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リアクション
7.二人三脚で
バレンタイン。
ヴァイシャリーの繁華街にも沢山のカップルの姿があった。
塔の最上階にある高級レストランで食事をしたり、貸切ゴンドラに乗ったり。
そんな特別なデートを楽しむカップルが多い中。
ヴァイシャリーで暮らしている、桐生 円(きりゅう・まどか)とパッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)は、普段通り街の中を歩き回り、様々な店や土地を見て回り、不動産に寄って話を聞いたり――2人で築いていく未来をイメージしながら、デートをしていた。
運河から外れた公園の前を通りかかった時。円が歩を緩めた。
「ちょっと休憩しよっか。静かでゆっくりできそうだし」
大きな池のある公園だ。花壇には冬の可愛らしい花々が咲いている。
ゆっくりと散歩を楽しんでいるヴァイシャリーの人々の姿が少しあるだけで、園内には静かで落ち着いた空間が広がっていた。
頷いたパッフェルと共に、円は公園へと入って。
花壇の側の、池が見える位置にあるベンチに並んで腰掛けた。
2人は時間があれば、街や店を回って、2人で開く予定のお店の場所や経営について相談し合い、学んでいた。
「円……」
パッフェルが水筒を取り出して、コップにホットチョコレートを注いで、円に渡した。
「ありがとう、さすが準備がいいね。……うん、あったかい」
程よい温かさのホットチョコレートをパッフェルと飲んで、円は微笑んだ。
円の微笑を見たパッフェルの表情も緩んでいく。
「ちょっと、考えてたんだけど、パッフェルちょっと無茶な事、言ってもいい?」
「……ん?」
「というか欲張りな事なんだけど、余裕が出てきたら、サバゲーショップだけじゃなくて、洋服屋とか、お菓子屋さんとか一緒に、組み合わせてやってみない?」
「何で……?」
「ほら、2人ともサバゲーも大好きだけど、お洋服も好きだし、パッフェルはお菓子も好きだし」
円の言葉をパッフェルは不思議そうな目で聞いている。
「本当に、サバゲーショップが軌道に乗って人手が増えてきたら――うん、沢山の自分達の趣味、楽しいことが出来ないかなって思っちゃったんだー。どう思う?」
パッフェルは瞬きを何度かして考えて……。
「円、が……望む、なら」
そう答えた。
「うんそっか。軌道に乗ったら考えていこうか」
「うん、学んで……成功、させて。それから……きっと」
言ってパッフェルは円を見つめた。
円も見つめ返しながら、これからのことを思い浮かべていると。
これまでの事も、脳裏に流れ込んでくる。
出合って4年。付き合い初めて2年と少し。
色々なことがあった。
「パッフェルが転校して来たときは本当にびっくりした。そして嬉しかった」
意外な所で頑固で積極的だもんねぇ。本当に幸せを感じた」
小さく頷きながら、パッフェルは円の話を聞いている。
「一緒に地球に行って、家族にも認められたりしたねぇ」
「円の、家族に……会った」
「そして、近いうちに結婚して、一緒にサバゲーショップを開いて……二人三脚で頑張って」
円がパッフェルの手の上に、自分の手を重ねた。
「お婆ちゃんになっても一緒に居て、良かったことも悪かった事も喧嘩した事も、いい思い出として笑いあっていたいなぁ」
「……」
円の言葉に、パッフェルは少し間をおいて頷いた。
「また、目を見ていい?」
そう尋ねると、パッフェルは眼帯をずらして、円に赤い目を――血の色のような禍々しい輝きを放つ瞳を見せた。
「うん、やっぱり綺麗」
円は笑みを浮かべて、パッフェルにキスをした。
「それで……はい!」
鞄の中から、取り出したものをパッフェルに渡す。
小さな箱に入っていたのは――指輪の形のチョコレートだった。
不器用ながらも、頑張って作ったものだ。
「ありが、とう……。円、私からの指輪……」
「一緒に選びにいかないといけないね」
円の言葉に、パッフェルは強く頷いた。
「三か月分、用意できてる……から」
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