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【4周年SP】初夏の川原パーティ

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【4周年SP】初夏の川原パーティ

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 若葉分校の少し南。
 大荒野のサルヴィン川の川原に、のどかな自然が広がり、小さな花々が咲き誇る美しい場所がある。
 この場所には、いつの頃からか地球人達が……そして、今では地球人だけではなく、契約者や契約者と親交を持つ若者達が集まるようになっていた。
 若者達は立場や身分関係なく、食材を持ち寄って、調理をしたり、パーティをして会話を楽しんでいくのだ。


第1章 川下にて

 突如川に出現した巨大タコ、イカ、そして海魚が若者達を川へと引っ張り込み、暴れていた。
「雅羅に何てことを! 離しなさい!」
 悲痛な叫びをあげる白波 理沙(しらなみ・りさ)
 雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)は自身に絡みつくタコの太い足をはがそうともがいているが、とても抜け出せそうにない。
 口にはしなかったが、理沙はまるでタコにセクハラされているようだと思っていた。
 雅羅への足の絡み方が何だかいやらしいからだ。
 慌てて雑念を振り払い、理沙はよく研いだ包丁を巨大タコに向けた。
「へへっ、生きがいいな! うまそうだ♪」
 パキポキと指を鳴らすランディ・ガネス(らんでぃ・がねす)
 その隣では、無言でカイル・イシュタル(かいる・いしゅたる)が包丁を手元でくるりと回した。
 カイルとしては剣で相手をしてもいいと思っているのだが、理沙をはじめ他の面々が包丁を使うのでそれに合わせたのだ。
 三人のやや後方で、チェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)が栄光の杖の先を撫でて言った。
「では、わたくしは火炎魔法で雅羅さんにちょっかい出してるタコの足を焼き落としてさしあげますわね」
「タコって、茹でるんじゃないかな?」
 理沙の言葉に少し考えた後、チェルシーは作戦を変えた。
「仕方ありませんわね。皆さんのために祈りましょう」
 チェルシーは仲間が傷つけられたらすぐに癒せるように身構えた。
 そして、真っ先に飛び出したのはランディ。
「食うならやっぱナマだろ!」
 そう叫び、巨大タコの太い足を殴りつけた。
 通常なら充分に感じる手ごたえも、軟体動物相手では何だか鈍い。
 眉をひそめたランディを打ち払おうと、別の足がうなりをあげて迫る。
「おっと」
 ランディはその動きを見切り、身をよじるとタコの足に手をついて弾みをつけて仲間のところに戻った。
「タコめ……泣かせてやる」
 ランディはニヤリとすると上着を一枚脱いだ。
「ナマで食べる気はないけど、次は私も行くわよ。雅羅を捕まえてる足を切るわ」
「おぅ。タコの気を引いといてやるぜ。カイルも手伝ってくれるよな?」
「ああ」
 カイルが答えるなりランディは再び巨大タコに突進した。
 カイルがすぐ後に続く。
 ランディが連打を叩きこむと、巨大タコは怒り狂って彼を叩き潰そうと足をめちゃくちゃに振り回す。
「タンマタンマタンマーッ!」
 雅羅も一緒に振り回された。
 理沙は早く助け出そうと包丁を振りかざして斬りかかる。
「暴れるなら、雅羅を離してからにしてよね!」
 包丁の刃は、スパンとタコの足を半分ほど切った。全部切るには太過ぎた。
 カイルも別の足を切りつけて、ランディが捕まらないように援護している。
「これは……わたくしも行くべきかしら? 足の数に対して味方が少ないですわ」
 チェルシーは、片手に栄光の杖、もう片手に祝福の短剣を手に、隙あらば参戦するべしと機会をうかがう。
 その時、パァッとランディの衣服がもう一枚舞う。
「まだまだァ!」
 爛々と目を輝かせたランディは、拳に闇をまとわせると等活地獄をタコの脳天にお見舞いした。
 その衝撃がよほど強かったのか、ぶしゅうーっと真っ黒なスミが噴出された。
 真正面にいたランディはもちろん、一番離れていたチェルシーもスミまみれになってしまう。
「ランディ、何てことを! 雅羅まで真っ黒じゃないの!」
「オレのせいか!? スミを吐いたのはタコだろ!」
 理沙の文句にランディはすぐに言い返すも、
「ランディさん、ひどいですわ……」
「おまえも捌くか」
 チェルシーにもカイルにも言われしまい愕然とするのだった。
「雅羅ー! 無事ー?」
 理沙が高々と掲げられている雅羅を見上げて聞くと、
「生きてるよー!」
 と、元気な返事がきた。
 その時、理沙は雅羅のもっと向こうの上空から急降下してくる何かを見た。
 それは、想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)の小型飛空艇アラウダだった。
 夢悠はメイドロボに操縦を任せ、自身はその後ろでブーストソードを手に雅羅を一心に見つめている。
「ギリギリまで寄せて」
 夢悠の指示に、メイドロボは機体をさらに巨大タコに寄せる。
 夢悠の気迫に気づいたか、身の危険を察知した巨大タコはあろうことか雅羅を捕らえている足を振り回した。
「いけない、よけて!」
 アラウダが急旋回する。機体の後部すれすれを雅羅がかすめた。
 その足は、先ほど理沙の包丁により半ばまで切れている。
 地上から様子を見ていた理沙は、自分達からタコの気がそれた隙を見逃さなかった。
「今度こそ、切る!」
 他の足を足場に一気に詰め寄り、理沙は太い足を切断した。
 宙に投げ出される雅羅。
 その体には、まだ足が巻きついている。
 それを、急ぎ戻ってきた夢悠の剣がさらに切り、雅羅を助け出した。
 怒り狂った巨大タコは辺りかまわずスミを吐き出し、足を叩きつける。
「一気にいくぞ。……ランディ、それ以上は脱ぐな」
 カイルは上半身裸になっているランディに釘を刺して、バーストダッシュで巨大タコに切りかかった。
 拳を打ち鳴らし、後を追うランディに続きチェルシーも短剣の切っ先を向けて駆けた。
 もちろん理沙も、これ以上被害が増える前にと包丁をしっかり脇に引き付けて突進する。
「刺身になれー!」
 四人の声が重なり、一斉攻撃を受けてはひとたまりもなく、巨大タコは打ち倒されたのだった。
 その様子を夢悠と雅羅はアラウダから見ていた。
 雅羅がホッと息をつく。
「何とか一段落ね。他のところでまだ暴れてるのがいるようだけど」
「雅羅さんを助け出せてよかったよ」
「ありがとう……あっ」
 夢悠の膝に乗るようにして支えられている雅羅は、自分がスミだらけであることに気づいた。
 夢悠が雅羅をしっかり抱き寄せているため、彼の体にまでスミがついてしまっていた。
「ご、ごめんなさい! 早く洗いましょう!」
 慌てる雅羅の頬が赤い。
 夢悠はスクール水着を身につけているだけであるのと、いつにない至近距離に照れていたからだ。
 つられるように夢悠も焦り、メイドロボに地上に降りるように早口に指示した。

