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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第2回/全3回)

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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第2回/全3回)

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●イルミンスール:校長室
 
「……ヴォルカニックシャワー、2発目の着弾を確認した。ニーズヘッグの生死は未だ不明とのことだ」
 イナテミスから送られた情報を読み上げる雅に、アーデルハイトが予想外といった表情を浮かべる。
「うむ……これは本当に滅してしまったやもしれぬな……今の内に手を考えておくべきか? ……ま、ニーズヘッグの方はひとまず決着がついたと言ってよさそうじゃの。問題は……」
「はい、地下の方ですね。寄せられた情報によりますと……」
 今度はリュウライザーが、イルミンスール地下に向かった生徒たちの状況を報告する――。
 
●イルミンスール地下
 
「どうしてあなたがここにいるですかぁ!」
 
 イルミンスールの地下に、エリザベートの怒号が響き渡る。その声は、いつの間にか一行に付いてきていたナレディ・リンデンバウム(なれでぃ・りんでんばうむ)に向けられていた。
「でもでも、今ここで帰ったら迷子になるですよ〜」
「勝手についてきたあなたがいけないんですぅ。そんなの知ったことではありませぇん」
 ぷいっ、とそっぽを向いて、エリザベートが案内を再開する。
「迷子になったら電話するです〜」
 その言葉を言い残して見送るナレディの姿が見えなくなったところで、ここまで案内を受けてきたアメイア・アマイアが面白がる様子で口を開く。
「これで、本当に電話をしてくるようなら面白いぞ。よほど豪胆か、それともよほど馬鹿かだな」
 その瞬間、エリザベートの携帯が着信を告げる。屈辱か恥じらいか、顔を赤くするエリザベートへ、アメイアが音量を最大にした上で出るように告げる。
『もしもしこうちょうせんせいですか? そのままふつうにおはなしするふりをして、ちょっときいてください。ナレディはイコンをめざします。こうちょうせんせーはわざと遠回りをしてくださいなのです。それでなのです。せんせーはナレディをよびもどすふりをして、イコンへの道をおしえてください。ではこのままかいわを続けながら作戦開始なのですっ!』
 心底おかしそうな表情を浮かべるアメイアから、言う通りにしてやれと命令を受け、エリザベートがその通りにする。程無くしてやって来たナレディへ、忍び寄ったアメイアが首に手刀を打ち込み気絶させる。
「私はこの者に興味が湧いた、連れていくことにしよう。……貴様がこの者のパートナーなのだろう? 共に来い」
 言うや否や、名無しの 小夜子(ななしの・さよこ)が乗る飛空艇にナレディを放り投げる。大きく揺れる飛空艇を制御しつつ、小夜子はとんでもないことに巻き込まれたのではと感じていた。
(ナレディ……いちばん目立てばいいと思った結果が、ごらんの有様よ? これからどうするつもりなの?)
 当の本人は、スヤスヤと無邪気な寝息を立てている。結局はどこまでも彼女の世話をしなくてはならないことに、小夜子は深い溜息をつくのであった。
「すみません、質問よろしいでしょうか? もしや彼女らも、フィリップ同様護衛することになるのでしょうか?」
 再び進み出そうとした矢先、峰谷 恵(みねたに・けい)が畏まった態度でアメイアに質問する。もしそうだと言われればその通りにしなくてはならないだろうが、人数が増えればそれだけ、解放の際に手間を割かなくてはならない。恵に装備されているレスフィナ・バークレイ(れすふぃな・ばーくれい)、フィリップの前後に位置するエーファ・フトゥヌシエル(えーふぁ・ふとぅぬしえる)グライス著 始まりの一を克す試行(ぐらいすちょ・あんちでみうるごすとらいある)と共に対策を練り直す必要があった。
「いや、いい。この者は私が預かる。貴様はフィリップの護衛をしていればいい」
 それだけ告げて、アメイアが視線を外し、エリザベートに進むよう促す。
(……話した限りでは、いらついているようには感じない。計画に狂いは生じたけど、この事についてはいい方向に働いたのかな)
 もしアメイアが、恵がおそらくそうしているであろうと感じている、エリザベートの時間稼ぎにいらだちを感じているようなら歌でも、と思っていた恵は、ナレディの登場によって結果アメイアの気が紛れたと結論付け、フィリップの護衛に戻る。
「とんだ迷惑ですぅ。のこのこ来たって、倒されて巨大生物の餌になるだけですぅ。時間稼ぎも、あまり出来ませんかねぇ
 先頭を進むエリザベートの呟きに、直ぐ傍で護衛を続けていた神代 明日香(かみしろ・あすか)は、エリザベートはわざと道を間違えたりして時間稼ぎをしているのでは、という自らの推測が正しかったことを理解する。
 そして、アメイアもそれを気付いていながらあえて咎めようとせず、好きにさせているのではという推測も、同時に浮かんできた。
(……よほど強力な外的要因がなければ、今の状況を打開できない。さっきのは運が良かっただけ。中途半端な力では……太刀打ち出来ない)
 アメイアの持つ力を目の当たりにし、それが本物だと悟った明日香は、自らに希望的観測を禁じた上で今出来ること、これから予想出来ることを考える。
(私たちのことはおそらく知られているでしょう。ノルンちゃんも話を聞いているはず。追いかけてくるでしょうか。……追いかけてくるでしょう。ミーミルちゃんは来るでしょうか。……来るでしょう。となれば、戦いになるでしょうか。……なるでしょう)
 一つ一つ事象を確認して、今の所はエリザベートの護衛をする他ないことを再確認して、明日香がふぅ、と息をつく。
(エリザベートちゃんを、イルミンスールを、皆を守るだけの力は、ないでしょうか)
 
