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【十二の星の華】秘湯迷宮へようこそ

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【十二の星の華】秘湯迷宮へようこそ

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第1章


 昨夜、宴会が開かれていた部屋では皆が朝食を食べる為に集まって来ていた。
 大きなテーブルの上には温泉の精霊秘湯 鄙が用意した料理が所狭しと並んでいる。
 焼き謎魚、わかめの味噌汁、大粒梅干し、ふわとろ卵焼き、大根おろしとなめこ、冷ややっこ。
 実に良い匂いがする。
 部屋の開け放たれた障子から朝の爽やかな風が入ってきた。
 風と一緒に桜の花びらも入って来る。
玄武甲は我が作った迷宮に隠してある」
 鄙の唐突な発言に味噌汁を口に含んでいたホイップ・ノーン(ほいっぷ・のーん)は、味噌汁を吹きだしそうになるのを必死にこらえた。
 この部屋の中にいる人達、全員が同じような事になっている。
「ホイップ殿が連れてきた友人達であったとしても、信用はしていなかったのだが……昨日の様子を見ていてな、信用しても大丈夫そうな気がした。ホイップ殿との交際を真剣に考えている者もおるようだしな」
 鄙はそう言うと、ホイップの隣に座れなかったエル・ウィンド(える・うぃんど)が大根おろしとなめこかけたをご飯を落としそうになっていた。
 ちなみに、ホイップの隣は藍澤 黎(あいざわ・れい)と夜中に合流したルディ・バークレオ(るでぃ・ばーくれお)が、ホイップの前はルカルカ・ルー(るかるか・るー)カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)ロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)が固めている。
 入る隙がなかったのだ。
 昨日の事を思い出し、灰になっているエルを雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が肩を叩いてなぐさめた。
「ありがとう」
「いいってことよ」
 エルとベアの間で友情が成立した……かもしれない。
「で、玄武甲のある迷宮は、この建物の裏にある」
 あまりの近さに皆、目が点になっている。
「我が作った迷宮なのだが、簡単には取れぬよう仕掛けが大量に施してある。玄武甲の場所も含めて全部で7箇所大きな部屋を作ったのは覚えておるが……」
 鄙は顎に手を当て、考え込んでしまった。
「あの……何か問題が?」
 前回影の薄かったグラン・リージュがおずおずと口を開く。
「うむ、もう5000年近く昔なのでな……どこに何を仕掛けたのか、どこに玄武甲を置いたのかさっぱりだ」
「えぇっ!?」
 みんなで一斉に叫んだ。
「ホイップ殿には沢山の仲間がおる。皆で協力すればなんとかなる……かもしれん」
 鄙はなんとも曖昧な言葉を良いながら、ホイップに柔らかな笑顔を向けた。
 ホイップは少しだけ考えてから言葉を吐いた。
「…………うん……みんな、玄武甲を取りに行くの手伝ってもらっても……良い?」
 みんなを見回しながら言葉はどこか弱気だ。
「もち――」
「勿論!」
 エルが全て言う前に緋桜 ケイ(ひおう・けい)が言った。
 ベアにまたしても肩を叩かれるエルだった。
「ホイップを助けると言ったんだ。それを実行する!」
 ケイの言葉に多数の人が頷いているのが見える。
「ありがとう」
 ホイップは笑顔でお礼を言った。
「とにかく! 腹が減っては戦はできませんわ!」
 ロザリィヌが食べるのを再開すると、他の人達も再び美味しい朝食に下鼓を打った。

■□■□■□■□■

 廊下で聞き耳を立てていたのはティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)だ。
 浴衣の帯から携帯を取り出すと、どこかへと電話を掛けた。
「玄武甲の場所が分かりましたわ……ええ、こちらに向かって来て下さい。場所は――」
 温泉の場所を電話の相手に伝える。
「宜しくお願いしますわ、シャムシエル」
 用件が済むと早々に電話を切り、次のところへと掛けだした。
(シャム……シエル……!?)
 トイレに行っていた七枷 陣(ななかせ・じん)は、曲がり角に居た為、見つかる事なく、電話の相手の名前を知ってしまった。
 思わず声を出しそうになり、口を押さえた。
(……乳女B……いや、ティセラも玄武甲の話しを聞いちまったのか……こりゃ、気合い入れていかないとな)
 陣はティセラの全ての電話が終わるまで待ってから、朝食のある部屋へと戻って行った。


