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リアクション
【9】
及川 翠(おいかわ・みどり)、ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)、サリア・アンドレッティ(さりあ・あんどれってぃ)……それからちょっと置いていかれ気味に佐藤 奏(さとう・かなで)は、第6地区にある”守護者の聖堂”に来た。
と言うのも先日、不可思議な籠が教えてくれたのだ。自分達の目指すべき場所は、守護者の聖堂最下層だと。
「わっくわっく♪ 一体何があるのかなぁ」
「もふもふしたものだといいなぁ」
翠とサリアは遠足気分だ。
「でも入ったらダメな場所って聞いたのに、フツウに入れちゃったね」
「うん。見張りの人もいないねー」
聖堂の入口は不気味なくらい静かだった。
(誰もいないのもおかしいけど……)
ミリアは入口の染みを見つめた。たぶん血の跡だ。
何かがここで起こっている、そんな気がしてならない。
とその時、激しいスリップ音を引き連れて、トランスフォームカーが現れた。
「!」
何を思ったかこの車、まっすぐに翠たちに突っ込んでくるではないか。
「きゃああああああ!!」
「危ないっ!!」
4人が慌てて中に入ると、車は入口にゲキトツした。
モクモクと煙が上がる車に、4人はおそるおそる近付く。
すると、
「……何じゃ。ここの警備かと思ったが、可愛らしい娘さんじゃないか」
新風 颯馬(にいかぜ・そうま)が車から出てきた。
それから新風 燕馬(にいかぜ・えんま)とリューグナー・ベトルーガー(りゅーぐなー・べとるーがー)も一緒だ。
そして何故だか、燕馬は魔法少女になっていた。
「……ええと、いろいろ突っ込みどころがあるんだけど、まず何で突っ込んで来たのよ!?」
ミリアが言った。
「いや警備だったらハネとこうと思って」
さらっと怖いことを言う紳士である。
「で、何で燕馬さんは魔法少女なの!?」
「この間、魔法少女仮契約書を手に入れたから、使ってみようと思って」
くるりん☆ とターンして、フリルのコスチュームをみせた。
頭にぴょこんと猫耳。お尻にはひょろりと尻尾まで。肉球のついたグローブでポーズ。
「にゃんにゃん♪」
リューグナーはすごい顔で、パートナーの凶行を見つめた。
「……そう言えば、出てくる前にファンブロウさんと何か話してましたわね?」
「ああ、三枚貰ったから、一枚は彼女にあげようと思って」
「もう一枚は?」
「ここに来た記念にするよ……にゃんにゃん♪」
「……なんかムカついてきましたわ」
「はうぅ……」
ふと奏が車のまわりをウロウロしているのに気付いた。
「どうしたの? もしかして……何か轢いちゃった?」
燕馬は尋ねた。
「はぅ……あ、あの、缶詰なんですけど……」
「缶詰?」
車の下から、夏場の台所の三角コーナーに一週間放置された生ごみの臭いを、更に30年コトコト煮込みましたよ的な、凄まじい臭いが漂ってきた。
「おえええっ!! なんだ、この臭……おえっ!?」
「ゲホッゲホッ! い、息が出来ませんわ!」
その場にいた全員が苦しみ出した。
「奏……もしかして、あの缶詰を?」
ミリアは鼻を押さえながら言った。それは、海底からサルベージした明らかに腐ってるスーパーヤバイ缶だ。
「そ、そうです……」
奏はコクンと首を縦に振った。
「な、なんであんなもの持ってきたの!?」
「な、なんとなく……」
「なんとなくで持ってこないで!」
車をロボ形態にして、一同は聖堂に足を踏み入れた。地下に続く階段を降りてしばらく、研究施設が見えてきた。
「……とっつぁん。始めようか」
「ああ」
燕馬と颯馬は頷き、施設の破壊を始めた。
PCや書類、デスクの上にあったものを床にばらまいて、燕馬は火を点けた。
颯馬は戦闘用イコプラ”焔虎”と”鋼竜”で実験器具や装置を徹底的に壊した。
「何をしてるの?」
翠が訊いた。
「ここの施設がもう使われないようにしてるのさ。今回、上手くいけばナンバーゼロは大丈夫だ。けど、また第2、第3のガーディアンが作られるとも限らないからね」
「不安の芽は早めに摘み取るんじゃ」
それから一同は最下層に。