●イルミンスール地下・I1
 
「アーデルハイト様! アーデルハイト様の予備の身体は、まだ身代わりとして機能していますか!?」
「あ、ああ……まだ機能しとるぞ。どうした、そんなに焦って――」
「使えるんですね!? なら、伝言や意思を伝えることは出来ますか!? 居場所は分かりませんか!?」
「お、落ち着くのじゃ。あれはあくまで身代わりじゃ、そんな便利な機能はついとらん。調整する暇もなかったのはおまえも知っとるじゃろ」
「……そうでした。ごめんなさい、困らせてしまって」
「ま、おまえが慌てるのも無理はなかろう。……追わぬのか? 今ならまだミーミルたちに追い付けよう。どのタイミングかは知らぬが、明日香には合流出来るじゃろうて」
「……はい、そうします」
 
 校長室でのアーデルハイトとのやり取りを思い出し、ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)が自らに慌てないようにと言い聞かせる。
(エイムさんにも言われてしまいましたし、ここは年上としての落ち着きを見せないとですね!)
 ぐっ、と拳を握るノルンの隣には、ノルンが助っ人にと連れて来たエイム・ブラッドベリー(えいむ・ぶらっどべりー)がぽやぽやとした様子で、ノルンの頭をなでなでしていた。
(また、菫は一人で危険な場所に向かって……まずは皆さんと一緒に、菫と合流することを目指しましょうか)
 そして、パビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)もまた、パートナーである茅野 菫(ちの・すみれ)を心配して後を追いかけて来ていた。普段は必ずしも一緒にいるというわけではないパートナーだが、主が危機に陥ったとなれば駆け付けない理由はない。
「ミーミル、まずは先に地下に降りているケイと合流しましょう」
「情報では、そこにリンネもいるみたいですね。私も一緒に行きましょう」
 ノルンやエイム、パビェーダを始め、校長室からの有志を引き連れてイルミンスール地下に入ったミーミル・ワルプルギス(みーみる・わるぷるぎす)に、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が先に地下に降りた緋桜 ケイ(ひおう・けい)と合流する案を提示し、彼らと共にいるはずのリンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)モップス・ベアー(もっぷす・べあー)と合流しようとしている志方 綾乃(しかた・あやの)がHCにもたらされる情報を下に、彼らとの合流を可能にするルートを探索する。
 分かったことは、I1からはI8、O8、O1に行くことが出来ること、最短と思われるI2には行けそうにないことであった。
「……では、O1に行きましょう。リンネさん一行に、少しでも近付いてみましょう」
 迷路状になっているこの地形で、すんなり近付けるとも限らないだろうが、まずは順当に近付ける方向を選択するミーミル一行。
(お母さんの気配を感じる……まだお母さんはここにいるんだ。待ってて下さい、お母さん……)
 蔓延る根や草を避けながら、ミーミルはここにいるはずのエリザベートを心配する――。
 