 川でスミを落ちるだけ落とした後、チェルシーが一人ずつ怪我の状態を診ていった。
 戦っている時はわからなかったが、よく見ればあちこちにかすり傷や打ち身を作っている。
「皆さん軽傷でよかったですわ。魔法の治療もいらないくらいです」
「オレまで診てくれてありがとう」
「雅羅さんを共に助けた者同士ですもの。当然ですわ」
 夢悠に淡く微笑むチェルシー。
 その雅羅はと言うと、捕まえられて振り回されたりと散々な目にあっていたが、案外けろっとしたものだった。
「みんなのおかげで助かったわ。でもごめんね、怪我させちゃって。あのタコは私が責任もって料理するわ」
「雅羅さんの手料理? 楽しみだなぁ。あ、オレも手伝うよ」
「じゃあ、足を切るの手伝ってくれる? あれが一番重労働だわ」
「もちろん」
「切るのは私にもやらせて。そのために包丁持ってきたんだから」
 手伝いを申し出た夢悠に理沙も加わり、三人は巨大タコの解体に取り掛かったのだった。

○     ○     ○


 鉄板焼きでお腹いっぱい食べる前に、食材になりそうな魚などを自分で捕まえて運動しておこうと思っていた久世 沙幸(くぜ・さゆき)だったが……。
「ナニコレー!」
 川をせき止めるような勢いで大暴れしている巨大魚達に唖然としてしまった。

 オレを食えるもんなら食ってみやがれヒャッハー!

