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【西暦2022年 6月某日】 〜景継埋蔵金伝説〜
「こんにちは、クリストファーさんに、クリスティーさん。どうしたんですか、突然?」
突然の来訪者に、五十鈴宮 円華(いすずのみや・まどか)は一瞬驚き――すぐに笑顔で迎える。
「すみません、突然押し掛けてしまって」
「ごめんなさい、円華さんお忙しいのに。お邪魔だったりしませんか?」
「そんな、邪魔だなんて――ささ、どうぞ。すぐに、真之介さんもお呼びしますから」
円華は、そう言って クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)とクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)の二人に座を勧めると、侍女を、御上 真之介(みかみ・しんのすけ)を呼びに遣わした。
御上と円華の二人は、東野(とうや)藩主広城 雄信(こうじょう・たけのぶ)の計らいで、それぞれ城内に一室を与えられ、そこで寝起きしている。
当初は、「城下に屋敷を」という話もあったのだが、由比 景継(ゆい・かげつぐ)によって引き起こされた一連の災い――今では、『景継の災い』と呼ばれている――の後始末に忙しい二人は、「この方が何かと便利だから」と、城に留まる事を選んだのだった。
ほどなくして御上がやって来ると、クリストファーとクリスティーの二人は、挨拶もそこそこに、本題を切り出した。
「実は――、そろそろ薔薇の学舎に帰ろうと思いまして」
「それで今日は、お別れの挨拶に来たんです」
「えっ!お二人とも、帰っちゃうんですか!?」
この発言が余程意外だったのか、円華は目を丸くして言った。
「――何か、学舎で急を要する用件でも?」
円華よりは遙かに落ち着いて――しかし、驚きの色を隠さず――御上が訊ねた。
「いえ、そういう訳じゃ無くて……」
「ポリシーなんです、クリストファーの」
「ポリシー?」
不思議そうな顔をする御上と円華に、クリストファーが話を始めた。
彼のポリシーを一言で表すと、「余所者で、しかも強い力を持つシャンバラの契約者が、新政府の中枢に近いところにいてはいけない」という事である。
「俺達は帰るべき所があり、この地に帰化することは選べない。帰化出来ないのに、ずるずると関わっているのは良くないと思うんだ」
クリストファーは、断固とした口調で言った。
「そうですか……」
残念そうな顔をする円華。
「決心は固いようですね」
神妙な面持ちで、御上が言う。
「二人で、よく話し合って決めた事ですから」
「正直、随分と悩んだんですが……」
「この数日、四州を見て廻ったんだけど……『この島はもう、俺達がいなくても大丈夫だ』って思えたから」
そう言い切るクリストファーの目に、嘘は無い。
「わかりました。では、引き止めはしません。その代わり、今夜は僕達に付き合って下さい――送別会をしないと。ねぇ、円華さん?」
「そうですね!それじゃ、急いで皆さんに連絡しないと!」
そう言って、いそいそと立ち上がる円華。
クリストファーとクリスティーも、四州島を去るに当たって「皆にもう一度会っておきたい」という『想い』は同じだ。
二人は、この申し出を喜んで受け入れた。
その夜の宴は、仲間達に加え、藩主雄信や家老の大倉親子達も出席した、大変賑やかなモノとなった。
そして、宴も2次会、3次会へと突入し、そろそろなんとなくお開きになりかけた頃。
「御上さん、ちょっと相談……というか、提案があるんですけれども」
「3人だけで、いいですか?」
クリストファーとクリスティーが、御上に声を掛けた。
「――と言う訳なんですが、どうでしょう?」
「由比景継が、クリストファー君に懸けた100万ゴルダの賞金を餌に、罠を張る……?」
クリストファーの「提案」は、御上にとっても意外なモノだった。
二子島(ふたごじま)での戦いで、クリストファーに重傷を負わされた由比景継は、彼に100万ゴルダの懸賞金を懸けていた。
それは裏の世界では広く知られている話なのだが、クリストファーはその話を、反体制勢力や残党狩りに利用しようというのだ。
「島に持ち込まれた100万ゴルダ相当の金塊は、景継によって隠され、厳重に封印が施された。疑り深い景継は、その隠し場所を腹心の三田村 掌玄(みたむら・しょうげん)にすら教えなかったため、彼の死後、金塊の在処は杳として知れなかった。ただ掌玄の言によれば、金塊に施された封印は、景継が肌身離さず持ち歩いていた『ある物』によって解くことが出来るという――というのはどうでしょう、御上さん?」
「ある物って?」
「例えば、解理(かいり)の鏡とか、景継の脇差しとか……とにかく、それらしいモノならなんでも構いません。それを、何種類か用意しておきます。それと、隠し場所も何種類か用意しておきましょう。隠し場所と『鍵』が複数あれば、それだけ調査に時間がかかりますから、こちらが『敵』を見つける事もたやすくなります」
「なるほど……。ちょっと、面白そうだね」
クリストファーの話に、御上も乗り気になった。
「それで、隠し場所やアイテムについてのヒントを散りばめた歌、童謡を作るというのはどうでしょう?今回の一連の事件について歌っているように見せながら、それでいて宝の隠し場所のヒントにもなっているっていうカンジで」
興味を示した御上に、更にクリスティーが畳み掛ける。
「歌か〜。でも、考えるのは難しそうだなぁ〜」
「それは、二人で考えますよ。四州島への、私達の置き土産です」
「ちょっと時間がかかるかもしれませんが、隠し場所や鍵も含めて、考えがまとまったらまた連絡します」
「それは楽しみだな」
「期待してて下さい♪」
クリストファーとクリスティーは、得意気に言った。
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