天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

爆弾鳥リインカーネーション

リアクション公開中!

爆弾鳥リインカーネーション

リアクション


不撓不屈! 葦原明倫館編


 この学校内でも、爆弾鳥の騒ぎは起こっている。

「なんつーメンドクサイ物を……!」
 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は、溜息をついて、爆音響き渡る校内を見渡す。
 とはいえ、この状況を放っておくわけにもいかない。校内の騒ぎの収拾に、唯斗は乗り出した。
「おい! 卵になったら迂闊に近付くな! 凍結してすぐに研究機関の用意した隔離室に!」
 爆音が聞こえればその場に駆けていって、迂闊な挙動で処理しようとしている学生に注意を促す。
 『千里走りの術』で迅速に行動すれば、迅速に処理も進む。
「うわぁぁぁぁ来るなぁぁぁ」
 ヒナに懐かれて逃げ惑う生徒を見つけたら、人的被害をなくすため、【縮界】で爆発の瞬間に割り込む。

 ちゅどーーーーーーーーん

 万が一の事態にも被害は最小限で抑えるべく、『鬼種特務装束【鴉】』の装備などといった準備は万端で、爆発後の卵は即座に【氷縛牢獄】を卵サイズで行使して、封じて回収する。
「やれやれ……なんで皆、もうちょっとスマートに速やかに、いちいち騒動を大きくせずに立ち回れないかねぇ」
 そう呟くが、唯斗のように強力な備えで抜かりなく立ち回る、ということは、誰にでもできるというわけではないだろう。まだ勉強中で未熟な者も多い学校内では特に。
 唯斗にはできる。
 ゆえに自分がやらなくては、と奮闘することになる。
 そして今日も苦労する。

「あれ!? ここに確保しておいた卵がなくなったぞ!?」
 また、唯斗を放っておけなくさせる、トラブルの種らしき誰かの声が耳に入る。



 調理室にて。
「不死鳥のヒナを手に入れた!」
 緋柱 透乃(ひばしら・とうの)は、誇らしげにそれを掲げてみせた。
 当のにつままれて、ヒナはぴーい、ぴーいと呑気に鳴いている。
「……どうするんです?」
 誇らしげに見せられて、緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)はしかしピンとこない様子でぼんやりと首をかしげる。
「決まってるよね。食べる!!」
「……はぁ」
「鳥といえば酒の肴! しかも不死鳥、食べることでその生命力を得ることができるかもしれない! ということで食べる!」
「そうですか」
「5分で爆発するらしいんだよね。だから、凝った料理にはできないよね。たぶんもう1分くらい経過してると思うし。
 というわけで、定番の焼き鳥にしよう! と」
「…そうですか」
「うん、だから、陽子ちゃん、羽毟って♪」
 にっこり笑ってヒナを差し出す透乃に、陽子は、一度息を吐いただけで「いいですよ」と立ち上がった。
 何よりも透乃の楽しみを優先する陽子は、彼女の頼みを聞き入れる。
 けれど、爆弾鳥に近付く気にはなれなかった。

「それじゃあ、行きますよ」
 陽子は『訃刃の煉鎖』を構え――それを、部屋の端からもう片方の部屋の端にいるヒナへ攻撃を開始した。
「ぴーっ」
 ヒナは耐性は高いが、攻撃されても無頓着でいるというわけではない。この場合、ヒナは透乃を親だと考えているので、透乃にくっついて危機を逃れようとする。
「何かちょこまかやりにくそうだなぁ。押さえつけてようか?」
 透乃は陽子がやりやすいようにヒナとの間に入らないよう位置を取ろうとするが、それにしてもヒナが動きすぎてそれはそれでせせこましく、陽子がやりにくいのは同じ気がする……

 ちゅどーーーーーーーーん

 ヒナが爆発した。

「あちゃあ、時間かけすぎたかな」
 至近距離で爆発を喰らったものの、鍛えられた頑強な体を持つ透乃は、全身煤だらけになりながらも大したダメージは受けて(体感して)いない(来ているチューブトップも含めて)。陽子は距離があったので被害を受けていない。被害は主に部屋に出ただけだった。
「次はもっと手早くやろう」
 孵化するまで30秒待って、クッキング再び。孵化するなり陽子の遠距離攻撃で羽をむしられ皮をはがれ、絵にしたら確実にモザイク必至の状態から、焼き鳥に最適な大きさに切る……

