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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第2回/全3回)

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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第2回/全3回)

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●イルミンスール地下:I1
 
 リンネやミーミル一行が、イルミンスール地下を俯瞰的に見て時計回りに進んでいるのに対し、地下に向かった大半の生徒は反時計回りに進もうとしていた。
 それは、先に向かった生徒たちの位置がI3であることに起因していたが、人数が多くなればそれだけ、混乱が生じやすくなる。前回のコーラルネットワーク防衛戦でも、人数が集中し過ぎた事による混乱は発生していた。
 
 それ故か、今回は生徒たちの多くがHCを持ち、情報を共有し合うことで無駄な捜索を可能な限り少なくし、早期にアルマインの下へ辿り着こうとするようにしていた。
「お前達の取るルートを教えて欲しい。……そうか、分かった。アルマインを見つけたら直ぐに連絡を。全員で情報を共有出来れば回収も早く済ませられるだろう。それから万が一アメイア達を見つけた時も連絡を。うっかり鉢合わせてはマズイからな」
 また、動けるようになって直ぐ、I1に戻った四条 輪廻(しじょう・りんね)の言葉も効果的だった。特に後半のアメイアに関しての言葉は、彼自身がアメイアに手痛い目に遭わされた事実もあって重い意味を持ち、『アメイアを見つけたら距離を取ってから連絡、決して独断で攻撃するな』という暗黙の了解が生まれるほどであった。
「四条殿、事件でござるか!?」
 地下に降りてきた生徒たちに一通り用件を伝えた輪廻の下へ、輪廻から連絡を受けて大神 白矢(おおかみ・びゃくや)がやって来る。
「ふむ、急がせた上で悪いが、お前の足を頼らせてもらう」
「任せるでござるよ!」
 そして、白矢が輪廻を背に乗せ、イルミンスール地下を疾走する。
『このような姑息な手段を用いる貴様らに、それだけの力があるとは思えぬがな。貴様らも一国を担う戦士であるなら、正面から立ち向かおうとは思わないのか?』
 白矢の背上で輪廻が、意識を失う前にアメイアが発した言葉を思い返す。既に傷は癒えているはずなのに、ズキリ、と首が痛む。
(……結構だ。姑息でも、弱くても、俺は俺の可能な全てをもって戦い抜く。……俺を見下したツケは、高くつくぞ)
 ニヤリ、と笑みを浮かべて、眼鏡の位置を直し、輪廻が目的を同じくする生徒たちの動向を伺いに奔走する――。
 
●イルミンスール地下:O8
 
「急ぐぞ、アリア。俺達はまず外側に行く」
 葛葉 翔(くずのは・しょう)アリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)は、HCが示すO8ブロックに飛び込んでいく。I1から直接行くことが出来たことを共有情報として加え、そのまま外側を突き進む策を取る。
(七龍騎士のアメイアか……どんな理由があるにしろ、シャンバラのイコンをエリュシオンに渡すわけにはいかない。『アルマイン』といったか、先に回収させてもらう)
 ロイヤルガードとして、シャンバラをまとめ他国と渡り合うためには、イコンを始めとした機動兵器は必要な要素の一つであるはずとの考えの下、翔とアリアは迷路と化した地下空間を爆発的な加速力で駆け抜けていく。
「翔クン、先に道があるみたい」
 HCに視線を落としたアリアの発言通り、二人の前に道が開ける。この先はO7に繋がっているようであった。
「まずは一つ突破といったところか。このまま順調に行ければ苦労しないんだがな」
 呟いて、翔が道の先の空間に飛び込んでいき、アリアが後を追う――。
 
●イルミンスール地下:O7
 
「チッ、ここで行き止まりか。アリア、他に道はありそうか?」
「ちょっと待って……ダメ、このブロックにはもう道はないみたい」
 O7に入り込んだ翔とアリアは、しばらくの探索の後、このブロックには他のブロックに通ずる道がないという判断に至る。
「さっきの場所には、ここに行く道以外に道はなかったかな?」
「それも調べてみよう。なければ、最初から戻ってやり直しだ。……虱潰しな所がもどかしいが、焦っても仕方ない。確実に、手早く行こう」
 翔の言葉にアリアが頷いて、先程のブロックへ戻っていく。
 結局そのブロックにも、O7以外の他のブロックへの道はなかったことから、翔はI1から行けるもう一つの道、I8への道を目指して進んで行く――。
 
