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【裂空の弾丸】Knights of the Sky

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【裂空の弾丸】Knights of the Sky

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第1章 生ける者たちの決戦 2

「どあああああぁぁぁぁぁっ!」

 ズガガガガガガガガガガガガガガッ!

 相沢 洋(あいざわ・ひろし)が乗る小型飛空艇ヘリファルテの機関砲が激しく火を噴いた。
 機関砲から放たれる銃弾は次々と戦闘員の空賊や機晶兵どもを撃破していく。
 そう。迎え撃つはドクター・ハデス。ホープ・シーカーを狙ってきた悪の科学者であった。
「秘密結社オリュンポスの科学者、ドクター・ハデスよ! 懲りずに飛空艇を狙いに来たか!」
 洋は飛空艇の上に腕を組んで立っているハデスへ、激情をぶつけた。
 するとハデスはまるでそれを嘲笑うかのように、指先で眼鏡をくいっと持ちあげた。
「当然だ! その飛空艇があれば、オリュンポスはさらなる力を手に入れることが出来る! 世界征服にまた一歩近づくのだぁ!」
「くっ!? そのようなこと、させるものか!」
 叫び、洋は再び小型飛空艇で突撃した。
 銃砲が火を噴き、幾人もの戦闘員を撃破していく。
 が、多勢に無勢だ。さすがの洋も小型飛空艇を戦闘員たちに囲まれる。
 そのとき、戦闘員どもを蹴散らしたのは壮大なる火炎であった。

 ゴオオオオォォォウッ!

「これは……っ」
「洋さま! ご無事ですか!」
「みとっ!」
 火炎の中から現れたのは、乃木坂 みと(のぎさか・みと)だった。
 中空に浮かぶ小型飛空艇オイレに立つみとは、フロンティアスタッフと呼ばれる杖をかかげて呪文を紡ぐ。
 火炎が周囲へと拡散して広がり、洋を囲んでいた戦闘員たちを火の渦に巻き込んだ。
「どうして、お前がここに……」
「じっちゃんっ! 僕もいるよ!」
 と、みとの後方から駆けつけたのは相沢 洋孝(あいざわ・ひろたか)だった。
 小型飛空艇アルバトロスに乗って、陽気な顔で笑みを作っていた。
「洋孝……」
「あっと、忘れちゃいけないよね。もちろん、あの子もいるよ」
「あの子?」
 振り返った洋が見たのは、小型飛空艇ヴォルケーノに乗っていた寡黙な少女のエリス・フレイムハート(えりす・ふれいむはーと)だった。
「…………」
 茫洋とした光をその瞳に宿す少女は、過去の記憶を失った剣の花嫁である。
 そのためか、どこか機械人形のように淡々と作業をこなす癖がある。
 また自分が彼らと違うと感じているのか、洋たちにも距離を置く節があった。
「エリス……」
「……今回もまた特攻ですね。しかし、一人で先行するのは賢いとは言えません。以上」
 エリスはそう言うと、洋を値踏みするように見た。
 それが自分を試しているように、あるいはたしなめているように感じられて、洋は笑った。
「そうだな」
「洋さま、増援の瑞樹さまたちもすぐにいらっしゃいます。ここはわたくしたちで侵攻を止めましょう」
「もとより、そのつもりだ。洋孝、エリス、いいな」
「もちろん!」
「了解。以上」
 二人が返事を返す。すると、洋は突撃前にエリスに振り向いた。
「エリス」
「……はい。なんでしょうか? 洋様」
「お前は立派な俺たちの仲間だ。そのことを忘れるなよ」
「…………」
 それはエリスが感じている距離というものを悟ったうえでの言葉だった。
 しばらく黙っていたエリスは、やがてそっと答えた。
「了解です」
 声音は機械的に聞こえたが、洋はそこにこれまでにない感情があるように思えた。
 あるいは願いかもしれないが、いまはそれで良いと思えた。
「さあ、いくぞ!」



「キーッ!」
 ハデスの放った戦闘員たちが、中古の小型飛空艇に乗って襲いかかってくる。
「うわわわっ! こ、こっち、来ないでください〜っ!」
 一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)はすかさず機械翼のバーニアを噴かしてそれを避けた。

 ズゴォッ! ズゴォ! ズゴォッ!

