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リアクション
第二曲 〜戸惑いと覚悟〜
『PASD本部に向かってる? ならちょうどいいかな』
『どうなさいました?』
ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)はPASDの本部がある空京へと移動している最中だった。
『そのまま天沼矛で海京まで来てくれ。情報のやり取りなら極東新大陸研究所から直接やった方がよさそうだからね』
『分かりました。しかし、そうなると先遣隊との連絡はどうなりますか?』
『とりあえず、PASD本部のコンピューターと先遣隊の無線は繋がってるよ。海京にいても本部経由でこっちまで連絡が直接受け取れるようになってるから問題はない。通信関係はちゃんと全部暗号化されてるから、傍受される心配もないさ』
アレンの口ぶりからするに、先遣隊との連絡に関しては準備万端なようだ。
『研究所の場所は分かる?』
『はい、以前海京には一度訪れていますので』
幸い、極東新大陸研究所の場所を彼女は知っている。直接来てくれと言われても問題はなかった。
『それじゃ、一足先に向こうで待ってるよ』
(・集合)
極東新大陸研究所海京分所では、ベトナム偵察の準備が着々と進められている。
「そろそろパラミタ組は出撃した頃か」
佐野 誠一(さの・せいいち)は偵察部隊用のシュメッターリングの整備を行っていた。
「しかし、また寺院製イコンをいじることになるとはな。シュメッターの方はかなりシンプルな構造だからまだいいけどよ」
シュバルツ・フリーゲの量産型とされているシュメッターリングは、他のイコンに比べ整備がしやすい。敵も、強化人間を作り出して契約させてまで、コントラクターを量産しているのだ。それに見合った機体も、なるべく数を揃えられるものにしなくてはならないということなのだろう。
「佐野さん」
「オリガ、どうした?」
オリガ・カラーシュニコフ(おりが・からーしゅにこふ)が入ってきた。出撃までまだ時間はあるはずなのだが……
「行き先がベトナムなので、熱帯戦仕様にして頂こうと思いまして」
「おう、了解! ……どうした、何だか気分が優れないみたいだけどよ」
どことなく、オリガの顔色はよろしくない。
「いえ、最近ここでの研修が大変で……」
「おっと、そういえば夏休みからここに出入りしてたんだっけな。パイロットなんだから、あんまり無理すんなよ」
「ありがとうございます。ですが、わたくしなら大丈夫ですわ」
彼女は整備内容を伝えると、集合場所へと戻っていったようだ。
「さて、じゃあ続きを……真奈美、なんだよその目は?」
「いえ、別に。なんでもないですよ」
どことなく不機嫌な結城 真奈美(ゆうき・まなみ)を見遣る。なんだか拗ねているようにも見えた。
「とにかく、続きをやるぞ。熱帯戦ってことだから、機体放熱量の増加、防滴機能の調整だ」
今回はいつもと整備内容が異なる。だからこそ、いつも以上に気合を入れつつ、それでいて慎重に進めなければならない。
「特に注意した方がいいのは、駆動系でしょうか? 平常時でも熱を帯びるのは間違いないので、少しでも負荷を減らした方がいい気がします」
「ああ、そうしてくれ。いざというときに機体がバランス崩したら大変だからな」
偵察とはいえ、タンカー護送のときのように比較的長い時間、機体を飛ばすことに変わりはない。
負荷がかからないように、出来る限りの調整を行っていく。
「今のうちにわたくしがコックピット内部の調整を行っておきますわ」
「おう、頼むぜ」
二人が熱帯戦向けの整備をしている間に、カーマ スートラ(かーま・すーとら)がその他の基本的な部分の整備を行う。
ベトナム偵察任務に駆り出される機体は全部で十機。とはいえ、三人でその全部を整備するわけではない。
周りを見れば、整備主任の姿もある。比較的内部構造が複雑なシュバルツ・フリーゲは生徒ではなく教官が行うようだ。
「サンキュー、カーマ。この調子なら出撃までに四機見れそうだ」
四機。シュバルツ・フリーゲを除けば、一小隊分の調整に間に合う。
搭乗リストを参照する。
「オリガの搭乗機を調整するんなら、そっちの小隊をやっておくか」
小隊内の機体コンディションが一致していれば、連携もしやすいだろう。教官機は、整備主任がやってくれているので大丈夫だ。
微妙に難しいところは確認を取りながら、三人で着実に機体の整備を進めている。操縦して飛ばす事は出来ないが、起動は出来るので、それによって動力炉やジェネレーターのチェックを行う。
そこまで完了すれば、あとは最後の仕上げだけだ。
* * *
「お待たせしました」
ロザリンドが研究所に到着した。彼女を出迎えたのは、先に研究所の中にいた
アレン・マックスだ。
「そろそろ来る頃だと思ったよ。さあ、天御柱学院の生徒と研究所の方々がお待ちだ……おっと、司城さんもちょうどここに来てるんだった」
「司城さんもですか?」
司城 征(しじょう・せい)は、かつて新世紀の六人の一人に数えられた研究者であり、現PASDの副責任者でもある。旧知であるホワイトスノー博士に会いに来ているのだろうか。
「心配はいらないよ。本部の管理はリヴァルトさんに頼んであるからね。そうそう、言われたように通信関係の方は全部準備してあるよ。ここからベトナムに向かう機体とも連絡は取れるようにしておいた」
「ありがとうございます。それと、今のうちにこれを……」
ロザリンドは一枚のメモを渡した。
「なるほど……うん、了解。まあわざわざここまで足を運んだのは、これを直接調べるためでもあったんだけどね。そうそう、今ヴァイシャリーはどうなってる?」
アレンによれば、研究所の一室を情報支部として間借りさせてもらっているという。そこへ向かうまでの間に、ロザリンドは分かる範囲でエリュシオンのことを伝えた。
「これといってシャンバラで変な動きをしているわけじゃないか。まあそうだよね、『侵略』ではなく『保護』なんだから」
現状を知り、納得しているアレン。
「ここだよ。今はまだ出撃前だから、ベトナム行きの生徒や教官、それに博士と全員揃ってるはず」
扉が自動で開き、ロザリンドが一歩踏み出す。
すると、黒いロングコートに身を包んだ女性と目が合った。彼女とは、以前空京で会ったことがある。道案内をした程度だが。
「おや、誰かと思えばあのときの……そうか、PASDの関係者だったのか」
この人が
ジール・ホワイトスノー博士。ロボット工学に貢献し、それでいてあの傀――
「そこの情報管理部長代行とやらから話は聞いている。自己紹介がまだだったな。私がジール・ホワイトスノー、この海京分所の主任研究員を務めている」
「パラミタ先進技術機構情報本部長、ロザリンド・セリナです。宜しくお願いします」
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