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リアクション
●消えた者たちの行方は? 襲撃の本当の目的は?
浮かび上がる数々の疑問に、答えはあるのか?
「ええい、さっさと行かぬか!」
「い、嫌ですっ!
ババ様ならなにかきっと『最後の手段』をもってるはずですよね!? ナレディはそれをお手伝いするです!
ここまで事情を知った以上、最後の切り札として使ってくださいですー!」
イルミンスール魔法学校校長室に、二つの声が響き渡る。
手にした杖を振りかざし、強引にでも『コーラルネットワーク』へ送り込もうとするアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)と、泣いているように見えるウソ泣きで抵抗するナレディ・リンデンバウム(なれでぃ・りんでんばうむ)のものだった。
「大バ……ハイジ様、一先ず落ち着いて下さい!」
そこへ、ナレディと共に校長室にやって来たフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)の声が飛び、アーデルハイトを宥めにかかる。
「落ち着いて周囲を良く見て下さい。皆さん、即座に連携して防衛計画を練ったり、『根』の攻撃に向かってるじゃないですか」
フレデリカの言葉通り、既に数十組の生徒たちがコーラルネットワークへ突入し、イルミンスールを守るために奮闘しているはずであった。
アーデルハイトもそれは見てきたし、先程は【アルマゲスト】に与する生徒たちが、ネットワークの外と中とで情報の伝達と収集を行う旨を伝え、アーデルハイトも一人では連絡が行き渡らないと考え了承したことを思い出す。
今頃は互いに連絡を取り合いながら、イルミンスールに『侵入』してきたニーズヘッグ、及び無数に生み出される蛇の迎撃に当たっていることだろう。
「……うむ、そうであったな」
いくらか冷静さを取り戻したアーデルハイトが、振り上げていた杖を降ろす。
ほっ、と息をつくナレディに手を貸して立ち上がらせ、フレデリカが声を発する。
「ハイジ様。私には、ハイジ様がここまで余裕を無くす事態だとは思えません。……この部屋の惨状、そして聞こえてきたあの物音。教えて下さい、この部屋で何があったんですか?」
うんうん、と頷くナレディと共に、フレデリカの視線が真っ直ぐアーデルハイトを捉える。
「エリザベートが――」
「先に言っておきますけどね、校長先生が暴れたなんて言い訳、通じませんよ。
それならこの緊急時に校長先生、それにミーミルさんがいないのはどういうわけですか?」
アーデルハイトの言葉はフレデリカによって封じ込まれ、そして部屋に沈黙が降りる。事実、この場にいておかしくないはずのエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)とミーミル・ワルプルギス(みーみる・わるぷるぎす)の姿はない。
「それじゃ質問を変えるね。アーデルハイト先生、フィリポはもうコーラルネットワークへ行ったのかな?
ボク、みんながここに集まる前からいたんだけど、フィリポの姿を一度も見なかったんだよね」
沈黙を割いて放たれた赤城 花音(あかぎ・かのん)の言葉に、アーデルハイトの表情が険しくなる。
(この期に及んで、話をこじれさせような真似を……!)
そう心に呟くアーデルハイト自身の感情はさておき、表情の変化を『痛い所を突かれて動揺している』と受け取ったらしい花音が、言葉を続ける。
「はぐらかされたままじゃ、ボクたちはネットワークに入れません!
真実を話してください!
フィリポはボクの友達だし、困ってる友達を見過ごすコトは出来ないよ!」
「おまえの気持ちは分かるが――」
なおも口を開こうとしないアーデルハイトへ、花音が事実に基づく推測を口にする。
「高原 瀬蓮さんの件でピンと来たんだ。
……ねえ、フィリポのパートナーもエリュシオン人で、校長室での騒動はそのパートナーが起こしたんだよね?」
「まさか……いえ、確かに彼のパートナーを誰も見ていない以上、その可能性は否定できないわ。
彼がエリュシオン関係者である可能性も――」
ルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)の呟きを耳にしたフレデリカが、明らかに動揺した素振りで視線を落として呟く。
「フィリップ君が……? そんな、あんな笑顔を浮かべて私に嘘をついていたっていうの?」
一緒に月を見た時に向けてくれた笑顔が、フレデリカの頭の中に浮かんで消える。
「……流石に考えすぎですね。もっと冷静にならないと……フリッカ? どうしました?」
推測を、頭を振って打ち消したルイーザが、俯いたままのフレデリカを心配するように手を伸ばした所で、フレデリカがキッ、と顔を上げて声を荒げる。
「フィリップ君がそんなことするはずない!