「キャア〜〜〜〜〜!」
 戦闘員たちの突貫攻撃は休む間もなく続く。
 それをなんとかかんとか避けながら、瑞樹は一瀬 真鈴(いちのせ・まりん)七瀬 紅葉(ななせ・くれは)雪風 悠乃(ゆきかぜ・ゆの)といった仲間と合流した。
「もうっ! 嫌になっちゃいます! あんな攻撃の仕方!」
「文句言ってもしょうがないですよ、お姉ちゃん。それが悪役ってもんです」
 ぷんすかと怒る瑞樹を、妹分の機晶姫である真鈴がなだめた。
 どうやら姉と違って彼女は温和な性格のようだ。妹に諭された瑞樹はぶ〜っと頬を膨らませた。
「そんなこと言ったってぇ! ふ〜んだ、こんなとき、渉さんならきっと『ふっ……それは瑞樹さんがカワイイから、敵もその魅力に夢中になってるんだよ』とか気の利いた一言ぐらい言ってくれるのにぃっ!」
(きっとそんなことはないと思う……)
 あの渉がそんなキザな台詞を言うところは想像が出来ない。
 姉の脳内妄想に呆れながら真鈴は思ったが、姉思いの妹である。わざわざ口にしたりはしなかった。
 代わりに彼女が気にかけたのは、最も戦いに不慣れな悠乃であった。
「ところで悠乃さん、大丈夫ですか? 疲れてたりはしませんか?」
「だ、大丈夫です……なんとか……」
 まだ機械翼のバーニアコントロールに適応しかねているのか、彼女はフラついていた。
「あっ……」
 と、彼女の肩を掴んで、紅葉が後ろから支えてくれた。
「大丈夫ですか? 無理はしないでくださいね」
「あ、ありがとうございます、紅葉さん」
「どういたしまして。これぐらい、僕でよければいつでもどうぞです」
 慌ててお礼を言う悠乃に対して、紅葉はにこっと笑った。
 その言葉にどれだけ救われたか。悠乃は少しだけ気力が回復したような気がした。
 反面、瑞樹はまだ妄想の中にトリップしている。
「渉さんっ……ああ、駄目っ! そんな急に! 大胆ですっ! あ、『愛してる』だなんて、いや〜〜ん!」
「もう、お姉ちゃん! いつまでやってるのよ!」
 と、真鈴が怒ったところで、
『瑞樹さん? 真鈴さん? 聞こえますか?』
 それぞれの耳元に装着されている通信機から、本物の渉の声が聞こえた。
「ひぁっ!? わ、わわ、渉さんっ!?」
『はい、そうですけど……どうしたんですか? 瑞樹さん、そんなに慌てて……』
「い、いえいえいえいえっ!? な、なんでもないっ! なんでもないんです! むっちゃなんでもないです!」
『むっちゃ?』
「いえ、むっちゃというかスゲーというかっ!? と、とにかくなんでもないんです!」
 慌てすぎて自分でも何を言っているのか分からない瑞樹である。
『そ、そうですか……』
 渉も訳がわからないようだったが、とにかく言われるままに納得した。
 なぜなら、いまはそれよりも大事な用件があるからだ。
「渉さん、なにか報告でもあったんじゃないんですか?」
 それを指摘したのは真鈴であった。
『あ、そうでしたっ。実は、こちらで独自に調べた空中生物や機晶兵についてのデータがあるんです。これからそちらに送りますね』
 そう言って、間もなくして四人の身体に装着される小型端末にデータが届いた。
 モニタに映ったのは機晶兵や空中生物の姿である。その横に、各種攻撃パターンや耐久度を示した数値が載っていた。
『これなら、少しは戦いもマシになるのではないでしょうか?』
「ううんっ! マシなんてどころじゃないですよ! さすが渉さんですぅっ!」
 露骨に瑞樹が目をキラキラさせる。
(こんな素敵な人が恋人だなんて、ああっ! 私はなんて幸せな機晶姫なんでしょうかっ!)
 ……なんてことを考えているのが見え見えだった。
 真鈴は頭を抱えながら、なんとかその場を取り繕う。
「ま、まあ、とにかく……これで戦いを有利に進められますね! では皆さん、行きましょう!」
「はいはーい! 真鈴さんっ! 僕、一つ提案があります!」
 紅葉が元気よく手を挙げた。
「はいどうぞ! 紅葉ちゃん!」
「今こそ四人で合体! 機晶姫パワーを見せつけるときでは!」
「そ、それってもしかして……『超☆機晶合体』のことですか……? 私、ちょっぴり不安です……」
 そう。四人は実はこの日のために四人で合体して戦う訓練をしていたのだ。
 それが何になるんだと言われれば答えに困るが、合体は浪漫である。イイ感じに言うとロマンだ。異論は認めない。
(※正直なところを言うと、パワーアップということだが)
 ただ、この四人合体は四人全員の呼吸とタイミングを合わせる必要があり、悠乃は練習でも失敗を繰り返していたのだ。
 不安げに目を伏せる悠乃に、紅葉が言った。
「大丈夫ですよ! 悠乃さん! 自信を持って下さい! きっと成功しますよ!」
「紅葉さん……」
 悠乃は顔をあげた。
 いつもいつも紅葉にはなぐさめられてばっかりだけど、今度は逃げるわけにはいかない。
(兄様のためにも……!)
 悠乃は決意したのだ。渉のためにもきっと役に立てる機晶姫になると。一人前になると。
「私、頑張ります!」
「うん! その意気だよ!」
「よし、それじゃあ、機晶合体しますか! ね、お姉ちゃん! ……お姉ちゃん?」
 真鈴が振り返ると、瑞樹はとっくに別世界に突入していた。
「そしてそれから結ばれた二人のアフターストーリーが始まるの……。『あなた、ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも、わ・た・し?』『決まってるじゃないですか、もちろん瑞樹さん……あなたですよ……』。なーんちゃってなんちゃって! ……ぐふっ……ふふっ……どぅふふふっ!」
「お、お姉ちゃん……」
 口許から涎を垂らして、もはや気持ち悪い域に達している姉に真鈴は頭が痛くなる。
「お姉ちゃん!」
「っ!? は、はいっ!」
 ようやく瑞樹は意識を取りもどした。
「あっ、あれ?? お風呂は? お食事は? 夢のマイホームはっ!?」
「いいからいいからっ! ほら、機晶合体するよ!」
 真鈴は瑞樹の背中を押して、合体のためのポジションに着かせた。
 四人はそれぞれに一定の距離を取って円を描いた。そして心を一つにするべく集中する。

