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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第1回/全3回)

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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第1回/全3回)

リアクション


第三曲 〜見えざる影〜


(・闇の中で)


 イコン製造プラント内部。
 その第一層で発見した古代シャンバラ語の資料により、これが「サロゲート・エイコーン」を造る施設だということが判明した。
 それだけではなく、どうやら基地としての一面も持っていたらしい。
『各部へ。現在の敵の状況は?』
 交戦の連絡を受けた戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)は、内部に分かれた各調査隊に連絡を行う。
 無線はPASDにある高性能通信機を使用し、プラント内部だけではなく空京にある情報管理部まで繋ぐことが出来るようになっている。
 さらに、これまでのような手持ち式ではなく、ヘッドセット式になったため、よりスムーズに情報のやり取りが行えるようになった。
「さすがにこの規模では正確な数までは分かりませんか」
 プラント内にいる全員が交戦状態になってはいないが、それがかえって敵の戦力を判断しにくくしている。
「小次郎さん、本部からです。間もなく、天御柱学院の超能力部隊が到着するようです」
 リース・バーロット(りーす・ばーろっと)が小次郎に報告する。
 二人はプラントの入口付近から全体への指示を出していた。先遣隊は大きく二つのグループに分かれている。第一層と第二層だ。
 どうやら敵は第二層に多いらしい。だが、まだプラントの全容も分かっていないため、どちらが先に深部へ辿り着けるかは分からない。
『現在交戦中の者は無理せず足止めを。もうじき救援が送られてきますから、それに合わせて攻撃に移りましょう。また、まだ敵と交戦していない者は速やかに他先遣隊員と合流、戦闘に備えて下さい』
 重要なのは敵の駆逐以上に、確実にこの施設を確保することだ。内部の敵を駆逐するのは、あくまでこちらが優勢だと判断出来るようになってからである。
『イコン部隊、到着まであと三十分です』
 どうやら、もう空京は通過したようだ。だが、敵のイコンは目撃情報によれば東シャンバラである。
「リース、敵イコンの正確な目撃地点を本部に確認してもらえませんか?」
「分かりました」
 こちらの隊から未確認勢力を確認したと伝えてから、敵イコン部隊の発見まではそれほど時間はかかっていなかった。
 なお、未確認勢力を敵と判断したのは、相手が攻撃を仕掛けてきたのと、纏っている強化服――いや装甲服か、が天御柱学院校長護送の際、タンカー内で目撃されたとされるものと似通っているからである。
 そのときの恰好は、目撃者の証言を元にして各学校に伝えられていたため、見覚えがあったらしい。

「しかし、倒せる相手は倒しておく必要がありますね」
 真口 悠希(まぐち・ゆき)は、ちょうど黒い装甲服にヘルメット姿の敵と対峙していた。
 百合園生である彼女だが、先遣隊としてやってきたのは友人であるロザリンドの伝手があったからだ。
 PASD自体は中立組織であり、加えて情報管理部長の紹介だ。先遣隊に加わっていても何ら不思議ではない。
 ダークビジョンがあるため、視界ははっきりとしている。しかし、それは敵も同様のようだ。
(――来ます!)
 彼女が構えを取るなり、敵は踏み込んできた。それも、壁や天井を飛び交いながら。
 得物はファイティングナイフ。リーチは悠希に分がある。
(!?)
 だが、途中で敵の姿が消える。不可視の敵がいるかもしれないとは聞いていたが、おそらく光学迷彩の類だろう。
 ならば、彼女にも同じことが出来る。敵の姿が消える瞬間、彼女もまた光学迷彩を使用。一歩退き、殺気看破によって見えない敵の存在を察知する。
(そこです!)
 気配を感じ取り、敵のナイフを受け止める。それを受け流すようにして鍔に引っ掛け、そのまま弾き飛ばす。
 そのまま峰打ちで気絶させようとするものの、敵は素手で刃を受け止めた。正確には刃を掴んだように見せかけて、弾いたのである。おそらくはサイコキネシスで勢いを殺したのだろう。
 そして、彼女に向かって弾いたはずのナイフが飛来してくる。
(――!)
 それをなんとかかわす。が、敵の周囲に浮遊しているナイフは一本ではない。サイコキネシスによるものだろう。
 それらを一斉に放つと、敵の殺気は消えた。姿を消したまま、悠希には勝てないと判断して下がったのだろう。だが、いなくなったわけではない。
 光学迷彩を使用したまま、周囲の気配に注意して他の隊員との合流を目指す。おそらく敵もターゲットを彼女から別の人へ変更したのだろう。
 あるいは、この施設の制圧を優先し、戦力を温存しようとしているのかもしれない。

