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神楽崎春のパン…まつり

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神楽崎春のパン…まつり
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「……というわけで、番長今、穿いてないらしいぜ!」
「何だって!? とはいえ、総長のパン…を借りるわけにもいかねぇしな」
「さすがにサイズが違いすぎるし」
「そういう問題じゃなくてな。てか何でこのテーブル女子がいないんだッ」
 若葉分校生達は片隅で固まって、パン…やスコーンを凄い勢いで食べながら、パーティを楽しんでいた。
 分校生のしかも、生徒会メンバーにパンツを狙った者がいると報告が入っているため、彼らは警戒されており女性達は近づいてこない。
「おっ、これブランデーが入ってるな。誰だ、こんなことを考えたのは? 入れるんならもっと沢山入れて、女達を酔わせちまえばいいのにな」
 そんなことを言ったのは、講師のゼスタだ。
 分校生達からぎゃはははっと笑い声が上がる。次のパーティでは酒解禁にしようぜと。
「ぜすたんちょうひさしぶり!」
 そんな分校生達のテーブルに、女の子が2人近づいてきた。
 一人はリン・リーファ(りん・りーふぁ)。パートナーの関谷 未憂(せきや・みゆう)は風邪のため、今日はパーティに来ていない。
「……どうぞ……」
 もう一人はプリム・フラアリー(ぷりむ・ふらありー)
 パンプキンパイが乗った皿を、うやうやしくテーブルに置いていく。
「……優子さんの、手作り……」
「パンプキンパイか、なんか縁があるよなー」
 分校生達は喜んで、パイを手づかみでとっていく。
 それからプリムはゼスタに目を向けて、ぺこりと会釈をする。
「うん、リンチャン、プリムチャン、ちょー久しぶり」
 ゼスタはにこっと笑みを見せた。
「会えなくてさみしくなかった?」
「寂しかったぜ〜。もっと分校に顔出せよっ」
「ぜすたんだって、時々しかこないじゃん」
「週の半分はタシガンにいるからなー。遊びに来てくれたっていいんだぞ。リンチャンも寂しかっただろ?」
「うん。ちょっとさみしかった」
 リンは笑いながらそう答える。
「素直でよろしい」
 と、ゼスタはリンの頭を撫でた。
「そうだ遅くなったけどいいものあげるー」
 えへへと笑いながら、リンはプリムが持っていたトレーから、グラスを手にとる。
 グラスの中には、トマトジュースが入っている。禁血をしたい吸血鬼が飲むと言われているジュースだ。
 受け取って飲んでみたゼスタが、やっぱりというような、残念そうな表情をする。
「……がっかりした?」
 リンは鞄の中から、箱を一つ取り出す。
「ほんとはこっちー」
 差し出したのは、白と黒のチョコレートの詰め合わせ。
 チェスの駒の形のチョコレートが入っている。
「おっ、美味そう」
 甘いもの大好きなゼスタは、早速食べてみることに。
「……ん?」
 黒いチョコ2つめで、ゼスタは訝しげな表情を浮かべる。
「あ、苦かった? ごめんね」
 いたずらっ子のような笑みを浮かべ、リンはゼスタの頭を子供をなでるように撫でていく。
 黒のチョコはカカオの量が違う……ロシアンチョコのような、チョコレートだった。
「口直しにどうぞ」
 続いて、リンはショコラティエのチョコをゼスタに渡した。
「もらい物いっぱいだな。全部嫌いじゃないぜ? でも、もっと美味しいものもくれない?」
 にっこりゼスタが微笑むと、ささっとプリムはその場から離れていった。
「……そういえばぜすたん、あっちの女の子達のテーブルばかり見てたよね。ぜすたんも女の子の下着とか好きなの?」
 リンは近づく前から、ゼスタのことを観察していた。
 ゼスタは……優子とアレナのいるテーブルの方によく視線を向けていた。
 リンがゼスタを観察していたのと同じように、誰かを観察している目で。
「もちろん好きだぜっ。下着姿の女の子の鑑賞とかな。リンチャンも、下着姿で給仕とかしてみない? ワインの代わりに血を頼むよ」
「中身も必要なんだね。素直でよろしい」
 今度はリンがそう言って、笑い声をあげた。
「……もしあたしが血を吸われたら、みゆうも痛かったりするのかな? ……命も身体もみゆうに預けちゃったから、あげられないんだよね」
 リンはちょっと考えて、言葉を続ける。
