リアクション
雲海 「とりあえず、黒豹小隊として出撃できるのは僕たちだけだよ」 黒乃 音子(くろの・ねこ)が、ジャンヌ・ド・ヴァロア(じゃんぬ・どばろあ)とロイ・ギュダン(ろい・ぎゅだん)の顔を見渡して言った。 「安心しろ、龍雷連隊から、俺たちも参加する」 ファルコン・ナイト(ふぁるこん・ないと)を従えた松平 岩造(まつだいら・がんぞう)が、自信に満ちた声で言う。 「質問であります、隊長殿」 「何だもん、ジャンヌ」 出発前に切り出すジャンヌ・ド・ヴァロアに、黒乃音子が発言を許した。 「はっ。私はヘリファルテがありますが、小隊長らの飛空艇はどこでありましょうか」 「……」 黒乃音子とロイ・ギュダンが、はっとしたように顔を見合わせる。 「それは、ジャンヌ・の飛空艇に……」 「私の飛空艇は一人乗りであります!」 「――では、龍雷連隊の……」 「俺は、ファルコンナイトの上に乗っていく予定だが、さすがに三人も乗せたら機動力はないに等しくなるが……」 松平岩造の言うことももっともだ。フライトユニットのおかげで問題は少ないが、いくら機晶姫といえど人を乗せた長距離移動では恐ろしくスピードも機動力も落ちる。 「それで、私に提案があります。これを使ってはいかがでしょうか」 そう言って、ジャンヌ・ド・ヴァロアが一本の箒を取り出した。柄には、チューリップの名札ストラップで、「日堂真宵」と書いてある。 「おお、どこでそれを手に入れた」 「ラジオ局の駐箒場に駐めてあった物を拝借して参りました。非常事態ですので、申し訳ないと思いつつ……」 現在の情報源は、ラジオ・シャンバラが一番正確である。空京と他の地域の情報交換がまだ大幅に混乱しているため、現場情報のタイムラグが少ないというわけだ。 その近くの方が現状を把握しやすいとラジオ局にむかう途中で移動方法の不足に気づいたジャンヌ・ド・ヴァロアが、悪いと思いつつ空飛ぶ箒を拝借してきたというわけである。 「後でちゃんと返しておくんだよ」 非常時である。多少のことには目を瞑ろう。 「ならば出発するぞ。時間がない」 松平岩造にうながされて、五人は離陸した。黒乃音子は、ロイ・ギュダンの操る拝借してきた空飛ぶ箒の後ろに乗った。 彷徨える島はまだ空京まで距離があるが、すでに目視で充分確認できる位置まで接近してきている。対応は急を要した。 空京を離れたとたん、一行は逆巻く雲海の雲と気流に揉まれて必死に姿勢を制御した。まるで、荒海に乗り出したかのように乱気流に揉まれて、濃密な雲を身体に叩きつけられる。 「確か、三船たちが現地の探検に参加していたはずだ。合流し、移動しているという浮遊島の制圧を行い、進路を変えさせる」 シャンバラ教導団としては、セオリー通りの制圧戦のはずであった。だが、彼らは制圧に重点をおきすぎたために、制空権のことをおろそかにしすぎていたのだ。移動手段を重視していなかったことからも、それがうかがえる。 そして、敵はそこをついてきた。 ゴチメイたちが島に上陸するときと同様に、メカ小ババ様とメイドロボ、そして、魔導球が多数、浮遊島の前面に防衛線を展開していた。すでに撤退したシニストラ・ラウルスたちの報告を受けたオプシディアンが、当然の処置として戦力補充と共に空京からの妨害を想定して戦力増強をしていたものだ。 「じきに島に着きま……」 ロイ・ギュダンが、後ろに乗る黒乃音子に言おうとしたとき、下方から飛び出してきた魔導球が速いスピードで彼のすくそばをかすめるように飛びすぎていった。二人乗りで多少ふらふらとしていなかったら直撃されていたところだ。 「敵だ、散開!」 松平岩造が叫んだ。ファルコンナイトの上で、ブライトグラディウスを構える。 三方に散って距離をとった三機の前に、雲海の中から次々に魔導球に乗ったメカ小ババ様とメイドロボたちが姿を現した。たちまち、空中戦が始まる。 「強行突破だよ。ここで足止めをされるわけにはいかないんだもん」 黒乃音子が叫んだが、現状はとてもそれを許してはくれない。機動力では、小回りのきく敵の方が圧倒的だった。二人乗りのために敵を振り切るほどのスピードが出ない彼らでは、ここで敵を倒して突破口を切り開くしかない。唯一、ジャンヌ・ド・ヴァロアの乗る高速飛空艇が最大の戦力ではあるが、それゆえに、ジャンヌ・ド・ヴァロアは先行することができず、他の者たちの援護に忙殺されていた。そうでなければ、数と機動力で劣る黒乃音子と松平岩造たちは包囲されて撃墜されていたことだろう。 「ここは、なんとしても突破を試みるべきであろうな」 ファルコンナイトが加速ブースターを点火して一気に突破を図るが、雲海の中からの攻撃に翻弄されて回避行動を余儀なくされる。 「引くわけにはいかん。殲滅して突破を図る」 逃げることを諦めた松平岩造が叫んだ。 ★ ★ ★ 「やはり、のぞみの情報通り、防衛線が敷かれていたようですね」 松平岩造たちの戦闘の様子を遠巻きにしながら、ミカ・ヴォルテールが言った。 「ああ、警戒しておいてよかったということか。彼らには悪いが、今のうちに大きく迂回して島に上陸させてもらおう」 小型飛空艇で武神雅とともに併走していた武神牙竜が、ミカ・ヴォルテールに言った。 そんな彼らの前にも、何かの巨大な影が立ちはだかるようにして現れた。 「見つかったか!?」 武神牙竜が、腰の虎徹に手をかけた。 「待つのだよ。サンマなのだよ」 武神雅が、急いで武神牙竜を止めた。 彼らの周りに現れたのは、巨大なサンマの群れであった。浮遊島が本来とは違うルートを進んでいるため、サンマたちの群生地に突っ込んでしまったらしい。 「参ったな。ぶつかったらたまらないぞ」 「僕のオイレなら、多少視界がいいですから、先行します」 コハク・ソーロッドが前に立った。 「よし、島に急ごう。行くぜ、行くぜ行くぜ行くぜ!」(V) 武神牙竜はサンマに衝突しないように豪快に避けながら、一気に島へむかって進んでいった。 |
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