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【裂空の弾丸】Knights of the Sky

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【裂空の弾丸】Knights of the Sky

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第1章 生ける者たちの決戦 6

 天空城には砲台がある。
 いわばそれは空に浮かぶ要塞なのだ。城単体でも、飛空艇とやり合えるぐらいの火力は持ちあわせている。

 ズゴオォッ! ドゴオオォォォンッ!

 インテンス・ディザスター(戦艦モード)へと変形を済ませた飛空艇と天空城が、主砲を撃ち合う激戦を繰り広げていた。
「くっ! 被害報告! 急いで!」
 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)の声が飛んだ。
 艦のメインコントロールそのものはアルマが担っているが、指揮を補佐するのはローザマリアの役目である。
 彼女の指示に従って、スクリーン前の複数のオペレーターが叫んだ。
「右舷機関室破損っ! 機関砲使えません!」
「ジェネレータ出力16%ダウン! サブ機関に移行します!」
アークシールド展開! エネルギー最大出力!」
 ローザマリアの叫びが轟くと、飛空艇の目の前にエネルギーシールドが広がった。
 中心にあるのは黄金の顔である。飛空艇から放射されるビーム砲が、シールドにぶつかって戦艦を揺らした。

 ドゴオオォォォンッ!

「きゃあああぁぁっ!」
「慌てないで! 衝撃を受けただけよ!」
 次いで彼女は、砲手に指示を飛ばした。
ブラスターキャノン発射準備! 左舷及び右舷砲手はレーザー砲で支援を!」
「了解!」
「ローザマリア……アーカムスラスターはどうしますか?」
 たずねたのはアルマだった。
 複数の空中モニタに目を配る彼女は、スラスターのエネルギーゲージを見つめていた。
「……ワープに使ったエネルギー量の回復は?」
「およそ63%回復。完全とは言えませんが、なんとか使用可能です」
「…………」
 ローザマリアは決断に躊躇した。
 エネルギーの無駄遣いは出来ない。仮にシールドに回す分までもが失われた場合、強固な装甲と外壁を持つ天空城のほうがはるかに有利になってしまうのだ。
(でもっ……勝つためにはやるしかない……!)
 そう。逃れるための方法ではない。勝つための方法を選択せねばならないのだ。
 無転砲を止めるためにも。
 ローザマリアは告げた。
「アルマ、アーカムスラスター展開。機動力を生かして――避けられる?」
「敵の砲撃を?」
「ええ」
 なかなかに無茶な注文を言っていることは自分でも承知していた。
 が、やらねばならないのだ。アルマもローザマリアの気持ちは察していたようだ。
「……やってみせます。任せて下さい」
「お願い」
「ローザマリアさん! 主砲発射準備できました!」
 オペレータの声が飛んだ。
 スクリーンの一部に映るセンサーと照準画面。ローザマリアは目の前のコンソールに手を掛けた。
 タイミングを計る。勝負は一瞬。敵の破壊力を削がなくては。
 照準が一致したその瞬間――
「発射!」

 ドオオォォォウッ!

 主砲が咆吼した。



「あれはっ!?」

 ドオオオオォォォォォォォォォォォォンッ!

 主砲から放たれた巨大なビーム砲が、天空城を直撃した。
 それを甲板で見ていたのはグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)とフリューネ・ロスヴァイセだった。
 だが、彼女たちだけではない。甲板にはもう一人の人物がいた。
「ブラスターキャノンか……っ!」
 目を見開いていたのは、ドクター・ハデスだった。
 なんと彼はワープに巻き込まれ、飛空艇と一緒に天空城までついてきてしまったのだ。
 それを結界で甲板に閉じ込めたのが、グロリアーナとフリューネだ。
 三人は結界の中で戦いを繰り広げている最中に、その光景を目の当たりにしたのであった。
 更に言えば、ハデスにとってはもっと驚くべきことが起こっていた。

 ドゴォッ! ドゴォッ!

「なんと……っ! あの主砲を受けても、まだ墜ちんというのか!?」
 ハデスは以前、ブラスターキャノンによって退けられた過去がある。
 インテンス・ディザスターが誇る主砲の威力は身を持って知っていた。
「それだけ、敵は強大ということだ」
 グロリアーナが天空城を見つめながら言った。
「それでもまだ、キミは戦う気なの?」
 たずねたのは、フリューネだ。
「…………」
 ハデスは攻撃の手を止めて、なにか考えこむような目で天空城を見つめた。
「そなたの力はわらわたちも認めているつもりだ」
「今だけでいいわ……力を貸してくれない?」
「俺が、力を貸すだと?」
 ハデスは眉をひそめた。
「ええ、そう……。この機晶石、知ってる?」
「融合機晶石か……」
「ワープの直前、リネンに渡されたの。『ベルネッサを頼む』って」
「…………」
「このままじゃその約束も果たせなくなる。それに、この地上だってどうなるか……」
 目を俯けたフリューネを見て、ハデスはそもそもの発端を思いだしていた。
「無転砲か……」
 地上だけではなく地球すら吹き飛ばそうとする最悪の機晶兵器。
「そんなものを使われては、もはや悪の科学者どころではなくなるな……」
「ハデス……」
 グロリアーナがつぶやくと、彼は彼女たちに振り向いた。
「悪だ! 奴らはまさしくな! そして俺も悪! 悪の秘密結社オリュンポスの幹部、天才科学者ドクター・ハデスだ! しかし! 悪は支配してこそ悪と呼べる! 全てを破壊してしまおうなどとは……そんなものは悪でもなんでもないっ!」
「ハデスさん……」
「今回限りだがな! この悪の天才科学者ドクター・ハデスが、お前たちの味方をしてやろう! ありがたく思え! フハハハハハハハハハハハハハッ!」
「ああ、ああ、存分にありがたく思ってやるとも」
 グロリアーナは微笑しながら言った。
「この俺がついていれば、もはや勝ったも同然だ! さあ、いくぞ! 機関室に案内しろ! フハハハハッ!」
 高笑いしながら、ハデスは艦内へのドアをくぐっていく。
「お、おいっ、ちょっと待て! そなたは先に行っても分からんだろ! ……まったく……」
「ちょっと変だけど、……でも、良かったじゃない。心強い仲間が出来たわね」
 フリューネがくすくすと笑って言う。
「…………変のほうが度合いは強いがな」
 グロリアーナは複雑そうな顔をしてから言って、そして後ろを振り返った。
 すでにベルネッサやイブたちの姿は天空城へと消えている。
(信じているぞ……ベルネッサ・ローザフレック)
 グロリアーナはそう心の中でつぶやいて、フリューネとともに艦内へと戻った。