「あたしが今あげられるとしたら気持ちとか心ぐらいかなあ……。でも見えないし触れられないから、もらってもわかんないかな」
 リンが微笑むと、ゼスタは紅茶を飲みながら、ただ微笑み返した。
「あなたが心からそれを望むなら考えてみるよ」
 ゼスタの目を見つめながら、穏やかにリンはそう言った。
「……血を…えば、心は奪える。心が先ってのは、変な話だ」
 一瞬だけ目を伏せたゼスタだが、直ぐに笑顔に戻る。
「100年後とかでもいい?」
 リンが悪戯気に尋ねると。
「いいぜ、100年後でも。それまで待てるかどーかは別問題だけど」
 くすくす微笑みながら、ゼスタはそう答えた。
「……ん?」
 突如、リンは視線を感じて振り向いた。
「吸血鬼と魔女のカップル? いいねぇ。ちょっと犯罪っぽいけどさ」
 そこには、デジタルビデオカメラを持った、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)の姿があった。
「見る?」
「うん!」
 リンが元気に頷くと、撮ったばかりの写真を、大佐は2人に見せてくれた。
 ゼスタがリンの頭をなでているところ。
 リンがゼスタの頭をなでているところ。
 トマトジュースやチェスチョコを食べるゼスタ、悪戯気な目で彼を見ているリン。
 2人のほのぼのとしたシーンがカメラの中に残されていた。
「見かけなら、5歳くらいの差さろ。問題ない問題ない」
 ゼスタがリンを引き寄せて、仲の良いカップルを装う。
「実際はあたしの方がずーーーーーーーーっと長く生きてるみたいだけど、ね?」
「どうかなー」
 ゼスタは曖昧に誤魔化して、大佐に向かってVサイン。
「んじゃ、撮るぞ〜。後ろのヤツらも一緒にな」
 大佐は、一緒に写ろうと押し合いをしている若葉分校生達も一緒に、カメラに収めていく。

「美味っひい!」
 高島 真理(たかしま・まり)は、パンを頬張ったまま、大声を上げた。
 真理が食べたのは、優子が焼いたキャロットロール。
 蜂蜜をつけて食べたら、とっても美味しかった。
「どれもこれも美味しそう。色も鮮やかで、見ているだけでも楽しい〜。皆も食べて食べて」
 運搬に協力して少し疲れていた真理だけれど、食べ始めるなり疲れはふっとんだ。
「気持ちは解るが、食い過ぎないようにな」
 源 明日葉(みなもと・あすは)が苦笑に似た笑みを浮かべながら、真理に言い、自分はパンをゆっくり2つに割いて、丁寧にバターを塗り、少しずつ口に運んでいく。
「単純な労働の代価としては随分と豪華に気もするが、まあ、せっかく用意してくれたのだ。ありがたく戴くでござるよ」
「幸い、私達は何事もなく、たどり着けましたが、中には変質者に襲われた方々もいるようですからね。運搬だけではなく護衛のお礼も兼ねているようです」
 南蛮胴具足 秋津洲(なんばんどうぐそく・あきつしま)は淡々とそう語り、真理のような感激を表すことなく、静かに料理を食べていく。
 美味しいという言葉はあえて口には出さなかったけれど、給仕や主催者側の人が回ってきた時には、感謝の言葉を述べていた。
「スープと一緒。美味しい、です……」
 敷島 桜(しきしま・さくら)は真理の隣で、控えめに食べている。
「甘い、バターの味します……」
 片腕でぎゅっとぬいぐるみを抱きしめながら、もう片手でスープを飲んだり、バターパンを食べたり。
 人が多くて緊張してしまい、なかなか食は進まなかったけれど、少しずつ口に運んでは味わって食べていた。
「そのままでも美味しいけれど、この数々の手作りジャム! あ〜、どれをつけるか迷っちゃう」
 言いながら、真理はちょっとずつ全部をつけていく。
「確かに美味そうではあるが……。武人たるもの、己の必要とすべきものをはっきりと把握しておくべき」
 明日葉は心を落ち着かせるべく、お茶をゆっくり口に運ぶ。
 過ぎたるは猶及ばざるが如し。
 自己の欲を抑制し、節度を知ることは大切。
 心の中でそう唱えて、少しずつ料理を戴いていく。
 次はサラダを。
 自分の皿と、秋津洲、桜の皿に分けていく。
「ボクもボクも〜。サンドにするっ」
「おぬしはまだ皿にとったものが沢山のこっておるだろ」
 明日葉がため息交じりに言うが、気にせず真理はサラダをパンに挟んでかぷりついていく。
「楽しそうだな」
 そんな幸せそうな姿を、大佐がデジタルビデオカメラに収めていく。
「んぐ。今のナシナシ。大口あけてたのはさすがに消して欲しい〜っ」
「はははっ、可愛い姿じゃないか」
 真理が大佐に懇願するが、大佐は真理が笑顔で口をあけている姿を表示させ、満足げに頷く。
