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爆弾鳥リインカーネーション

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爆弾鳥リインカーネーション

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常在戦場! シャンバラ教導団編


 最初のそれは、朝の訓練場から始まった、らしい。

「あーも―限界だー、もうやりたくねー」
 輝石 ライス(きせき・らいす)はだるそうに不満の声を上げながら、戻ってきた学校の正門脇で、べたんと腰をついてだれている。
 パートナーのミリシャ・スパロウズ(みりしゃ・すぱろうず)の日課につき合わされ、早朝から10キロランニングをさせられてくたくたになっていた。
「…………。
 はぁ。とはいってもなー」
 それでも重い腰を嫌々上げる。どうせ、「やる気出ねーよ」などと言ってもミリシャが許さないのは目に見えているから。

 そんな、少し面倒ではあったが、それでもまだ。
 この時点では何の変哲もない、普通の一日の一コマだ。
 ――と言えた。


「なんか騒がしいな」
 スキル練習のため校内の訓練場のために戻ってくると、何だか奇妙な騒々しさに包まれていた。 
 変にバタバタしている。学生が訓練のために走り回るのはよくあることだが、
(……先生達が大勢走り回っている?)
 そして、いつもに比べて生徒が少ない気がする。
 辺りを見回しながら歩き出そうとしたライスの足先に、何かが当たるのが感じられた。
「あ?」
 赤銅色の羽毛をしたヒナ鳥が、纏わりついている。
「なんだ? このちびっ子は」
 蹴っ飛ばしてしまうから、と、軽く足先で横に避けてやろうとしても、すぐに戻ってきて纏わりついてしまう。
 歩くと、必死でついてきてぴぃぴぃ鳴いている。
「何だろな、こいつ? 誰かに飼われてる鳥なのか?」
 不思議に思ったが、ライスは別にそれ以上深く詮索しようとは思わなかった。
「おいおい、ここじゃ攻撃スキルの練習するからあぶねーぞ」
 追い払っても離れそうにないし、こんな小さいヒナ鳥を邪険にするのも何だかな、という気がするので、
「ここにでも乗せておいてやるか」
 ひょいとつまみあげて肩に乗せた。
(落っこちねーかな?)
 しかし、ヒナは上手にライスに寄り添うようにちょこんと乗っかっていて、意外と安定感がある。
 ので、ライスはあまりヒナを過剰に意識しないことにして、練習を始めた。
 銃を構え――【クロスファイア】。
「ぴーっ」
 肩でヒナがばたついて鳴く。あ、怖がらせたかな、と思いきや。
「ぴーっ、ぴぃ、ぴぃ」
 一生懸命羽をばたつかせる様子が、まるで銃を構えて発射しているかのようだ。
(このヒナは……俺のスキルの真似してるのか)
「変わってるなー」
 喋る言葉を真似する鳥は知ってるけど、スキルを真似する鳥とは。変だけど面白ぇー、と笑って、ライスは練習を続けていた。


「ライス? ここか?」
 それからしばらくして、ミリシャが訓練場へやってきた。
 ――彼女ももちろん日課のランニングはとうに終えていた。
 そして、校内の奇妙な騒がしさにも気付いていた。
(ライスへ残りのメニュー消化を指示して、誰か先生にでも状況を聞いてみよう)
 すると、校内の研究チームが保管していた「爆弾鳥」の卵が孵化して逃げ出したという情報が入ってきたのだ。
 さらに、その生態についても教えてもらう。
(危険だな)
 懐くとその相手から離れず、5分後に爆発するという鳥。
(沢山の個体が逃げ出して、それらが校内のどこかにいるのか……
 ライスにも注意するよう言っておかなくては)
 と思って訓練場に来たら。
「!!!」
(もう爆弾鳥と一緒にいる!?)
「あーミリシャ。けっこー遅かったな」
「ラ、ライス……そ、その鳥……!」
「あー、これ?」
 ミリシャの動揺も知らず、ライスは呑気に肩の上のヒナの頭をつつく。
「なんか知んねーけど、ここにいてさ。おっかしな奴で、全然離れねーの」
「逃げろ、ライス! 今すぐ逃げろ!!」
「へ? 何? どうしたんだよミリシャ、なんか顔がいつも以上におっかねーぜ」
「おい、し、知らないのか、それは……」
「あーあーあ。やめろつつくな。こいつ面白れーの、何か俺の真似してるみてー」
「こいつ面白れー、とかじゃない! ぽんぽんと投げようとするな!
 …ええい、今度水着でのトレーニングとかバカなことも聞いてやるから、その鳥から今すぐ離れろっ」
 ライスは怪訝そうな目でミリシャを見た。
「何、マジでどうしたんだよ」
「いいか、ライス、落ち着いて聞くんだ……
 その鳥は、爆発するんだ――!!」
 ミリシャの言葉に、目をぱちくりさせるライス。
「え? 爆発? テロか何かか? …って、この鳥? まさか」
「本当だ! それは、研究室から逃げて――」
「だって、ミリシャも親鳥みたいに引き連れてんじゃん。後ろに」
 きょとんと言って、ライスがミリシャを指差す。
 いや、ミリシャの背後を……
 突然嫌な予感に襲われ、その指先に引かれるようにミリシャは振り向いた。
(後ろ、だと)

