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ラビリンス・オブ・スティール~鋼魔宮

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ラビリンス・オブ・スティール~鋼魔宮

リアクション

 SCENE 10

 見敵必殺のチームは、この日何度目かの混戦に突入していた。
「何か」
 比島 真紀(ひしま・まき)は一瞬手を止め、首を軽く振って再度前方を見据えた。
「何か、違和感があるであります!」
「違和感?」
 機関銃で彼女を支援しながら、サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)が問う。
 どういう『違和感』なのか真紀は説明しかねた。迷ったためか、せっかくヒューマノイドマシンを挟撃できるという絶好のタイミングで動き損ねてしまった。
「俺にはよくわからな……」
 と言いかけたサイモンも、すぐに口を閉じて銃を乱射せざるを得なくなる。
 駆けてくる。
 駆けてくるのだ。敵の只中、長い髪をなびかせ、一人の少女が。
「クランジか!」
 髪は鮮やかなターコイズブルー、綺麗なストレートで光沢がある。肌は蝋燭のように白く、切れ長の瞳は、まさしく『人形のように』麗しい。
「真紀、退がるんだ、こいつ……!」
 サイモンが真紀の手を取って後方に突き飛ばすのと、彼の眼前のヒューマノイドマシンが粉砕され、穴が開いた胴から電磁鞭が伸びるのがほぼ同時だった。
 サイモンは両手で首を押さえた。そこに二本の鋼糸が巻き付いていたから。剥がすより前に高圧電流が彼の身を灼く。
「サイモン!」
 真紀がパイルバンカーを繰り出すも、ターコイズブルーの髪の少女は、サイモンを放すと瞬時に飛び退いていた。真紀の一撃は鉄屑となったヒューマノイドマシンを撲つだけだ。
 機晶姫は口を開かない。表情も変えない。丸腰の両手を突きだして、その掌を開いて閉じてするのを二度繰り返した。病院の入院着のような飾り気のない長衣を着ている。足は、素足であった。
「あれが……例の……でありますか」
 草刈子幸が前に出て、緊張気味に言葉を呑み込んだ。しかし鉄草朱曉は剛気にも笑ってみせた。
「そがぁに愛らしい格好で鞭攻撃たぁ、趣味が悪いのぉ」
 と挑発しつつも無理はしない。サイモンを抱き上げた真紀、それに子幸と共に、じりじりと後退する。
 異様な戦場となった。
 ここは通路途上、大半のヒューマノイドマシンは片付いており、実質はあの少女ただ一人しか敵はいない。
 だがこの場の全員が、隠しようのない緊張を感じていた。わずか数動作とはいえ、あの身のこなしが尋常でないことを察知したのだ。
 そのとき少女はぽつりと言った。
「攻撃。開始」
 ひどく抑揚のない口調だった。書かれたものをそのまま読んでいるようでもある。
「来るわ!」
 宇都宮祥子が叫ぶ。強烈に圧倒されるようなものを感じた。
 そして事実、その強さは圧倒的であった。
 跳躍してランスロットを乗騎から叩き落とし、その着地点で坂崎今宵の腹を蹴り壁に叩きつけ、すかさず右手から鞭を射出、九条風天の剣を跳ね返す。
「ありゃ強えぞ、かつて自在に鎖鎌を操る達人と剣を交えたことがあるが、あいつはその四倍だ」
 普段笑みを絶やさぬ宮本武蔵が、このときばかりは真顔であった。鎖分銅と鎌が一対とすれば、片手に四本の鞭を操るクランジは単純計算で四倍となるだろう。武蔵の豪剣とて、機晶姫の身を掠るのがせいぜいである。
「そこにいたんですね……会いたかったですよ。あなたに」
 無邪気な声と共に緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)が挑みかかる。その得物はヘキサハンマー、唸る一撃空を切る、と見せかけて、
「こういうのは、どうです!」
 至近距離から放つブリザード、しかも攻撃と同時に遙遠は身を転じ間合いを取っている。だが敵は、鞭を伸ばした腕を高速回転させてこれを防いでいた。
(「さすがは鏖殺寺院の強者……といったところですね。色々勉強になります」)
 内心遙遠は称賛を惜しまない。これくらいの敵でなければ、わざわざ会いに来た意味がない。
 間髪入れず牽制に、剣の突きを入れる者あり。
「プール&カメは参加しそびれましたが、工場&機晶姫にはしっかり出現、というわけです!」
 大剣の切っ先敵に向け、音井 博季(おとい・ひろき)は名乗りを上げた。
「僕は音井博季、故あってあなたを倒しに来ました。あなたの名は?」
 機晶姫は瞬時、身を止めて博季を見た。呟くように言う。
「Χ(カイ)。……コードネームC・U・R・N・G・E。個体名。カイ。任務続行」
 クランジは再度牙を剥いた。天井に設置された空調のパイプを鞭で掴み、振り子のようスイングして飛びかかってくる。その速さ、まるで獲物に飛びかかる猛禽類だ。銃、剣、あらゆる攻撃を避け、包囲陣の隙をピンポイントで突き、博季に腕と、そこから飛び出した鞭を向けた。
「気をつけて!」
 博季に覆い被さるようにして攻撃を避けさせると、西宮 幽綺子(にしみや・ゆきこ)は向き直った。クランジはたちまちのうちに数メートルの距離を取り、再攻撃のタイミングを計るように身を屈めている。
(「電磁鞭なんて使う機械である以上、どこかしらに排熱機構があるはずよね……。それを見つけ、破壊して有利に立つ!」)
 幽綺子は敵を観察する。どれほど強力であろうと、弱点のない存在などないはずだ。