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リアクション
【10】
大神殿が崩れ落ちた。
ミレニアムの繁栄の象徴が崩壊した時、瓦礫の中から出てきたのはミレニアムの、いや世界に死と災厄を振りまく三つ首の白竜”ガーディアン・ナンバーゼロ”だった。
吐き出される熱線砲”メギドファイア”は2023年に現れたガーディアンの比ではない。高層建築をバターのように溶かし、町を幾重にも熱線で引き裂き、溶断していった。
空は分厚い雲が覆い、炎の雨が降り注ぐ。まるで、この世の終わりのようだった。
「あの時と同じデス……」
大神殿に急いでいた2023年のメルキオールと、天音とブルーズ、司とシオンは立ち止まって、呆然と天を仰いでいた。
「このままでは市民の皆サマが危険デス。早く彼らを助け出さナイト……」
「へぇ」
殊勝なことを言う彼に、天音は目を大きく開いた。
「まぁ君に恩を売るのが大体の目的だ。そういうことなら手伝うよ」
「……今、寿子くんと連絡がつきました」
テレパシーで連絡をとり、司は言った。
「まだ大神殿にはたくさんの人が残っているようです」
「た、大変デス! 急いで神殿に向かいマショウ!」
彼らは水路に放置された船を見つけて、大神殿を目指した。
「……ねぇメルキオール、君が以前僕に”それをアナタに答える理由はありマセンから”と言ったのを覚えているかな?」
天音は尋ねた。
「ここでもう一度同じ質問をするよ。”君たちは世界の未来を書き換える為に、未来から過去に来たんだろう? グランツ教と超国家神は何と戦っているんだい?”」
「それは……」
メルキオールは少し迷ったが、ややあって話し始めた。
「協力していただくお礼にお話シマショウ……概ねその通りデスガ、少し違いマス。過去を書き換えても新たな平行世界が生まれるだけで、自分のいる時空を書き換えるコトはとても難しいのデス。今回のナンバーゼロの件のように、時空とその元になる時空の縁がヨホド強固に結びついていない限り、それは出来マセン」
「では何のために過去に?」
「ワタシのいた時代では失われた力を手に入れるためデス。海京の超兵器もそのひとつデシタ。それを”未来に持ち帰る”ためにワタシ達は過去に行ったのデス」
「……持ち帰る? 双方向に時空の行き来が出来る技術を持っているのか?」
「安定して行えるのは一往復だけデスガ……」
「その技術はどこからもたらされたのだ?」
ブルーズが言った。
「疑問だったのだ。G計画の資料が少ないにしても、ガーディアンのそれは元とは違い過ぎる。ニルヴァーナとの関わりがあるのではないか? 例えば”オーソン”との」
「……おっしゃるとおりガーディアンは別の技術がベースになってイマス。ただそれがどこから来たものなのかはワタシもわかりマセン。知らナイところで、誰かが関与しているようなのデス。教団に技術を提供する何者かが……」
「それで君達は何のためにその力を……?」
天音はまっすぐにメルキオールを見つめた。
「……ドージェ・カイラス」
「!」
「ワタシ達の”箱船計画”の実現のためには、パラミタの礎となった彼はトテモ邪魔なのデス。彼を排除しなくてはならないのデス……絶対に」
「今は皆で争ってる場合じゃないよ!」
美羽とコハクは声を上げた。
まだ反教団勢力と教団の戦いは続いていた。
こんなこをしている場合じゃないのに。クルセイダーもコントラクターも、グランガクインも教団の兵器も、今は力を合わせなくちゃならないのに。
美羽は知っているのだ。2023年の海京を襲ったナンバーゼロの恐ろしさを。
「協力? ふざけるな!」
市民が声を荒げた。
「メルキオール様が襲われたと聞いたぞ!」
「そうだそうだ! 卑劣な日本の連中の仕業だ!!」
