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【十二の星の華】悪夢の住む館

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【十二の星の華】悪夢の住む館

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第7章 館と真実

 鳴動館の入り口に立って、御神 翼(みかみ・つばさ)は携帯電話を耳に当てていた。

『テティスさん、とりあえず元気にお話を始めてくれましたわ』
「そうか。じゃあ、そっちへ合流した方が良いか?」
『そうですねえ、来ていただいても入っていただけそうにないと思うので、もう少しこのままにしておいてください』
「なんだそれは?」
 パートナーであるリスティル・クリステラ(りすてぃる・くりすてら)の言葉に、翼が眉間に皺を寄せた。
『ふふふ、女の子だけのお茶会です』
「はあ?」
 翼の皺が深くなる。
『そちらはいかがですか?』
「いかがも何もないんだが……鳴動館の噂は、ごく最近流れ始めたものだな。要するに館が建ってみたら近所の住民が何やら音を聞く――とまぁそういう話だ」
『あっ! 今テティスさんが建物の中のお話を――』
 電話の向こうで、リスティルが首を動かした気配があった。
『――テティスさんが着いたときは、荒れていなかったみたいです』
「なるほど。ああ、俺しゃべるけど、そっちで重要そうなことがあったら止めてくれ。近々で関連のありそうな事件としては――彼方は結局十二星華がらみかどうかってっことで調べているらしいな。テロ云々が問題になるのはそのせいで――十二星華絡みとなれば『テティス・レジャ』も『クイーン・ヴァンガード』も標的になる可能性は十分だ」
 彼方と話した内容を総合して語りきり、そこで翼は肩をすくめた。
「二人の間のトラブルは言うまでもないが――」
 翼は鳴動館までの道中のやり取りを思い出す。
『原因はどちらなんですか』
「テティスの様子は?」
『……すごく奥手ですね』
「……それはどっちもだろ。とりあえず、おまえがそっちに残るなら、俺も引き続き彼方に付き合ってみる。引き続きよろしくな」
 リスティルの了承の声に電話を切り、翼は鳴動館の入り口を眺めた。


 ホールを抜けると、後は廊下と部屋の連続だった。
 前方に、背後に、壁に窓に――常に注意を払いながら、廊下を進み、扉を開けて部屋の中を確認しながら彼方は進む。
「ねぇねぇ、彼方くん。ねぇ、テティスちゃんは何で単独行動なんかしたのかな? 理由を知ってる? ねえってば」
 ピタリとその動きに付き従い、遠野 歌菜(とおの・かな)が彼方の背中から声をかけ続けている。
「あ、黙ってるってことはあーやしいんだ。心当たりがあるんでしょ? 何か心当たりがあるなら、私に話してみるといいですよ!」
 彼方は答えず、憮然とした表情で、その足を次の扉へと向けた。
「彼方くんは男の子ですから、乙女心なんて分からないでしょう? だから、私が話を聞いて……乙女視点でのアドバイスをしてあげます! ほら、お姉さんに話してご覧なさい――って羽純くん、なに笑ってるの?」
「……いや、笑ってないぞ」
 月崎 羽純(つきざき・はすみ)は、たった今まで間違いなく緩んでいた口許を無理矢理に引き締める。
「『乙女』って言ったところでぜーったい笑った」
「……だから、笑ってなど……ほら、彼方が先に行ってしまうぞ」
 羽純の言葉に、歌菜はタタタッとその足を速めた。
「俺は、『来なくていい』って気楽に言っただけだよ。あんなに怒ることねーだろ――って思うけど――結局それが原因なんだろ。さっきも言われたし――それで殴られたけど」
 追いついた彼方の背中がポツリともらした言葉に歌菜は「ふーむ」と人差し指を顎にあてた。
「そうだね。女の子は守られるだけじゃ嫌なんだよ。それが好きな相手なら尚更。守られるより一緒に立ち向かいたいって、一緒に歩きたいって……少なくとも私はそう思うな」
「あのなぁ」
 歌菜の言葉に、彼方は僅かに顔を赤らめてから反論した。
「あいつは十二星華。望むと望まないとに関わらずでっかい力を持ってる。それがなんかの間違いで利用されたりしてみろ、目も当てられない。色んな意味で脅威なんだよ、普通の感覚で扱っていいわけないんだ。言ってみりゃ――特別なんだよ」
「そぉーんなの、言い訳だよね」
 歌菜はツイッと唇を尖らせてみせる。
「だってさ――誰だって、誰かにとっては特別なんだもん」
「だからそういう意味じゃ――」
 彼方はガリガリと頭をかく。
「要は君がテティスと一緒に居たいか、そうじゃないか……それだけだ。これなら、とてもシンプルだろ?」
 言いながら、羽純は光条兵器を展開し、
「歌菜、お前さっきから武器も持たず無防備すぎだ」
 歌菜に手渡した。
 歌菜はそれを素直に受け取る。
「パートナーが一緒にいるってのは、要はこういうことの積み重ねだろ? 細かい事ぁいいんだよ。五分と五分。変にどちらかだけが気負うこと無い。誰かに背中を預けられるというのは、悪くないだろ?」