 お手洗いの前でティセラとばったり出会ったのはケイと悠久ノ カナタ(とわの・かなた)だ。
 一瞬、ケイとカナタは身構えるが、すぐにとく。
「ちょうど質問したいことがあったんだ」
「なんでしょう?」
 ケイの言葉にティセラがすぐに返した。
「剣の花嫁たちを操るような非道な手段を取っておきながら、星杖を放そうとしないエルからは、無理やりそれを奪おうとはせず、簡単に諦めた理由を聞いても?」
 カナタが質問をぶつける。
「それは……ホイップが手に入り、心を壊せれば簡単に洗脳ができる……わざわざ奪う必要がなかったからですわ。自分の味方にならないのなら邪魔でしたわ」
 ティセラの目が鋭くなる。
「……」
 ケイはホイップの――
『ティセラは酷いことが出来る人じゃない』
 という言葉を思い出していた。
(洗脳って……酷い事ができない人……じゃないだろう)
 ケイはティセラの答えを聞くと軽く会釈してからカナタと共に、部屋へと戻って行った。
 ティセラはケイとカナタの背中を見て、お手洗いへと入っていった。

■□■□■□■□■

 朝食を手早く済ませ、調理場へと来ている人達がいた。
「わぁ〜! おにぎり美味しそうです!」
「有難うございます」
 塩を付けた手であつあつのご飯を握っていた狭山 珠樹(さやま・たまき)アリス・ミゼル(ありす・みぜる)が話しかけた。
 アリスのパートナー四条 輪廻(しじょう・りんね)は何やらごそごそと小麦粉を袋ごと出してきたり、ライター、さらにはガスを袋につめたりしている。
「その手首の黒いリボン……昨日もしてましたっけ?」
「これは……我の決意の証ですわ」
 珠樹は塩おにぎりを作る手を止めると自分の右手首のリボンを触った。
 その表情は揺らぎがない。
「戦闘ではお役に立てないかもしれませんが、それ以外でなんとしてもホイップを手助けさせて頂きますわ」
「今日はお互い頑張りましょうね!」
 アリスは珠樹の肩をぽんぽんと叩いて、笑顔を向けた。
「はい」
 珠樹もその笑顔に釣られて、笑う。
 その後、珠樹は味噌、梅、鮭おにぎりを用意していた。


「あつっ!」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は衣を付けた鶏肉をしっかりと鍋の中に入れてから手を引っ込めた。
 油の中に鶏肉が沈んでいく。
「メイベル! 大丈夫!?」
 慌ててセシリア・ライト(せしりあ・らいと)が駆け寄った。
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)もパンの耳を切っていた手を止め、メイベルを心配そうに見つめる。
「大丈夫です。ちょっと失敗しちゃいました〜」
「良いから! 早く冷やさないと! 痕が残っちゃうよ!」
 セシリアはメイベルの腕を掴んで、蛇口まで持って行き、水を流し続けた。
「大丈夫ですか?」
 フィリッパが声を掛けた。
「大丈夫、うん。大丈夫! 油も少なかったし、そこまで大きくない……うん、赤みも引いて来たよ」
 セシリアが状況を説明するとフィリッパは安堵した。
「もう大丈夫ですから……」
「本当に? まだ冷やしてないとダメだからね? フライドチキンは僕がやっちゃうね!」
「はい、お願いします」
 メイベルを心配しながらも、まだ火が付いている油の入った鍋の元へと寄って行った。
 しばらく流水で冷やすとメイベルの火傷はもうわからないほど回復していた。
 3人で完成させたのはフライドチキン、サンドウィッチ、チーズケーキだ。