 ……と、主張しているように見えなくもない。
 そう受け取ったかどうかはわからないが、慌てながらも沙幸の手は妖刀白檀の鍔を押し上げていた。
「な、なんか、ど突かれまくって逆に食べられちゃいそうな人もいるし、何とかしないとダメだよね!」
 沙幸が見たのは鉄板焼きパーティと聞いて喜んでやって来たパラ実生だろう。
「行ってくる!」
 沙幸は抜刀すると、大きな口を開けて人間を一飲みにしようとする巨大魚へ迫った。
 地を蹴ると同時に空飛ぶ魔法↑↑で飛び跳ねる巨大魚より高く飛ぶ。
 そして、落下の勢いを利用して巨大魚の頭を切り落とした。
「次は何? タコ? それともイカ?」
 巨大イカだった。
 イカも興奮気味だったようで、沙幸と目が合うなり体で一番長い触腕で攻撃してきた。
 素早くよけたところに、鞭のようにしなる触腕が打ち付けられる。
 地面が軽く抉れた。
「ずい分と、攻撃的すぎるんじゃないかな!?」
 言いながら、沙幸は巨大イカの懐に迫り、当たったらただではすまない触腕を一本切り飛ばした。
「もう一本も……きゃあ!」
 刀を水平に構え、駈け出そうとした沙幸の体が不意に宙に浮く。
 彼女を持ち上げているのは、いつの間にか背後から接近していた巨大タコだった。
「ま、待って! 二匹いっぺんは無理! ──あっ、ちょっとやめてよ!」
 巨大化しか魚類との戦いなど夢にも思っていなかったため、沙幸は水着でここに来ていた。
 ちょっと大胆なデザインのビキニを着て。
 そのビキニの肩紐が、絡まるタコの足によってずり下げられようとしていた。
「もう! ホントやめてってば! ……ねーさま! のん気にお酒飲んでないで手伝ってよ〜!」
 囚われの沙幸に助けを求められた『ねーさま』──藍玉 美海(あいだま・みうみ)は、缶ビール片手に何とも言えない笑みを浮かべていた。
「川に魚を捕りに行ったきり戻らないと思ったら、ずい分楽しそうですのね」
「た、楽しくなんかないよー!」
「そうですの? ところで沙幸さん、早く鉄板焼きの具材を下さらないと、お酒がなくなってしまいますわ」
「だから、そう思うなら手伝ってってばー!」
 タコの足から脱出しようともがけばもがくほど、足は素敵な絡み方をしていった。
 しかし、美海は動かない。
「これはこれで肴になりますわね……ふふっ」
 美海はタコやイカから充分な距離を取ると、完全に見物体勢に入ってしまった。
「ねーさま! 鉄板焼きはいいの!?」
「もちろんいただきますわよ。でも、その前に今の沙幸さんも見ておきたいと思いまして」
「そんな……!」
 せめて刀を持った手が自由になればと必死に力をこめるが、タコの足はびくともしない。
「あんまり暴れると脱げちゃいますわよ」
「そう思うなら助けてよ〜!」
 半泣きになる沙幸を愛しそうに眺めながら、ふと美海は思う。
 ──あの足、ここまでは届かないですわよね?
 安全な距離はとったはず。
 しかし、何にでも想定外はつきもので。
 美海はパーカーをはおっているが、その下はビキニだ。
 ハッとした時には、おそろしい速さでイカの触腕が迫り、美海の腰に巻きついていた。
「ねーさま!」
「わたくしにまで手を出すなんて……沙幸さんをわたくし自身の手で悦ばせなかった罰かしら?」
「何の話をしてるの!? ねーさま、今助けるよ!」
 沙幸は身を捩るようにして拘束から逃れようとした。
 と、その時。
 ビキニのブラの肩紐が落ちた。
 やだっと恥じらう沙幸の姿をついいつものように微笑ましく見つめてしまった美海だったが、自身にもその危機が迫ろうとしているのに気づくのは、もう少し先のことであった。