 ウォォォォン……――

 機晶石が輝きを放ち始める。
 互いの鼓動が聞こえる。響きが聞こえる。共鳴していく。
(みんなの声が聞こえる……みんなの、心を感じる……)
 四人はそれぞれの心とリンクし合った。その瞬間である。
 カッ! と、四人の目が同時に見開いた。

「「「「超☆機晶合体! Windy Fairy!!」」」」

 キュピイイイイイイィィィィィィィンッ!

 光の中で、四人の姿が一つになった。
 やがて白き光が消えたとき、輝きのもとにいたのは一人の少女。
 顔は瑞樹だ。そして中心に彼女の機晶石。左右の肩パーツに一つずつ、そして頭部に一つ。
 合計四つの機晶石を抱いた少女が、そこにいた。
「せ……成功した……」
 どうやらベースは瑞樹になっているようだ。
 魔砲少女とでも言うべき格好に、真鈴、紅葉、悠乃のパーツをそれぞれ両肩と頭部と脚部に装着した彼女は、体内から充ち満ちてくるパワーに自分自身が圧倒されていた。
 と、そこで別の声がかかった。
〈無事に成功しましたね、お姉ちゃん!〉
「真鈴ちゃん!?」
 いったいどこから聞こえてくるというのか。
 よく見ると(瑞樹からは見えないが)、頭部の機晶石の中にデフォルメされたちびっこい真鈴の姿が浮かんでいた。
「な、なんでそんなところに?」
〈なんでって言われても……そういうものだからでしょうか? ほら、私は全体の支援担当なんで〉
「ってことは……もしかして……」
 瑞樹は両肩に視線を動かす。すると、案の定の声が聞こえてきた。
〈うわー、初めて成功したけど、こんな感じになるんですね〉
〈な、なんだか……変な気分です……〉
 紅葉の悠乃の声である。
 順応性の違いか。紅葉はすっかり機晶石の中に馴染んでおり、悠乃は困惑しているようだった。
「でも、二人で合体したときはこんな風にはならなかったですし……。もしかして、これも浮遊島の力でしょうか?」
〈さあ、それは分かりませんけど……とにかくお姉ちゃん! 戦いに集中して!〉
「え?」
〈――来ます……っ!〉
 悠乃が警告したその直後、
「キーッ!」

 ゴオオォォォッ!

「キャアアアアァァッ!」
 戦闘員服の空賊や機晶兵が突撃してきた。
「ハーッハッハッハッ! その程度か、ベルネッサの仲間たちよ!」
 その背後にはドクター・ハデスがいる。
「すまん、瑞樹たち! ハデスたちの侵攻を許してしまった!」
 小型飛空艇で迎撃に回る洋が言った。
 もちろん彼らも決して手を抜いたわけではない。しかしながら、銃火器の弾数にも限りがあるし、小型飛空艇もすっかり破損している。
 その激戦ぶりは機体が物語っていた。
 が、瑞樹はむしろ待ってましたというようにニヤリと笑った。
「相手にとって不足はないですよ! せっかく超合体したんです! こちらの実力を思う存分見せつけてやりましょう!」
〈はいです!!〉
 真鈴、紅葉、悠乃が呼応する。
「お前たち……」
 洋が感心めいた声を発するや、瑞樹は敵部隊に突撃した。
「ハアアアァァァ!」

 ゴオオオオォォォオウッ!