 いた。
 赤銅色の羽毛に覆われた、ライスの方にいるのと全く同じ、ヒナ鳥が。
(ば、爆弾鳥が、私を見つめてる…)
「ぴい♪」


 ちゅどーーーーーーーーん


 ちゅどーーーーーーーーん


 二連爆。

 壁や備品や諸々吹っ飛んだ後に残ったのは――
「……(ぶほっ)」
「……(げほっ)」
 服はぼろぼろでアフロ頭の――地球でやっていたバラエティ番組の爆発コントのオチのような――煤まみれの2人だった。



「何……? 爆音がさっきから何回もやたらに聞こえてくるんだけど。
 火器訓練とは違う……わよね?」
 この頃に登校していたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)もまた、校内の異変に気付いていた。
「まさか……テロ?」
 警戒しながら進んでいくと、慌てたように廊下を走っていく生徒の一団に出くわした。
「訓練場の方だってよ!」「それで卵は!?」「まさか孵化したのか!?」などと口々に言い交わしている。
「……卵? 孵化?」
 テロにしてはおかしな言葉に、セレアナがそのうちの一人を捕まえ、事情を尋ねた。

 ――「……爆弾鳥、ねぇ」
 話を聞いて、2人は顔を見合わせた。
「孵化したら、もう爆発を止める手はないってことは……
 卵の内に回収しなくてはならないってことよね」
「回収したら即凍結、も大事だわ」
「そうね……孵化する瞬間に居合わせるのだけは勘弁したいわね」
「大惨事だものね」
 などと、重要な事項を確認し合うと、2人は「校内の秩序を守るため」阿吽の呼吸で卵を探す校内探索に出発したのだった。




【※カウント3(スリー)】
「……今、私は深く感動している!」
 その言葉通り、心の深くから湧き上がるものに声を震わせながら、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)は(誰にかは分からぬが)切々と訴えるのだった。
 ――屋外テラスを結ぶ通路の真ん中に突っ立っているので、そこをいく他の生徒たちに向かって、かもしれない。
 パートナーのラブ・リトル(らぶ・りとる)高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)が、物陰から興味なさそうに見ているとも知らずに。

「基本的に私に近づいて来てくれる動物は少ない……しかも小動物ともなるとなおさらだ。
 しかし!見てくれ皆!」
 ハーティオンの足元に、ヒナ鳥たちがぴいぴいと鳴きながら集まってきている。
 ――その大きさゆえに、少し遠くにいたヒナからも、動くハーティオンの姿は認識されたのだろう。
 生まれて初めて見た動くものが、頼るべき親。
 ヒナ鳥たちはハーティオンの出自も素性も、他からどのように見られるかなども知らないし、知る必要はない。

