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リアクション
★ ★ ★
「だめだわ、やっぱりケイにも誰にも通じない」
どうしようと、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)の顔を見た。メインエンジン近くの空中にいるのは、彼女たちだけである。
「どうしようもこうしようも、決まってるだろうが」
小型飛空艇を操縦している雪国ベアが、言い返す。
「そう、決まってるわよ。私のゴーストの仇をとるのよ!!」
『空中庭園』 ソラ(くうちゅうていえん・そら)が、メインロケットの噴射に巻き込まれて消えたゴーストのことを思って、怒りに震えていた。
「そうじゃなくってなあ、止めなきゃだめだろ、この島を」
雪国ベアが頭をかかえる。
「そうよね。でも、こんなに勢いがついてるんじゃ、エンジン壊したって止まりそうもないし。どこかに機関室の入り口みたいな物ってないのかしら」
ソア・ウェンボリスがロケットエンジンのノズルの周囲を見回して言った。位置からして、とてもエアインテークのような物はありそうもない。あったとしても、そんな所から入れるわけはないのだが。おそらくは、ジェットエンジンではなく、ロケットエンジンに違いない。
位置的なものから考えて、この浮遊島すべてが人工物であるならば内部で自由に行き来ができるだろうが、この島は間違いなく天然の島のようであるから、それだけの施設があるとはとても思えない。だとしたら、それぞれの設備は独立して動くようにも作られているはずだ。
「あれ、レイスのれいちゃんがいない?」
『空中庭園』ソラが、この島に連れてきたもう一匹のアンデッドを探して、小型飛空艇から身を乗り出した。
「あっ、あんな所に。ゴーちゃんみたいに焼かれちゃうから、早く戻ってきなさい!」
「ちょっと待て、あそこになんかあるみたいだぞ」
『空中庭園』ソラを半ば無視して、雪国ベアが飛空艇をノズルの近くに寄せた。岩肌の一部に、大きな金属製の扉のような物が見える。
「見つけたぜ! 頼んだぜ、御主人」
「まっかせなさい!」
ソア・ウェンボリスが、扉にむかって濃密なアシッドミストをかけた。強力な酸によって、扉が溶け落ちる。
「でも、あんな所から入れるの?」
ソア・ウェンボリスが心配するのも無理はない。その入り口は、あまりにノズルに近かった。
「やるっきゃないだろうが。しっかりつかまれ。見てろよ、俺様の大活躍!」(V)
雪国ベアがいったん大きく回り込むと、全速で扉が溶け落ちて顕わになった通路へと突っ込んでいった。だが、気流が凄まじい。エンジンの噴射に、小型飛空艇が引き寄せられた。
「ベア、そのまま! 我求めるは、天翔る翼!」(V)
ソア・ウェンボリスが、空飛ぶ魔法↑↑で、無理矢理小型飛空艇の姿勢を立てなおした。『空中庭園』ソラが、火術で少しでもロケットの噴射炎を遠ざける。そのわずかな力のおかげで、小型飛空艇がぎりぎりで通路に飛び込んでいった。
「止まりやがれ!」
雪国ベアが小型飛空艇の前に飛び降りて、パワードスーツで力任せにブレーキをかけた。無理な負荷に、スーツのあちこちから火花があがる。
「と、止まったのか!?」
前進から煙をあげながら、雪国ベアがばったりと倒れた。
「大丈夫!?」
「もちろんだぜ」
動かなくなったパワードアーマーを外しながら雪国ベアが言った。
「ゴパ?」
騒ぎを聞きつけて、エンジンを管理していたメカ小ババ様たちがやってくる。なぜか、あまり数は多くはないようだ。
「全部やっつけますよ、ソラ」
「もちろんよ」
ソア・ウェンボリスの言葉に、『空中庭園』ソラがうなずいた。
★ ★ ★
「どうした。くそ、コントロールが破壊されたか」
突然動かなくなったメイドロボたちを見て、オプシディアンが唸った。メカ小ババ様はまだ自立行動ができるものの、メイドロボの方は鉄塔からの指示がなければ動かない。
「追い詰めたわよ。もう逃げられないんだから。ここから、本気モードだよ! 今度こそ、その正体暴いてやるんだもん」(V)
制御室の入り口を固めて、カレン・クレスティアたちが勝ち誇った。