「だーいたい、彼方ちゃん、この後テティスちゃんとどうなりたいのです?」
「ど、どう?」 
 ひょいっと発せられた諸葛亮著 『兵法二十四編』(しょかつりょうちょ・ひょうほうにじゅうよんへん)の問いに、彼方は明らかに狼狽える。
「よくあるではないですの、目標。一ヶ月後には手を握りたいとか……ですわ」
「手ぇ!? そ、そんな大それた! お、俺はただその、こーなんか居心地がよければそれでっ」
「……押し倒したいとか、ありませんの?」
 ふるふるふる。
 彼方は全力で首を振る。
「強引に唇を奪いたいとか」
 ふるふるふるふる。
「もしかして、告白は――」
 ふるふるふるふるふるっ!
 『兵法二十四編』は呆れたような表情になって彼方を眺めた。それから、少し意地悪そうな口調になって告げる。
「先ほど、テティスちゃんが男性の方と腕を組んだ画像が送られて来たんでしたわね。そちらの男性は、彼方ちゃんが考えてるよりずっと進んだことを考えていらっしゃるかもしれませんわね」
「ダメですよ、リョーコ。皇の心を徒に揺さぶらないであげてください」
 『殺気看破』に『ディテクトエビル』。
 一行の中で警戒の姿勢は崩さないまま、風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)は苦笑いを浮かべて
『兵法二十四編』をたしなめた。
「隼人から電話で連絡をもらいまして。身代わり……隼人はそう言っていましたが……の方が現れてテティスさんはとりあえず釈放されているみたいですよ」
「だ、だからテティスは知らないヤツと腕組んで出てったんだろ?」
「中々強情な上に――君は少し早とちりなところがありますね」
 優斗はにっこりと微笑む。
「テティスさんは現在、『お茶会』という名義で質問タイムの真っ最中。これがなんと、『男子禁制』。女の子だけのお茶会になっているそうですよ」
「あら、ちょっと面白そう――そっちへ行けばよろしかったかもですわね」
 『兵法二十四編』が少し残念そうな声を上げた。
「僕は待ちぼうけになっちゃいますけどね――とにかくそんな訳なので、クラリアスは中に入れたけれど、隼人はもちろんオフリミット。状況から考えてさっきの画像、お茶会の場所に向かう途中で――後ろ姿ということは……テティスさんの相手も、実は女性なのではないですか?」

