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リアクション
「……う……」
「……気が付かれましたか?」
意識を取り戻した朔の視界に、心配そうな表情のレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)が映る。
(そうか、私は敵の攻撃を受けて……くっ、不覚を取ったか)
起き上がり、自らの身体の具合を確認してみる。多少のしびれは残っているものの、それも少し経てば取れるようなものであった。
(軽い傷ではなかったはずだが……大したものだな)
治療の腕前を感心する朔の下に、レイナが朔の武器を持って帰ってくる。
「微力ではありますが、加護の力を施しました。仲間の方もウルフィオナとリリが付き添ってくれています、今しばらくお待ち下さい」
負傷者を介護するためのテント設置に尽力したウルフィオナ・ガルム(うるふぃおな・がるむ)、怪我人の介護に奔走するリリ・ケーラメリス(りり・けーらめりす)の働きもあって、運ばれてきたスカサハとカリン、それに前線でセリシアとカヤノ、ヴァズデルとメイルーンの盾として戦い抜いたコルセスカと葵も、十分な治療を受けてもうじき戦線復帰することが出来そうであった。
「ここまでしてもらって……済まないな」
「いえ……皆さんが盾として振る舞われるのであれば、その後ろから力添えをするのが私の役目ですから……」
武器を受け取り、賛辞を述べる朔に謙遜するレイナの下に、すっかり元気を取り戻したスカサハとカリン、コルセスカと葵が合流を果たす。
「スカサハ、まだやれるであります! 早く行くであります!」
(うーん、なんか、ここに来るまでに、アテフェフの匂いがしたような気がするんだよね……なにもされてないよね?)
「……護るための盾は、まだ壊れてはいない」
「そうそう、これからが本番だよっ!」
三人の騎士とそのパートナーが、未だ絶えぬ誇りを抱いて口々に告げる。
「……そうだ、我らが剣、我らが腕は今も、護るためにある。ここで戦い続けることが、雪だるま王国騎士としてイナテミスを護ることと同義なのだ!」
最後に朔が口を開き、それぞれの手に握った武器を掲げ、そして再び戦場へと復帰していく。
「ああいうの見てっと、あたしも最前線で戦いてぇなぁ! ま、こっちだって大事なことだ、頑張らせてもらうぜ!」
「レイナ様、私も精一杯尽力させていただきます」
「……ええ、そうですね。……すべての盾へ、祝福と祈りを……」
手を合わせ、祈りを捧げるように彼らを見送り、レイナたちはそれぞれの役目を果たすべく行動を再開する。
前線では、暴れるニーズヘッグの影響で被害が続出していた。あちこちで生徒と精霊が体当たりを受けて吹き飛ばされてくる。
「ルーナ、ケガしてる人連れてきたよ!」
「ありがとう、セリア。……今、治療します。少しだけ、我慢して下さい」
苦しそうに呻く吹風の精霊へ、ルーナが癒しの力を施す。セリシアの傍に居たい気持ちがありつつも、これが最も自分が力になれることと言い聞かせて、負傷者の治療に当たる。
「俺も手伝うよー。怪我してる人を放っておけないしねー」
「あたしにも手伝わせて。治癒魔法ならあたしにも使えるから」
そこに、梓とカリーチェも加わり、即席の救護室が構築される。
(ニーズヘッグ、大丈夫かな)
ふっ、と視線をニーズヘッグへ向ける梓、その向こうではフリードリッヒと栗が、ニーズヘッグに接近を試みていた。
「やっぱり行くのか、栗!?」
「はい……! 私は、ユグドラシルの真意を知りたい!」
フリードリッヒの問いに答え、栗が頼れる仲間、狼のミヤルスと剛鷹のトト、そして綾香とレテリアと共に飛び出す。レテリアが光の力を解放して道を作り、見えてきた暴れる巨体へ、綾香が武器から雷を放つ。
「答えて! あなたの望みは、何!?」
栗が手にした魔法の楽器、ドルイドのみが奏でられる畏怖をもたらす音色が、ニーズヘッグを包み込む。声を発さないニーズヘッグに効果があったかはっきりしないが、それまで活発に動いていた巨体が、少しだけその動きを弱めたようにも見えた。
(畳み掛けるなら、この今を置いて他にない! 一点集中で相手の生命力を奪い取る!)
絶好の機会を逃すまいと誓った宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が、身の丈ほどもある大剣を携え、箒で宙へと舞い上がる。その間に同人誌 静かな秘め事(どうじんし・しずかなひめごと)とイオテス・サイフォード(いおてす・さいふぉーど)が祥子の目論見を瞬時に把握し、最大限の効果を生み出すための一点を見定めんとする。
「静香さん、わたくしが光の矢で射抜いた箇所に続いて、攻撃をお願いいたします」
「分かりましたわ。……行きますわよ!」
高めた魔力を、炎と氷の具現に費やす静香の視界に、イオテスが光を矢のようにして放った一撃がニーズヘッグに突き刺さるのが見える。頭部からやや後ろ、ちょうど人間でいえば首の辺り、そこがどうやら最も効果的と判断した場所のようであった。
(後は、その一点目がけて打ち込むだけですわ!)
詠唱を完了した静香が、残る光の矢を目標に、氷柱と炎弾を交互に、魔力の続く限り連射する。絶え間なく続く放射、一点にかかる急激な温度の変化は、周囲の外殻を弱め、後に続くであろう祥子の一撃を通し易くする。
(重さ×運動エネルギー×突入角、その積は即ち、破壊力!! 行くわよニーズヘッグ、天秤座の裁きを受けなさい!)