「……まずいよ、美羽」
コハクはポツリと言った。
祥子の奇襲は思わぬ波紋を呼んでいた。メルキオールが襲われ重傷を負ったという報せは、グランツ教の信徒である一般市民の態度を硬化させてしまったのだ。
「……ダメなの……?」
美羽の表情が曇る。
「いえ、まだ諦めてはいけマセン」
「!?」
そこにメルキオール……2023年から来たメルキオールが現れた。
「皆サン、聞いてクダサイ。今、グランツミレニアムには未曾有の危機が迫ってイマス。今、ワタシ達が刃を向ける相手は救國軍やミレニアムの反乱分子ではありマセン。今は同じ方向を向き合いマショウ。この町を守るタメに。ワタシ達なら出来るはずデス」
ざわざわと市民は顔を見合わせた。
「め、メルキオール様!?」
「なんだ、ピンピンしてるじゃないか……なーんだ」
市民達はみるみる態度を軟化させた。それからクルセイダーも司教(マグス)の命に従って、武器をおさめた。
「反教団の人達も、今は協力しましょう」
「とにかく今は皆を避難させるのが先だよ!」
コハクと美羽の呼びかけで、特務隊及びレジスタンスも武器をおさめた。
「メルキオール様!」
そこに、鈴蘭と沙霧が走ってきた。
「このままでは危険です。あれでは市民はなす術もなく殺されてしまいます! 力なき人々が避難出来る場所や、比較的安全な場所はどこかにありませんか?」
そう言いながら、鈴蘭ははっとした。
「……どうしたの、鈴蘭ちゃん?」
急に黙った彼女に、沙霧は首を傾げた。
「なんだかメルキオールさん、この間会った時と雰囲気が違うような」
「え?」
「この前よりももっと雰囲気が柔らかくなったみたい……」
2人は別の彼であることに気が付かなかったようだ。
「避難場所……そうデスネ。第9地区に行けばたくさんの船がありマス。船で皆サンを脱出させマショウ」
鈴蘭はここに来て知り合った、教団のコスプレ仲間を集めた。市民を避難させるのを手伝って欲しいと言うと彼らは快く引き受けてくれた。
「鈴姫の頼みだったら断れねぇや!」
「その代わりあとで衣装の作り方教えてくれよ!」
「あーズルいー! 姫とは今度の日曜一緒にイベント出てもらうんだからー!」
「んじゃ沙っちゃんはうちのサークルで参加しようぜー」
神官もどきにナイツもどき、みんな気のいい人達だ。
「いい人達だね」
沙霧は言った。
「うん……」
もうすぐこの人達ともお別れだ。でも別れの挨拶はしない。
また出会えばいい。自分達の2023年でもう一度。
「グランガクインが動いている……起動している……!」
コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)はそびえる彼の者の勇姿に釘付けになっていた。
彼は高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)博士、ラブ・リトル(らぶ・りとる)、龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)と避難民を守りながら、ナインポートに向かう途中だった。
「しかし……」
グランガクインの姿に嬉しさに似た感動を覚えつつも、同時に不安も感じていた。
「だが勝てるのか……?」
ハーティオンは鈿女博士に言った。
「私をグランガクインに行かせてくれ」
「い、いきなり何を?」
「わかった気がするのだ。何故、私がここにいるのか。何故、この時代に来たのか」
「ハーティオン……」
『ガオオオオオオオオン!!』
ドラゴランダーが吠えた。
(行ってこい、ハーティオン。なに、ここなら我がいる。市民は任せておけ。何が来ても我が守る。あの時、暴れられなかった分、力があり余っているのだ!!)
