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【ザナドゥ魔戦記】アガデ会談(第2回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】アガデ会談(第2回/全2回)
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エンディング

 半壊した居城にバァルが入城した。
 瓦礫片だらけの通路には、床や壁、天井、いたる箇所に生々しく血が飛び散っている。それを少しでも隠そうとするように、両側に騎士が立ち並び、恭しく頭を垂れていた。
 だれもが無言だった。
 しんと静まり返った中、ただバァルと、そしてその後ろについたセテカ含む何人かのコントラクターたちの足音だけが響いている。
 そこに、意を決した表情で、1人の騎士が立ちふさがった。
「アーンセト家の家長として、ぜひお聞きしたいことがあります」
 エシム・アーンセト。東カナン12騎士の1家、アーンセト家の若き騎士だ。
「わが姉、アナト=ユテ・アーンセトがあの魔神たちに殺害され、魔族の配下になったというのはまことでしょうか!」
「事実だ」
「あ、姉はあなたのご指示により、敵である魔神たちの世話をすることになった……あなたは彼らの危険性を承知していたはず! 同室にいながらあなたは何の手も打たず、姉が殺害されるのをただ見ていたのですか! あなたは己の婚約者である姉を見殺しにしたばかりか、魔神の操り人形にした!!」
「領主様になんと無礼な。エシム、口を慎め!」
 アラム・リヒトの手で、すぐさま通路の端に引き戻された。
 ダン! と壁に叩きつけられる。
「だけど……!!」
「エシム!! 逆臣の疑いありと卓議にかけられたいのか!」
 アーンセト家のことを考えろ!
「――いい。リヒト」
 固い声音でそれだけを告げ、バァルは再び歩き出す。
 奥宮に続く回廊の入り口で。
「遙遠、切、しばらく1人にしてやってくれ」
 セテカが2人の前をふさぐようにして立った。
 彼らの前、バァルは振り返ることなく、1人、先に進んだ。


*          *          *


「この辺りはマシかな」
 周囲の樹木たちに目を配りながら、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はほっと胸をなでおろした。
 バルバトスの攻撃は主に建物に向けられていた。無論、それ以前の飛行型魔族の攻撃があり、無傷というわけにもいかなかったが、カルキノスや淵、それに地上で動いていた真人たちの奮闘のおかげで、中庭や前庭といった所は比較的破壊度が低い。
 奥宮にある東カナン一と言われる空中庭園もまた、崩壊はまぬがれているように見えた。
 木々のアーチを抜け、池の上の橋を渡る。やがて美羽は、空中庭園の一角に設けられた、ハダド家霊廟へとたどり着いた。
「美羽……来てくれたのか」
 柵におおわれた向こう側、彼女の気配に気づいたバァルが振り向く。
 会談用の正装から着替えた彼は、よく見る黒の普段着姿だ。めずらしく、帯剣もしていない。
「空中庭園も被害を受けたって聞いたから。でもエリヤ、無事だったんだね。よかった」
 倒壊した塔の破片を避けて近寄った美羽は、しゃがんで少し傾いていた天使の像を元に戻す。ぱっぱと砂埃を払い、墓碑の前で手を合わせた。
 そんな彼女の丸まった背中を無言で見つめていたバァルは、やがて、ふいと視線を空にずらす。
 昨夜起きたことを思えば、皮肉なほどに青い空。
 思えば、エリヤが死んだ朝もこんな空だった。人の世の悲劇などおかまいなしに、空は青く、美しい。
「美羽……今日はじめて、ほんの一瞬、わたしはあの子がいなくてよかったと、思った。こんなアガデの姿を……不甲斐ない兄の姿を見せずにすんで、よかったと……。
 どこまでも身勝手だな、わたしは」
「そんな! バァル、そんなことないよ!!」
 感情は押し殺されていたが、声に含まれた隠しきれない悲痛さを感じ取って、美羽は懸命に反ばくする。
 彼女を見返すバァルは、どことなく笑んですらいた。だがそれはあきらめの笑みだった。彼女がそう言ってくれるのは分かっていたと。だが現実はそうなのだと、言わんばかりに。
 どうすればこの笑みを打ち消すことができるだろう? あの瞳のかげりを飛ばせる?
 もどかしい思いで言葉を探す美羽の前、バァルは続ける。
「最後にあの子が目覚めたとき。わたしはあの子に「おまえなしでは幸せになれない」と言った。あの子は「なれる」と答えた。
 わたしよりずっと賢い、聡明なあの子の言うことだから、きっとそうなのだろうと……そうなろうと、わたしなりに頑張ってきたのだが……。
 幸福になるというのは……案外難しいものだ……」
 もう、どうすればそうなれるか、分からない。
 こつん、とバァルの額が美羽の肩に当たった。
「少し……こうさせてくれ……」
 押しつけられた場所で、温かなにじみが広がっていくのが分かった。
 バァルが泣いている。
 だがそうと知っても、かける言葉が浮かばなかった。
 だから美羽は、こみ上げた涙を懸命に我慢して、かすかに震えているバァルの背に手を回す。そこでこぶしをつくり、熱くなった目からこぼれ落ちそうになる涙を拒否するように、彼女はひたすら空を見上げていた――。


