リアクション
右スラスター 「ええーい!」(V) 「えーい!」(V) 「あらあら」 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)とフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)と共にならんで、行く手を阻む物を、霧を言わず、茂みと言わず、大木と言わず、手に持った野球のバットで薙ぎ払いながら進んでいった。 「凄いです……。まるで環境破壊一歩手前ですけれど」 感心したような、唖然としたような声でステラ・クリフトン(すてら・くりふとん)が言った。 彼女たちの前に道はない。彼女たちの後に、ぺんぺん草一本生えない道ができる。 「あら、何か見えてきました。人もいるみたいです」 ステラ・クリフトンが、前方を指さした。見れば、ゴチメイたちの一団がいた。すでに合流していた紫月唯斗のワイバーンも目立っていたので、場所的には分かりやすかった。 彼女たちは一様に、突如現れたジェットエンジン製のスラスターを見つめていた。 地表の一部がスライドして現れたスラスターは、翼のように真横に突出し、何本もの櫓状に組まれたフレームには、いくつもの巨大なジェットエンジンが収納されていた。ノズルは五方向についている。そのそれぞれにエンジンがついているのか、一つのエンジンの噴射口が各方向に変えられるのかまでは分からないが、これで島の進路を変えたらしい。島全体の推力は、おそらくは別のメインエンジンが担っているのだろう。 「現在位置は、島の右側と言っていいのかな。大雑把だが、このあたりだと思う」 銃型ハンドヘルドコンピュータの画像を大きく拡大して地面に投影しながら、トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)が説明した。ここにくるまで、ずっと雲海の島の配置図や、この島自体の地図を作っていたのだが、それがこんな形で役にたつとは思いもしなかった。 「あれが、方向変換のためのエンジンだとしたら、おそらくは、構造的に反対側にも同様の物があるでしょう。また、推力を得るためには、後方にもっと大型のエンジンがあるはずです」 魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)が、マップ上の各地点をポイントしながら解説していった。 「メインエンジンの方の確認はできませんが、島の左側に行ったローザたちから、巨大なエンジンを発見したという連絡が来ています」 エシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)が、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)とパートナー間通信を行いながら言った。 「パートナーが、あちらにいたのでしたら幸いですな。これで密に連絡をとることができます」 それは助かると、魯粛子敬が心の底から感謝した。 「後、俺たちは、このへんの島のど真ん中あたりで、でっかいアンテナ塔も見つけたぜ。霧と風が深くて直接は行かなかったが、間違いなくこのあたりにある」 テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)が自信をもって言った。 「それから、これが一番重要なことなのですが、現在、方角から考えてこの島は空京にむかっています」 「それって、ここでのんびりしていれば、戻れるっていうこと?」 リン・ダージ(りん・だーじ)が、お気楽に魯粛子敬に訊ねた。 「とんでもない。このまま進めば、衝突です」 「ちょっと待て、そんなことになったら空京はただじゃ……」 レン・オズワルド(れん・おずわるど)が絶句する。 「こんな物が空京に激突したら、完成したばかりのシャンバラ宮殿はおろか、天沼矛まで倒壊してしまうんじゃないですか?」 本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)も心配する。 「ええ。もちろんただじゃすまないわよ」 ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)が、淡々と言った。 「そんな、私たちのギルドはどうなってしまうの。それに、あそこには、ミスドや、デパートや、宮殿とかもあるし、何よりもたくさんの人がいるのに」 ノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)が、レン・オズワルドの腕を引っぱって真っ青な顔になった。 「本当だよねぇ。これだけの大きな物がぶつかったら、空京はおしまいだし、そんなことになったら、天御柱学院のある海京だって、無事じゃすまないものねえ」 妙に感心しながら、月谷 要(つきたに・かなめ)が言った。だが、感心したからと言って、この暴挙を認めたわけではない。むしろ、それをどうやって阻止するかの方に興味があるという感じだ。 「星拳で、島の進路を変えるとかできないのですか?」 紫月唯斗が、ココ・カンパーニュたちに訊ねた。 「いや。さすがにここまででっかい物は……」 無茶を言うなと、ココ・カンパーニュが肩をすくめた。 「それに、島の上にいて地面を殴っても意味がありませんし、空中から衝撃波を放っても、足場がなければ自分が吹っ飛ぶだけです」 アルディミアク・ミトゥナも、無理だと認めた。さすがに目標が大きすぎる。 |
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