血騎士団は、数で大きく劣っておりダエーヴァに対してまともな攻撃手段を持たないといっていい。だからこそ、自らを囮にして国連軍の作戦が成功するように影ながら援護しようとしているのだ。
 その策はほぼ目的を達している。では、自分達はどうするべきか、アナザー・マレーナを助けるのは当然として、それだけで良しとするには、少しばかり欲が無い。
「……ん、どうした!」
 駅構内にざわめきが起こる。
「怪物の唸り声、いや、これは……」
 耳障りな音と振動、音の発生地点から人を下げつつ、戦闘態勢を持って構える。上からではなく、地下を横から何者かが接近してきているようだ。
 予想通り、線路の横の壁に亀裂が入り、崩れる。
「おいおい、せっかく来たってのに随分な出迎えだぜ」
 その声は、聞いた事がある者も多い声だった。
 壁が崩れた砂埃が落ち着くと、壁を破って現れた彼らの姿がはっきりと見えるようになる。
 トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)だ。
「お待たせしました」
 トマスはそこに居る全員と、地下鉄の構造を確認するために全体を見回した。
「皆さんの案内は僕の部下が行います。明かりが無いので、注意して通ってください」
 二人に続いて来た教導団の学生が、こちらに続くようにと伝える。
「なるほど、待てってのはそういう事か」
「けど地下を通るなら地下鉄の路線を使えばよかったんじゃないか」
「そうでもないのさ。怪物対策だろうけど、ほとんどの線路は途中で埋められててな。勝手に動き回られると、文字通り袋のネズミになっちまったかもしれないぜ」
「随分と詳しいな」
「そりゃ、こっちに来る前からずっと地下で作業してるからな」
 よく見れば、テノーリオも彼が操るフィアーカー・バルも泥だらけだ。
「必ず、先導する道から離れないように注意を、迷路みたいになってるから迷うと出れないかも」
 トマスがそう忠告し、移動を開始する列とは反対方向に進む。
「お二人は?」
 クローラが尋ねると、
「穴が一個だけじゃ、こっから逃げたってバレバレだろ?」
「少し小細工するだけだよ。あとで合流しよう」