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神楽崎春のパン…まつり

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神楽崎春のパン…まつり
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○    ○    ○


「ん? 何をやってるんだ?」
 若葉分校生に付き添っている教師の高木 圭一(たかぎ・けいいち)が、パートナーの竹芝 千佳(たけしば・ちか)と一緒に、若葉分校生であり、パラ実の生徒会長でもある姫宮 和希(ひめみや・かずき)に近づいた。
 和希は熱心に作業に勤しんでいる。
「罠を作ってるんだ」
「こっちも出来たぜ」
 直ぐ傍では、ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)も、罠作成に勤しんでいる。
 ミューレリアの方は、落とし穴を掘り、穴を偽装し、人間の重みで落ちるようにした罠だ。
「これで完成!」
 和希の作った罠は、大きな籠につっかえ棒を立てて、ロープを結んだだけのもの。
「知能の低い動物でもひっからないと思うが……」
 その罠を見た圭一がぽつりと言うが、和希は得意満面の笑顔だ。
「これで普段の飯の調達は結構上手くいってるんだぜ」
 そして、その笑顔を皆の方へと向ける。
「よし、誰か囮にする女物の下着を貸してくれ!」
「え、ええ!?」
 驚きの声を上げたのは、ミューレリアだ。
「流石に姫やんの頼みでもそれはできない相談だぜ。いや、逆に姫やんだからこそ貸せないというか……は、恥ずかしいし!」
 ミューレリアは赤くなって、もじもじしだした。
「……そ、そうか。考えてみれば確かに……ミュウや女の子に恥ずかしい事をさせるのは良くないな。俺とした事が不覚だったぜ……」
「というか、和希。キミも女物の下着を穿いているだろ? いや、その罠自体どうかとは思うが」
「パラ実生徒会長、ロイヤルガードの下着、だよね」
 圭一、千佳の言葉に、和希は軽く眉をひそめて首をかしげる。
「俺の下着? んなモンが囮になるのかよ?」
「うん、私にも不審な電話がかかってくることあるしな。有名人の下着コレクターとかいるみたいだぜ」
 そう言うミューレリアもロイヤルガードの一員だ。
「……マジかよ……」
 しかし、そうと知れば簡単だ。
「しょうがねぇ、じゃあ俺の下着を囮にするか……」
 狙われている女の子達の為に一肌脱ぐつもりが、自分がパンツを脱ぐことになってしまった。
 そして和希は自分の下着を脱いで、籠の下に置いた。
「よし、今度こそ完成だ。隠れて見張るぞ」
「……超不安だぜ……」
 ミューレリアは和希の罠を見てそうつぶやき、自分は自分の罠の上に百合園の制服を乗せてその場を離れた。
「これも風紀上どうなんだ。しかしこんな罠にひっかかる者が……」
 木陰に隠れつつ、額を押さえる圭一だったが。
「お、百合園の制服発見! 運ぶ最中に誰か落としたんじゃねぇ? チャンスだぜー!」
「ブラヌ! あっちにはパンツが落ちてるぞ!!」
 家具を運びながらやってきたブラヌと友人分校生が、家具ほっぽり出して駆け寄ってくる。
「うおっ、この色気のねぇパンツは、合宿んとき見た! 和希んだぜ!?」
「ってことは、そこそこの価値が……」
 スコン
 つっかえ棒が外れて、籠が落ちる。
 下着を取ろうとしたパラ実生が籠の中に閉じ込められた。
「色気がねぇとは何だ! 色気なんていらねぇけどなんかムカツクぜ!!」
 和希が飛び出す。
「なんだこの籠?」
 一度は罠にはまった分校生だが、なんなく籠から脱出してしまう。
「和希……」
「姫やん……」
 圭一とミューレリアは哀れみの目で和希を見ている。
 やっぱり動物向けの罠ではダメなようだ。人類には手があるので、持ち上げられるのだ。
 あと、和希のパンツは価値はあったが、彼らを夢中にさせることは出来なかったようだっ。
「お前、こんなところにパンツ脱ぎ捨ててんじゃねぇぞー。うおっ」
 そんなこと言いながら、ちゃっかり百合園の制服を懐に入れようとしたブラヌがミューレリアが仕掛けた罠にひっかかった。
「まさか分校の仲間の中にも、犯人がいたとはなぁ! 恥を知れー!!」
 籠にはまっていた二人が出るなり、和希は先の先、神速、軽身功を用いた超高速アクロバット飛び蹴り!
 男達は派手に吹っ飛んで、運河の中へと消えていった。
「って、しまった。パンツごとフッ飛ばしちまったぜ」
 ぱぱっと服を脱ぐと、和希も運河にダイビング。
 一肌脱ぐつもりが、結局全部脱ぐことになった。
「うぐぐ、出れねぇ……」
 一方、ブラヌは罠に嵌ったままだ。
 トラッパーの知識を用いて作られた、ミューレリアの罠からは簡単に抜け出すことはできない。
「直ぐ出してやるぜ」
 ミューレリアは百合園の制服を奪い返すと――。
「ま、待ってくれ、落ちてたから百合園に届けようと思っただけなんだ。売って儲けようとか、露ほども思ってないんだー!」
「残念、ダチとの会話、全部聞こえてたぜー! 食らえ、ミューストラッシュ!!」
 ミューレリアは古代シャンバラ式杖術、ミューストラッシュを決めた。
「パーンーツーーーー!」
 罠からぽーんと飛び上がったブラヌもまた、絶叫してヴァイシャリー運河へと落ちていった。
「ダイバーが多い日だぜ……っと、姫やんの服確保しておかないとな」
 ミューレリアはハンカチを取り出しながら、和希の服の確保に急いだ。

