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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第2回/全3回)

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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第2回/全3回)

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●イルミンスール地下:O3
 
 生徒たちが最終的に辿り着いたその場所は、一見すれば他と同じような光景が広がっていた。
 しかしよく見れば、天井から伸びる根に吊り下げられるようにして、オブジェが存在していた。
 
 それこそが、イルミンスールの機動兵器、『アルマイン』。
 誰が何のためにどのような理由で作ったのか不明な点が多い、しかし今の危機的状況を覆す可能性を秘めているとされる機体であった。
 
「おっ、見つけたぞ。これがアルマインか」
 真っ先に該当するブロックに飛び込んだ翔が、機体の一つに近付いていく。コクピットへは蔦を伝い、首の後ろから入るようであった。
「勝手に乗っちゃっていいのかなぁ……」
 翔に続いて、アリアも乗り込む。
「これが、アルマイン……え、乗っちゃっていいのかな?」
「ここまで来たら乗る以外にないだろう。先に行け、歌菜。俺は後から行く」
 次に到着した歌菜と羽純が、相次いでアルマインに乗り込む。
「芳樹、中はどうなっているか分かりますか?」
「……見た所、4人まで乗ることが出来るみたいだ。制御システムらしき装置が4つあった」
「ふむ、となれば、ひとまず全員乗った方が賢明じゃな。後でどうするか決めるにせよ」
「ええ、そうですね」
 その次に到着したのは芳樹たち。アルマインが最大4人乗りということを確認して、ひとまず全員乗り込む。
「……私もパイロットの一人に入るんでしょうか?」
「う〜ん、どうだろう? 起動して、どういう反応を示すかじゃないかな」
「そうですね」(……わたしが乗ると氷の魔法が強くなったりとか、するのでしょうか)
 4機目のアルマインには泡とフェスタス、レライアが乗り込む。
「魔鎧の状態でもパイロットとして認識されるのだろうか」
「あ〜、それもどうやろねぇ。それも乗ってみれば分かるんやろか」
「考えても仕方ないよ! まずは乗って確かめてみよっ!」
 魔鎧状態の音穏がどう認識されるのか気になりつつ、トランスに続いて切がアルマインに乗り込む。
「これがイルミンスールのイコン……イーグリットとは随分違うな」
「ま、全く同じというわけにもいかんじゃろなあ。どれ、わらわの知識がどれほど役に立つか、試してみようぞ」
 普段はイコンに乗り慣れている真司、そしてアレーティアが続いて乗り込む。
「これ、持ってくつうわけにもいかんわなぁ。……やっぱ、乗り込むしかないんか?」
「乗ってしまえばいいんじゃないかな? 僕は興味があるよ」
「簡単に言ってくれるな。何が起きるか分からんだろうに……」
「……でも、そうするしかないんだったら、そうするしかないよね。……うん、行こう」
 7機目のアルマインには、イチルとそのパートナーが乗り込む。
「如月さん、イグニスから提案を受けました。もしアメイアと話をするのであれば、私も同伴します」
「ああ、分かった」(アメイア……君は……)
 刹那たちと別れ、正悟が8機目のアルマインに乗り込む。丸く切り取ったような空間の中、床には魔法陣が描かれ、計器の類は特に見当たらず、あるのは魔法陣の端から垂直に伸びる4対の水晶が載った台座くらいであった。
「これに触れればいいのか……?」
 水晶に両手で触れると、前方の水晶を一面に張った箇所が明滅し、やがて光を放ち出す。
『うむ、何名か無事に辿り着いたようじゃな。おまえたちの行動に感謝するぞ』
 突如水晶に、アーデルハイトの顔が映し出される。どうやら校長室の水晶とを介して、通信は行えるようである。
『既にHCを介してルーレンがいくつか情報を送っとると思うが、改めて私からも操作方法を言っておく。時間が余りない故一度しか言わぬ、心して聞くがよいぞ』
「アーデルハイトさん、一つだけ質問いいでしょうか。あの、並んでるアルマインの一つだけ、何と言うんでしょう、装甲だけの物があったように思うのですが」
 正悟が質問するのは、他にアルマインに乗り込んだ者たちも見てきた、言ってしまえば装備者のいない鎧だけが吊り下げられたオブジェのことであった。鎧といっても、組み合わさった時の全高は15、6mはあるようであった。
『おまえたちも見ておったか。あれはかつて、『黄昏の瞳』と名乗っとった者のアジトに眠っていたものを、私がヴィオラとネラの助けを借りつつ掘り出し、保管していた物じゃ。
 何故かあれだけ、適合する中身がなかった故、半ば放置する形になっとったのじゃが……
「……中身? どういうことですか、アーデルハイトさん?」
 気になって呟いた言葉に、しかしアーデルハイトの返答はなかった。
 代わりに、アルマインの操作方法を説明するアーデルハイトの声が響く――。
 