翠とサリアの待ちに待ったこの場所だが、既にそこは空っぽだった。
「えー、何もないよぉ?」
正確にはさっきまであったが正しい。お披露目のため移動されてしまったが、2、3時間前までここにガーディアン・ナンバーゼロがいた。
それこそが、彼女達の、いやこの時代に送り込まれたコントラクターの最大の目的だ。
「横道……?」
サリアは大きな横穴があることに気付いた。ずっと奥まで続いていて、その先は暗くてよくわからない。
「……佐藤さんがいません」
リューグナーの一言で皆、はっとした。
「あれ? どこに行った?」
「さっきまでここにいたのに……」
「奏、どこぉーーーー?」
「皆さーん、どこにいるんですかぁー?」
奏は案の定、横道に迷い込んでいた。
迷い込む余地なんてないんだけど、迷い込んじゃうのが彼女のすごいところだ。
「……あ。誰かいました」
よかったー、と駆け寄ったところにいたのは、教団の神官だった。
彼らの横には巨大な三つ首の竜がいた。
竜は背中に呪文を施したクサビを打たれ、その力を極限まで縛られていた。首には同様の首輪がされ、それで操られているようだった。
「……なんだお前は?」
神官は言った。
けれどその言葉は奏に向けられたものではない。
彼らの視線の先には異形の存在……エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)だったものの成れの果て、ヌギル・コーラスがいた。
「ククク……」
神官の一人を片手で持ち上げると、その腕が蠢く無数の触手に変わり、哀れな神官を食らった。
ここまで何故、守護者の聖堂の見張りに出会わなかったのか、その答えがここにあった。いなかったんじゃない、ヌギルに食われたのだ。
ヌギルは値踏みするように竜を見つめた。
「……ふむ、強大な力を持ち、守護者と名付けられた怪物か。面白い。この因子を取り込めれば、私の力も次ぎなる領域に到達することでしょう……」
「やめろ。”ナンバーゼロ”に手を出す……ぎゃあああっ!!」
「意見は求めておりませんよ」
残った神官を食い散らかす。
するとそこに、上階からサマーブルーとレジスタンスが雪崩れ込んで来た。どうやらここは大神殿の直下にある地下空間らしい。
「……な、なんだこの怪物は!?」
「やれやれ……」
ヌギルはさほど興味もなく、彼らを見た。
「もう満腹なのでね……出来れば、私の邪魔をしないで頂きたいものですねぇ」
「貴様も教団の仲間か!」
サマーブルーは鷹のような目で睨み付けた。
「教団にとっては敵でしょう。ただ……あなた方にとっても敵ですが」
ヌギルは身も凍る殺気を放った。
「はわわ……よ、よりによってとんでもないとこに来ちゃいました……!」
奏は慌てて来た道を引き返そうとした。
ところがその時、異変が起こった。
これまでぼんやりとしていた竜……ガーディアン・ナンバーゼロが唸り出したのだ。
時刻は17時を過ぎた辺りだった。本来なら彼のお披露目が行われている時間だ。
「ゴガアアアアアアァァァァァァッッ!!!」
咆哮を上げたその瞬間、背に刺さったクサビが次々と飛んだ。首輪も亀裂が走り、砕け散った。
縛るものが無くなったゼロの身体はみるみる間に倍に、さらにまたその倍に、むくむくと大きくなっていった。
「……暴走か」
ヌギルはそう言うと、取り込んだクルーエル・ウルティメイタム(くるーえる・うるてぃめいたむ)の力を解放した。もう一方の怪物である彼は、ナンバーゼロを食らおうと襲いかかった。
「グゴアアアアアアァァァァァァ!!」
だがしかし、次の瞬間、食われたのはヌギルのほうだった。
「!?」
肩に噛み付かれ、そのまま半身が持っていかれた。
「何だと……!?」
血ともヘドロともわからない体液を撒き散らし、彼は崩れた。
「止めろ! 奴を上に行かせるな!!」
サマーブルーは叫んだ。
ライフルを構えたレジスタンスが銃火を浴びせるが、ヌギルが歯が立たなかったものにそんな豆鉄砲が通じるはずもない。
「ゴガアアアアアアァァァァァァッッ!!!」
ナンバーゼロの巨大化は留まることを知らず、とうとう天井を突き破り、神殿の底から姿を現した。
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