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リアクション
8.愛、溢れて
バレンタインデーのこの日も、リア・レオニス(りあ・れおにす)はロイヤルガードの仕事で、シャンバラ宮殿に訪れていた。
仕事に向かう少し前。
「アイシャに渡して欲しい」
リアは、顔見知りの侍女に両手サイズの箱と、薔薇の花束を預けた。
リアがとても大切に想う相手。
シャンバラの女王として、シャンバラを支えていた吸血鬼の少女 アイシャ(きゅうけつきのしょうじょ・あいしゃ)は、リア達が立ち入ることのできない、特別な療養施設にいる。
症状はかなり悪く、危険な状態が続いていたが、現在は少し回復し、会話をしたりペンをとることも出来るようになってきたと聞いている。
「叶うのなら食事の手伝いもしたいところだけれど……まだ、俺は傍にいてあげることは出来ないから。どうか君の手で」
自分の贈り物をアイシャに食べさせてあげて欲しいと、リアは侍女に頼んだ。
侍女は大切に預かって、深く頭を下げると宮殿の中へと戻っていった。
「アイシャ、体も、心も――元気になって欲しい。皆が願ってるんだ」
彼女の負担になってしまうかもしれないから、今はテレパシーは送らない。
伝えたい想いは、薔薇の花束の中に入れた手紙に綴ってある。
「愛してるよ、アイシャ」
彼女の幸せが自分の幸せだ。
一日たりとも、彼女のことを想わない日はない。
アイシャと出会い、自分は変わった。
国ごと彼女を守りたいと思い、イエニチェリにもロイヤルガードにもなった。
「出会えた運命と、アイシャに心から感謝してるんだ」
リアはアイシャの姿を声を思い浮かべ、彼女の回復を強く願いながら、ロイヤルガードの仕事へと向かって行った。
療養施設のベッドの中で、アイシャはリアからの手紙を受け取った。
体は満足に動かない。
だけれど震える手で、自らの手でリア空の手紙を開いて、手紙を読んだ。
彼の声が、アイシャの耳に響いてくる。
自分を愛してくれていて、気遣い、励ましてくれる彼の声が。
「ありが、とう……リア。想って、くれて」
「お菓子、お召し上がりになりますか?」
「ええ」
アイシャが返事をすると、侍女がベッドの背を上げてくれた。
アイシャは箱を開いて、中を見て微笑んで。
それから、フォークで小さく切って、自分の口に運んだ。
「美味しいです。……作ってくださった方の気持ちが、私の中に広がっていくような――。
感謝の気持ちで、いっぱいです」
全て食べれる状態ではなかったけれど、リアからの愛情を十分受け取って。
アイシャは安らぎに満ちた表情で、再び目を閉じた。
「リアと皆と……共にある未来を、私は……望み、ます」
崩れてなくなってしまいそうな体を癒すための、眠りに落ちていった。
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