「兄さま……」
 乗り込んだエイボンの声は、微かに震えていた。
「……アーデルハイト様は確か、アルマインにはザナドゥの技術が使われていると言っていたな。そして先程私とエイボンが見たもの、あれは魔鎧のようでもあった。
 魔鎧は装着する者がいて、初めて効果を発揮する。となれば……このアルマインには、何かの『中身』が存在することになる。それが何なのかは定かではないが……」
 これまでの情報を繋ぎ合わせて一つの推測を得た涼介が、もう一つの推測、何故アメイアがイルミンスールの機動兵器に目をつけたかに考えを巡らせる。
(私はこのアルマインがアメイアの狙いと思っていたが、ここに一組だけあるあの鎧のようなもの、あれこそがアメイアの狙いだろうか)
 だとしても、アメイアがそれを欲する理由が、いまいち掴めない。
(……いや、今はそんなことを気にしている余裕はないな。考えるのは後でも出来る。
 今はこの力でイルミンスール、そしてイルミンスールに関わる友を守る!)
 真実を確かめるのは、危機を振り払ってからでも出来る。
 そうして、9機のアルマインが、ゆっくりと起動を始めた――。
 
●イルミンスール地下:I5
 
「もー、探したんだよフィリップ。さ、こんな所にいないで、僕と帰ろうよ」
「る、ルーレンさん!? ……ああ、驚いてる場合じゃない……危ないですよ、下がってください!」
 声をかけながら近付くルーレンにフィリップが警告を飛ばした直後、恵とエーファがフィリップの前に、グライスがフィリップの後ろに回り、それぞれ戦闘の準備を開始する。
「そ、そんな……どうしてですか? どうしてこういうことになるんですか?」
「そうだよ! ボクたち同士が争って、何になるのさ!」
 結和と花音の訴えも、今の恵たちには届かない。恵の視線は、ナレディと小夜子を背後に事態を静観するアメイアに向けられていた。
(あくまでボクたちに『護衛』を続けさせるつもり?)
 その態度は、あくまでフィリップの『護衛』をし続けている限りは手を出さないようにも、もし少しでも不審な動きをすれば即座にフィリップを手にかけるようにも見えた。
 そう予測がついてしまえば、やはりアメイアがイコンの下に辿り着くまでは、『護衛』を続ける他ない。
「そなた、何故に我々に立てつく? 信念なき反抗は我が身を滅ぼすだけだぞ?」
 グロリアーナの言葉が、恵の心に杭を打つ。言えたらどんなに楽だろうかという思いを振り切り、あくまで戦う姿勢を崩さない。それを見て、隙あらば斬りかかろうとしていたローザマリアも、失敗の可能性を感じ手が出せない。
 硬直状態……誰も前に進めない状況の中で、一歩を踏み出す行動に出たのは、フレデリカだった。
(何もできないで後悔するくらいなら、何かした方がいいに決まってる!!)
 フィリップの後方の位置から、ありったけの魔力を注ぎ込んだ電撃が放たれる。恵とエーファが急遽フィリップを魔法の効果から遠ざけることで、フィリップは影響を免れるものの、その分恵たちが電撃に巻き込まれ、相応の損害を被る。
「……じゃ、ちょっとだけ本気出しちゃおっかな。理由があるのは分かるけど、僕にだってここまで来た理由がある。フィリップは返してもらうからね!」
 そう告げたルーレンの背に、仕舞っていた羽が出現する。直後、爆発的な加速力を自らに付したルーレンが、恵の手が伸びるよりも早く、フィリップを抱えて飛び立ち、O4の方へと向かっていく。
「あっ、ちょっと、どこ連れてくのよ!」
「ま、待ってよー!」
 二人を追って、花音とフレデリカが続く。
 
