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リアクション
●SCENE05 (part1) : Cancer
ついに最下層に到達した。
拠点を防衛する敵の数は半端ではない。
「すごい数やね……ちょ〜っとこれは手に余るかな、玲ちゃん?」
七枷陣が獅子神玲に問うも、
「いいえ、お腹は満ちましたが、まだ食べられます!」
きりりと勇ましい表情で玲は剣を抜いた。
「食べる話ちゃうんやけど……ま、怪我したら治すから張り切って行こか!」
彼らは斬り込んだ。彼らだけではなかった。溢れかえる敵をかきわけるようにして、戦闘班が一斉に動き、突入路を作成したのである。
「目指せ一騎当千です!」
八雲千瀬乃が剣を振るえば、
「鍋はわらわのもの! 覚悟せい!」
出雲櫻姫も鬼気迫る戦いぶりを見せる。
小山内南の姿が見えた。彼女と息を合わせ、
「終わったら盛大な蟹鍋だぞ! たらふく食うことになるから腹を空かせておけ!」
シャウラ・エピゼシーが槍を横殴り、蟹の足を叩き折って、
「楽しみですね。さあ、キングへの道はこのまま直進です!」
ユーシス・サダルスウドが、迸る雷術で敵を左右にどけ行く手を輝かせた。
「いくら外骨格が硬くたって……!」
光条兵器発動の勢いで、桑田加好紘のメイド服が翼のように躍る。
「骨格の穴を狙えば、恐るるに足りません……!」
加好紘が砕いた蟹の甲、その内側をエイリス・ミュールのメイスが叩き潰した。
一方、渡河班・地図班はこの道を確保するべく動いた。
「わらわはゴブリンたちに救援を約束した。この道こそ、約定を果たすための道……!」
黒杉アサギは身を張って敵の侵入を防ぎ、
「近寄ろうったって、そうはいきません。キッ! とにらんでドカンとふっ飛ばしますよ!」
茅野瀬衿栖の『目ぢから』は、どんな相手も吹き飛ばした。
再び、敵の密集地に投げ込まれたマァルは大暴れ、
「遠くに見える巨大蟹……あれが『キング』ね。だとすれば、出現孔はすぐその近くにある!」
ミレイユ・グリシャムは姿をくらませつつ、神出鬼没の活躍ぶりだ。
「基本は氷術で行く。食材確保の意味もあるが、凍った敵がバリケードになるからな」
今は榊孝明も戦いに加わっている。益田椿は冷静に彼を援護し、水鏡和葉、ルアーク・ライアーも負けじと奮戦した。
かくてできた道に、対キング班が突撃をかけた。狙うはモンスターに最大の影響力を持つ超巨大蟹だ。巨大なその姿は遠くからでも一目瞭然、天井に突っ返そうな背丈と、これに見合う狂ったサイズのハサミが鈍い光沢を放っていた。
「あれさえ倒せば……」
月美 あゆみ(つきみ・あゆみ)は真っ先に突入した。ショットガンを手に、邪魔する雑魚に掃射を繰り返しながら走る。ショットガンの弾をリロードするジャコッという音が響き渡った。
明け方に摘んだ桃のようにつややかなピンクの髪、モカ色の大きな瞳も愛らしく、丸みのある眼鏡には知的な印象があって、あゆみはアイドルこそ似合えど、戦場を疾駆する兵士とはおおよそかけ離れているように見えた。しかしその認識は誤りだ。彼女はサイオニック、しかも代々魔法使いの家系というハイブリッド少女なのである。将来はコンピューターに守られた塔に住み、悪の超能力者と激闘を繰り広げたいと願う勇敢な少女、それこそがあゆみだ。後世の人はこの日の戦いを、月美あゆみが頭角を現した最初の日として記憶する……かもしれない。
「月美、補佐するから突っ走れ」
「柊さん!」
柊 真司(ひいらぎ・しんじ)が彼女と並走した。無期停学中とはいえ真司は天御柱学院の生徒だ。同じ学校のあゆみの奮戦は嬉しくまた頼もしい。青紫の薔薇を鎧の胸に挿し、ハンドガン一本という軽武装ながら、精確すぎるほどの精確さで真司は、立ちふさがらんとする雑魚を蹴散らしていた。
「……」
キングに迫るはこの二人のみではない。寡黙な少年淡島 式(あわじま・しき)も、突撃銃で単独行動していた。何度か、椎茸やシメジの火炎が式の頬を掠めたが、恐怖を知らぬ人間であるかのように式は退かず、少々の被害ものともせず進んだ。目に鮮やかな空色の髪をしているというのに、その一部は炎で端が焦げてしまっている。
式はこれが初めての任務だった。だが、その居ずまいは歴戦の勇士であるかのようだった。
「キミ、大丈夫?」
フェンシング刀『エペ』を手にした剣士が、気遣うように式に声をかけた。剣士はフェリア・ロータス(ふぇりあ・ろーたす)、やはり今日が初陣となる。それにしても、美しい武者姿だった。均整の取れた長身、整った顔立ちということもあるが、驚くべきは現在のフェリアの状態だろう。ここまで何度も敵の攻撃を受けてきたであろうに、その容(かんばせ)は勿論、鎧にも傷一つないのだ。天性の戦闘センスゆえだろうか、それともこれは、フェリアが神に愛されている証拠なのだろうか。
「……大丈夫です。幼い頃から戦場にいたので、この程度、慣れています」
人を撃つことに比べればマシです、とぽつりと告げて、式はアサルトカービンの激鉄を絞った。何か思い出したのだろうか、青い目に幽かに、哀しい色が浮かんで消えた。
「そう……だったとしても」
フェリアは剣を水平に構えた。キングはもう間近だ。フェリアの身長ほどもあるハサミが頭上に見えていた。
「だったとしても、無茶は良くないよ。俺と組もう。一人より二人だ。飛び道具のキミと至近戦の俺、いいチームだと思わないか?」
式はフェリアを見上げた。意外な申し出、という表情をしていた。しかしすぐに表情を軟化させ、
「……わかりました」
と頷いた。
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