* * *


「さすがに乗っていくわけにはいかないが、このくらいなら……」
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、小型飛空挺オイレを使い、内部の索敵を行った。
 さすがにプラント内部を飛空挺で飛ぶわけにはいかないが、その機能を使うことで、例え不可視の敵がいたとしても見抜くことは出来る。
「近い範囲では、三か」
 しかし、ダークビジョンを持たない彼には、敵の居場所を正確に把握するのは難しい。
「エヴァルト、もう近くまで来てるよ」
「ああ、分かってる」
 ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)が殺気看破で敵の気配を察知する。エヴァルトもまた、それを感じ取り、襲撃に備える。
「来たか!」
 姿は見えない、だが、気配でどこにいるかは大体把握出来る。
 エヴァルトは軽身功で跳び、三方からの攻撃をかわす。直後、ロートラウトが敵の気配がする場所へ向かってミサイルを放った。
「……不気味な連中だ」
 黒い装甲服にフルフェイスヘルメットを被った姿が露になる。迷彩の効力が失われたようだ。
 どうやら相手は超能力の使い手らしい。
 しかも、決して弱い相手ではなさそうだ。三人はそれぞれ別の場所に跳び、エヴァルトを翻弄しようとしてくる。
 その中の一人に狙いを定め、彼はドラゴンアーツで攻撃を加える。
 背後からは複数のナイフが飛んでくる。それらを、ロートラウトがミサイルで撃ち落として、当たるを防ぐ。
「――――!!」
 エヴァルトは雷光の鬼気で、鳳凰の拳を撃ち出した。
 敵はサイコキネシスとフォースフィールドによって、それを防ごうとするが、間に合わずに吹き飛ばされる。
「まずは一人」
 が、そうしている間に敵の気配は消えていた。
「逃げたみたいだよ」
「闇雲に向かってくるわけではないか。手強い連中だ」
 敵もこちらを倒すよりも、プラントを確保することを第一優先として動いているらしい。ならば、と彼らも敵に対抗するため、プラントの深部を目指す者達との合流を図る。

 エヴァルト達から離れていった装甲服達の姿を、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)達が捉えた。
「来たよ、メイベル!」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)、メイベル共にダークビジョンを会得している。彼女達に迫る人影は二つ。
「この先は下のフロアに通じています。ここで止めませんと」
 下の階でも戦いが始まっている。今、自分達に迫っている敵がここを突破して応援に駆けつけるとなると、かなり不味い。
 なにやら超能力と高い身体能力を持っているということは無線で伝わってきている。光学迷彩らしきもので姿を消すことが出来るとも。
 ただ、目の前の二人が姿を消さないということは、既に自分達以外と戦った可能性がある。
 やられたのか、それとも勝てないと踏んで退いてきたところなのか。どちらにせよ、戦わざるを得ないことに変わりはない。
「二人相手ならわたくしたちで何とかなりそうですわね」
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が剣を構え、敵を見据える。
 殺気看破で感じ取れる範囲では、眼前の二人以外に敵はいない。
 次の瞬間には、敵が動いていた。一人は壁を、もう一人は天井を走っている。
「軽身功、ではなさそうですね」
 やはり無線で伝わってきた通りだ。
 黒の兵士はその体勢から飛び掛ってくる。それに対し、フィリッパがエクスカリバーを斬り上げた。
 敵はリーチの短いナイフでそれを受け止め、宙で一回転して着地する。そのまま攻撃態勢を維持し、もう一人の装甲服と連携して再び三人に向かってくる。
「――速いッ!」
 二人のコンビネーション攻撃に、防戦一方になる彼女達。
 だが、一瞬でも隙があればこちらが攻撃に移ることは可能だ。二体三、彼女達も決して弱いわけではない。
 セシリア、フィリッパが敵の攻撃を受け流した瞬間、メイベルはランスバレストを敵のうちの一方に繰り出した。さすがに、これは避けられない。直撃し、そのまま壁に叩きつけられる。
 それが突破口となった。続いて、フィリッパが轟雷閃を放つ。どうやら敵の装甲服は電撃に弱いらしく、かなりのダメージを受けているようだ。
 ふらふらと立ち上がるが、もはやそれが精一杯であるようにも見える。もう一人の方は、倒れたまま起き上がらない。
 ここで、メイベルはヒプノシスで立っている敵を眠らせようとする。それが効き、敵は膝をつくが――
「……下がって!」
 敵の身体から煙が上がる。メイベルらは即座に退避し、身を伏せる。
 直後、敵が爆ぜた。自爆したのである。それに巻き込まれ、もう一人の黒の兵士も原型が残らないほどになってしまった。
 もし、あのまま眠りに堕ちていたら、そのまま捕縛して捕虜に出来ただろう。だが、敵はそうなるくらいなら死を選んだのだ。
 かつて、天学校長護送タンカーの襲撃者達も、捕縛を恐れて自爆している。そうまでして、彼らが知られまいとしているのは果たして何だろうか。