リアクション
* * * 「作戦としては、コームラントは連携して敵機牽制とイーグリットの援護に専念、というのがいいでしょう。あとは、東側の土地に立ち入らないようにすることくらいでしょうか。今は東西の壁は薄いとはいえ、今回は軍事行動とみなされているでしょうからね」 アルテッツァは同じ小隊の仲間と作戦を立てようとする。 「しかし、今回が初戦になる人も多いのか、緊張している様子が窺えますね。機体に向かう前に、さあどうぞ」 ティータイムでお茶を用意し、まずはリラックスしてもらう。 「初戦でも、何度か戦っていても、それぞれ何か思うところはあるでしょう。ですが、それは『ヒト』として当然ですし、誰でも同じです。それを自覚して、戦いに挑むことが大切なのですよ」 彼自身も、戦いのプロではない。教員であっても教官ではない以上、機体に乗れば一小隊員であり、生徒達と同じなのだ。そのことを自覚した上でそう言うのだろう。 「それでは先生としての言葉はここまで。頑張りましょう、皆さん」 教官の説明が終わった以上、あとは出撃を待つわけだが、このわずかな時間の間に各人で最終確認をするのは重要だ。 「解析資料集、コピーしてきたよ」 葉月 エリィ(はづき・えりぃ)が鏖殺寺院イコンの解析資料集のコピーを取り出す。機体の中でも、攻撃担当の人なら現地までの間に読む時間はある。 「あ、ありがとうございます」 「助かるでござる」 端守 秋穂(はなもり・あいお)とフォックス・エイト(ふぉっくす・えいと)がそれを受け取った。 「戦場に着くまでに目を通しとくといいよ。結構詳しく書かれてるからね」 とはいえ、彼女はまだほとんど目を通していないのだが。なので自分もちゃんと読むことにした。 「ついに出撃だね……」 霧羽 沙霧(きりゅう・さぎり)が、不安げな顔をしていた。おそらく、初出撃に際して、恐怖を感じているのだろう。 「大丈夫よ、沙霧くんだって一緒に訓練を乗り越えてきたじゃない。それに、私達は一人じゃないわ。寺院の部隊に遭遇しても、みんなと力を合わせて頑張りましょう?」 館下 鈴蘭(たてした・すずらん)が沙霧を励ます。その言葉通り、ここにいるのは彼女だけではない。 「ボク達だって今回が初めてだけど、一緒に頑張ろうねっ」 水鏡 和葉(みかがみ・かずは)だ。そして、 「機体の整備は万全だよ。イーグリットでの戦い方も聞いといたから、うまく連携していこうね」 祠堂 朱音(しどう・あかね)である。彼女達が、デルタ小隊のイーグリットに搭乗する。 出撃前に作戦を再確認し、各自機体に向かっていく。 「いよいよだな」 「どうした、翔。緊張しているのか?」 {SNM9998857#辻永 翔}とアリサ・ダリン(ありさ・だりん)は搭乗機体に向かうところだった。 「まさか。これが初めての戦いってわけでもないんだ」 「だが、やはりあの機体のことが気になるのだろう? パイロットについても、判明したようだからな」 あの黒いイコン、シュバルツ・フリーゲを駆る男は、かつて薔薇の学舎のジェイダス観世院の親衛隊であるイエニチェリの一員であったカミロ・ベックマンという男であるという。 その者がどういった経緯で寺院入りをしたのかは分からないが、その過去を踏まえても只者ではないのは確かだ。 「あいつはまた出てくるのか?」 「さあな。だが、あのイコンを超えるために訓練を積んできたんだ。私達の力を見せてやろうではないか」 「気合入ってるな、アリサ」 負けず嫌いな翔以上に、アリサも二度にわたって辛酸を舐めさせられたのが悔しいらしい。 「翔、アリサ!」 そんな二人に声を掛けるのは、同じ小隊に配属となった天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)だ。 「同じ小隊になったな。宜しく頼むぜ」 鬼羅は今回が初の実戦だが、緊張しているようには見えなかった。翔達と組めて嬉々としている様子や、早く出撃したくて勇み足になっているあたり、おそらく早く戦いたくて仕方ないのだろう。 彼は二度に渡って敵の指揮官を退けている翔達を強者として見ていることもあるようだ。 「気合十分なのはいいが、空回りしないよう気をつけろよ?」 その後ろから声が掛かる。 小隊の指揮を執る野川教官がやってきたのだ。 「まさか、自分が呼ばれるなんてな。とはいえ、君達に伝えておきたいのは一つだけだ。独断で突っ走るなよ? イコン戦はチームプレイだからな」 若い男性教官はにっ、と笑ってみせる。 「もう一機のコームラントは笹井達か。そんな堅くなるなよ」 「私はいつも通りです、教官」 「そうそう、昇はいつもこんな調子だぜ? それに教官、生徒が大事だからってあんまり無理しなさるな。『命は大事に』っすよ」 「デビット、教官に向かってなんて口の聞き方を」 笹井 昇(ささい・のぼる)がデビット・オブライエン(でびっと・おぶらいえん)をたしなめる。が、教官はさほど気にした風でもなく、 「はは、自分は教官長みたいに気にする人間じゃないから構わないぞ。パイロット科の人間は、教官も生徒も関係なく、貴重な存在なんだ。『犠牲になってでも』なんて考えの方が愚かしい。それに、自分達は軍隊じゃない。引くときは潔く引いてこそだ」 くれぐれも馬鹿なことは考えるなよ、と言ってパートナーと共に野川教官は機体へと向かっていく。 『あー、テステス。全員聞こえてるッスか? 分かってると思うけど、家に帰るまでが作戦ッスからね。そこのことだけは忘れないようにっ……さあ、寺院の連中のケツを蹴り飛ばしに行くッスよ。野郎共、覚悟はいいかっ!?』 機体に乗り込んだ狭霧 和眞(さぎり・かずま)は無線のチェックを行う。各無線、正常に機能しているようで、いろいろな声が帰って来る。 『ワン・フォー・オール! アンド・オール・フォー・ワン!……だ。一機も欠けることなく戻るぜ!』 リーリヤ・サヴォスチヤノフ(りーりや・さう゛ぉすちやのふ)だ。全員で無事に戻る、それも出撃する者達の目標だ――いや、絶対にやり遂げなければならない。 「って、オレも気合入れないといけないッスね。ルーチェ、準備はいいッスか?」 「はい、兄さん!」 ルーチェ・オブライエン(るーちぇ・おぶらいえん)を見遣る。 「いよいよですね。そういえばコームラントって名前付けていいのでしょうか? ん、アキ君、シャチの名前……オルキヌスっていうのはどうかしら」 「うん、いいね。でも、TACネーム、【ジャック】で登録しちゃったんだよなぁ」 高峯 秋(たかみね・しゅう)とエルノ・リンドホルム(えるの・りんどほるむ)は、機体の中でそんな話をしている。 「と、まあそれよりも、今日まで訓練を積んできたんだ。だから、前よりもみんなを守れるようになっているはず――頑張ろう!」 パイロット全員が機体の動作確認を終えた小隊順に、出撃する。 搭乗した機体はカタパルトから射出され、空へと飛翔していった―― |
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