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リアクション
第2章 ホーティ義賊団のファーストミッション 1
かつて、この空のシンボルとして輝いていた天空城。
その内部に侵入した盗賊、もとい義賊の三人がいた。
「ほ、本当に分かれるんですかい?」
濡れた子犬のような瞳をするは、“怪力”バルク。
「……必ず、壊す」
虚ろな瞳に確かな闘志を宿すは、“純白の幼鬼”ルニ。
「そいじゃ、アダムの驚く様を見るため、一肌脱ぐとするかね!」
いつも通りの我らがリーダーは、“魔性の棘”ホーティ。
ここにホーティ義賊団、ありけり。
「それじゃあたしは堂々、中央からお邪魔するからあんたらもぬかるんじゃないよ!」
「後で」
ホーティとルニはそれぞれが襲撃するコンピュータ室へと走っていった。
「……ここは確実に一個ずつの方がいいと思うんだけどなぁ」
一人、取り残されたバルク。程なくして彼も動き出す。向かうはサイドコンピュータ室A。
「それと、俺は【剛力】バルクだ! 三度目はないからな!」
誰に言うのか、奇声を上げながら気の小さな大男がどしどしと走っていく。
「お、おじゃましま〜す……」
サイドコンピュータ室Aの扉をゆっくりとあけるバルク。
「だ、れもいないのか?」
「よーし! それじゃさっさとコンピュータ、破壊しちゃおう! どーん!」
バルクとはうって変わり、扉を蹴破るように開けたのは小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)。
「ば、ばか! そんな乱暴にしたら怒られるだろうが!」
「……元気で結構」
「!?」
声のした方を振り向けば、今まで何もなかった場所には“青き風”。
白いアシンメトリーの髪が特徴的な四騎士の一人、キジュがいた。
「にしても、そちらの大男は品がないですね。一度生まれ変わった方がよろしいかと」
敬語ながらも、明らかな侮蔑と敵意を含ませた物言いだ。
しかし、意外におバルクは怒らない。
「ところでコンピュータってのはそっちのでいいのか?」
キジュには目もくれずにコンピュータを見やる。そんな態度をとられたキジュが眉をひそめる。
「余裕ですね。この青き風のキジュを前にして」
「まあ、余裕だし、な」
瞬間、バルクの姿が消える。と思いきやコンピュータの前に現れ、瞬きする間もなくコンピュータを一撃で破壊した。
「なっ!?」
「……まあ、俺の役どころは『冴えない団員』。だが今は時間が時間だ。超特急でやらせてもらった。……次は、お前がやるか?」
その大きな拳に目に見えるほどの闘気を纏わせたバルク。
「それとな、本当はバルクでも“剛力”でもなんでもねぇんだ。……“闘鬼”、そう呼ばれるだけのつまらない存在なのさ」
ここにきて明かされるバルクの正体。“闘鬼”の力が、今ここに―――。
「―――でへっ」
「ば、バルクさん?」
急に立ち止まったバルクが心配になり、声をかけたのはベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)。
しかし、バルクは何も返事をしない。どうやら、己の妄想に逃げ込んだようだ。
逃げ込んだ際の瞬発力は、眼前に立つキジュをも超える、かもしれない。
「バルクってば……まあいいや。とりあえず、コンピュータを破壊だー!」
バルクに変わり美羽が動く。キジュには目にもくれず、コンピュータへ向かう。
「ふむ、お転婆な子ですね。おいたはいけませんよ?」
美羽より後に動いたにもかかわらず、その瞬発力を活かし美羽の前へと立ちはだかるキジュ。
「むっ、速い……」
「四騎士の中で、一番速いですから」
キジュのスピードの前では、キジュを出し抜きコンピュータを破壊するのは困難だろう。
「下がってください。私が、お相手しますから」
二人の様子を見ていた富永 佐那(とみなが・さな)が美羽に呼びかける。
「でも……」
「あなたには、大役があるじゃないですか。ですからここは私が」
「……うん、でもいざとなったら助太刀するよ!」
「ありがとうございます」
佐那の言葉に了承し、美羽が下がる。
佐那が前に出ると同時にエレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)も前に出る。
「これはこれは、貴方たちのような方が賊の真似事とは。感心いたしませんね」
「あら、賊はどちらですの? アダムとやらが蘇れば世界の混乱は必然。それを考えれば、貴方たちの行いの方が余程と思うのですが?」
キジュの言葉に毒舌で返すエレナ。
「それに、あなたの気品など程度がしれています。所詮、上辺だけですわ」
「ええ、よく言われます。しかしそれが私の目指す気品! 他の者に何と言われようと、そこは譲れぬのです!」
大げさな身振り手振りで自身の求める気品を語るキジュ。