「そりゃ早とちりだな」
 閃崎 静麻(せんざき・しずま)は面白そうに笑って、それから彼方の背中越しにぐるっと部屋の様子を眺め渡した。
「ま、付け加えておくと、あんたちょっとばかり鈍すぎるよな」
「なんで――」
「例えば、ココだけどな」
 静麻はコンコンと、部屋の壁に出来た傷を拳で叩く。
「こいつは、そこで砕け散ってる置きものがぶち当たって出来た跡だ。そしてこの置きものは設置の跡から見ても――」
 つかつかと部屋を横断し、静麻は壁の傷の、ちょうど真反対にある暖炉の上に手を添えた。
「元々ここにあったもんだ」
 静麻の行動に、彼方はハッとした表情を浮かべる。
「要するに何かでかい振動でもあったか。さもなけりゃ――犯人がそうまでして、痕跡が残らないくらいまで館の中をめちゃくちゃにして何かを隠したかったか」
 彼方は何かを考え込むように顔を伏せた。
「な。テティスの件も大方、その鈍さが原因じゃないのか? 当ててやろうか? あんた、小谷愛美の他にも何人か女の子と話して回ったんじゃないのか?」
「そ、それはっ、女の子の考えてることがちょっと判らなかったから――テティスの考えてることを、知りたいと思ったから――そんなの、小さなことだろ」
 彼方は、少しムキになって静麻に噛みついた。
「だからさ、自分だけが『小さいことだ』『取るに足らないことだ』と思って見逃してることは結構たくさんあるってことさ。そして――時にはそれが致命的になることだってある」
 笑みを消した静麻が、グッとその視線を鋭くする。
「大切なものはしっかり掴んでおけ、失う時は一瞬だぞ」

「だからとりあえず、男が悪者になって謝るのが良いんですよ。そうすれば女の方も謝りやすいですし」
 別の部屋を覗き、異常のないことを確認した樹月 刀真(きづき・とうま)が、彼方に声をかけた。
「この件が片付いたらお詫びとしてテティスを食事に誘ってあげると良いですよ」
「……それ、重くないか?」
 彼方は、その言葉の内容より、刀真の腕にしがみついた漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)の様子が気になって、疑問の声をかけた。
「まあ少し」
「私は刀真の剣の花嫁、刀真の剣でパートナーなのだから刀真の側にいるのは当たり前……彼方達は違うの?」
 少しだけムッとした様子の月夜。
「月夜、あまり拘束されると、いざというとき利き腕が振るえないのですが……」
「のぞむところだわ。利き腕の一本や二本。パートナーを感じることさえ出来ればいくらでも補えるって、証明してあげる」
 ギュッと、月夜はますます強く刀真の腕を抱きしめた。
「テティスは危ないから連れて行かないって言われたり、パートナーの自分じゃなくて愛美に色々相談されてたり――そんなの失礼だってことと一緒にね。パートナーに頼られてないって感じたら、不安だし、何より――寂しいわ」

「……んー……俺なのかぁ」
 月夜の様子を眺めながら、彼方はまだ幾分疑問の残る口調で首を傾げた。

「まだそんなこと言ってるっ!」
 セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)は、呆れを通り越して、もうほとんど悲鳴に近い声を上げた。
「いい? さっさと謝ればいいのっ! こういう場合は大抵男の方が悪いんだって、そこの刀真さんだって言ってるし、彼方の無神経が悪いんだって、そんなの決まり切ってるんだから!」

 ポンっと手を叩いて。

「あ、そうか。それでテティスさんは怒ってしまったんですねっ! いやあ、テティスさんの性格を考えたら、ひとりでこの館へ向かうなんて、おかしな話だなと思っていたんですが……」
 じっと話を聞いていた御凪 真人(みなぎ・まこと)は、やっと納得がいった様子で嬉しそうに頷いた。

「……あなたのその辺の鈍さも、一遍きっちり責められといた方がいいと思うわ」

「やあ、君はやっぱり頼りになりますねぇ」
 げんなりした顔のセルファに真人はごく生真面目な顔を向けた。

「……」
 一瞬の沈黙。

「キーッ! その鈍感はやっぱり悪だわっ! それとも、鈍感のフリしてなんかバカにしてるでしょ!」
 彼方に向けていた顔をクッと真人に向け、セルファがそのえり首をつかみにかかる。
「バカになんてしてません! 人の心情を気遣える優しい人だと――」
「や、優しいとか言ってんじゃないわよっ!」
 さらにセルファは、力を込めてぎゅうぎゅうと真人の首を締め上げた。
「わっ、わっ! で、でも、じゃあ喧嘩解決の目処が立ったなら、後はこの鳴動館の事件を解決するだけですね」