 幸せそうな顔だ。
「まあ、笑顔が一番と言う訳でも無いけど、笑顔の写真を撮るのは楽しいね」
 直後に、大佐はその後の写真を表示させる。
 こっちは、今のナシナシーと、大佐を止めようとしている真理の姿だ。
「慌てふためく写真を撮るのはもっと楽しいけどな!」
「ひどいーっ、ってこの姿も撮られちゃう。もうっ」
 ちょっと赤くなって言い、先ほどより少しだけ上品に料理を口に運ぶことにした。
 そんな風に、パーティは和やかに進んでいたけれど……。
「お譲サン、俺にパンッ恵んでください!」
 赤い顔をしたおっさんが、突如真理に絡んできた。
 おっさんだけれど、パラ実生のようだ。手にはなんだか怪しいものを持っている。
「パンならそこに沢山あるけど?」
「違う、俺が欲しいパン…は、パンは、ほかほかパンはパンでも、皿に乗ってはいない、キミが穿いてるそのほかほかパンツ!」
 スカートに手を伸ばしてきたおっさんを真理はサンドを食べながら、パコンと皿で殴る。
 男の懐から、バサリと服が落ちる。女性用の下着だ。
「白百合商会のメンバーですか。食事とこの場を乱すような行為は許しません……」
 秋津洲はロングソードに手をかける。
「ぱ……ぱん……ぱん、つ?」
 桜は混乱して、ぬいぐるみを抱きしめたまま立ち上がって後退り。
「俺も、俺もー」
「俺にもくれよ〜!」
 真っ赤な顔をしたパラ実生達が、つられてどっと女の子達に押し寄せはじめる。
 どうやら酒を持ち込んでいたらしい。
「こ、こないでください、こないでください……」
 泣き出しそうな声をあげながら桜はサイコキネシスで皿や籠、花瓶を投げつけていく。
「食べ物はダメよ。もっはいないはらねー」
 真理は片手にもった皿で応戦しながらも、食べ物を食べることもやめない。
「ま、まて。俺は違う。俺は違うんだ……こんな格好をしてるだけでっ」
「往生際が悪い〜っ」
 押し寄せてくる男達から逃れようとするを、ルカルカが前に押し出す。
「ううっ、全てお前らのせいだーッ!」
 淵は如意棒振って男達をお星様にしていく。
「……この場で、そういう行為に出ることが、どんな結果を生むか……解っているんだろうな」
 すっと優子が立ち上がり低い声で言った。
 ヤバイと思ったメイベルが優子の前に出て、遮る。
「大丈夫ですぅ。酔っ払いのおじ様みたいなものですからぁ。とっととどこかに行ってもらいますぅ」
「そうだヤギ! お前の力を見せてやれ!」
 が連れていたヤギをけしかける。
 変態達の生命力の元である、下着を食わせるために。
「ヤギは何故か紙や服に興味を示すが、使われている素材によっては健康を損なうからな……」
 フォルクスが眉を軽くひそめる。
「しかし、服を食むより頭突きでもした方がダメージを与えられそうな気がするぞ」
「そ、そうかも? でも怪我はしてほしくないし。頑張れヤギ!」
 樹はショコラッテを背に庇いながら、変態達に向かっていくヤギを応援する。
「……蜘蛛は益虫だから、大事にしてね」
 そんなことを言いながら、ショコラッテが毒虫の群れをけしかけた。
「ふぎゃ」
「うごごっ」
 毒虫の攻撃に、変態達はばたばたと倒れていく。
「メェ〜」
 ヤギはするする変態達から女性ものの衣服を引っ張り出したり、もしゃもしゃ彼らの服を齧ったりしている。
「お腹壊すから、飲み込まないでペッしなきゃダメだよ」
 樹はそんな風に声をかける。
「パーティに無粋なことは許さんであるぞ……?」
 パン…が欲しいのなら、これをやると、万願はからし入りパンプキンパイをまだ無事な変態達の顔に投擲。
「ぐぎゃ……っ」
 顔中パン…まみれになり、変態達は満足そうな笑みとは真逆な表情で倒れ苦しんだ。
「……ったく。誰か解毒を頼む。酔いがさめたら話を聞かせてもらおうか」
 優子が大きくため息をつく。
「同類だと思われないために、片付けとけー」
「おー」
 ゼスタが若葉分校生に声をかけ、分校生達が変態達を外へと連れ出していく。
「集めておこうか」
 樹はヤギが回収した衣服を集めて一纏めにしておいた。
「迷惑な人達だね、もぐもぐ」
「……ええ」
 あまり気にせず、真理は食事を続けており、秋津洲はほっと剣から手を下ろす。
 明日葉は食べ続けている真理の様子に、密かに苦笑。
「……はあ……いなくなりました」
 桜は椅子に戻ってきて、落ち着こうとジュースを飲む。
 ちょっと騒ぎはあったけれど、幸いそれ以上の事件はなく。
 和やかに、楽しくパーティは続けられたのだった。