●イルミンスール地下:I8
 
「……さて、歌菜の勘を信じてこちらに来てみたが……しかし、まさに迷路といった所だな。自分がどこにいるのか分からなくなりそうだ」
 遠野 歌菜(とおの・かな)と共に行動する月崎 羽純(つきざき・はすみ)が、周囲から向けられる殺気に気を配りながら、複雑に絡み合う根が作り出す光景に感想を述べる。根の色が場所毎に異なるわけでもない上、時折脈動する根は、果たして今自分が進んでいるのか、戻っているのか分からなくさせるようであった。
「大丈夫! 前回は不覚を取っちゃったけど、今回は冷静に行くんだから。あっ、冷静だけど素早くね! 間に合うようにするし、もしアメイアさんと校長先生を見つけるようなことになったら……武力では太刀打ち出来なくても、時間稼ぎくらいなら出来るよね?」
 前回のコーラルネットワーク防衛戦で、ニーズヘッグに手痛い一撃を受けたことを教訓にして、歌菜が起きうる事態に対しての行動を選定する。
(……次は必ず、歌菜を守る)
 そして羽純も、前回の戦いで歌菜をニーズヘッグの攻撃から守れなかったこと、次に歌菜の身に危険が及ぼうとした時には、自分が身を張ってでも歌菜を守ることを自らに誓って、歌菜に追随する。
「う〜ん、ここからO7には行けないみたいだね。乙女の勘もここまでかぁ」
 ちょっと残念そうな表情を浮かべて歌菜が呟く。その直後、今度はI7に通じているらしい道を見つける。
「うん、じゃあこっちに行ってみよう! 乙女の勘パート2!」
「……どこまで増えるか見物だな」
「も〜、これで終わりにするつもりで行くんだから!」
 そんな、ちょっとした戯れも織り交ぜつつ、二人はアルマイン捜索に従事する――。
 
●イルミンスール地下:I7
 
「芳樹、この先は空間の外側に出るみたい。その先までは見通せなかったわ」
 先行して先の道の様子を伺いに出ていたアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)が、高月 芳樹(たかつき・よしき)に報告する。
「この空間にアルマインらしきものは見つからなかったか?」
「ええ、それらしきものの姿は見つからなかったわ。イコンと同様なものらしいという説明しか受けていない以上、確実なことは言えないけれど」
「アルマイン……アーデルハイト様が今まで隠してきたようですが、その目的は一体何なのでしょう? 対エリュシオン対策として用意されたにしては、準備がよすぎるように思いますが」
「どうじゃろうな。出来ることならそれについても探りたい所じゃが……あまり時間もないようじゃ。万が一アメイアとやらの手に渡るようでは、エリュシオンをより調子付かせることにもなる」
 マリル・システルース(まりる・しすてるーす)の口にした疑問に答えつつ、伯道上人著 『金烏玉兎集』(はくどうしょうにんちょ・きんうぎょくとしゅう)が今は危急の時であることを再確認するように呟く。
 アルマインについて詳しいことが分からないとはいえ、現在イルミンスールは存亡の危機に立たされており、それを解決することが出来る要素としてアルマインがある以上、それを手に入れることはイルミンスール生徒として大切なことであった。
「地下に捜索に出ている生徒全員が、龍騎士より先にアルマインを確保出来れば問題ないが……もしかしたら、僕たちで時間稼ぎをする必要もあるだろうか」
 アメイアのことは、エリザベートが時間稼ぎをしているようだという連絡はあったが、それもいつまで続くか分からない。まともに戦ったところで一蹴されるだろうことは、先の情報から容易に予想がついた。
「芳樹、急ぎましょう。私たちがアルマインを入手すれば、戦況を変えられるはずです」
 アメリアの言葉に、玉兎とマリルも同意するように頷く。
 シャンバラがエリュシオンの軍門に下るような事態は、シャンバラ国民として避けねばならない。
「よし、行こう」
 芳樹が号令を飛ばし、そして一行は空間の外側へと歩を進めていく――。
 
