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リアクション
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「まったく、周辺への被害は考えてないのかよ、奴らは」
燃え広がる炎を避けるように動物たちを誘導しながら、白銀 昶(しろがね・あきら)は毒づいた。クイーン・ヴァンガードの攻撃で墜落してきた海賊船が炎上したおかげで、ジャタの森に森林火災が発生してしまっている。誰だって、自分の出身地が災害に見舞われるのは嬉しいわけがない。まして、それが人災ともなればなおさらだ。
「あー、やばいかも。本当は海岸に出るのが火事を避ける一番いい方法なのですが、むこうは戦場になっているみたいですからねぇ」(V)
参ったという感じで、清泉 北都(いずみ・ほくと)が言った。逃げる方向が、簡単には決められない。とはいえ、迷って火に焼かれるよりは、避難所の方が場所が明確なだけましだろう。
「とにかく、困っている人がいないか探しましょう。頼みましたよ、昶」
「任せとけ」
狼に変身した白銀昶が、遠吠えで周囲の動物たちに危険を知らせていった。
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「防火線を敷くですぅ。二人とも頑張って木を倒してくださいですぅ。いきます!」(V)
樹齢何百年もありそうな大木を野球のバットの一撃で粉砕して倒しながら、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が言った。
「頑張りますわ」
倒れた木の下にバットの先を差し入れると、次の瞬間、ホームランよろしく大木をかっ飛ばして遠くに捨てながらフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が答えた。
ちょっと見ると、古くからある自然を容赦なく破壊しているようにも見えるが、このまま火事が広がってジャタの森全体が燃えてしまうよりは、木々を取り除いた防火ベルトを作成して、それ以上火が燃え広がるのを防ぐ方が結果としては被害が少なくなる。原始的だが、古くからある森林火災の対処法の一つであった。
「さあ、逃げられるようになったら頑張って逃げてね」
倒れている動物たちをナーシングで回復させながら、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が言った。元気になった動物たちが、思い思いの方へと逃げて行く。
「ふう」
SPルージュを引いて疲れを癒すと、セシリア・ライトは倒れている動物を探して走り回った。はたして、火事に巻き込まれて倒れているのか、メイベル・ポーターたちの倒した木によって怪我をしたり、その木自体に棲んでいた動物たちが怪我をしたのかまでは分からないが、いずれにしても火事はなんとかしなければならなかった。
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「ユーナ、こっちにもひな鳥が落ちてるよ」
メイベル・ポーターたちが作った防火ベルトを追いかけるようにして移動していたシンシア・ハーレックが、巣を失って力なく鳴いているひな鳥を拾いあげながらユーナ・キャンベルを呼んだ。
「それにしても、なんでここだけ一本道ができているのかしら。なんだか、火事以外に、さっきから木が倒れるような音とか、木を叩くというかなぜか空から落ちてくるような変な音も聞こえてくるんだけど」
「うーん、よく分かんないから、多分都市伝説だよ。そういうことにしておこうよ」
小首をかしげるユーナ・キャンベルに、シンシア・ハーレックはそう言い聞かせた。
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「この火事が、海賊たちによるものだと言うのかね」
「そうだ」
集落の長老に訊ねられて、閃崎 静麻(せんざき・しずま)はうなずいた。
「今はまだこの程度ですんでいるが、戦いが本格化したらこんなものではすまないはずだ。それを防ぐためにも力を貸してほしい」
閃崎静麻は、ジャタの森に住むジャタ族の力を借りて、海賊たちを討伐するつもりだった。だが、海賊たちと戦うという提案に対して、住民たちは否定的だった。
「彼の言っていることは本当なんです。ですから、是非私からも協力のお願いを」
住民の避難誘導中に一緒になった神裂 刹那(かんざき・せつな)が、一緒になって説得する。
「なぜ、クイーン・ヴァンガードはこんな所で戦いを始めるんだ。迷惑じゃないか」
「そうだ、そうだ」
「海賊と名乗ってはいるが、もともとは同じジャタ族が多いって言うじゃないか。なんで同族と戦わなきゃならないんだ」
住民たちが、口々にまくしたてた。