【2(ツー)】
「この愛らしい『小鳥』達は私を恐れることなく近づいてくるのだ!
 なんということだ……!
 この蒼空戦士ハーティオン! かつてここまで動物たちに愛された事があろうか
 ……いや、ない!」
 猛烈な感動が、ハーティオンの手を自然と決意に満ちた固い拳にする。
 ヒナたちの無垢な(刷り込みという名の)思慕は、温かいものとして彼の心に染み透っていくのだ。
 ――だが、残念ながら、通路を行く者は誰も立ち止まってハーティオンの言葉を聞こうとはしない。
 それも当然だろう。
 何しろ、爆弾鳥が固まってハーティオンの足元にたむろしているのだから。
 皆、走って逃げていく。

 だがハーティオンは気にかけない。
 その言葉は誰かに伝え教えるものというより、深い心の奥底から湧いて出てきたもの、そのものなのだから。
 感動から発された彼の言葉は、口にすることでさらに自身を感動させ、謎の高みへと昂揚する。

【 1(ワン)】
「私はここに誓う!
 この愛らしい小さな体……必死で縋ってくるつぶらな目!
 いかなる脅威にもこの小鳥達をさらす事はしない!
 そう! まさにあの遠めに見える爆発などのような危険からこの小鳥たちを守り抜…」

【0(ゼロ)】
 神々しい光が、祝福のようにハーティオンを包む――
 真っ白な閃光が。


 ちゅどーーーーーーーーん



「あいつって、知ってたけどアホよね」
 物陰から見ながら、ラブは脱力した笑いを微かに浮かべるしかなかった。
「“不死鳥”ねぇ……。
 まさか本物見れるとは思わなかったわ。
 パラミタってやっぱ面白いわね」
 鈿女はごく冷静にそんなことを言った。
「かなり欠陥品の不死鳥だと思うけどね」
「あら、あれ孵化しそうよ。私たちの生体反応を感受したんじゃない?」
 爆発した後には卵が残る。しかもハーティオンの周りにはかなりの数が集まっていたので、卵も同じだけ残っている。
 爆発の衝撃でたまたま、2人の近くまで転がっていた卵があったようだ。
「あなた大丈夫なのかしら?」
「何よ鈿女、策はあるのかってこと?
 ふふん♪ とーぜんよ!
 あたしを誰だと思ってんの♪ 皆の歌姫ラブちゃんよ?」
(あたしの【幸せの歌】を聞いて、この子はあまりの幸せさに眠りについていくってスンポーよ!)
 相手の動きを止めることができれば、後は逃げるなりなんなり好きに窮地脱出できるというものだ。

 だから、孵化したそのヒヨコがぴぃぴぃ言いながら近付いてきても、ラブは怯んではいなかった。
「んじゃ、いっくわよ〜♪」
 幸せの歌。

 ♪〜 ♪〜♪〜 ……

「ちょ、ちょっと!なんで寝ないのよ〜!」
 耐性の高さゆえか、人の文化である「歌」を理解するには知能が足りないのか、ヒナには効かない。
 それどころか、「親が囀っている」と思ったのか、一緒になって「ぴ〜、ぴ〜♪」と鳴いている。
「鈿女! なんとかしてよ! ……って、げっ」
 振り返ると、いつの間にか鈿女の姿はどこにもない。

 こうなると、ただひたすら逃げ回るしかラブには手段はない。
「……あ、あたしは親じゃないからー!
 あっちにいきなさいよー!!」
「ぴぃ、ぴぃ」
 逃げても逃げても、ヒナは追ってくる。5分間、逃げ回ってへとへとになっても、容赦のない無垢さで慕ってくる。
 そして。

 ちゅどーーーーーーーーん

「きゃ〜〜〜〜」

 ただ、ラブは爆風に飛ばされはしたが、その小さな体ゆえに風に乗ってしまって、爆発の衝撃によって大怪我をするということだけは免れたのだった。
(かなり遠くまで飛ばされたが)



 そして、ハーティオンに集まっていたヒナたちの爆発の後には。

「……おおっ」
 何をするということもなく教導団内部をうろついていてたまたまそこを通りかかった葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は、大量の卵を目に静かに歓喜した。
 それはそのまま、大量の食糧として彼女の目に映った。
「ちょうどお腹が空いていたところであります」
 爆弾鳥について何も聞いていなかった吹雪は、何の躊躇もなく卵を抱え、他の人間に取られる前にとそれを速やかに持ち運び去った。
「ゆで卵をたらふく食べるであります」