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リアクション
SCENE 19
「あのクランジという機晶姫……アイツは……? 機晶姫である以上……自己意思は有るはずだ……。自分の意思で鏖殺寺院にいるのか……それとも洗脳されてるのか……」
グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)らは【新星】ブルーニクと合流、後方で扉が閉じたことにより、最後のクランジ『Φ(ファイ)』と対峙を余儀なくされていた。
他の教導団員の手前、グレンはそれ以上の言葉を語りはしないが、本心ではクランジを破壊するつもりはない。
(「殺らなければこっちが殺られるだろう……だが……俺はそれでも……どんな奴なのかも分からない相手を『殺す』のは嫌いだ……」)
グレンの目指すものは一つ。すなわち、クランジの捕獲である。
彼の心を知るのは彼のみではない。李 ナタもグレンの意志を知る。
(「生け捕るだと!? まったく……グレンも無茶な注文してくれるぜ……」)
クランジに圧倒されないよう戦うだけでも精一杯だというのに、その上殺さず捕らえろとは、天地がひっくり返っても無理なように思える。しかし、
(「けど! その方が面白くて楽しめそうだ!」)
ナタはそう信じるのだ。天地、ひっくり返してみせようじゃないか、と。
(「それに俺も、人殺しは趣味じゃねぇからな!」)
電磁鞭に向け氷術とアルティマ・トゥーレを駆使し、なんとかその動きを制しようと試みる。まったくの無駄ではない。だが、たとえ鞭を封じたとして、ファイの戦闘能力はやはり凄まじい。
「私も機晶姫です」
ナタの氷にさらに氷を重ねながら、ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)はクランジに話しかけた。
「でも、たとえ身体は兵器だとしても、心は兵器ではありません……『人』です……少なくとも私達はそう思っています……あなたは」
そう思わないのですか――ソニアの言葉を、ファイは聞いているのだろうか。すでに白衣は脱ぎ捨て、カッターシャツにネクタイ、パンツルックで鞭を振るうあの機晶姫は。
「理解……不能」
たった一言、ファイが呟いたのをソニアは聞き逃さなかった。これまで一言も発しなかったクランジの言葉を、ソニアは戸惑いの現れではないかと思う。
歴史に『IF』はないと世に言う。
されどソニアはその後何日も、『もし、あのまま戦い続けていれば』と思い悩むことになった。『あのときクランジの様子が急変しなかったとしたら』と。
彼女は説得に折れただろうか。あるいは、ソニアたちを皆殺しにしただろうか。
いずれにせよ、知ることは叶わない。
クランジ『Φ(ファイ)』は急変した。着地したと思いきや、膝を折って震えはじめたのだ。
「指令途絶。指令途絶……エラー」
と繰り返している。
「待て、様子がおかしい」
クレーメック・ジーベックが片手を上げて味方を制した。
様子が一変したのはクランジばかりではなかった。閉じていた扉が半開きになり、すべての罠の電源が落ちた。工場地帯は大混乱に見舞われたのだ。しかも、随所で連鎖的に爆発が起こり始める。
工場の自爆装置が作動したのだ。
このときも、【新星】ブルーニクとグレンたちを閉じ込めていた壁がさっと床下に消えた。
「やや! あれはもしかしてクランジ様でありますか!?」
そこに立っていたのはスカサハ・オイフェウ、自分と同じ髪の色をした機晶姫を、すぐさまクランジと見抜いている。
「クランジ様! スカサハはクランジ様とお友達になりたいであります! だから、武器を収めて欲しいのであります!」
よせ、と味方が制しするのもふりきって、スカサハはクランジの両手を取った。クランジは……抵抗しなかった。
「具合が悪いでありますか? でも大丈夫、スカサハと一緒に来れば問題は全部解決であります!」
「馬鹿はよせ! そいつは敵だ! 破壊するから離れろ!」
スカサハのマスターたる鬼崎朔が、その肩をつかんで引き戻した。
「ッ! ダメであります!! クランジ様を……壊しちゃ……ダメであります!!!」
「敵だと言っているだろうが!」
「抵抗しない女の子のどこが敵何でありますかあっ!」
賛成だ、とグレンも割って入った。
「この様子からして、味方が『頭脳』を制圧したのは間違いなさそうだ……もうクランジに命令する者はない……このまま教導団に連行する……異論は……」
だがこのとき、クランジは立ち上がってスカサハとグレンを突き飛ばした。
「待つんだ!」
さざれ石の短刀をグレンは閃かすも、ファイの袖を掠るにとどまっている。
「……撤退」
一言残すと機晶姫は、目にも止まらぬ速度で燃えさかる通路の方へ駆けてゆく。その背後で次々と爆発が起こった。
焔の合間には、もうファイの姿は見えなくなっていた。
撤退警報が流れている。
じきにプラントは灰燼に帰すとの予測を告げるのは、やはり夜住彩蓮の声なのだった。