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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第2回/全3回)

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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第2回/全3回)

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●イルミンスール地下:O2
 
「ここから直ぐ先に、次の場所へ続く道がある。エヴァと僕が見て確かめたから、間違いないだろう」
「手早くリンネさん方と合流しておきたいですね。数は多い方が何かといいでしょうし」
 周囲の探索から戻ったシグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)エヴァ・ブラッケ(えう゛ぁ・ぶらっけ)が、ミーミルとソアに報告する。後は奥の方に向かった雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)次第で、次に進む場所が決まるだろう。
「姉様……」
「大丈夫。あなたのパートナーはこの程度で倒れるようなタマじゃないわ」
 ケイを心配する『地底迷宮』 ミファ(ちていめいきゅう・みふぁ)を、『空中庭園』 ソラ(くうちゅうていえん・そら)が優しげな表情で宥める。
「ご主人、ケイがいたぜ!」
 そのベアから、ケイを見つけたと報告が入る。一行はそちらへと向かっていった。
 
●イルミンスール地下:I3
 
「ケイ! 大丈夫ですか、怪我とかしていませんか?」
 I3でミーミルやソアを待っていたというケイへ、ソアが心配する様子で声をかける。
「ああ、大丈夫だ。アーデルハイトが予備の身体を用意してくれなかったら、危なかったかもしれないけどな」
「いやはや、あのような痛みを味わうのは二度とゴメンじゃな」
 悠久ノ カナタ(とわの・かなた)と共に、ひとまずは無事であることを告げるケイへ、ミファがとてて、と駆け寄りケイの傍にぴたっ、とくっ付く。
「あの、リンネさんはどちらへ? それに、他の方々も姿が見られないようですけど……」
 ミーミルが辺りに視線を運びながら、ケイに問いかける。事前に受けた情報では、リンネが彼らと合流を果たしたとのことであったが――。
「リンネは他の人達と、この先に行ったみたいだ。ついさっき出発したから、まだそんなに遠くに行ってないと思う」
 どうやら{SNM9990013#リンネ・アシュリング}と{SNL9990014#モップス・ベアー}が率いる一行は、彼らがここに来る一足先に出発してしまったようだ。
「うーん、志方ないね。向かってる方向は同じみたいだし、このまま一緒に行こうかな」
 綾乃のHCには、自分たちの現在位置と、リンネ一行の誰かが発していると思われる同様の位置情報が映し出されていた。先を行く彼らは、I4へと到達しようとしていた。
「そういえば、僕とエヴァが見つけた道の先は、どうなっているだろうか。そこそこに広かった故、全部を見て回ることは出来なかったのだが」
「ええと……あ、ありました。既に行き止まりであることを生徒の誰かが確認しているそうです」
 シグルズの疑問に、続けてHCを操作し情報を引き出した綾乃が答える。
「情報があるということは、私達よりも先に行っている生徒さんがいる、ということですよね」
 ミーミルとソアの他にも、校長室でアーデルハイトの話を聞いた生徒が何名か、イルミンスール地下へ向かっている。情報としては既に、I5から先の道を報告するものが挙がっていた。
「では、先に行きましょう」
 ミーミルの言葉に皆頷いて、I4への道を進んでいく――。
 
●イルミンスール地下:I4
 
「ちょっとどういうつもり? あんた校長のパートナーじゃないの!? パートナーのピンチに何も応えないっておかしくない!?」
「ま、まあまあ、落ち着いて菫ちゃん。きっとイルミンスールにも何かあるんだよ、きっと」
「そもそも、イルミンスールとエリザベート校長の契約って、ボクとリンネの契約と同じものなんだな? 今まで考えてこなかったけど」
 憤慨する菫をリンネが宥め、モップスがイルミンスールとエリザベートの契約と『コントラクター』の契約の違いについて考え始める。菫が憤慨しているのは、これよりほんの少し前、イルミンスールに向かって、

「イルミンスール! ねえ、聞いて。
 もう知ってるかもしれないけど、校長がエリュシオンの龍騎士に捕まってしまってるわ。
 龍騎士はとても強くて、あたしたちだけじゃとても戦えない。この地下にあるっていう『アルマイン』がないと、校長たちを助けられないのよっ。
 だからお願い、校長たちよりも先にあたしたちをアルマインまで導いて! そしたら、あたしたちがきっと校長たちを助けてみせるから。
 校長はあんたのパートナーでしょ? これはあんたにしかできないことなのよ!」