●イルミンスール地下:O1
 
「……ミーミル。今だからこそ言っておくべきことがある。心して聞きなさい」
 ミーミルに同行するアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)の鋭い眼差しに、ミーミルが緊張感をもって応える。その様子を確認して、アルツールが口を開く。
「……力とは本来、様々な人生経験を経た大人が、自制をしながら振るうべきもの。だが今の時代は若者……勉強や遊びから色々な経験を得る前の子供が、しかし碌な経験のないまま、大きな力を振るう事がある。それは本来とても危険な事なのだ」
「はい……」
 それは自分にも当てはまることだ、そう感じ取ったミーミルが視線を落として頷く。それを見て、アルツールがフォローを入れつつ言葉を続ける。
「力は扱いが難しい。あのアメイアという、相応に人生経験を経た者ですら、あの有様なのだからね。……お父さんは、今の未熟なミーミル達が戦う事には賛成できない。だから、戦えとは言わない」
 ミーミルから反論が飛ぶ前に、間髪入れずアルツールが言葉を続ける。
「その代わりにこう言おう。……護りなさい。ミーミルが護りたいと思うものを、精一杯」
「お父さん……はい! 私、お母さんもお父さんも、イルミンスールも皆さんも護りたいです!」
 ミーミルの真っ直ぐな言葉に、アルツールは父としての笑顔で応える。
 
「いつまでそうやって泣いているつもりだ? そんな事してても、何一つ事態は解決しないぞ? 神様だってそんな奴には力を貸さない。ましてや今回は『神』が相手じゃないか。泣いても喚いても、結局は歯を食いしばって前に進むしかないんだ。紙に頼れないというのなら全力で足掻いて、自分の手で結果を手繰り寄せるしかないだろう?」
「フリッカ、私達も地下へ行きましょう。騎士団の方へは私の方から事情を説明しておきます。彼を必ず助け出しましょう!」
「ヴィリー、ルイ姉……そう、そうよね。私、行くわ……! 何もできないで、後悔だけはしたくない!」
 
 グリューエント・ヴィルフリーゼ(ぐりゅーえんと・う゛ぃるふりーぜ)ルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)の叱咤激励を受け、校長室での動揺から立ち直ったフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)が、決して瞳の色というだけではない赤い目を擦り、キッ、と前を見据える。
(フィリップ君はアメイアに無理矢理連れてかれたのよ。そう、そうに決まってる! だったら助けてあげなくちゃ。危険でも困難でも、それが何だって言うの!? 絶対フィリップ君は助けるんだから!)
 真実がどうかはさておき、ともかく前に進もうとするフレデリカの様子に、ルイーザがほっ、と息をつく。
(フリッカのあの表情……またあの顔を、見ることになるとは……)
 脳裏にかつての光景が甦りそうになり、慌てて頭を振ってルイーザが、手にしたエリクシル原石の様子を確かめる。地下に眠っているという『アルマイン』、アーデルハイトは特に告げてはいなかったが、もし『賢者の石』が使われていれば反応を示すだろうとの推測で持ち込んだそれは、地下に降りてから確かにボンヤリと光を放っていた。
 アルマインと賢者の石との関係が分からない以上、エリクシル原石の反応が直ぐにアルマインの位置判明に繋がるわけではないが、とりあえず『この地下には何かがある』ということだけは分かった。
(……というより、今聞いてみればいいのではないかしら)
 せっかくHCがあるのだから、とルイーザはHCを操作し、校長室にいるアーデルハイトにアルマインと賢者の石との関係について尋ねてみる――。
 
「うむ……特に決めとらんかったが、そういうことにしておけば後々、『持ち込んだエリクシル原石の数に応じて魔力アップ』『特定の条件を満たした際に大幅パワーアップ』の伏線として使えるか……」
 
 連絡を受けたアーデルハイトが何かブツブツと呟いた後、ルイーザに「今はそういうことにしておいてくれ」と返信する――。