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【アナザー戦記】死んだはずの二人(前)

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【アナザー戦記】死んだはずの二人(前)

リアクション


♯16


 部隊の指揮があるから、とネルソン達と別れ、言われた通りの道を進んだアナザー・マレーナ達は、袋小路の行き止まりで足を止めた。
 道は一本たりとも間違えてはいない。その証拠に、
「はーい、あと二歩さがって下がって」
 と、どこからともなく声がする。言われた通りに後退すると、小さな爆発が三階建ての民家の一階部分を破壊した。
「お待ちしておりました」
 ひらひらと手を振るアルフ・シュライア(あるふ・しゅらいあ)と、エールヴァント・フォルケン(えーるう゛ぁんと・ふぉるけん)が崩れた壁の向こうで出迎える。
「ここから先は我々が護衛します」
 エールヴァントとアルフが先導し、民家を抜けて進んでいく。既にある程度発破作業が行われたらしく、直進ルートとなっていた。
 護衛に入るのは、彼等と彼等の部下だけではなく、怪物達、黒血騎士団の姿もあった。
「ああ、やっとまともなこっちの女の子だ」
 アルフは感慨深そうに口にするが、誰もそれ以上掘り下げようとはしなかった。
「皆さんは?」
「そちらと行動していた人たちの仲間ですよ。ただ、彼らに話しを聞いているぶん、状況は理解しているつもりです」
 エールヴァントや、小次郎達といった何人かは、怪物に襲われている怪物を救援したり、あるいは怪物達の助けを受けたりといった形で黒血騎士団と早期に接触が行われていたのである。
「小隊になってた連中をまとめて、演説して、それからこっちの連中と連絡を取り合って、結構忙しかったな」
「演説?」
「その辺りはおいおい」
「そんな事より、無事脱出できたら、デートしようぜ、デート」
「は、はぁ……」
「下に蜘蛛とか植物とかくっついてんじゃ、いくら顔が美人でも、ぐぉ」
 エールヴァントのレバーブローによって、アルフの言葉は途中で止められる。
「今はそんな事を言ってる場合じゃないだろ」
「……ごふっ、そんな場合に、仲間を負傷させるのも……うぐぐ」
「いいからしゃきしゃき進む!」
「へーい」
 進んでいく最中、一向のすぐ近くに怪物が墜落した。空中からアナザー・マレーナを狙っていたようだが、大きな目の部分に風穴が開いている。
「やーっと来た。なるほど、名前だけってわけじゃないわけか、やっぱり」
 十七夜 リオ(かなき・りお)は上を見上げたまま、横目でアナザー・マレーナを確認する。両手にはそれぞれ龍銃ヴィシャスがある。トンボを捕まえる時にように、その銃口は空に向けられていながらぐるぐるとまわっていた。
「んー、タイミングは任せる」
「了解」
 フェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)は自分でタイミングを計って、空中にホワイトアウトを放った。
「吹雪の中で迷いなさい」
「エンジントラブルで墜落しているようにけどさ」
 飛行するタイプは、背中から生やした羽で飛んでいる。昆虫らしく、そのほとんどは薄く向こう側が透けて見える。よくそんなので空が飛べるだけの揚力を生み出せるのかは疑問だが、見た目通りに脆く、吹雪の中であっという間に凍結して次々と墜落していく。
「最高得点です」
「おめでと」
 近くに墜落したのは、リオや銃で、フェルクレールトは焔のフラワシに指示を出し片付けた。飛べなくなっただけで完全に死んだわけではないのだ。
「偵察機は?」
「確認しました、排除します」
 焔のフラワシが、周囲にぽつぽつと小さな火を灯した。燃えているのは、小さな虫であっという間に燃え尽きる。
「これに気付くまで随分手間がかかったからさ。たぶん結構な割合でただの虫も居るんだろうけど、簡便ね」
 リオはアナザー・マレーナに近づくと、一本の剣を差し出した。調律機晶石と即席武器工房で製作したものだ。
「得意なんでしょ、剣術」
 アナザー・マレーナは剣を受け取った。
「十七夜リオ、これでも一応は国連軍の大尉、まぁ元が付く上に特別措置だったけどね。色々言いたい事もあるけど、まずは礼を言っておくわ。あなたの仲間から色々話は聞いてるし、ちょっとだけど共闘もしてるしね。あ、やっぱ一つだけ言わせて、何でもいいけど作戦行動するんだったら、今度からまともな通信機材を用意しておくこと」
 連絡が取り合えないという事で、リオ達は多大な苦労を被ったのだ。普段の連絡は携帯電話で、無線機もごつくて古いものしか所有してないのはいくら何でも問題だ。
 もともと彼らは軍事組織でもなければ、テロリストとしても経験も蓄えも劣る元一般人の集団だ。後ろ盾らしい後ろ盾もなく、あるのは腕力のみ。それでも今日まで壊滅しないでいたのは、その腕力がアナザーの欧州において比類するものが無いぐらいの代物であったからだ。
「それとさ―――」
「リオ」
「……わかったわよ。とにかく、あなたの帰りを待ってる人達のとこはすぐそこだから。とりあえず顔を見せてあげなよ。ここは僕達の担当だから」
 言いたい事が湯水のように湧き出てくるが、無理やり栓をして、この先の道を示す。
 この先にある新しい病院が、彼女達の目的地であり合流地点だ。