 と話しかけ、アルマインへの道を開いてもらおうとしたことに対し、イルミンスールが一切応えなかったことに起因している。
「……しかし、妙だな。では何故リンネとモップスは、こうも早く俺達の下に辿り着けた?」
「あれじゃろ、イルミンスールは実は巨乳好きじゃったとか。ほれ、リンネもモップスも巨乳じゃし」
「ボ、ボクは違うんだな!!」
 レン・オズワルド(れん・おずわるど)の口にした疑問にファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)がジョークで答え、モップスが自分の胸を押さえて反論する。
「う〜ん、リンネちゃんはこっちだ、こっちだ〜って思って来ただけなんだけどなぁ?」
「……ひとまずこの問題は置いておきましょう。しかしレン、私達だけで先行して大丈夫なのですか?」
 メティス・ボルト(めてぃす・ぼると)の問いに、HCを操作しながらレンが答える。
「俺達の後方1ブロック先に、まとまった反応がある。それ以外にもいくつか細かな反応が見られるが、これだけ互いの位置が分かっていれば、いざという時に協力し合う事は可能だろう。……彼女を引き止めておく方が、今の俺には荷が重いさ」
 フッ、と口元に笑みを浮かべて、サングラス越しにレンが菫を見遣る。イルミンスールが応えてくれないと見るや、「だったらあたしたちでアルマインを探してやるわよ!」と息巻いて一人先に行こうとするのを、放ってはおけなかったのだ。
「大丈夫です! 例えもしもの事があったとしても、私にお任せください! 皆さんの回復、守りの要としてサポートしますよ!」
 リンネに付いて来たというノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)が、えっへんと胸を張って身の丈以上もある盾を構える。
「……あ、でもこれ構えると、私の背では大き過ぎて前が見えないんですよね……」
「その時はお任せください。私があなたの目になりましょう。必要でしたら足にも――」
「ちょ、ちょっと待って下さい。もしかして、誰かが攻撃されそうになった時に私をその間に投げつけて、『ノア・シールド』! なんてことしないで下さいね?」
「…………」
「どうしてそこで黙るんですかー!」
 随分と賑やかさを増した一行の中で、やれやれとため息をつくファタがふと思い付いたようにレンに問う。
「のう、ちとそれを貸してくれんか? 個人的に興味が湧いたことがあっての」
「これか? まあ、少しの間であれば構わないが」
 レンからHCを受け取り、ファタがアーデルハイトに『個人的な興味』の内容を送る――。
 
「うむ……アルマインの語源は単に、イルミン=Irminを無理矢理読み換えたに過ぎんのじゃったが。『魂』の意味を持つALMAに『乗る』『中』のINか……これは使えそうじゃの」
 
 連絡を受けたアーデルハイトがまた何かブツブツと呟いた後、ファタに「今はそういうことにしておいてくれ」と返信する――。
 
●イルミンスール地下
 
「其方程の物が選んだ人材だ。何か彼の者には秘めたる物があるのではないか?」
「う〜ん、パッと見てビビッと来るものはあったけどね〜。それ以外はごく普通なんじゃないかな? でもそれでいいんだよ、フィリップは僕の嫁でいてくれれば、それで」
 ミーミル一行より遅れてイルミンスール地下に入ったルーレン・カプタに、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)がフィリップと契約に至った経緯、そこから何故アメイアがフィリップを狙ったのかを聞き出すべく話を持ちかけていた。
「でもさ〜、あれでフィリップ、男なんだよね〜。どうして男なのかな〜、魔法で性転換とか出来ないかな〜」
 さらりと物騒なことを口にするルーレン、彼の話では何でも、『理想の女性』と思って契約した相手がフィリップで、それ以来事あるごとにフィリップを理想の女性にするべく策を巡らせているとのことであった。
「……どう感じる?」
「嘘を言っているようには見えないわね。だとすると、アメイアがフィリップを連れて行った理由がいまいち分からないけど。彼をアメイアの所に連れて行けば、何か分かるかしらね。その為にも早く追い付きたい所だけど……」
 光学迷彩と隠形の術で姿と気配を消し、先頭に立って周囲の危険を探るローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が、後方を見遣ってため息をつく。焦って急ぐ素振りを見せないルーレンは、果たして何を考えているのだろうか。
「ルーレンさん、アルマインについて何か知ってることがあったら、教えてほしいな! たとえば外見特徴とか、機体特性の違いとか」
 赤城 花音(あかぎ・かのん)の質問に、ルーレンがう〜ん、とひとしきり唸った後で答える。
「えっとね、ババア様が言ってた限りだと、

