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リアクション
SCENE 12
見敵必殺のメンバーがクランジと戦っているその地点より、大きく東方面視点を移そう。離れのような工場があった。しかも武器の工場だ。
「ヒューマノイドマシンだかなんだかが飛び出てくると思いきや、こいつはまた……」
両開きの扉を開け放ち、篠宮 悠(しのみや・ゆう)はこれを見回して嘆息した。
マシンガン、レーザー兵器、あるいはソード――マシンが装着している武器の大半はここで制作されているものと思われる。現在は操業が止まっているようだが、山のように作られていたのが明白だ。完成品も整然と並べられている。
「レイオールってたしか寺院製の機晶姫だろ?」
と言いながら椎堂 紗月(しどう・さつき)は、剣を持ちあげてその重さやバランスを調べている。
「それは事実だが、今のワタシとは関係がない」
鋼の戦士レイオール・フォン・ゾート(れいおーる・ふぉんぞーと)は構造上表情を変えたりはしないのだが、その声はどことなく沈んでいるように聞こえた。紗月は言い足す。
「いや、責めてるんじゃねーから気にしないでくれ。ほら、この辺のパーツだの武器だの、人間用にはちと向かないが、同じ寺院の兵器工場だしレイオールに装着するにはいいかもと思ってな」
「残念ながら特殊なアタッチメントが必要なようだ。ワタシ向きではない。しかし奇妙なものだ。このような場所にくると、ワタシもノスタルジーのような感覚を覚える……」
「レイオールには装着できないのか?」
無邪気な口調でラスティ・フィリクス(らすてぃ・ふぃりくす)が問うた。
「このように面白そうなものがあるというのに」
いや残念、残念、などと言いながら、ラスティはドリルハンドやトマホークを手にして、レイオールに持たせたりしている。
「このラインナップであれば、胸から熱光線が出るパーツとか、口から竜巻が出る装置とかもあってもよさそうだな。手がロケットパンチになる仕掛けも欲しくなってくる……」
「なんの話だ、それは?」
と言いかけた椎堂 アヤメ(しどう・あやめ)は出し抜けにハンドガンを抜き、自分たちが入ってきた扉に向けた。
「味方なら名を名乗れ。五秒待つ」
「て、敵じゃないです! わ、わわ私は科学者でアーティオフィサーの、にに、仁藤 輪子(にとう・りんこ)です!」
両手を挙げ震えながら出てくる彼女とは対称的に、
「イルミース・アンダーワン(いるみーす・あんだーわん)、爵位があるものでね、『アンダーワン卿』と呼ぶように」
シルクハットに白マント、モノクル姿の人物は、悠然と姿を見せたのである。
「……失礼した」
アヤメは銃を下ろすと懐にしまう。
「なに、うちの輪子がコソコソと諸君の様子を探っておったのが悪いのだ。火事場泥棒、我々も加えてもらおう」
「しーっ! アンダーワン卿、しーっ、です!」
慌てて輪子が人差し指を立て、唇の前にぴたりとつける。
「なんだ突然『C』だの『D』だの。誰かのイニシャルか?」
「か、火事場泥棒なんていう、人聞きの悪いことを言ってはいけません。ひ、秘密です」
「なんだ、聞こえんぞ? 言いたいことははっきりと言え」
「火事場泥棒!です! そ、それは内緒なのです!」
「そうか、だがもう丸バレのようだぞ。貴様が叫んだせいでな」
「はわっ!」
仰天のあまり飛び上がる輪子だが、アンダーワンはくっくっくと含み笑いしながら作業に移った。すなわち、役立ちそうな資料の捜索である。
(「殺寺院の技術か! 興味深い。……鏖殺博士と思しき、カリーナ・イェルネによる技術も入っておるかも知れぬしな」)
アンダーワンの脳裏を、カリーナの横顔がかすめた。
(「教導団を抜ける際、よりによって我を含んで愚物呼ばわりしてくれたアバズレだが……あの技術と頭脳は本物だ。なにか足跡でも見つかればよいが」)