「キジュさん。貴方とは、違う形で出会えていれまた別の関係を築けたかもしれない。それが口惜しくてなりません」
「ならば今から手を繋ごうではありませんか。昨日の敵は今日の友、ああ美しい!」
「それはできません。ですので、お相手願います」
佐那が臨戦態勢に入ると、キジュは残念そうな顔をしながら言う。
「……よいでしょう。せめて苦しまぬ一瞬に、屠って差し上げますっ!」
言い終わるより早く、キジュが空を裂く。
初速から最大加速で動くキジュに対して、一歩遅れながらも佐那も行動を開始。
「瞬発力なら負けられませんっ!」
『風術』を使い、風を張り巡らせ、その中を【グラウスアヴァターラ・ベスト】を装着した佐那が駆ける。
「なるほど。口だけではないようですね」
「風と私ならば、あなただって打ち倒して見せます!」
「それは、どうでしょうかね!」
やはり、瞬発力ではキジュに分がある。風を感じながら『殺気看破』も併用する佐那であっても反応が遅れる。
その一瞬の遅れに、羽がついたナイフが飛来する。
「これならっ!」
【無光剣】で全てのナイフを切り払う佐那。しかし、キジュは止まらない。
「遅いですよ」
佐那の背後に回りこんで止めを誘うとするキジュ。その一撃は、間違いなく佐那を屠るだろう。
その危機に、バルク参上。
「はっ、お、おれは一体何を……というかなんか風がすごく、さむっはッはっはっくしょおおおおい!!!!」
特大のくしゃみをコンピュータ室に響かせる。
それに対して、キジュが過敏に反応を示した。
「き、気品がない気品がない気品がなーい! あなたにはどうしてそう、気品がかけているのですか!?」
「そ、そんなこと言われても生理現象だし……」
いきなりキジュに叱られたバルクが頭をかく。それをみたキジュは「キィイイイイー!」と奇声を上げながら地団駄を踏んでいる。
「その隙、自信からくるものなら命取りですよ?」
「な、しまっ」
隙を見逃さなかった佐那が高く飛び、特殊力場【небесный】を展開。
全ての装置を片足に集め『超高度キック』と『嵐の使い手』を自身に発動し、威力を上乗せ。
「これは、おまけですわ!」
それを見たエレナも『ファイアストーム』をキジュに放つ。
「この程度の炎ならばっ」
キジュの周りを青い風が舞い、ファイアストームをかき消していく。だが、炎をかき消していたのはキジュだけではない。
炎を押しのけ、現れたのは暴風。
「こちらが、本命ですか! ですがそれでも、私の風は破れません!」
「あなたの風は、私の風でこじあける!」
青き風と蒼き風が衝突する。室内とは思えない程、強風、暴風が入り乱れる。
「とーぶー!」
「きゃああああ!」
「あぶねぇ!」
吹っ飛ばされそうになる美羽とベアトリーチェをバルクが風から守る。
やがて、風が止んだ。勝ったのはキジュの風か、佐奈の風か―――――。
「……どうやら、今回は私の勝利ですね」
佐那の捨て身の一撃。
それをもってしても、キジュの風を完全に打ち破ることはできなかった。
「いいえ、私たちの勝利です。……エレナ!」
「最高のお手並みでしたわ。……我が名に於いて請う。己が羨慕せしものを悉く凍て付かせ我が物とせん――此処に謹んで御名を呼び奉る。リヴァイアサン!」
出でたるは巨大な海蛇の怪物、『召喚獣:リヴァイアサン』。リヴァイアサンはキジュへと向かう。
「その程度、防げないとでも……」
「あなたの風が完璧ならば、でしょう? すでに風穴はあけさせて頂きました」
佐那の言うとおり、キジュの風には微かに穴があいていた。そこ目掛けてリヴァイアサンが突進する。
風穴を中心に青き風にぶちあたると、風はみるみるうちに綻んでいく。
「そ、そんなっ!」
「もう遅いですわ。リヴァイアサンは、あなたを捕らえたのですから」
「ぐ、ぅああ、あああああああ!」
最後に美しくも気品もない悲鳴をあげ、キジュはリヴァイアサンに飲み込まれた。
青き風と蒼き風の激闘は、蒼きの勝利に終わった。
「ふぅ、俺が本気を出すまでもなかったか」
「もー言い訳はいいからさっさと壊すよっ!」
いい所があまりなかったバルクが自分をフォローする横で、美羽がコンピュータを壊す。
「ちょ! いきなり壊すなよ! 取り返しのつかないことになったらどうす」
「さあーつぎにいこー!」
バルクの話も聞かずに美羽は言ってしまった。
「か、帰りたい……」
「バルクさん。先ほどは助かりました」
そんなバルクのもとへ佐那がお礼を言いに来た。どうやらくしゃみへの礼らしい。
「あ、いや、ぶっちゃけ俺は何も……」
「いえ、あのくしゃみがあったからこそ捨て身の攻撃に移れたんです。本当に、感謝してます」
「そ、そうか? へ、へへっ」
「それじゃ私たちも行きましょうか」
「ああ! そうだな!」
そう言って、二人は美羽を後を追う。
バルクvsキジュ バルク(というか佐那)の勝利!
残り制御コンピュータ 2つ
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