*          *          *


 気持ちを落ち着かせ、部屋へ戻ろうとするバァルをルオシン・アルカナロード(るおしん・あるかなろーど)は外回廊の壁にもたれて待っていた。
 遊歩道を歩いてきたバァルが自分に気付いたのを見て、腕組みを解く。
「まだロノウェ達と話し合う気はあるか?」
「――今のわたしにそんなことを訊くな」
「では憎しみで戦うのか、あの魔神たちと同様に」
 カッとバァルの面に怒りが走る。
「憎しみの持つ力をあなどり、おまえの警告を退けた、わたしがおろかだと言いたいのか……!」
「そうではない。あれはもう過ぎたことだ。
 だがそうやって憎しみに憎しみをぶつけたところで、最後に何が残る? この戦いに参加した魔族をすべて滅ぼせば満足か? 彼らにも親族はいるだろう。今度はその憎しみが人間へとおよぶ。憎しみは憎しみを呼びこそすれ、憎しみを消すことはできない。それとも、完全に滅ぼすまで終わらせないつもりか? あの魔神のように。
 憎悪にとらわれ憎しみのために剣を抜くな、バァル。武器はひとを救うため、命を守るためにあることを、おまえは知っているはずだ」
 ルオシンは感情を排斥し、あくまで冷静に、理詰めで話を進めようとする。
 しかしそれが逆にバァルの自責の念を刺激し、追い詰めていることには気付けていないようだった。
 沈黙ののち、バァルは低くつぶやく。
「わたしがどうあろうと、民が許さない。民は報復を求めるだろう」
 それに、血の報復を求める気持ちがはたして自分にないのかも、バァルには疑問だった。今、彼の胸を占めているのは凶暴なまでの怒りだ。これほど純粋な怒りを感じたことがあっただろうか。
 身内で熱く煮えたぎるそれを、今のところなんとか自制できてはいるが、このまま、どこまで抑えられるか分からない。そしてそれが自制の鎖を切って解き放たれたとき、どんな炎と化すか、バァル自身にも予測がつきかねた。
 そんな彼の思いつめた横顔に、ルオシンは厳しい視線を向ける。
 普通の者ならそれでいいかもしれない。だが彼は、一国の指導者なのだ。
「東カナンの未来を決めるのはおまえだ。そこへ民を導くのも。
 戦いに次ぐ戦い、流される血と涙、連綿と続く墓標……それが東カナンの未来か? 今の凄惨な光景が後世まで続くことが。
 憎しみの連鎖に民を巻き込むか、解き放つか、決めるのはおまえだ」
「では彼らを許せと? おまえはこれらをすべてなかったことにしろと言うのか! 彼らのしたことに目をつぶり、忘れて、過去の出来事とし……そしてザナドゥへ行くべきではないと!?」
「いいや。あの地へは行かなくてはならない。だが戦いに行くのではない、我らはあくまでアナト姫を救うために行くのだ。
 まだおまえには救わなければならない……取り戻せる存在が残っている」
「――そうだ」
 彼女を救い出す。なんとしても。
 たとえ、この命にかえても。

 顔を上げて歩いて行くバァル。その背に、ルオシンも続いた。


 憎悪に飲まれるか、それとも、なお和平を望むか。
 人間は今、試されているのかもしれない。




『アガデ会談 了』

担当マスターより

▼担当マスター

寺岡 志乃

▼マスターコメント

 こんにちは、またははじめまして、寺岡です。
 また遅刻です。本当に申し訳ないです。
 今回はものすごく書いた気がするのに、章立てでみると自分の最高記録にも達していません。
 どうすればいいのか。ちょっと自分でも混迷しています。努力します。すみません。


 さて。
 今回のシナリオについてなのですが。ざっと内訳てみました。
  消火作業  2
  対ロノウェ軍 4(敵1)
  対バルバトス軍 2
  外壁+樹 6(敵1)
  ロノウェ 5(敵1)
  バルバトス 3(敵1)
  居城 1(敵4)
  避難 2
  バァル 3(敵1)
  セテカ 2(敵2)
  アナト 3
  その他 5

  外壁の破壊が早かったため、東カナン軍が早期に内部へ入ることができました。(章立て的には真ん中に置いていますが)
  そのおかげで消火作業、民の避難、クリフォトの樹の倒木に人員を回すことができ、アガデの都の完全崩壊は食い止められました。

  戦闘についてですが、地の利を活かしきれていなかったな、というのが感想です。
  第1回にありましたように、居城は岩山の上にあり、片面はハングった斜面で登ることはできません。
  ロノウェ軍は街を通り抜けたあと、なだらかな坂の手前で一度集結することになります。(今回バァルたちが突破した辺りです)
  坂の斜面や林を利用し、そこで一気にたたみかけるか、集結しようとするのを街で各個撃破のゲリラ戦をするかでした。
  今回はこれをしたのでしょうが、数が決定的に不足していましたので、選択すべきは前者だったでしょう。
  結果として、ロノウェ軍を食い止めることができませんでした。

  また、2組と3LCでは上空のバルバトス軍を止めることができず、居城を攻撃されました。
  加えて、居城内部で敵4組に対し1組では対処しきれずに、バルバトス軍の攻撃が始まる前に避難も撤収も完了できませんでした。

  結果として、アガデの都は完全に崩壊しなかったものの、3分の2以上が火災により焼失。居城は半壊しました。
  ロノウェの説得に成功し、アガデ陥落による東カナン降伏ということは回避できましたが、辛勝。戦い的には敗北です。
  人員をうまく配置できなかったことが敗因ではないでしょうか。



  アガデ崩壊してしまったので、そのうち、どこかでアガデ復興シナリオが出せたら……と考えています。


 それでは、ここまでご読了いただきまして、ありがとうございました。
 次回も【ザナドゥ魔戦記】です。多分。そちらでもお会いできたらとてもうれしいです。
 もちろん、まだ一度もお会いできていない方ともお会いできたらいいなぁ、と思います。

 それでは。また。


 ※9/25 ページの一部が壊れていましたので修復と、誤字を修正しました。