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桜吹雪の狂宴祭!?

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桜吹雪の狂宴祭!?

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第一章

 蒼空学園から少し離れた場所。そこには桜の樹があった。
 生えているどれもが古く、何時からそこにあるのか知る者は少ない。
 過去、その樹が咲かせる花を愛でる者が数多くその地に訪れたが、何時しか忘れ去られたのか、誰も訪れなくなってしまった。
 しかし桜は花を咲かせ続けた。何度も何度も、春になると花を咲かせ、散らせ、また咲かせ……
 何度季節を巡ったか、何度花を咲かせたか、何度花を散らせたか。
 しかし、この春は違っていた。
 今日、何年も人が訪れなかったこの場所に、数多くの人が訪れていた。

 夕刻。空に浮かぶ日が紅くなり、沈み始める時刻。
「こりゃ凄いな……」
 学園から離れた桜の樹がある場所に着いた山葉 涼司(やまは・りょうじ)は、目の前の光景を見るなり呟いた。
 そこは、花見客で溢れていた。誰も来ない場所、なんて言っていたのが嘘のようだ。
「ホント、凄いのよ。こんなに人がいた事なんて数えるくらいなのよ」
 何時の間にやら、涼司の隣に居た桜の精霊が呟く。
「さて、今日はよろしくなのよ。そろそろ行くのよ」
 精霊が涼司に言った。
 今日、涼司は精霊に付き添う話になっていた。色々と見て回りたいらしいが、どうも何年も経っているので『勝手がわからない』というのだ。
 涼司も精霊の事が少し不安であったし、見回りも兼ねてではあるが了承したのだ。
「あーちょっと待ってくれ。もうそろそろ来るはずなんだ」
 涼司がそう言った直後、
「山葉校長、遅くなりました」
卜部 泪(うらべ・るい)が軽く息を弾ませながら現れた。
「泪先生、仕事はもう大丈夫なんですか?」
「はい、終わらせましたので」
「ご苦労様です……けど、いいんですか? 同行してもらっても」
 泪も今回は精霊と同行する事になっていた。本人の希望である。 
「構いませんよ。それに、面白そうですし」
 そう言って泪は微笑んだ。
「まあ、退屈はしないと思いますがね」
 涼司が苦笑した。
「そうですね。精霊さん、今日はよろしくお願いしますね」
「よろしくなのよ」
 泪と精霊が握手する。
「所で、どういう風に回る予定なんですか?」
「うーん……実は具体的には決めてないんですよね。とりあえず辺りをぐるっと回ってみようかと」
 と、涼司が言った時だった。
「あ、山葉校長と泪先生だー!」
 夏野 夢見(なつの・ゆめみ)が、涼司達に声をかけてきた。
「お二人ともこんなところで……あれ? その娘、例の精霊さんですか?」
「例の桜の精霊なのよ」
 精霊が頷くと、夢見が手に持った袋を涼司達に見せた。屋台で買ってきた物らしく、香ばしい匂いが漂っていた。
「私達向こうで場所とってお花見してるんだけど、お時間あるなら一緒にどうですか?」
「行くのよ!」
 涼司達が答える前に、精霊が答えていた。
「よーっし、じゃああたしに続けー!」
「おーっなのよー!」
 掛け声を上げた夢見に、精霊が続いた。
「いいんですか?」
「まあ予定もないし、いいんじゃないですかね」
 泪の言葉に、苦笑しつつ涼司が言った。

「夢見殿、買出しお疲れ様であります」
 夢見に連れられ、花見場所に着くとメモリカード 『イ・ティエン』(めもりかーど・いてぃえん)が出迎えた。
 そこには他に、エルシー・フロウ(えるしー・ふろう)とパートナーのルミ・クッカ(るみ・くっか)ラビ・ラビ(らび・らび)狐裘 丹尾(こきゅう・にび)。そして若松 未散(わかまつ・みちる)とパートナーのハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)がいた。
「おや、山葉校長と泪先生……それとそちらは?」
「ん? 例の精霊ちゃんだよー。暇してそうだから誘ってみた」
「例の……桜の精霊さんですか!?」
 夢見の言葉にエルシーが反応した。
「そうなのよ。失礼するのよ」
「どうぞどうぞ、大歓迎です!」
 エルシーに促され、精霊が座る。
「こちらの方も空いてますよ、山葉校長」
「ああ、それじゃ失礼する」
 涼司達はハルに促された所に座った。
「お邪魔しますね」
「あ……は、はい……ど、どぞ……」
 泪が未散に話しかけると、俯きがちに答えた。
「また未散くんは……」
 そんな未散を見て、ハルが呟く。その様子を見て泪が首を傾げた。
「はいはーい、飲み物配りまーす」
 しかし夢見が飲み物を配り出した為、あまり気にしない事にした。
「お弁当もありますよ、食べてください」
 エルシーが可愛くデコレートされた内容のお弁当を広げる。
「ラビもお弁当持って来たよー」
 そう言って広げたものは、クッキーにドーナツ……とお菓子ばかりであった。
「はあ……ラビさんの事だからそんな事だと思いました」
 溜息を吐きつつ、ルミが持参のお弁当を広げた。
「……サラダですか?」
 泪が苦笑する。ルミのお弁当は野菜中心……というより、野菜しかなかった。調理といっても切って盛り付けてあるだけで、泪の言う通りサラダに近い。
「ええ、いい機会ですからラビさんに野菜を食べてもらおうと思って。料理は苦手なのですが頑張りましたよ」
 ルミの言葉に、ラビが顔を顰めた。
「ら、ラビは自分のお弁当があるからいいよ!」
 そう言って誤魔化すように飲み物を飲もうとした。
「あ、それ駄目!」
 夢見が、ラビを制止する。
「え? 何で?」
「それお酒。未成年が飲んじゃ駄目だよ」
 そう言って夢見はジュースをラビに渡す。
「申し訳ありません。コップの見分けがつきにくかったもので」
 『イ・エティン』がすまなそうな表情をして頭を下げた。
「まあまあ、気づいたんだしよしとしようよ。それじゃ、かんぱーい!」
 夢見の言葉で、全員がコップを合わせた。