「何でこんなことをしたんだ」
 ダイビングを終えたブラヌと友人達に、圭一が問いかけた。
 河原には、下着を乾かしている和希と、和希のぬれた髪をハンカチで拭いてあげているミューレリアの姿もあった。
「金が、ほしいんだ。若葉分校には……なんでか有名人が超多いし……。この方法ならイケルと思ったんだ……げほっ」
 水を吐き出しながら、ブラヌはぽつぽつ語る。
 何でも、地球人のカノジョをパラミタに招くために、金が必要なんだそうな。
「こんな不謹慎な行動で得た金で招いたと知られたら、交際には繋がらないぞ?」
 圭一は苦しんでいる分校生達を優しく諭していく。
「見てみろ、お前らの番長を」
 道路には、舎弟を引き連れて運搬に勤しんでいる竜司の姿がある。
「お前らの番長は、顔はともかく、男気にあふれた良い男だ。『漢』と書いて『おとこ』と読ませるような。お前達も、アイツような、でかい男になれ」
「嫌だ、太りたくねぇ!」
「いや、体格はともかく、な」
「若ハゲは嫌だ!」
「いや、あれは禿げているわけじゃないぞ」
「怪音波の必殺技はいらねぇ!」
「いや、竜司の歌は必殺技というわけではなくてな……」
 圭一の声は次第に小さくなっていく。心の中で竜司ゴメンとつぶやいていた。
「まあ、なんだかんだ言っても、吉永番長のことは皆ソンケーしてんよ」
 ブラヌのもらした言葉に、圭一はほっと息をついた。
「何せあの神楽崎総長をモノにした男だしな!」
 続く言葉を聞いて、圭一は視線を逸らす。
(ただし、それは竜司の脳内でだがな)
 誤解を解いて信頼を損ねることはないかと、圭一は言葉を飲み込んでおく。
「それじゃ、ちょっと休憩して、それから皆で荷物運ぼうね」
 千佳がバスケットを空けた。
 圭一も担いでいたクーラーボックスを下ろす。
 中には、市販の焼き菓子や駄菓子や、バナナやリンゴといった果物。そしてスポーツドリンクに、冷たいお茶などの飲み物が入っていた。
 そのほかにサンドイッチも入っているけれど、こちらはパーティへの提供用だ。
「おっ、上手そう!」
「いい汗かいたから、咽渇いたぜー」
 つけてない、はいてない和希と、可愛らしい制服姿のミューレリアが、一緒にぱたぱた走り寄ってくる。
 起き上がろうとしたブラヌ達はやっぱり倒れておくことにする。
 通路で横になり、通り過ぎる女の子達の中を鑑賞する行為は、パラ実に限らずどこの健全学校でも行われていることである。
「こら、馬鹿なこと考えてるんじゃないぞ」
 圭一はそれを許さず、ブラヌ達を引っ張りあげて起こす。
「どうぞ」
 千佳は笑顔で彼らにフルーツを差し出した。
 フルーツを食べた彼らの口に、甘酸っぱい味が広がっていく。
「パン…もこんな味なのかな」
 誰かがぽつりとつぶやいた。

○    ○    ○


「どうして女性の衣類……特に下着とか、欲しがる男の人が多いんでしょうか」
 ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)は、小型飛空艇アルバトロスの助手席に乗っていた。
 後部座席には、預かったアレナと優子の荷物や、回収したスーツケースに入った衣類がある。
「おぉぅふっ……こ、これは、この感触はぁ……!」
「あれ? ベア、何してるんですか?」
 ソアの問いに答えず、雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)は足元においてある何かを弄っていた。
 手だけではなく、顔まで突っ込み始める。
「それって……ベアが預かったアレナさん達の荷物ですよね」
 不思議そうな目を、ソアはベアに向けた。
「ごっほん。何が入ってるのか確認しておかないとな! 奪いにくるヤツがいるかもしれないからな」
 顔を上げてベアは操縦に戻るが、片手はまだダンボールの中だ。
「中身が何であっても、無事届けなければなりませんし……。プライベートなものが入ってるかもしれないのに……」
 疑惑を籠めた目でソアはベアをじっと見る。
「ああ、そうそう。どうして下着を欲しがる男がいるかって? 男ってぇのは馬鹿な生き物なのさ……特に若ぇウチはな……ふっ」
 そう言い、ベアはどこか遠い目をする。
「うーん……。やっぱり解りませんっ!」
 ソアにはやはり、そういった男性の心理は理解できなかった。
 だけれど、油断してダンボールを盗まれるわけにはいかないので、ダミーの箱も足元や後部座席に積んである。
「あ、地上から向かってる皆さんです」
 道路を歩く少女達の姿を見つけて、ソアは身を乗り出して大きく手を振った。
「ご主人落ちるなよ」
 言いながら、ソアの目を盗んで、ベアは荷物の中身の感触を再び楽しんでいく。
 ベアが預かった箱の中身は――寝具だった。枕や寝巻きや、シーツなどが入っている。
 冬物の柔らかくてふわふわの寝巻きからは、良い香りがした。