天秤座の名を冠する者が扱いし武器を模した大剣に、光が集まっていく。十分な高度を稼いだその地点から、祥子が大剣を両手で握り締め急降下、まるで爆弾を投下する爆撃機の如く振る舞い、先程イオテスと静香が攻撃を加えた一点へと向かっていく。
静香とイオテスが見守る中、一点に突き刺さった大剣はその刀身を全て中に埋没させたまま、片面を輪切りにするように切り裂いていく。
「人んちに殴りこみかけておいて、この程度で済むとは思わないでほしいわね!」
祥子の言う通り、そこで攻撃は終わりではなかった。中に埋まったままの刀身から、今度は爆炎を撃ち出す。無論、ゼロ距離での爆炎をうければ祥子も無傷とはいかないが、ニーズヘッグとて流石に黙ってはいられず、巨体をひときわ大きく震わせた。
「お姉さま、いくらなんでも無茶過ぎますよっ」
爆風で吹き飛ばされ地面を転がる祥子を、HCを用いて戦況報告を行っていたセリエ・パウエル(せりえ・ぱうえる)が救出し、安全な場所へと避難させる。応急処置を施しているその時、HCを介してイナテミスから、新たな情報がもたらされる。
「えーっと……『ヴォルカニックシャワー2発目の準備が完了した、指示あれば直ぐにでも発動可能』……」
その内容は、先制攻撃でニーズヘッグに大きなダメージを与えた『ヴォルカニックシャワー』が、事前に供給された生徒たちの魔力値が予想を上回ったおかげで、もう1発用意できたこと、要請あれば発射できること、その際の周囲への影響などであった。
祥子の治療に追われつつも、セリエが素早くそれらの情報をまとめ、周囲で戦闘を続ける生徒たちへと伝えていく――。
「皆さん、準備はいいですか?」
タニアとジョセフ、サイレントスノーを背後に従え、美央が前線に残る者たちに呼びかける。
「いつでも来なさい! ま、このままずっと捕縛してたっていいんだけどね!」
「カヤノちゃんすご〜い、ボクもうヘロヘロだよ〜」
「そうですね……私も流石に疲れてしまいました」
「皆、最後まで気を抜くなよ。退くタイミングを一歩間違えれば、私たちも無傷とはいかないぞ」
生徒たちの懸命な努力の結果、セリシアとカヤノ、ヴァズデルとメイルーン、そして吹風の精霊と氷結の精霊とが協力して作り上げたニーズヘッグ包囲網、【VLTウインド】は文字通り、ニーズヘッグをがんじがらめにしていた。
このままニーズヘッグをギリギリまで捕縛し続け、イナテミスから投射される予定のヴォルカニックシャワーを直撃させれば、もう動くことはないだろう。
「……では、行きます。
……ヴォルカニックシャワー、発動!」
美央が号令を送れば、防衛線からイナテミスの町長室へ命令が送られ、精霊塔へと渡り、そして2発目の光が上空へと放たれる。
(私は最後まで、この作戦を見届けましょう。……唯乃さん、どうかご無事で……)
指揮官として作戦を見届ける美央たち、そしてその前方では、ギリギリまでニーズヘッグを捕縛する精霊たちの脱出を少しでも楽にするためと、四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)と霊装 シンベルミネ(れいそう・しんべるみね)、フィア・ケレブノア(ふぃあ・けれぶのあ)がヴォルカニックシャワーの発動をHCで確認し、一撃を見舞うべく控えていた。
「ミネ、準備は出来てるわね?」
「うん、そう言われたからね。それじゃ、行くよっ」
頷いたミネの身体が光に包まれ、弾けると同時に唯乃の右腕に篭手、右肩に肩当て、胸元から背中を覆うマントとして装着される。
(ま、隊長らしく後ろでどーんと構えて、部下が安全に引き上げられるように動く……考えてみたらそれ、美央さんと同じ役割ね)
美央の顔が浮かんできて、唯乃の表情に笑みが生まれる。それを打ち消し、唯乃が弓を携える。
「唯乃、先に撃たせてもらいます」
武器からパチパチ、と電気を放電させ、フィアが唯乃に告げる。
「……ねえ、その技大丈夫なの? 特に名前」
「大丈夫です、問題ありません。それに唯乃だって今回は、技名を考えたそうではないですか」
「ど、どうしてそれを!?」
「ふふふ、デンパの力を操る私に、そのようなこと造作もありません」
「何よ、デンパって……」
呆れる唯乃を置いて、フィアが狙いをつけ、攻撃のその時を待つ。直後、装備するHCがヴォルカニックシャワーの接近を告げるアラームを鳴らす。
「超電磁コレダー!」
フィアの声と共に、電撃を纏った弾丸が放たれ、前方で気流を解放したことで押し込められる形になったニーズヘッグへ、貫かんばかりの一撃が炸裂する。間髪入れず、唯乃が右手で弓を引き、弓自体の炎とミネの生み出した炎を乗せて、矢を放つ。
「アカシックシュート!」
羽ばたく炎の鳥を思わせる勢いで飛ぶ矢は、ミネの超能力で軌道修正と加速をされながらニーズヘッグに向かい、フィアの攻撃で開いた穴に飛び込んで、中を炎に包んでいく。
瞬間、上空からヴォルカニックシャワーが着弾し、周囲は目映いばかりの光に包まれていく――。
●神野 永太の家
「「ザイン!!」」
地上に降り立つと同時に身体をふらつかせるザインを、駆け寄った永太とミニスが支える。
「……その顔だと、満足する回答は得られなかったようだな」
「はい……ニーズヘッグは、何も答えてはくれませんでした。まったく聞いていない、とは思いませんでしたが……」
直後、遠くで閃光と爆音が聞こえてくる。イナテミス精霊塔から放たれた2発目のヴォルカニックシャワーが、ニーズヘッグに直撃したのだった。
(ニーズヘッグ……)
心配するような表情をザインが浮かべる――。
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