狼狽してぴょんぴょん飛び跳ねる輪子を、まあまあと悠がなだめていた。
「火事場泥棒、って意味じゃオレたちも似たようなもんだ。役立ちそうなものを攫って返るとしようか」
その一方で瀬良永 梓(せらなが・あずさ)は、工場のブレイカーを落として発火を防ぎ、手早く工場の破壊に移っていた。そればかりではなく、
「ほらほら、みんな、遊んでいる暇はないよ! 情報入手でも破壊活動でもどっちでもいいから仕事仕事! ちょっと! そこなにやってるの! そんなことしたら爆発しちゃうでしょ! あーもー! 機械は叩けば何とかなるとか思ってるバカはこれだから!」
無茶な破壊をしようとするメンバーに注意を促している。
しかしその活動も長くは続かなかった。
「ヒューマノイドマシン……!」
真理奈・スターチス(まりな・すたーちす)が身を強張らせた。
工場の入口に、灰色の殺人機械が姿を見せたのである。
一体や二体ではない、つぎつぎと突入してくる。
散弾銃型『スターバニッシャー』の、トリガーを引いて弾丸をバラ撒く。真理奈の放った銃弾は、マシンのカメラアイを叩き割った。
「迎撃を。どうやら私たちをここに押し込んで討ち取るつもりのようです」
しかしこの急展開を喜ぶ者もある。小冊子 十二星華プロファイル(しょうさっし・じゅうにせいかぷろふぁいる)だ。
「やっと本領発揮ですわね」
と言うなり雷術を放ち、マシンそのものではなく近場の作業機械を破壊して爆発させダメージを与える。
「わたくし、こんな火事場泥棒のようなことをするためにここに来たのではありませんもの! 施設の破壊とヒューマノイドマシンの撃破、これなら喜んで遂行しますわ!」
(「本領、か」)
十二星華プロファイルの言葉にアヤメは思う。
(「俺の『本領』は紗月を支えること」)
アヤメは片膝を突き、安定姿勢でハンドガンを撃つ。狙いは正確、標的の間接パーツを撃ち抜いて腕や首を落としている。
(「紗月があの機械どもを倒すのなら俺は紗月に協力するし紗月がラスティ達を守るのなら俺も共に戦おう。紗月を守れるのなら俺は命だって掛けよう」)
それが自分の存在価値だ。アヤメはそう考えている。その腕前も信条にも、わずかなブレも見あたらなかった。
「悠、出てきたところに連中を押し戻すぞ。レイオールも手を貸せ!」
戦となれば紗月は即座、一人の戦士に変貌する。女性に見紛うほどの容姿が逆に、その尋常ならざる強さを際だたせていた。
「ヒューマノイドマシンなんて仰々しい名前の割りに大した事ないやつらだ。さっさと片付けるとするか」
悠が振り上げる大剣は、刀身が彼の身長以上という化け物のような剣だ。その名は『フラガラッハ』、この刃に、斬れぬものなど何もない。
「人々の平穏を乱す種になるならば、根こそぎ薙ぎ払うのが筋であろう」
たとえ相手が塵殺寺院とて、いや、塵殺寺院だからこそ、レイオールの正義は燃え上がった。
「アンダーワン卿、支援を依頼したい」
「いいだろう。礼儀を心得ている者には我も協力を惜しまん」
レイオールが本当に『卿』つきで呼んだので鷹揚にうなずいて、アンダーワンは銃弾をスプレーショットの要領でバラ撒いた。
「あ、アンダーワン卿、わ、わたしは、どうすれば……」
ひたすらオロオロする輪子である。戦闘に協力すべきか、火事場泥棒という名の資料集めを続けるべきか決めかねているようだ。
「輪子、貴様も我が配下ならもっと毅然とするがいい。たまには自分で考えて行動したらどうだ。その頭は何の為についている?」
「ア、アンダーワン卿のことを考える為です!」
「恥ずかしいことを絶叫するなたわけ! ならば我の覇道の為に設計図でも探しておれ!」
ところで梓は、
「結局戦闘になっちゃった……もっと工場設備を調べたかったのになあ」
と溜息をつきながら、ちゃっかり気になるパーツを盗んでいたりする。
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