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リアクション
SCENE 04
高月 芳樹(たかつき・よしき)は小規模な施設を発見した。どうやら化学兵器の研究室らしい。研究者は逃げ散ったのか、実験の準備が整ったままで放置されている。
「地球製の化学兵器に比べると微弱、と見ていいようだね」
ビーカーの一つを芳樹が伯道上人著 『金烏玉兎集』(はくどうしょうにんちょ・きんうぎょくとしゅう)に手渡すと、彼女は首を捻りながら答えた。
「ふぅむ、随分か弱い毒物を使こうておるようですじゃの。見なされぃ、これは『宇治拾遺物語』に記録のある毒ですじゃ……なんと古典的な」
もっとも、わらわが『古典的』などと言うのも変な話ですがの、と『金烏玉兎集』はころころと笑った。マリル・システルース(まりる・しすてるーす)はうなずいて、
「シャンバラで採れる原材料を使用しているから、地球製の凶悪な化学兵器に比べると可愛いものなのですね……でも、放置しておけばいずれ強力な組み合わせが見つかるかもしれません」
と、この場所の破壊を提言するのである。
「シャンバラで化学兵器を作ろうとするなんて……許せないわ!」
アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)は塵殺寺院によって封印されたいた過去がある。平和の破壊者たる彼らへの怒りは人一倍大きかった。
「代表的なもののサンプルと、データ入りと思われるハードディスクは回収しました」
マリルは凛乎とした目を向ける。彼女もまた、静かな怒りを感じていたのだ。
「よし。やはり、こういった設備を破壊しておかないと後々の災いとなる……!」
すらりと金属音を立て、芳樹は佩いていた剣を素早く抜いた。抜くやたちまち、正面の机を両断する。フラスコを叩き割り、開きっぱなしのパソコンを屑鉄に変えた。
「おそらくバックアップも取っているはず。記憶装置関係は特に念入りに壊して!」
と、振り返った芳樹はさらに一刀! 水平に薙ぐ一撃で実験器具を切断するのである。
芳樹らが破壊している実験室、ここにいたはずの研究員たちはどこにいったのだろう。
サレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)に出くわしていたのである。
白衣を着た科学者が、息せき切らして走り角を曲がって、サレンの大きな胸にブチ当たって腰から床に落ちた。
「ぎゃ! 追っ手か!?」
科学者は彼のみではない。妙にぷくぷくと太ったのが合計三人、ふうふう汗を流してサレンを見上げた。
「おっとっと、罠だらけで随分困ったけど、ようやく見つけたッスよ、悪の研究員!」
両手を腰に当て仁王立ち、サレンは三人を見おろして人差し指を立てた。
「とっとと降参するッス! 抵抗すると死なない程度に痛めつけるッス!」
ところが科学者三人は、相手がサレン一人と知ってニヤニヤと笑った。
「お、女一人で何ができるんだよぅ」
立ち上がった色白の小太りが、腰から飛び出しナイフを取り出した。
「お前こそ、やっつけてやるよぅ」
そうだそうだ、と残り二人も口やかましい。
「ど、どうせならあの子の黒いタンクトップを切り裂こうよ……」
「カメラならあるよ」
などとロクでもないことを言っている。
「本当に抵抗する気!? なら」
ちょっと待ってね、と言いざま、サレンは曲がり角の向こうに消える。
「わー! 女の子が逃げる!」
「タンクトップタンクトップ!」
「切り取って撮影してやるよぅ〜」
本当に科学者かどうか怪しいほど知性のない発言をしながら三人は彼女を追い、
「とうっ! 正義の鉄槌、食らうがいいッス!」
サレンと入れ替わるようにして現れた謎の覆面スーパーヒーローに正拳突きを食らわされたのである!
「うわあ! いつの間にそんなコスプレを!」
「コスプレじゃないッス! 私は正真正銘の変身ヒーローッス!」
そんなことを言うスーパーヒーローである。(時間がなかったから最初の服装の上に、マスクとグローブしかしていないが断じてスーパーヒーローである!)
「助けを求める美少女の声に応えてやってきた、私は正義のスーパーヒロインッス! 人呼んで愛と正義のラヴピース! 世界の平和、ひいては町内の平和を守るため、いま、ここに激・参上ッス!」
「意味が分からないよぅ」
「助けを求める美少女、って、自分で言ってるよあの子〜」
「タンクトップタンクトップ!」
三者三様に微妙な表現しか見せないが、サレン……じゃなくて愛と正義のラヴピースは、そんな反応は無視して決然と殴りかかるのであった。
「とっつかまえてやるッス!」
科学者三人がたちまちとっつかまったのは言うまでもない。
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