(ありがとう、ドラゴランダー)
「……仕方ないわね、私も一緒に行くわ」博士は言った。
「けど足はどうする? 都庁サイズのイコンよ、空でも飛ばないと近づけないわ」
「そ、そうだったな……ううむ」
そこに、パラミタジャンボジェットハナアルキに乗った朱鷺と朱鷺子が現れた。
「……いやぁ大分すごいものと交換出来ましたね」
「すごいけど、こんなの貰ってどうするんですか……」
「一日頑張れば、サラダもジャンボハナアルキになるという記念に……」
ちょっと嬉しそうな朱鷺と、そうじゃない朱鷺子である。
「き、君達!」
ハーティオンは2人を呼び止めた。
「頼む! その生き物でグランガクインまで連れていってくれ!!」
その様子を遠目に見ながら、
「……足はどうにかなりそうね」
ラブは言った。
その時ふと、彼女は市民の中にコルテロを見つけた。
「あ、コルテロのおっさん」
「む……おお、妖精の少女ではないか。無事だったんだな、良かった」
「おっさんもね。今から逃げるところ?」
「ああ、君達も早く逃げた方がいい。一緒に行くか?」
そう言うとラブは微笑んだ。
「ありがと。でもあたし、行くところがあるからさ」
「行くって……こんな時にどこに?」
「アイドルだからね、ちょっと世界を救いにいかなくちゃならないの」
「!?」
「会えて良かったよ、おっさん。おっさんの祈芸は忘れないからね……真似はしないけど」
「……妖精の少女よ」
「ん?」
コルテロはおもむろに大地を殴った。するとラブの姿をした石像が飛び出してきた。
コルテロの祈芸『まごころを君に』だ。
「グッドラックだ、マーベラスなアイドルよ」
「おっさん……」
まごころを君に。確かにコルテロのまごころが伝わってきた。
「……じゃあ”またね”!」
ナンバーゼロの咆哮とともに大気が震撼した。
「沙霧くん、上っ!」
「!」
鈴蘭は叫んだ。天から降る炎が、建物を、地面を焼き付くし、行く手を阻む。
「危ない!」
巨大な火球が市民の上に落ちてくるのが見えた。
「変身!!」
その刹那、二つの光が飛び出した。
御神楽 舞花(みかぐら・まいか)とノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)、光に包まれた2人は魔法少女に変身する!
「銃撃の魔法少女シューティング・マイカ!」
「氷雪の魔法少女アイシクル・ノーン!」
「参上!!」
ピンクのコスチュームのマイカはリボルバーを構えて、ノーンはブルーのコスチュームで決めポーズ。
「マイカ!」
「目覚めよ、魔砲リボルバー!」
マイカは勢いよく回転式弾倉を回し、魔弾装填。
「マジカルバレット、シックスファイア!!」
脅威の早撃ちで6発の魔弾を火球に撃ち込むと、球は弾けて幾つもの小さな炎となった。
「ノーン!」
「……来て、氷の精たち」
天に伸ばしたノーンの指先が白く光を放つ。
「ホワイトアウト、アイシクルドリーム!!」
彼女を中心に空間が凍り付いた。巻き起こる吹雪が炎を掻き消した。
「……良かった。皆サン、無事デスネ!」
メルキオールは怯える人達を抱きしめた。
鈴蘭と沙霧も皆の不安を少しでも取り除こうと声をかけて回った。
「泣かないで。大丈夫。ほらあんぱんだよ、食べて」
「こら! 胸に詰めたあんぱんを子どもにあげるな!」
「あ……つ、つい」
マイカとノーンが降りて来た。
「皆さんは私達が護衛します」
「急いで。ここを抜ければナインポートはもうすぐだよ」
「……ん?」
マイカはメルキオールを見つけて、怪訝な顔をした。
「何故、あなたがここに……」
「市民のため働くのは聖職者の務めデス」
それから彼が2023年のメルキオールであることを話すと、ますます彼女たちの困惑は濃くなった。
「……な、なんかむずかしいよぅ」
ノーンは頭が痛くなった。
「あの、あなたが2023年のメルキオール様なら、この時代のあなたはどこに?」
「ワタシ?」
しばしの沈黙のあと、
「あーーーーーーーーーーーーっ!!!」
と大声を出した。
慌てて”彼”の行方を尋ねて回るも、誰も知らないと言う。
「ど、どうしたんです?」
「思い出したのデス。どうしてナンバーゼロが2023年に行ったノカ」
「な、なんですって?」
「ワタシの時はナンバーゼロのお披露目の際に、彼が制御を受け付けなくなったんデス。あのトオリ、とてつもなく強く、町の防衛部隊では太刀打ち出来ませんデシタ。デスカラ、試作品の時空転移装置を使って別の時空に飛ばしたんデス」
「……それが2023年。でも何故2023年に?」
「たまたまデス」
「え?」
「慌てていたのでテキトーに設定をしたら、偶然あの時代に行ってしまったようデス……」
「いいメーワクだよー」
ノーンは呆れた。
「……待ってください。ということはまだ……」
「……そ、そうなんデス。早く”ワタシ”を止めないト!」
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