「残念ながら、協力はできんな。戦う理由がない」
「だが、このままでは、火事どころじゃすまなくなるぞ」
閃崎静麻は食い下がった。
「では、今起こっている火事を放置しろと言うのかね。海賊と戦いに行っている間に森がすべて焼けてしまったのでは話にならん。とにかく今は火事を消すことが大事だ、行くぞ皆の者」
残念ながら、ジャタ族たちは終始閃崎静麻に非協力的だった。もしかしたら、閃崎静麻自身が、今回の騒動の元凶の一つだと思われていたのかもしれない。あるいは、何者にも利用されたくないというジャタ族の誇りが、端から閃崎静麻の言葉を信じなかったのかもしれない。
「私は、森の火事からの避難誘導を続けます。海岸に、避難所も作ってありますので」
神裂刹那はそう言うと、閃崎静麻とは別行動をとっていった。
「しかたない。だが、手をこまねいているわけにもいかないな」
閃崎静麻はジャタ族の助力を諦めると、単独で海賊と戦うべく海岸へとむかった。
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「大丈夫ですか。肩をお貸しします」
煙に巻かれて倒れた人を見つけた七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が、しっかりしろよと助け起こした。
「誰かそこにいますか?」
森の中で誰かの声がする。
「こちらです。怪我人がいます」
七瀬歩が、大きな声で声の主を呼んだ。ややあって、梅小路仁美が姿を現す。
「菫さん、こちらです。急いでください」
呼ばれて、秦野菫も駆けつけてくる。
「少し離れた所に、避難所があるでござる。ひとまずそこへ移動するでござるよ」
秦野菫が、七瀬歩を先導していった。
避難所近くでは戦闘が行われているが、炎に巻かれるよりは守りの堅い避難所の方が安全であろう。
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「刹那の方は、うまくやっているかな」
ルナ・フレアロード(るな・ふれあろーど)は、別行動をとっているパートナーのことを心配しつつ傷ついた動物たちを探していた。
「むこうは風下です、風上に向かいましょうですね」
獣人の子供たちを連れて避難場所を探している夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)が、そこへやってきた。
「大丈夫です? 早く、こちらです」
ルナ・フレアロードは、すぐに夜住彩蓮に声をかけた。
「海岸に避難所があります」
「本当ですか、助かりましたです。さあ、もう大丈夫ですよ」
ルナ・フレアロードの言葉に、夜住彩蓮はほっと安心したように言った。
「ええ。案内しますからついてきてください」
ルナ・フレアロードは、そう言って歩きだした。
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「火事だと!? そういえば、さっき爆発の音が聞こえたが、それが原因なのか?」
ジャタの森に薬草取りにきていた四条 輪廻(しじょう・りんね)は、とても迷惑そうに言った。森林火災が起きているのであれば、のんびりと薬草を探してもいられない。迂闊に炎に巻かれたりしたら大変だ。
「ここは、早めに引き上げるべきであるかな……」
「あ、あの、四条殿……」
狼の姿で薬草の匂いを探していた大神 白矢(おおかみ・びゃくや)が、おずおずと四条輪廻に言いかけた。先ほどから、どこか遠くで狼の遠吠えのようなものも聞こえてくる。
「ああ、そんな目をするな。火事から、住民を安全に避難させたいのだろう」
四条輪廻の言葉に、大神白矢が千切れるほどに尻尾を振りながら首を縦に動かした。
「よし、対象の変更なのだ。薬草ではなく、怪我をしていそうな人を探すのだよ。幸いにも、傷や火傷に効く薬草は、白矢が見つけてくれた物が大量にあるからな」
四条輪廻は、摘んだ薬草を入れたカゴをポンポンと叩いてニヤリと微笑んだ。
ただ、一瞬、摘んだ薬草の効果を試すための人体実験じゃないだろうかと、不安になる大神白矢であった。
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「ささやき、えいしょう、ふたぐん」(V)
いんすますぽに夫は、ボートを前にして祈りを捧げていた。
ボートの中はたくさんの白い花で埋め尽くされ、遺体に見立てた藁人形が横たえられていた。それぞれの藁人形には、シス・ブラッドフィールドや、だごーん様や、小ババ様や、シニストラ・ラウルスとデクステラ・サリクスのプリクラが貼りつけてあった。ちなみに、一部の小ババ様以外は、全員存命中である。
「では、黄泉路への出発でございます」
そう一人つぶやくと、いんすますぽに夫はボートをパラミタ内海へと押し出した。すぐ近くで戦いが行われていようとお構いなしであった。