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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回)

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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回)
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リアクション


(・南地区)


 天御柱学院一帯。
 敵のクローン強化人間部隊の輸送機は全て北から降下するわけではない。
 少し前、天沼矛に完全移転する前まで使っていたイコンデッキや、カタパルトといったものは非常時に備え残されている。
 そこを、敵は降下ポイントとしたようだ。
「降りて来ましたっ!」
 榛原 勇(はいばら・ゆう)は降下してくる敵の姿を捉えた。
「行きましょう、フエンさん!」
 パートナーのフエン・ワトア(ふえん・わとあ)と共に強化人間達の対処に当たる。
(ユウの奴、知らない間に図太くなったと言うか、逞しくなったというか……変わったもんだね)
 一ヶ月前の製造プラントでの戦いからこれまで、短い期間ではあったが、学生一人一人には色々なことが起きた。
 人が変わるには十分なほどに。
「ユウ、ちょっと引っ込んでな。敵にバレちゃ困るからね」
「フエンさん、何をする気ですか?」
 作戦を聞く。
「私が敵を誘い出して戦いに持ち込む。そして適当な頃合いを見計らって武器を捨てる。まるで相手の攻撃に弾かれたように、ね。戦っている相手が武器を失くしたら……慢心するだろ? そこでユウの出番だ。捨てた武器が役立つといいんだが……」
「フエンさん、その作戦はさすがに危険なんじゃ……」
「何、危険? この非常時に安全なんかあると思ってるのかい、この阿呆!」
「な、何でもないです。でも、本当に危ないと思ったときは、ちゃんと逃げて下さいよ。約束ですからねっ!」
 と、いうことで行動開始だ。
 いくら訓練を積んできたからとはいえ、あの黒い装甲服の集団に個人で挑むのは容易なことではない。
 敵はレビテートとサイコキネシスを組み合わせて、空を走るように降りてくる。
「さあ、来い!」
 フエンが敵と対峙する。
 幸いにも、ここはよくなじんだ学校だ。地の利はこちら側にある。
 カタールを携え、敵のナイフとぶつかり合う。敵は攻撃の際にサイコキネシスによってさらに攻撃を重くしているようだ。
 さすがに、敵も強くなっている。こちらの行動パターンを読み、即座に対応しようとしているようだ。
 カン、と武器が弾かれたように飛ぶ。
「行け、ユウ!」
 捨てられた武器に向かってサイコキネシスを繰り出す。
 弾かれるようになっていたことで武器は回転していた。そこに勇のサイコキネシスが加わることで、さらに速さが増していく。
 一見するとチャクラムのようだった。
「狙うのは、首!」
 そのまま敵の首元目掛けて飛ばす。
 敵は慢心していたわけではない。感情を持たない者に油断はない。
 それが首を刎ねたのは、勇の技量が敵に勝っていたからにほかならない。
「おっと、私を忘れるなよ」
 先の先で、フエンが残りの敵に素手でぶつかっていく。
「ユウ、次はこっちだ」
 フエンが足止めをしたところに、武器を飛ばす。そのまま飛び道具として、力が持続する限り回転する刃を敵目掛けて操る。
 二人目、三人目と倒していく。
「この調子でいくぞ、ユウ!」

* * *


 榊 朝斗(さかき・あさと)はじっ、と降下してくる黒い装甲服を見つめていた。
 一ヶ月間、彼は考えた。
 そして悩んだ。
 ベトナムから帰還したホワイトスノー博士なら、もしかしたらこの敵のことを知っているのではないか?
 そして彼らがただ、戦うための道具として生み出されたことを知った。
「彼らは自分の意思を、心を持たない。ゆえに生への執着もなければ、死への恐れもない」
 そういう存在だ、と聞かされる。
 自爆するのも、ただそういう風にプログラムされているから。機密保持と、敵へのダメージを与えるための手段であると。
 それを知ってもなお、朝斗の迷いは消えなかった。
 そんな彼に、ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)は自らの想いを告げた。
「必ずしも全てを救えるとは限らない。何かを犠牲にしなければ、護れるものも救うことも出来ないのだから。
 それでも自分の信じたモノを裏切らないで欲しい。たとえ道を間違おうとしても、私はそれを止めてあげる」
 そして続ける。
「私は自分の痛みに苦しんでいた。自分の弱さを拒んでいた。それから救ってくれたのは朝斗の優しさ。忌み嫌われて封印された私をあの小さな優しさで闇から出してくれた。どんなときも独りじゃないことを教えてくれたのは貴方なのだから」
 そんな彼女からの言葉を受け、彼は答えを出した。
 自分は契約者となって、普通の人とは異なる力を手に入れた。それに対して、どこかで甘えていたのかもしれない。
 その力で、生命を奪う罪に怯えていたのかもしれない。だから救いたいと願ってきた。

――敵が攻撃してきたら排除する。甘さは捨てなければいけない。

 一度戦場に立ったならば、それがきっと正しいことなのだろう。
 だけど、それでも自分の信じたものは最後まで信じ続けたい。
「アイビス、お願いがあるんだ。彼らを、一発で撃ち抜いてあげてくれ」
 アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)に静かに言い放つ。
 赦して欲しいとは言わない、けれど決して忘れない。
 弱さを棄てない、痛みから逃げない。
 全てを背負ってゆこう。
 両の手に刃を、時には銃を持つ者の覚悟、決意だ。
「あなたが出した答えは決して正しいモノとは言い切れません……それでも、その道を歩む覚悟はあるのですか?」
 アイビスの問いに、朝斗はただ頷いた。彼女に視線を送ることなく。
 それが彼の強い意志を物語っている。
「さあ、行こう」
 両手に無光剣を構え、降下してくるクローン強化人間へと向かって駆け出す。
 ルシェンが彼にパワーブレスを施した。
 着地する前に放電実験を繰り出し、迷彩の無効化を図る。
 そして、敵の首めがけて刃を振るう。一発で仕留めるために。
 また、敵は空を走るようにして地上へと向かってきている。アイビスはフライトユニットで空中へ上がり、射撃を行う。
 スナイプで朝斗に言われた通り、ヘルメットの眉間に当たる部分を撃ち抜く。
 空からの援護受け、朝斗は敵へ向けて跳躍した。
「これが僕の――答えだ!」