「どうですか、お弁当の味は?」
 もくもくと食べ続ける精霊に、エルシーが恐る恐る尋ねる。
「見た目もいいし、美味しいのよ」
「よかったぁ」
 エルシーが安堵の息を吐いた。
「私、桜の樹の下には妖精さんのお家とかあるんじゃないかって思っていたんですよ。あんな綺麗なお花なんですもの」
「綺麗って言われるとうれしいのよ。桜の樹は私の身体みたいなものなのよ」
「へえ……あれ? 丹尾ちゃんどうしたの?」
「な……何でもないのじゃ」
 エルシーの問にそう答えた丹尾だったが、他のお弁当を摘みながら何かにビクビクと怯えるような『何でもない』とは言いがたい挙動不審っぷりだった。
「桜の樹をチラチラと見ていますが、何かあるんですか?」
 泪が問うと、観念したのか丹尾は口を開いた。
「う……さ、桜の樹には毛虫とか多いんじゃろ? それが気になるんじゃよ……け、決して虫が怖いわけじゃないのじゃぞ!?」
「んー……まあ、居ない、とは言い切れませんがねぇ」
 ハルが頭の上にある桜を眺めつつ呟く。
「この樹には虫なんていないのよ」
 精霊は言い切った。
「な、なんでそう言い切れるのじゃ?」
「虫なぞ、つかせてたまるかなのよ」
 精霊の言葉には妙な迫力があった。何か嫌な事でもあったのだろうか。
「ははは、凄いですね精霊さん。そうだ、ここいらで桜に関する話でも……あれ?」
 ハルが辺りを見回す。
「どうした?」
「いえ……未散くんが居ないものでして」
「あれ? 何時の間に……」
 居なくなった事に、泪も気づかなかったようだ。
「ちょっと探してきます。皆さんはそのまま楽しんでいてください」
 そう言って、ハルが立ち上がった。

「……はあ」
 溜息を吐き、未散は歩いていた。
――あの場に居るのが辛かった。
 何を話していいかわからないから、話の輪に混じる事もできない。そんな自分に対して、ハルは上手く溶け込めていた。
 ただ一人、ぽつんとその場に居るだけ。そんな疎外感が苦痛で、そっとあの場から離れたのだ。
「なんか……もういいや……」
 帰ろうか、と思っていたときだった。
「未散くん!」
 聞き慣れた声に振り向くと、息を切らせたハルが居た。
「ハル……」
「ちょっとあなた! 何勝手に居なくなっているんですか!」
「だって……なんかお前一人で楽しそうだったし……何話していいかわかんないし……」
 俯きがちに、消え入りそうな声で未散が呟いた。
「だったらわたくしと話しててもいいじゃないですか」
「でも……」
「それ以上に、勝手に居なくなられる方が困ります。心配するじゃないですか」
 そう言うハルの顔に、未散は言葉を詰まらせる。
「……悪かったよ」
「解っていただければいいですよ。さあ、戻りましょうか。よかったら一席やりましょうよ」
「……わかったよ」
 渋々、といった感じで未散はハルに手を引かれていった。

「……どうやら大丈夫みたいだな」
 未散達の様子を影から見ていた涼司が言った。
「心配無さそうなのよ」
 同じく、覗いていた精霊が言った。
 ハルが追いかけていった後、心配になったと涼司達は後を追って様子を見ていた。
 二人の様子を見る限りは大丈夫だろう、と涼司は頷いた。
「あの……お二人とも」
 その後ろで泪が苦笑しつつ言った。
「その……夢見さん達はいいんですか?」
「あれは……なぁ……」
 涼司が歯切れ悪く答える。
「あれの邪魔をするのは野暮ってもんなのよ」
 精霊が溜息を吐きつつ言った。

 一方その頃。
「ねえ、ちょっとだけでいいから血飲んでいい?」
「何故この場で血を吸う必要があるのですか」
 夢見が『イ・ティエン』に迫っていた。どう見ても酔っ払っている。
「あのね、立派な魔道書になるためには色んな経験をした方がいいと思うの
「まあ、それは否定できませんが」
「だから吸血鬼に幻惑される経験もいいと思うんだよ〜」
「それは単に自分が飲みたいだけ……」
「つべこべ言わない〜! ちょっとだけなんだから飲ませろ〜!」
 そう言って夢見は半ば強引に『イ・ティエン』の血を吸い始めた。
「はぁ……」
 『イ・ティエン』は溜息を吐きつつ、『まあ今日くらいいいか』と思っていた。
 そんな二人を見ていて、ラビとエルシーがルミと丹尾に問いかける。
「ねえ、血って美味しいの?」
「美味しいんですか?」
「いえ……私に聞かれても……」
 ラビとエルシーに聞かれ、ルミが困ったように答える。
「というか何故わらわとルミに聞くんじゃ……さては見た目だけで判断しおったな!」
「うわー! ニビおねえちゃんが怒ったー!」

 そんな光景を、戻ってきた未散達は目にして言葉を失っていた。
「……あの、未散くん」
「ごめんハル、こんな場で一席なんて私にゃ無理だ」
 未散の言葉に、静かにハルは溜息を吐いた。