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「とりあえず目的の三〇パーセントは果たしたわ」
「うぇぇぇ〜? まだ何かするのぉ〜? なんだかんだで危険だよここ、帰ろうよぉ〜?」
 背中には山ほどの缶詰を背負い、その一個に満足そうにパクつく一ノ瀬 月実(いちのせ・つぐみ)に、リズリット・モルゲンシュタイン(りずりっと・もるげんしゅたいん)はぐったりした声を上げた。
「バカ言ってんじゃないわよ。まだまだ私の心も身体も満たされてないんだから! コックピットを、この『鳴動館ロボ』のコックピットを探し出して乗り込まなくちゃ――あ、あとうどんが食べたい」
「うどんなんてあるわけ無いよ〜、缶詰山ほど見つけたんだから満足しようよ〜」
「これだけの館に缶詰が一山しかないなんて有り得ないわ」
「……もう言ってることが山賊の理論だよ〜」
 リズリットは「うううう」と涙声を漏らした。
「わかったよ、うどん探す。でもさ、ロボはないと思うよ、ロボは。だから、コックピットは諦めよう、ね?」
「無いと思うから無いんだわ。いい――聞きなさい?」
 月実は、急に真剣な顔になって、ズイッとばかりにリズリットに額を突きつけた。
「鳴動館は動くのよ! しかも変形してロボになるのよ! 動いたとか周囲が破壊されたとかはそういうこと! し・た・が・っ・て、変形して動くわけだから内部が荒らされたようにボロボロになってても当然! 変な実験というのも納得ね! 呻き声や轟音も機械の音だと思えば通じる――どうこれ? 完璧な私の推理!」

 コ……コクリコクリ。

 月実の勢いに圧されて、リズリットは何となく首を縦に振った。

「判ればよーし。さぁ、秘密は地下にあるもの。そして奥には広がる数々の機械と回路! つうじょうの5倍のエネルギーゲインよね! さっきは缶詰しか出てこなかったけれど……引き続き階下を探すわよっ!」 

 月実は元気よくそう宣言した。

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「オッケー、ありがとうございます、朝倉さん」
 霧島 春美(きりしま・はるみ)はにこやかに言って、朝倉千歳との通話を切った。
「朝倉さん、なんだって?」
「いーい質問よ、うさぎちゃん」
 頭には超感覚の影響で二本のウサ耳。
 宇佐木 みらび(うさぎ・みらび)の質問に、春美は手にした天眼鏡越しの瞳を見開いた。
「テティスさんは現在釈放されて、朝倉さんとたちのお茶会中」
「ということは――うさぎたち【イルミン魔女姉妹探偵+α】はたった今から、全力で鳴動館の正体を解明しますっ! ……ってことですね、春美先輩?」
 千歳や春美達と同じく、『推理研』の腕章をはめたみらびが高らかに声を上げる。
「その通りっ! この生きている紐より奇妙な謎を!」
「こんがりこんがらがった恋の謎をっ!」
「毎年送られてくる真珠なんかよりも不思議な謎を!」
「お菓子よりも苦くて甘いおかしな恋の謎をっ!」

『サクッと解決イルミン魔女姉妹探偵っ!』

「……んでまぁこのひどい壊れっぷりなわけだけど」
「……彼女達のこと?」
「……失礼なヤツだねキミは。ぶん殴るよ」
「……もうぶん殴ってるけどね」
 楽しそうな笑い声をあげる春美とみらびを差していた手を引っ込め、ディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)宇佐木煌著 煌星の書(うさぎきらびちょ・きらぼしのしょ)に引っぱたかれた後頭部をさすった。
「キミも、この館に巨大生物がいるって説?」
「んー春美やうさぎちゃんがそう言うなら」
「主体性がないね」
「サポート役の立場を心得てるってだけだよ。調査も、たとえ戦闘になっても、全力でサポートをするのがボクの役割」
 にっこり笑うディオネアを見て、煌星の書はフッと肩で息をついた。
「煌さんの見立ては違うの?」
「むぅ」
 他の部屋同様調度が砕け散った部屋を見渡し、べりべりと剥がれた壁紙を確認して、煌星の書は唇を引き結んだ。
「ううん――どーなんだろ。少し揺らいでる。これではまるで、局地的な地震に襲われたか――いっそ自分で動いたみたいじゃん?」