「やれやれ。そんな暇はないというのに」
オプシディアンが溜め息をつく。その足許に、突然水が溢れ出した。
「なんなのだ? 戦いで水道管が破裂したのか?」
マナ・ウィンスレットが首をかしげた。
「違うよー」
そんな声と共に、水の中からひょっこりと少女ま頭が飛び出した。オプシディアンと同じエメラルド色の仮面を被っているために顔はまったく分からないが、どう見ても少女に見える。いや、それ以前に、いったいどこから頭を出しているというのだ。
「まったくー、遊びすぎなんだよー。みんなも待ってるよー。だから、特別にー、迎えにきたんだからー」
のほほんとした感じで、少女が言った。
「まったく、わざわざお前が来るとはな。時間切れか」
言いつつ、オプシディアンが少女の横にならんだ。その姿が、ありえないことに水たまりの中に沈んでいく。
「待て。逃がすな!」
三船敬一が叫んだ。即座に雨宮七日が魔道銃を放ったが、魔導球が張った障壁に阻まれる。
「では、いずれまた……」
二人の姿を飲み込むと、水は床に染み込むようにして消えてしまった。
カレン・クレスティア、ユーリ・ウィルトゥス、神和瀬織らが凍てつく炎で魔導球を破壊したときには、すでに床は濡れてもいなかった。
★ ★ ★
一方、空京の倉庫街の方でも、動きがあった。
いったんは倉庫の外に追いやられたラルク・クローディスたちではあったが、アンテナを破壊してきた緋桜ケイたちと合流して形勢が逆転した。まだ数的には圧倒的には不利であるが、リカイン・フェルマータたちが制空権をとっているので、屋外では圧倒的に有利にたてたのだ。
「包囲してまえば、もうどこにも逃げられないやろ」
大久保泰輔が、倉庫の出入り口を固めて言った。上空にはリカイン・フェルマータたちがいるので、たとえ飛空艇を使ったとしてもそう簡単には逃がさないだろう。
「さあ、いいかげんに観念して、早く浮遊島を停止させるんだもん」
ミルディア・ディスティンが、倉庫の中にむかって叫んだ。返事の代わりに、メイドロボのブレストミサイルが飛んでくる。
「そろそろ僕たちも撤退しませんと」
アクアマリンが、ジェイドをうながした。
「もう少し遊んでいたかったのですが。もしかして、オプシディアンの行った島の方が面白かったのでしょうか」
選択を誤ったかと、ジェイドがつぶやいた。
「同じじゃないんですかあ。それより、適当に作った大量生産のロボットですから、数はあっても、そんなにもちませんよ。もう充分に時間は稼いだと思いますが」
アクアマリンが撤退をうながした。このままここにいても、空京と運命を共にするだけだ。
「やれやれ。たまには、仲間の言葉に従ってもらいたいものじゃな」
どこからか現れた老人が、少し呆れたようにジェイドに言った。オプシディアンのように、雪花石膏の仮面をつけて黒いローブを纏っている。一見してジェイドたちの仲間と分かる風体だ。
「おや、アラバスター。あなたがやってくるなんて、珍しい」
ちょっと居住まいを正して、ジェイドが言った。
「あちらにはもうエメラルドをやった。そろそろ戻ってこいとのことじゃ」
「上様も、せっかちな」
「またそんな呼び方を。怒られるぞ」
やれやれというふうに、アラバスターが言う。
「吹雪け、氷雪の神楽よ!」(V)
「雷光よ、籠目となりて敵を編め!」
悠久ノカナタのブリザードと、讃岐院顕仁のサンダーブラストが、倉庫入り口のメイドロボたちを薙ぎ払った。一気に学生たちが再び倉庫の中へと入ってくる。
「やれやれ、もう少し正面から遊びたかったのですが、時間切れのようですね」
ジェイドが、神和綺人たちに言った。その背後で、アラバスターが、空間に漆黒の渦を作りだす。その中に、素早くアクアマリンが飛び込んで姿を消した。
「コンロンに出兵し、マホロバに干渉し、エリュシオンとパワーゲームを繰り返す。さらに、ザナドゥやナラカにまで手をのばすあなた方。問いましょう、あなた方は誰ですか。何をなす者ですか。まあ、それも、今、この地を守れてからのことですが……」
そう言い残すと、ジェイドも、アラバスターと共に闇の渦の中に姿を消していった
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