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リアクション
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「さて、準備はよいかな。どうせ、一度は、リーダーに救われた命だ。たまには無茶をするのもよかろう。たかだか齢千年、ドラゴンとして青二才を名乗るのには充分な若さであるからな。存分に馬鹿をさせてもらおう!」
ジャワ・ディンブラが、大きく翼を広げて仁王立ちとなり、轟くような咆哮をあげた。
海上で戦っていた者たちの注意が、一斉に彼女に集まる。
「海賊共、私たちは、こっちだ!!」
アルディミアクと共に立ったココ・カンパーニュが大声で叫んだ。
ジャワ・ディンブラが翼で大気を打って飛びあがった。巻き上がる突風がココ・カンパーニュの髪を激しくかき乱し、まとめていた髪を解く。
「呼び戻そう。二人の絆を」
ココ・カンパーニュの言葉に、アルディミアク・ミトゥナがうなずく。ココ・カンパーニュが、左手でアルディミアク・ミトゥナの右手に指を絡めて強く握りしめた。正面をむくと、遥か先に見えるヴァッサーフォーゲルを鋭く見つめる。自分たちにまっすぐむけられた光条砲の砲口にむかって、二人は右手と左手をまっすぐに突き出した。
「今また絆を紡ぎ、ここに甦れ、双星拳スター・ブレイカー!!」
ココ・カンパーニュとアルディミアク・ミトゥナが声をあわせて叫んだ。
それぞれの手にあった星拳エレメント・ブレーカーと星拳ジュエル・ブレーカーが、目映い輝きを放つ。その手の甲にあるレンズ状の光条の表面に双子座の紋章が浮かびあがった。
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「よいか、三分で旗艦を沈めるのだ!」
密集隊形をとる敵艦隊に、つけいる隙を見いだせずに攻めあぐねていた者たちの間にジャワ・ディンブラが突っ込んでいった。
隊列を組む海賊船の一隻に体当たりをするようにして甲板を粉砕しつつ降り立つ。そのまま船尾楼の一部を食い千切ると、館内にむかって炎をめいっぱい吹き込んだ。あっと言う間に艦内を高温の炎に蹂躙された海賊船が、ジャワ・ディンブラに蹴り落とされた直後に爆発四散する。
「突破口です!」
ペコ・フラワリーが、ジャワ・ディンブラが開けた防御陣の穴をさして叫んだ。
「そう簡単には抜かせんよ」
ディッシュに乗った海賊たちを率いて、シニストラ・ラウルスがペコ・フラワリーたちの前に立ち塞がった。たちまち、激しく接近戦で刃を交える。だが、そのそばに、デクステラ・サリクスの姿はなかった。
「残弾がゼロでござる」
攻撃方法を失ったエーテンが、いったん後退する。
戦闘が長引いたため、継戦能力の低い者から離脱を余儀なくされていった。他にも、小型飛空艇に被弾して、空戦を続けられなくなった者もいる。
被害としては圧倒的に海賊の方が大きいのだが、いかんせん大規模艦隊に相当する戦力と人員である。物量の差はなんともし難かった。契約者としての個人の能力がその差を埋めて有り余るとは言え、補給や交代も無しに長時間の戦闘はできるはずがない。
本気モードのジャワ・ディンブラでさえ、もう一隻の海賊船を沈めるのが精一杯で、防御陣を突破できないでいた。
明らかに、マ・メール・ロアへの攻撃のために、海賊たちが初期から戦力を温存していたことは明らかだ。前線に出てきたのは、空中戦に適さない海洋系の怪物たちだけであった。端からおいていく予定の戦力を、クイーン・ヴァンガードやゴチメイたちにあてていたに過ぎなかったのである。だが、いまや、彼らも全戦力を出している。ここを乗りきらなければ、マ・メール・ロアの攻略など夢のまた夢だと覚悟を決めたのであろう。
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「お嬢ちゃん……いえ、十二星華のアルディミアク・ミトゥナ、および双星拳スター・ブレイカー、位置を確定いたしました」
ヴァイスハイト・シュトラントが、ゾブラク・ザーディアに報告した。
船倉には光条砲のエネルギー供給装置と火器管制システムが設置されており、海賊船の古くさい外観とは裏腹に、このブロックだけ外部モニタなどを揃えた近代的なシステムに室内を占められていた。
「逃げないか。いいねえ、いい子に育ったもんだよ」
豪奢な艦長用の椅子に座ったゾブラク・ザーディアが、いろいろな思いを巡らせながらモニタの中のアルディミアク・ミトゥナとココ・カンパーニュを見つめた。
「こうして見ると、本当にそっくりなんだねえ、あの子たちは」
感慨深げに、ゾブラク・ザーディアが言う。
「頭領と私のように、剣の花嫁としてのパートナーですから」
「ああ、そうだった。そういうわけだね。さあ、光条砲の発射準備に入りな。いいかい、いっさい手を抜くんじゃないよ。それは、あの子たちにとって失礼だ。そんなことは、このあたいが許さないからね」
「分かりました。カートリッジ装填。対象設定対生物指定。リミッター解除。出力全開。照準、アルディミアク・ミトゥナ!」
ヴァイスハイト・シュトラントが、剣の花嫁である砲手たちに命令した。
半分露出した光条砲の砲身が、ロッド内に集積していく光条エネルギーの余波によって輝きを増していった。
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「まさか、まだ撃つというの」
海面に浮かべたディッシュの上に一人立って上を見あげていたデクステラ・サリクスが、ヴァッサーフォーゲルの光条砲の砲身に輝きが集まっていくのを見て、たまらず空に飛びあがった。
「おやおや、戦いはまだ続いているのですか。むなしい」
送葬船を泳いで押しながら、いんすますぽに夫がまったく空気を読まない言葉を口にしていた。
「おおう、あれこそはだごーん様のにっくき仇。許しません、許しませぬぞおぉぉぉぉ」
デクステラ・サリクスの姿に気づいたいんすますぽに夫は、送葬船をドンと押し出して流れるに任せると、空中に浮かべたディッシュの上に立って大きく腕を広げたデクステラ・サリクスを睨みつけた。
「もう、やめてください。頭領! あたしたちの森を、もうこれ以上壊さないで!!」
光条砲の射線の前に立ち塞がるようにして、デクステラ・サリクスが訴えた。
「あの馬鹿!!」
それに気づいたシニストラ・ラウルスが、真っ青になって彼女の許へ駆けつける。
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「撃て」
淡々と、ゾブラク・ザーディアが命じた。
「しかし……」
さすがに、ヴァイスハイト・シュトラントが躊躇する。
「覚悟の上だろう。だったら、その覚悟を曲げさせるな」
「はっ。発射しろ」
ヴァイスハイト・シュトラントが、砲手に命じた。
「まったく、どの子も……」
ゾブラク・ザーディアは、そうつぶやかずにはおられなかった。