「明日香さん! 明日香さん!!」
「ノルン様、落ち着いた方が良いと思いますの」
 明日香の姿を認めたノルンが周りを見ず駆け寄ろうとして、エイムに抱きかかえられ身体をジタバタさせる。
 一方の明日香は、アメイアにチラリと視線を向けて、おそらく変な真似をすればエリザベートが危険な目に遭うだろうことを確認して、あくまでエリザベートを『護衛』する姿勢を崩さない。
「ど、どうして明日香さんは、私たちと戦おうとしているんですか?」
「……アメイアは、明日香を連れて行こうとした時、エリザベートの護衛を命じていた。アメイアはそれを、最後まで守らせるつもりなんだろう」
 動揺するソアの言葉に、一部始終を目の当たりにしていたケイが推測を口にする。傍観の姿勢を取り続けるアメイアからも、その意見を肯定している節があった。
「そんな! じゃあこのまま行かせるしかないんですか? 目の前に校長先生がいるんですよ?」
「……のう、確かあやつも、わしと同じアーデルハイトに身代わりを用意してもらっとったじゃろ。それはどうなっとる?」
 素朴な疑問、とばかりに呟いたファタの言葉に、ノルンがアーデルハイトから聞いたことを伝える。
「……つまり、変な言い方をすれば、一度死んでも平気ということじゃな? 確かあやつはこう言ったじゃろ、『構わない。……出来るならな!』と」
「あー、あたしが『こっちがユグドラシルに入って攻め滅ぼしても構わない』って言った時のこと? で、それが今とどう関係あるって言うの?」
 菫の、そして他の者の視線を受けて、ファタが言葉を続ける。
「エリザベートの護衛をあやつに任せている以上、こちらがあやつを倒してエリザベートを取り返すことも、構わないのではないかの? ……取り返した後でまた奪いに来るやもしれんが、一時でもエリザベートを取り戻せれば、どうとでもなるじゃろ」
 その意見は、あやふやではあったがアメイアの姿勢を鑑みれば、筋が通っていなくもない。アメイアがエリザベートの護衛を明日香に一任した以上、取り返されそうになったからといって手出しすれば、護衛を任せたアメイア自身に非が生じる。
 もちろん、エリザベートを取り返した後で改めて、正面からエリザベートを奪いに来る可能性は十分あったとしても、一時的にさえエリザベートを取り返してしまえば、後は逃げてしまえばよい。
「……だが、それはつまり、倒すべき相手が変わっただけに過ぎない。彼女の力を知らぬわけではないだろう?」
 その言葉に、一行が押し黙る。エリザベートを護るメイドとして控える明日香は、あれでいてイルミンスールでトップクラスの魔導の使い手である。
 どちらにせよ、並の生徒が立ち向かってかなう相手ではない。
「もー、どうにもならないじゃない! ねぇイルミンスール、あんたホントに何もする気ないの!?」
 手詰まり感漂う中、菫の発した言葉に――。
 
 周囲で脈動していた根が、ちょうどアメイアとエリザベートたちの間に、横たわるように『落ちてきた』――。