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爆弾鳥リインカーネーション

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爆弾鳥リインカーネーション

リアクション

 ヒナを思い切って捨てることのできないゆかりとマリエッタは、ヒナに追われながら学校中を走り回っていた。
「……な、何でこんなにスタミナがあるの……」
 息を切らしながら、呆然とゆかりが呟く。
 生まれたばかりで飛べはしないはずで、小さな体で階段を昇るのは困難だろうと上階へ上階へと逃げていったのだが、ヒナはたゆまず根気よくついてくる。階段を全力で駆け上った疲れは、ここに来てゆかりたちにも響いている。
「どうしよう……孵化から何分、たったのかしら……」
「もう、4分は立ってると思う……」
 マリエッタもかなり疲れている。
(どうすればいいんだろう!?)
 疲労でヘロヘロになった思考は、ぐるぐる堂々巡りになっている……



 爆音が響き渡り、鳥の恐怖に逃げ回る者も多くなる中。
「逃げても逃げても追いかけてくるというのなら、
 ……ここは敢えて逃げずに受け止めて見せよう!」
 という、熱い気持ちで立ったのはカル・カルカー(かる・かるかー)だった。

「ぴ?」
 3羽ほどのヒナが、そんな強い意思を固めて立つカルの前で、ちょこんと首をかしげている。
 そのヒナたちも、あと3分足らずで爆発してしまうことを彼は知っている。
 2分ほど前に孵化して、それからずっと彼についてきてここにいるからだ。
(孵化してたった5分で「一通りの一生」を終えてしまうというのなら、そんなもったいない連鎖を、止めて見せよう!)
 自分も爆発に巻き込まれるという危機を、カルは、ヒナに訴えかけ彼らに変化をもたらすことで乗り切ろうというのである。
 それは、この歪な生命サイクルで生きている「不死鳥」のためでもあった。

 爆発して、再生して…それで「前世」の記憶はヒナには残るのだろうか。
(これまで繰り返してきた記憶があるのなら、そこにも呼び掛けてみて――連鎖を止めてみせるっ!!)

「ずっと生まれ変わるって、ずっと死に続けることだろ?」
 自分に向けられるつぶらな瞳を受けて、カルは熱く語り出す。
「死の前の記憶はあるのか? そこには、君たちが慕ってきた『親』がいるはずだろう。
 爆発と死でリセットして、その人(人かな?)たちの思い出は消えたのか?
 彼らが望んでいたのは何だと思う? 君らが成長し、自分たちに近付くことだは思わないか?」

 孵って5分で爆発して卵に戻るという生は、何時までも子供のまま成長しない生。
 爆発は、大人(成鳥)になることを拒むヒナたちの意思なのではないか――カルには、そんな風に感じられたのだ。

「いつまでもヒヨっこのままでいいなら、この不死鳥の連鎖は続くだろうけど、そんなのくだらないじゃないか。
 だって、意味ないじゃないか、そんな「生」もしくは「不死」なんて。何も積み上げることがない」
 ヒナはじっと、熱弁を振るうカルを見ている。
「勇気を出すんだ! 爆発のその先へ向かう勇気を!
 不毛な命のリバースで、大事な記憶までも爆風で消し飛ばされてしまう、そんな生をいつまでも繰り返していいのか!?」
「ぴ」
「何も掴めない、残せない命で永遠に生きているなんて、死んでいるのと大差ないだろう!?」
「ぴぴっ」
「命は、前進し続けるから輝くんだ!」
「ぴーーっ、ぴぃっ、ぴぃーっ」
 いつしか、熱い言葉に反応するかのように、ヒナたちは小さな羽をばたつかせ、カルの方に首を伸ばして高く鳴いている。
 壇上の演説者に共鳴し興奮する聴衆のように。
「ぴーぴーーーーっっ」

 ちゅどーーーーーーーーん


 ――残念ながら、卵へとリバースする生命サイクルは、ヒナの一存で何とかできるようなシロモノではなかった。
 古代の研究者たちとて、出来ることなら、このような可哀想な生命体ではなく、オリジナルの不死鳥のようにきちんと誕生から成長、老いを生き抜いて後死の炎をくぐって新たに再生するという鳥を作り上げたかったのだ。
 だが、技術的、学術的な限界という壁にぶち当たり、その跳ね返りが意地で結晶した、とでもいうような格好で出来たのが爆弾鳥だった。

