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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回)

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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回)
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(・ローゼンクロイツ1)


「おや、貴方もですか」
 ローゼンクロイツがその存在気付いた。
 仮面を被った男――トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)は、仮面越しに彼と視線を合わせた。
「なぜ、こんなことを? 強化人間部隊降下までの時間稼ぎなら、もっと効果的な方法があるはずだ。ほとんど戦闘力がなく、自動的に契約者のみについて回るだけの『影の人』なんかよりも、な」
 ローゼンクロイツが微笑した。
「ただ、試しているだけですよ。彼らこの時代に生きる契約者を」
 その言葉に、トライブは引っかかりを覚えた。
「クリスチャン・ローゼンクロイツ。薔薇十字団の始祖。その性を名乗るあんたは、その人物と関係があるのか?」
 自らをただの地球人だとは言ってのけたが、実はその子孫、あるいはクリスチャン・ローゼンクロイツの英霊なのではないか、と疑う。
「旧い友人の一人ですよ。今はその名を借りているだけです」
 友人、とは言え時代が異なる。敬愛する人物にちなんで、ということだろうか。
「そうか。まあ、それならそれでいい。俺はただ、あんたを護衛しにきた」
「相変わらず、仮面を被ったままですか」
「例え仲間でも、顔を見られたくないからな。それに、俺の有用性は働きによって示される。あんたが不必要だと判断したなら始末すればいい……あの海上要塞の総督のようにな」
「あれは私の意思ではありませんが……そういうことならば、宜しくお願い致します」
 早速、敵襲だ。

* * *


「お姉ちゃん、見つけました」
 マキナ イドメネオ(まきな・いどめねお)の駆る小型飛空挺アルバトロス上から、夕条 アイオン(せきじょう・あいおん)がローゼンクロイツと思しき姿を発見した。
「あいつが、影の元凶。殺す」
 夕条 媛花(せきじょう・ひめか)が飛空挺から飛び降り、そのままローゼンクロイツ目掛けて加速する。
 神速に、サイコキネシスの力を付加、それにより敵のクローン強化人間の加速法を超えた速度を生み出す。
 ローゼンクロイツはこちらを向こうとしない。
 その理由はすぐに分かった。
 キン、と狂血の黒影爪が刃とぶつかる音がした。目の前には剣と銃を携えた仮面の男がいる。
(仲間がいたか)
 まずはこの人物が優先すべき「殲滅対象」だ。
「現実に耐え切れず心を棄て、ただ力のみに従い、戦うことを選びましたか」
 ローゼンクロイツの呟きが聞こえてきた。
 そこには、どこか失望のような色が浮かんでいた。
「……黙れ」
 先の先から距離を詰めようとする。
「お前の相手は俺だ」
 仮面の男が阻む。正体は分からないが、この人物もかなりの実力者だろう。血と鉄の構えを崩さず、防御を中心に立ち回っている。
「場所を変えよう」
 そこから、前に詰めてくる。
 円盤上になっている天沼矛の屋根から、一段下の展望デッキの上へと落としてこようとする。
「さて、これならばどうでしょうか」
 直後、ローゼンクロイツがカードをばら撒き、それが「影の人」となる。空中に飛び出したその姿には、翼が生えている。
「影に用はない」
 媛花は宙を駆ける。影は無視し、軽身功とサイコキネシスと神速によって、落下しながらではあるが、自由に動き回る。
 敵の魔銃カルネイジが火を噴くも、それをかわす。
「そんなもの、当たらない」
 加速し、敵に爪を突き立てる。
 が、敵は身をそらしてそれを避ける。そのため、爪は地面にぶつかり、展望デッキの屋根をえぐった。
「……なんつー威力だ」
 ぼそりと仮面の男が声を漏らす。
 記憶消去と感情操作を受けた彼女にあるのは、敵を殲滅することだけだ。そこには躊躇いというものは存在しない。
 背後から、マキナがアルバトロス上から機晶キャノン、六連ミサイルポッドでの援護を行う。
 そして空中の影に対しては、アイオンがサンダーブラストを放つ。
 それでも核に当たらなければ再生する。そのため、サンダーブラストで影が乱れたのを見計らい、アシッドミストで核であるカードを侵食する。
「ち、埒が明かねえ」
 仮面の男がバーストダッシュで飛び込んできた。
 こちらも神速であったが、その分身が軽くなっており、押し返される。さらに敵は自分腕を肘を使って押さえ込み、爪を自由に動かせなくしてきた。
「まずは、あっちだ」
 辛うじて照準が合わせられるだろう、片手の魔銃で飛空挺を狙う。
 だが、それは本命ではない。
「く……!」
 仮面の男ともに、空中に投げ出される。そして敵は自分をそのまま叩き落そうとしてきた。
 パラミタとの接合部ではないとはいえ、高度3000メートルから落ちたらひとたまりもない。それは相手も同じだろう。
 仮面の男が媛花を離した直後、剣を投げ捨てる。
 投擲はサイコキネシスでそらしたが、直後敵は空いた手にダークネスウィップを取り、屋根の外縁にある出っ張りに引っ掛けた。
 そして、
「そのまま落ちな」
 漆黒の魔弾を装填し、彼女に向けて放った。
「――――!」
 剣に向かってサイコキネシスを行使した直後であり、すぐに反応出来なかった。
 せめて致命傷だけでも避けるため、なんとかサイコキネシスをぶつけるも、威力を削ぎきれず、彼女の身体は撃ち抜かれた。

* * *


「お姉ちゃん!」
 飛空挺も無事ではない。飛行を続けることが出来なくなり、そのまま滑空して不時着しようとする。
 その過程で、落ちてくる媛花を受け止めた。
 あとは、地上にぶつかる衝撃をいかに緩和するかだ。
 媛花の傷は決して浅くはない。
「……死にたく……ない」
 うつろ目な彼女から、呻くような声が漏れた。