「いっけええぇぇぇぇ!」
 瑞樹の叫びとともに、

 ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!

 機関銃、ミサイルポッド、スナイプといった無数の銃火器が一斉に放射される。
 戦闘員たちは次々とそれに撃破されていった。
 更に――

 ガチャッ!

「シュートオオオオォォォ!」
 瑞樹が構えた魔導砲から魔力レーザーが発射された。

 シュゴオオオオォォォォ! ズゴゴゴゴゴッ!

 レーザーが、放射線状にいた敵を次々と墜落していく。
 その破壊力たるや、破壊神のそれだ。一気に半数ほどの味方を削られたハデスは苦々しい顔をした。
「くっ! やるな、超機晶合体とやら! ならばこちらも! ヘスティア! アイトーン! ペルセポネ! 機晶合体だ!」
「はい! ハデス博士!」
「了解だ、ドクターハデス!」
「わかりました、ハデス先生!」
 三人は返事をするやいなや、動き出した。
「まさかっ!?」

 ガシャッ! ガチャ、ガチャ、ガッチャーン!

 目を見開く瑞樹の前で、まずはヘスティアとペルセポネがドッキングする。
 続けざまに、ボディが分解したアイトーンが、ベース素体となっているペルセポネの背中や足に合体した。

 ヒューン、ガコッ!

 そして完成したのが、一体の機晶姫だ。

「機晶合体、グレートオリュンピア!」

 三体の機晶姫が合体したその姿は、瑞樹たち四人の合体した姿に負けず劣らなかった。
「向こうも合体で来るなんて……しかも今度は三体!?」
〈落ち着いて下さい、お姉ちゃん。敵がオリュンピアという機晶合体技術を持っていたのは、知っていたはずでしょう〉
〈そうですよ、瑞樹さん。落ち着いてやれば、きっと勝てます〉
 紅葉も声をかけるが、瑞樹の動揺は静まらなかった。
「でもっ……」
 そのときである。
「!?」
 隙を突いたオリュンピアのミサイル攻撃が、瑞樹に襲いかかった。
〈――危ないっ!〉
 真鈴が叫ぶが、瑞樹の反応は一歩遅れる。
 が、その左腕に開いた防御シールドの盾が、かろうじて攻撃を受け止めた。

 ズガアァァンッ!

「悠乃さんっ!?」
〈……だ、大丈夫ですか……瑞樹さん……〉
 悠乃はダメージを負った痛みに耐えながら、瑞樹に投げかけた。
「それよりも、悠乃さんのほうが……」
〈私のことなら、心配しないでください……。ちょっと、頭がクラクラしただけですから……〉
 実際、なんとか瑞樹本体そのものには致命的なダメージはなかった。
「ちっ……仕留め損なったか」
 その瑞樹を確認してからハデスがつぶやく。
 悠乃は瑞樹に声をかけていた。
〈大丈夫です。瑞樹さん……きっと、私たちなら、出来ます……倒せますよ……〉
「悠乃さん……」
〈だって、超☆機晶合体なんですから。超ですよ、超……勝てなきゃ、おかしいですよ〉
 悠乃にだって不安や恐怖はあっただろう。初めての四人合体の実戦に、こんな大規模な戦いだってそう何度も経験してるわけじゃない。
 しかし彼女は笑っていた。それはもちろん、瑞樹を勇気づけるためだ。
(ここで引き下がったら……私は本当の大バカ者です!)
 瑞樹はキッと目を吊り上げて、ハデスとオリュンピアを見あげた。
「むっ……やる気か。逃げてもかまわんのだぞ? なにせ相手は世界最高の天才科学者ドクター・ハデス様だ! 逃げても恥ではあるまい! フハハハハハハハ!」
「いいえ、逃げません! そっちは三人の合体! こっちは四人の合体!」
 瑞樹は指で四の数字を作った。
「四のほうが、大きいんですからね!!」
「………………」
 ハデスが何を思ったかは知るよしもない。
 が、彼はそのとき、自分でもこれまでにないぐらいニヤリと笑っていた。
「――面白い! やれるものならやってみるがいい! さあ、いけオリュンピア! 奴らを叩きのめすのだ!」
「了解です!」
 突撃してくるオリュンピアを見据えて、瑞樹は言い放った。
「勝負は、まだまだこれからですよ!」