●イルミンスール地下:O6
 
「う〜ん……考えれば考えるほど、疑問が出てくるのよね……」
「何についてですか?」
 周囲の捜索によって得られた情報を、全身でHCを操作して校長室へと送るリィム フェスタス(りぃむ・ふぇすたす)の言葉に、十六夜 泡(いざよい・うたかた)が頭に描いていたことを口にする。
「アメイアという人物が、エリュシオンの七龍騎士という最高位の騎士が、何故彼らから見て文化的にも軍事的にも魔法的にも遅れているシャンバラ一地方の機動兵器、アルマインを欲しがってるんだろう?」
「イルミンスール、散々ですね……エリュシオンと比べてしまえば、仕方ないのでしょうけど」
 同情の言葉をレライア・クリスタリア(れらいあ・くりすたりあ)が漏らすが、実際に泡の言うように、両者の力関係が歴然としているにも関わらず、それでもわざわざ足を伸ばしてくることには、何らかの理由があるはずであった。
「これが天御柱学院の機動兵器、イコンなら、パラミタと地球の技術を用いて作ったって話だし、研究対象として欲しいというのは分かる。でも何で、アーデルハイト曰く『イコンとは別の製法で作ったアルマイン』を狙って来たんだろう?」
「普通に考えれば、イルミンスールで作れるものは、エリュシオンでも作れると思いますね」
 エリュシオンは特に魔法技術においては、イルミンスールのそれを遥かに上回る。イルミンスールがわざわざ魔法技術以外の技術で機動兵器を作るとも思えない。何らかの魔法技術を用いているのであれば、エリュシオンがそれを真似することなど造作もない。
「アメイアが個人的な理由でアルマインを欲しがってるというなら、じゃあその目的は? 七龍騎士内で発言力を増すため? それとも何か別の目的が……」
 考えれば考えるほど、思考が闇に沈んでいく。
「……兎に角、今はアルマインを探し出すしかないわね!」
 思考を切り替えて、泡が次のブロックに至る道を探しに向かう。
「あっ、泡さん。それを貸していただけませんか?」
「これ? うん、いいけど。使い方分かる?」
「はい、大丈夫です。ちょっと確認したいことがありまして」
 泡からHCを受け取ったレライアが、アルマインについての希望をアーデルハイトに送信する――。
 
「うむ……精霊と搭乗することで、精霊の属性に応じた加護をアルマインが纏うことにならないか、か……。面白い案じゃの。イルミンスールの機動兵器として区別化することも出来るし……検討しとくかの」
 
 連絡を受けたアーデルハイトが三度何かブツブツと呟いた後、レライアに「今はそういうことにしておいてくれ」と返信する。
 
●イルミンスール地下
 
「そういえばさ、神話のニーズヘッグって実はメスの飛竜なんだよな。死者を乗せて飛び立ったはいいけど、重みで直ぐに墜落するっつうドジっ娘ぶりが何かに書かれてるんだぜ。ま、アイツはどう見てもオスだろうけど、これで飛び立って直ぐに墜落とかなったら面白れぇよな!」
 捜索の最中、スルト・ムスペルヘイム(すると・むすぺるへいむ)がそんなことを口にする。確かにあの口調で、実はメスでしたなんていうのはちょっと考えにくい。
「イルミンスールとユグドラシル……多分、もとは兄弟姉妹の樹なんでしょうね。古代シャンバラ王国が強国で知られていたということは、切り倒される前のイルミンスールはユグドラシルより強力だったのかもしれませんね」
「んん? そういやあ、イルミンスールってオス? それともメス? そもそも性別ってあんのか?」
「そこまでは私にも……今回の事件、ユグドラシルはコーラルネットワークの最上位である地位を脅かされる前に排除しようという目論見あってのことかもしれません。それか、イルミンスールにある『何か』を狙っているのかも。それは多分、以前のイルミンスールの遺産……」
「遺産って? たとえばどんな?」
 スルトの問いに、ファティ・クラーヴィス(ふぁてぃ・くらーう゛ぃす)が首を横に振る。
「まぁ、そのあたりは他の人に任せましょう。私たちは一刻も早く、アメイアに追いつかないといけませんからね」
 ファティが見据える先に、ルータリア・エランドクレイブ(るーたりあ・えらんどくれいぶ)を纏い、先頭を行くウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)の姿が映る。
(待っていろ、『神』……!)
 彼の目には、アメイアだけが映っていた――。