 『近距離戦用『アルマイン・ブレイバー』は蜂をイメージ、遠距離戦用『アルマイン・マギウス』は蝶をイメージ』
 『大きさは10m有るか無いか』
 『『アルマイン』の専用装備は『片手剣(マジックソード)+盾』『小型銃(マジックショット)』『大型銃(マジックカノン)』。
 『ブレイバー』の方は剣と盾装備の他、小型銃なら2つ、大型銃なら1つ装備可能。
 『マギウス』の方は大型銃を2つ装備出来る』
 『速度は『ブレイバー』で最大2Ma。『マギウス』も1Ma出せるが、その分本人の負担も大きくなる。後、総じてイコンよりもろい』
 『生徒が乗る空間には、床に円の魔法陣があり、そこに立っている一対の水晶に触れて操作する。
 後々、イルミンスール生徒のみが操作できるように何らかのセキュリティを施す予定。今は有事に備え、誰でも扱えるようにしてある。
 メインパイロットが正面、サブパイロットがその後ろ、両脇にも水晶があって、2人まで配置可能。魔力量はその分上がるけど、被弾した時の機体ダメージも大きくなる』

 ……だったかな?」
「うーん、分かったような分からないような……でも、今のは重要な情報だねっ」
「では、今の情報は皆さんも共有出来るようにしておきましょう。花音は探索の方に専念してください」
 リュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)の手によって、ルーレンがまとめた情報が他の生徒も確認出来るように処理されていく。
「ボクは『ダウジング』でアルマインを探索するね! 協力出来る人がいたら一緒にやろっ!」
 花音の誘いに、協力出来そうだと思ったエメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)が申し出ようとした所で、待て待て待てとばかりに占卜大全 風水から珈琲占いまで(せんぼくたいぜん・ふうすいからこーひーうらないまで)が進み出て、自信たっぷりに言い放つ。
「探し物っつったら、占い指南書たる俺の出番だろ!」(ここでいーとこ見せたら、結和ちゃんだって俺に惚れ直してくれるっしょー)
 そんな彼のコーヒー占いによる結果は『O6にアルマインがある』だった。I1からはI8、O8、O1に行く道があることは既に分かっており、「じゃあI8だ! これで決まりだな!」という占卜の言葉が聞き入れられたかどうかは定かではないが、ルーレン一行は反時計回りに進路を取ることになった。
「ルーレンさん。ルーレンさんにとって、フィリップさんは大切な人なのでしょう?」
「うん、もちろんさ! 君にも大切な人、いるんでしょ? 何かそんな感じがする!」
「えっ、あの、その……」
 ルーレンに問いかけた高峰 結和(たかみね・ゆうわ)が、逆に図星を付かれて顔を赤くする。
(コルセスカさん……私はここで、コルセスカさんが帰ってくる場所を守ります。必ず帰って来てくれます……よね?)
 結和が、今はニーズヘッグ防衛戦に赴いているはずのコルセスカのことを思い、彼に少しでも報いようと強く願いながら、ルーレンと共に歩を進めていく――。
 
●ザンスカール
 
 総勢100名ものヴァルキリーが両脇に並び、その奥、一段高くなっている場所にザンスカール家当主が鎮座するその場で、アンネ・アンネ 三号(あんねあんね・さんごう)が急な訪問の非礼を詫びた後、現状の説明とイルミンスールについての情報を求める。
「……情報が必要です、少しでも。守る為に」
 三号の言葉に、ザンスカール家当主、壮年の女性がしばらく考え込んだ後、重々しく口を開く。
「いくつかの言い伝えは、確かに存在しています。……ですが、世界樹が地球人と契約を結んだあの時より、その言い伝えとは異なる事象が起こるようになりました。『聖少女』についても、言い伝えとは異なる形で現れる結果となりました。
 ……パラミタに存在する世界樹の中で、地球人と契約を結んだのはイルミンスールだけです。そのことがおそらく、言い伝えにないまったく新しい事象を生み出しているのではないかと、私は考えるのです。
 ……過去をなぞっても、最後には同じ結果に行き着くでしょう。どこかでザンスカールは、いえ、シャンバラは、過去と決別しなくてはいけないような、そんな気がするのです」
 結局、ザンスカール家当主からは、言い伝えについて聞かされることはなかった。
「時に……ルーレンは迷惑をかけていないでしょうか。あの娘は可哀想な子……私が期待をかけ過ぎたばかりに、あのような形になってしまって……」
「……あの『娘』? では、彼は……」
 彼、と発言した三号の言葉に、当主は首を横に振る。
「ザンスカール家当主は女性が務めるもの。ルーレンもまた、正しく女性。……どうか、あの娘をお守りください……」
 行きと同じく、100名のヴァルキリーに見送られてザンスカール家を後にした三号は、悩んだ末に聞いた情報を校長室の牙竜の下へと送るのだった――。