 甲斐 英虎(かい・ひでとら)は空を見上げていた。
 この空を見るのは、今回が初めてではない。シャンバラの無い空、アナザーの空だ。
 日本での戦いがひとまずの決着がつくと、多くの契約者はアナザーと一度距離を置いた。教導団の関係者はアナザーに駐留していているようだったが、契約者を何十人も駐留させる意味も無かったのである。
 国連軍側も、ロシア本国にて兵化人間の大樹を封印していた部隊が活動できるようになったとはいっても、日本に戦力の多くを割き、それを軽傷では済まない程度失っており、軍の建て直しは必須であり大規模な作戦はしばらく行えないのが現実だった。
 道は表向きは自衛隊が管轄しているが、国軍も大きく影響しており実質的には共同管理だ。そう表明されてないのは、国土の関係なのだろうが、詳しい話は恐らくあんまり意味はない。
 多少面倒だが手続きをすれば、契約者や前回の戦いの関係者は道を利用する事もできる。何度か顔を出したりもしたが、国連軍の主力はロシアに引き上げ、アナザー・コリマは彼らより一足早く日本を離れたようだ。日本に残っている自衛隊関係者では、コリマや国連軍の行動方針は詳しくわからないらしい、曲がりなりにも組織のトップであるコリマの居場所が、末端の人間まで知れ渡るのは問題もあるのだろう。
 アナザー・コリマと天使が談笑していた、なんて噂もあるが、真偽は定かではない。
 英虎はすぅっと大きく息を吸うと、
「マンダーラさーん!」
 空に向かってできる限り大きな声で呼びかけた。
 声はただ空しく空を覆う灰色の雲に吸い込まれ、しんとした静寂がすぐに戻ってくる。
「って、まぁ、そう簡単にはハイハーイって来ないよね。はぁ……」
 呼びかけに返事はなく、吐いたため息は白く残る。
「あ、あれ?」
 吐いた息だけではなく、見上げた空も町並みも全てが、深い白に多い尽くされていた。瞬く間に、視界が白く塗り潰される。
「これって、来た時と―――」
 まるで声すらも塗り潰そうという勢いで、霧は全てを包み込んだ。