 ちゅどーーーーーーーーん

「えーっ、5分たってないと思うんだけどなー」
 やっぱり頑強な体で爆発のダメージを耐えている透乃が、不満の声を上げる。
 ――爆弾鳥の肉体が耐えられる以上のダメージがかかったために死→からの再生=爆発に至ったのだ。
 まだ30秒待つ。(「インスタントラーメン?」「あれは待ったらすぐに食べられますよ)
 孵化したヒナを、例によってモザイク必至の工程を経て切る。切るのに時間をかけていると、また爆発するのでやや大まかに。それに炙るために金串を素早く打ち、火にかける。
「何でまだ動くのかなぁ……串が通りにくいよー……」
(それにしても……透乃ちゃんに千切られたり焼かれたり串刺しにされるなんて、爆弾鳥が少し羨ましいですね……)
 そんなことを思いながら、躍起になって鳥を火にかけようとしている透乃を離れて見つめる陽子だった。

 どごおおぉぉぉxーーーーーーーーん

 今度の爆発は凄まじかった。
 おそらく火を使っているところに鳥の爆発の威力がかけ合わさり、火力が飛躍的に上がったのだろう。
 透乃もさすがに、ダメージはともかく煤で真っ黒だ。チューブトップもすっかり煤けている。
「うーん、これはもう、じっくり火を通すのは無理かなぁ。
 さっと表面を炙って踊り食い、にしよう」
 煤まみれで腕組みをし、透乃は唸った。
「大丈夫だよね、生まれたての肉なら新鮮そのものだから半生でもいけるし、爆発を経てるなら変な虫もついてないよね」
 そこまでして食べたいのか――と、外部の人間が見たらツッコミを入れたくなるところだが、そこまでして食べたいようだ。
「今度こそ!」
 ぐっ。と拳を握ったところで。


「だあああああ!!? 何遊んでんだああああぁぁぁぁぁっ!?
 校舎の被害もバカになんねぇんだぞ!」
 同じ地点から連続して爆発音が上がっていることに驚愕して駆け込んできた唯斗が、この光景に半ば呆れて叫んだ。
「――あ、話があるならちょっと待っててほしいんだけど。今取り込み中だから」
 回を重ねてすっかり手際のよくなった陽子が羽をむしった鳥を手に、透乃が平然と返す。
「これ焼いて食べてからね」
「わぁぐろい(棒読み)」
「あれ、どうしよう、コンロの具合が悪い」
「これだけ部屋が爆発してれば調理器具もおかしくなるだろーがっ!!」
 唯斗の言う通り、調理室はもう……見る影もない。
「あ、火付いた。ささーっと炙ってすぐ食べよう」
 一方陽子は、粛々と食器と酒の準備を進めていた。
「透乃ちゃん、もう3分になりますよ」
「よし、もう食べられるよ。陽子ちゃん、一緒に飲まないの?」
「いただきます」
「何でそんなに離れてるの。食べないの?」
 透乃の皿と酒のグラスから離れたところに、自分のグラスを持って座っている陽子に、透乃は不思議そうに訊く。
 その透乃の皿に乗った「モノ」を遠巻きに見て唯斗は、(うわ動いてる……)と思いながら軽く目を逸らした。

「不死鳥を我が胃に――! なんちゃってかんぱーい」
 透乃は意気揚々とグラスを掲げて一杯飲むと、すぐにはむっと鳥に食らいつく。
 ヒヨコなので大きさは大したことはない。大急ぎの咀嚼を経て、胃の腑に下っていく――



 爆弾鳥は死なない。擬似不死鳥なのだ。
 卵にあるうちに引きずり出されても、毛をむしられて骨を砕かれても。
 生きており、そして機を得て再生する。
 そして、それとは別に、生きものとしての本能がある。
 自分の生存に不適な環境に在るという判断をした時には、その環境から逃れようとする本能だ。
 もちろん、形を成さぬ卵の中身の内に引きずり出された場合には、移動する手段はない。
 まだ、孵化してからも負傷して移動ができない場合もあろう。
 だが、不死鳥の生命力は、どんな状態からでも無傷の状態にまで個体を復帰させる。
 そして復帰すれば、鳥は活動を始める。
 不適な環境から、適応できる環境へ――

 生命体に復帰したヒナは、透乃を「逆流」しつつあった。



「(ひっく)」
 酒を干した透乃の口から小さく、ゲップに似た音が漏れる。
「?」
 そして、喉の下を抑えた。

 ぐりぐりぐりぐり むりむりむりむり

 何かが遡ってくる……

 飲み干したアルコールの香りが凝縮して透乃の鼻腔に遡って強く刺激し、思わずむせた。
 その、大きく口を開いた瞬間に、何かがもりっと喉の奥から上ってきて――
 飛び出した。
 飲み干したはずの酒と共に、空中へ。


 カッ(閃光)

 ちゅどーーーーーーーーん




「……」
 陽子も唯斗も、その光景にしばらくの間、言葉が見つからなかった。
「……マーライオンのゲップ?」
 ようやく、陽子がそう言って首を傾げた。
(…………一応、相手は女だし、見なかったことにするか……)
 唯斗は内心そう思い、遠い目をした。



 結局この卵は、唯斗が回収していった。
 凍結させた後も、拾うのに若干(?)の抵抗があったことは否めない。