するはずないんだから!」
泣きそうになった自分を励ましてくれた言葉が、笑顔が、嘘だったなんて、信じたくない――。
そんな思いに駆られたフレデリカの激昂が、部屋を揺るがす。
「お、落ち着いてフリッカ、あれは推測であって真実と決まったわけでは――」
「え? え? ボクの言ったことがもしかしてとんでもないことになっちゃってる?」
懸命に宥めようとするルイーザと、事情が分からず戸惑う花音。
「おまえたちが落ち着かんかー!!」
そして、堪忍袋の緒が切れたアーデルハイトによって、フレデリカとルイーザ、花音、ナレディが強制的にコーラルネットワークに転送されてしまった。
「どうしてナレディもなんですかー!?」と響いてきた声は、アーデルハイトによって無視された。
「ああ、花音……」
「…………」
4名が転送されたホールを見上げて、リュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)と名無しの 小夜子(ななしの・さよこ)が心配そうな表情を浮かべていた。
「まったく、このような勘違いを引き起こすのも、この場にルーレンがいないからじゃ……そうか、あやつはイルミンスールに帰って来た途端、100人の教育係の相手をさせられているのであったか……」
一息ついてアーデルハイトが呟き終えた所へ、それまで話を静観していた十六夜 泡(いざよい・うたかた)が進み出、口を開く。
「で、実際どうなの?
そりゃ、イルミンスールが危機に陥っているのはアーデルハイトさんの様子から見ても十分分かってるんだけどさ。
もしもコーラルネットワークへの侵入が囮で、本体が外からイルミンスールに攻めてきた時に戦力不足でした、なんて事にならない?
アーデルハイトさんが本気を出せば、私達生徒がどれだけ束になって掛っても勝てないでしょうけど……もう少し落ち着きましょうよ」
言いながら、いつの間にか血の滲んだ掌をほぐす仕草を見せる泡に続いて、レライア・クリスタリア(れらいあ・くりすたりあ)が言葉を発する。
「そうですよ極ババ様。
事実上イルミンスールの最高指揮官であるあなたがそんな状態では、生徒達は余計不安になってしまいますよ?
何らかの事態とニーズヘッグ強襲という予期せぬ出来事が重なり、少し興奮しているのだと思いますが、どうか落ち着いていつもの冷静なアーデルハイト様に戻ってください」」
「……誰が極ババ様じゃ。少し前に同じ発言をしていたならば、とっくにネットワークに放り込んどったわ」
「今このタイミングだからこそ言っているのです」
にこにこと微笑むレライアに、アーデルハイトももはやため息をつく以外に返すものはない。
「……やれやれ。ま、これ以上強引に向こうへ放った所で、ここにおる全員を誤魔化すことは出来ぬじゃろうな。困った奴らじゃ」
苦笑交じりに呟くアーデルハイトへ、なおも十数人の生徒たちが言葉を発しないまでも、ここで何があったのか、そしてエリザベートとミーミルがどうなったのかを知りたいと告げる視線をひしひしと向けていた。
「先に言っておくがの。
これからの私の話を聞いて、少しでも無茶をしようという素振りが見られた生徒は容赦なく放り込むからの?
その方が安全じゃし、今後おまえたちが取る行動次第では、イルミンスールから籍が消えることになるからの。
……今からでもネットワークに入った生徒たちを援護してやるのも、遅くはないぞ?」
凄みを利かせた表情で呟いて、それでも動きを見せる生徒たちがいないことを確認して、観念したようにため息をついてアーデルハイトが杖を振りかざし、先程強制的にコーラルネットワークへ送った生徒たちを呼び戻す。
「花音、大丈夫ですか?」
「う、うん、大丈夫だよ」
「フリッカ、落ち着きましたか?」
「……ええ。ごめんね、ルイ姉」
「あれ? 落ちたのに痛くないのは、何ででしょう?」
「…………」
リュートが花音を気遣い、ルイーザにフレデリカが申し訳なさそうな表情を浮かべて謝り、小夜子は着地に失敗したナレディの下敷きになっていた。
「くっ、私としたことが……」
そしてもう一人、先程自らコーラルネットワークに入っていったはずのフィーグムンド・フォルネウス(ふぃーぐむんど・ふぉるねうす)が、当てが外れたのを悔しがるような素振りを見せて立ち上がる。同時に、扉からローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)がフィーグムンドの気配を察知したらしく入ってくる。
「フィーグムンド、何故私の召喚に応えなかったの?」
ローザマリアの問いかけに視線を外すフィーグムンドを見遣って、アーデルハイトが事態を察して言葉を発する。
「……なるほど、悪魔であるこやつにネットワーク内を探らせ、おそらくは……エリザベートやミーミルがいないのを確認した上で、頃合いを見計らって呼び戻すつもりじゃったか。
じゃが、そうはゆかぬのじゃ。ま、私から説明せずとも、後でこやつからよく勉強しておくがよい。……無論、これからの話を聞き損じるような真似は、許さぬぞ?」
アーデルハイトの言葉を受けて、ローザマリアが携帯を通じて、校舎の外に捜索に出ていたエシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)を呼び戻し、リィム フェスタス(りぃむ・ふぇすたす)が泡の胸ポケットの中で情報を聞き漏らさぬように身構える。
他の者たちも心の準備を整えた所で、アーデルハイトが生徒を振り向き、言葉を発する――。
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