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「しかしこりゃ想像以上に骨が折れるな」
 館の最奥。
 一際散らかった部屋で、押しのけたがらくたを眺めながら瀬島 壮太(せじま・そうた)は、大きく伸びをした。
「おいおい、頼むぜ? 君が捜し物は任せろって言うからこっちは協力してるんだからよ」
 国頭 武尊(くにがみ・たける)は拾い上げた木片を、興味なさそうに放り投げる。
「ちょっと待て、『契約者のいざこざだの謎の組織だのの調査ならパラ実が一枚も二枚も上だ』ってでかい口を叩いたのはおまえだぞ? それから、拾った物をポンポン捨てるな。かたつかねーだろ」
「ああん? 見た目の割に神経質なんじゃねーか、君? こまけぇこたぁいいんだよ!!最悪なんも見つからなかったら、『この屋敷には得体の知れない悪霊が住んでいるので
危険だから焼いちまおうぜ!!』つって火ぃかけちまえばいいんだから」
「大ざっぱにもほどがあるだろっ!」

「や、やめてやめてっ! 国頭さんも壮太も、ケンカは止めて!」

 あごを引いて下唇を突きだし、鋭くした視線を絡ませ始めた壮太と武尊に、ミミ・マリー(みみ・まりー)はパタパタと腕を振り回して悲鳴を上げた。

「いや、オレは平和にいきたいんだけどな。大体、視線を感じるだの実験を行ってるのだのいうくせに、なんでこの家には人がいねーんだよ? そいつ捕まえればこんな捜索、一発解決だっての」
「いねー奴に文句言っても仕方ねーだろ」

 再び視線を絡めだした二人の真ん中で、ミミはうるうるとその眼を潤ませた。

『へっ』

 と吐き捨てて二人は捜索に戻っていく。

「あ、そ、そう言えば! 散らかってる破片はこー物がどっかーんってぶつかって壊れたみたいだよねっ!」
 どうにもピリピリムードの空気をぬぐい去ろうと、ミミが明るい声を上げた。
「テティスさんの武器は槍だけど……そんな痕跡でもないよねぇ? これほんとにテティスさんがやったのかなぁ?」
「テティスじゃねぇだろ」
 答えたのは武尊だった。
「要は『鳴動館』は何らかの移動型研究施設。もしくは巨大生物か建物型機晶姫だってことだろ?」
「な、なんで?」
 ミミが単純な疑問の声を上げる。
「直感と閃き――じゃ納得しねぇんだろ? いいか? 鳴動館の正体がそういうもんだとすりゃ、『視線』それに『轟音』や『怪しげな実験』そして、『動き出そうとするのを見た』――見ろ、全部辻褄が合うじゃねぇか?」
「ちょ、ちょっと待て! 巨大生物か建物型機晶姫? このでかい建物が――」

 言いながら、壁を叩いた壮太の顔が、怪訝そうなものに変わる。

「――ここ、向こうに空間があるな」

「やったっ! 当たり! 隠し部屋だ!」
 ミミがはしゃいだ声を上げた。
「でもどうやって開けるんだ? これ」
「んなもん――」
 言うなり、武尊は壁を数回蹴りつけ、それで開かないと見るや、手近にあった高価そうな倚子を、思い切り叩きつけた。
 ギィィィときしむ音を立て現れた、長方形に、武尊はさっさと飛び込んでいく。
「荒っぽいにも程があるぞおまえ? おい、中に何がある?」
「……なんだこりゃ? なんかの魔術装置か? ピカピカ光ってっけどな――」

「あーっっっっっっっっっっっっっっ!」

 武尊の訝るような声を遮って。

「それぞまさしくコックピット!」

 廊下丸々ワンフロア分に渡る、月実の歓喜の声が響き渡った。