「アカ・マハナ様、どうやらあの乱入者は黒血騎士団と共に活動しているようです」
 シェパードは、確信が持てるまでアカ・マハナに報告は行わない。人間と戦う事に関して、その全てはシェパードに一任されており、報告の義務もあるわけではない。今回こうして報告を行うのは、それによって彼女の身に危険が及ぶ可能性があるからだ。
「ふーん」
 アカ・マハナの反応は素っ気無い。
 もともと、こういう荒事にはさして興味を持たないお方である。
「また、間もなく国連軍の攻撃が行われる時間です」
「そうね。そっちはもっとどうでもいいわ。あの廃棄物を使うのは私の美学に反するもの。ま、あなたが必要だという言ったのだから、そうなんでしょうけど」
「アカ・マハナ様、一度下がられてはいかがでしょうか。乱入者どもは奴ら同様、危険な敵と存じます」
「嫌よ、ここまで出張ったんですもの、目的も果たせずすごすごと帰れますか。そんな事できるわけないわ」
 シェパードが予想した通りの答えが返ってきた。
 マレーナは遺跡を偽装し、我々の目を眩ました過去がある。マレーナに出し抜かれた過去は、アカ・マハナにとっては最大の屈辱であり、彼女が関わる事にはこうして非常に熱くなる。最も、その偽装は国連軍すらも見事に騙し、欧州での彼らの活動を抑制にも繋がった。
「あれほどの力を持つ組織など、聞いた事もないが……親衛隊にも被害が出ております。やはりここは一度下がり」
「嫌だ、と言ったでしょう。それに相手が何であれ、貴方が私を守ればいいのよ。そうでしょ?」
「わかりました。では、このまま作戦を続行しましょう。しかし、相手もなかなかの腕前、既に親衛隊にも被害が出ております。出し惜しみをすれば、被害も大きくなりましょう」
「いいわ。任せる」
「ではこの奇妙な霧が晴れ次第、奴らの殲滅を行いましょう」



 切り立った山中に雪を被った黒い大樹が禍々しい存在感を発していた。
 周囲には民家はほとんどなく、普段は人も寄り付かないような場所だ。現在は大樹の存在もあり、まず人は近づかない。
「やれやれ、これでは見てられんな」
 ルバートは数人の手勢と共に、この場で行われる国連軍と怪物の戦いを監視していた。
 戦いが始まって間もなく、国連軍は押され始めた。今まで確認された事のない異形の怪物が、国連軍の進軍を完全に押さえ込んでいたのである。
 手足の数はばらばらで、頭から足が飛び出した怪物までもいる。それらの怪物には全て、人間顔が一箇所以上飛び出していた。
「なるほど、親衛隊とやらのプロトタイプ、あるいは失敗作というわけですね」
「そのようだ。あれは国連軍には、少し荷が重いか」
 異形の怪物は、そのスペックもさる事ながら、人智を超えた禍々しいその容姿こそが最大の武器となり、相対する国連軍の精神を蝕んでいるようだった。そこに、人間の顔までついているのだ、躊躇もするだろう。
「しかし、いいのかね、こちらの事は君には関係ないはずだ。アルベリッヒ君」
「構いませんよ、どちらにせよ国連軍に頑張ってもらわないと、帰りの足すらおぼつかないんです。できる事には限界もあるでしょうが、やれる範囲でお手伝いしますよ」
「それだけじゃないくせに」
「こら、アル君余計な口を挟まない」
 後ろでこそこそ行われる会話に、アルベリッヒは苦笑を浮かべる。
「もう、臍をかむような事は嫌ですしね」


担当マスターより

▼担当マスター

野田内 廻

▼マスターコメント

【アナザー戦記】死んだはずの二人へのご参加ありがとうございました。
 今回は前後編となっております、よろしければ後編もお付き合いくださいませ。



 もうあと数日で今年も終わってしまいますね。
 正直ちょっと信じられないんですが、時間が流れるのもうちょっとゆっくりになりませんかね。
 ともあれ、皆様今年も一年お付き合いくださりありがとうございました。
 去年はリアクションを書きながら年越しした記憶があるので、今年は去年よりも少し落ち着いた年越しができそうです。
 それでは皆様もよいお年をお迎えください。


▼マスター個別コメント