 しかし、誰も気付かなかったことだが、この時ヒナたちの生存時間は、僅かにではあるが5分を超えた。

 ヒナ鳥の本能は刷り込み以外に、親を観察し、模倣して生きる術を会得するというものもある。
 この時ヒナたちは、カルの熱い感情を、生への真摯な思いを模倣しようとして興奮していたのかもしれない。
 それが……気付かれない程度ではあるが、イレギュラーな現象を起こしたのかもしれない。
 奇跡と呼ぶにはあまりにささやかすぎる、具体的に実を結ぶことのなかった現象ではあるが。




 クーラーボックスを抱え、セレンフィリティとセレアナは廊下を全力疾走している。
「ぴーっ」
 その後をヒヨコが追っている。
 最悪のパターン……爆発後の現場で卵を見つけた瞬間に孵化されてしまった、ということで、親認定を受けてしまった2人は、全速力で逃げているのだ。
 だが……5分間の全力疾走は半端じゃなく疲れる。たとえ教導団で厳しい訓練を受けた身であっても。
 何が悲しくて鳥の爆発に巻き込まれなきゃならないのか……考えているうちにとほほな気分になるセレアナであるが、今そんなことを口に出している暇はない。気を付けるべきは、鳥との距離と――残り時間。
(20秒を切った)
 隣でセレンフィリティの荒い呼吸音が聞こえる。目の前の突き当たりに窓が見えた。ここは1階だ。
「跳ぶわよ、セレン!!」
 セレアナの言葉で、2人は最後の力を振り絞り、窓を蹴破って外に飛び出した。

 ちゅどーーーーーーーーん

 背後に爆音が響き渡った。




 爆音がどこからか響いてくる。
「もう、走れない……」
 体力の限界を超えたゆかりは、壁に手をついて肩を上下させて呼吸している。
 足元にはヒナ鳥。もう1分も……いや、残り30秒もないだろう。
「ぴ?」
 化け物じみた体力でここまでついてきたヒナを、ゆかりは、諦めたような目で見下ろし……手に取った。
「ぴぃ」
 もう、危機から逃れるにはこれしかない。窓を開け、外へ――
「……うぅっ」
 それでも、疑いを知らない無垢な瞳を見ると、どうしてもできない。ここから投げ捨てることなど……
「この子には何の罪もないのよね……」
 力なく呟いた時、突然ひったくるようにマリエッタがヒナをゆかりから奪った。
「でも、もうこうするしかないじゃない!!」
 2人が助かるためには――

 渾身の力を込め、マリエッタはヒナを窓の外に放り投げた。




「……聞きしに勝る手強さだったわね」
 5分間自分たちを苦しめたヒナが爆発して残した卵を凍結させ、ようやくセレンフィリティもセレアナも人心地ついた。
「だいぶボックスが埋まったわ。頑張ったもんね、あたしたち」
「そうね……もう5分間全力疾走は勘弁だけど」
「本当よーもう。一度隔離室に持っていこうか?」
「そうね。研究員もいるし、あと何羽くらい逃げているのか教えてもらえるかもしれないわ」
 少し明るい気持ちになって、2人は、爆発で半壊した廊下から、その崩れた壁を越えて外に出た。
 青空が眩しい。

 ――ぴぃ〜〜〜い………

 変な音が、どこかから聞こえてくる。近付いてくる……
「!!」

 ちゅどーーーーーーーーん

 頭上、と気付いた途端、間一髪、ほとんど脊髄反射的に2人はそれぞれに地に飛んで転がるように、その予測落下地点を避けた。
 そこに落下する前に、飛来物、すなわちどこからかとんできたヒナは、爆発した。
 爆風、そして煙がもうもうと立ち込める。それが晴れると、残っているのは、転がる卵ひとつと……

「セレン! 無事!?」
 セレアナが体を起こしてその姿を探すと、晴れかけた煙の中、むくっと体を起こす姿が見えた。
「セレン……」
 ぶすっとした表情で立ち上がるセレンフィリティ。卵を収めたクーラーボックスは死守していたが、髪はぐちゃぐちゃになり、制服も下着代わりの水着もズタボロ、煤で真っ黒になっていた。
 それはセレアナも同じようなものだった。
「……もーやだ。何これ……?」

 しばらくは焼き鳥や鳥料理などは食べたくもない2人だった。