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リアクション
序章
――ロシア・ウラジオストク港――
「搬入作業はどうなっている?」
出港にあたり、ロシア軍と極東新大陸研究所の研究チームによって確認作業が行われていた。
「全て完了しております、大佐」
「大佐」と呼ばれた女性、そして口を開いた人物の目線の先には一隻の大型タンカーがある。表向きは海上都市である海京への液化燃料の輸送という名目になっているからだ。もちろん、外観は石油タンカーのそれであるが、内部は今回の輸送に合わせて改造されている。
天御柱学院の新校長、研究チームの物資が運ばれることを知っているのは、学院と研究所、軍の関係者だけだ。鏖殺寺院に悟られないようにするため、全ては秘密裏に行われているのである。
「しかし、なぜ所長は『ファーストコントラクター』を……」
「無用な詮索だ、中尉」
二人は天御柱学院に赴任することになった人物について話している。「中尉」はどうにも腑に落ちないといった様子であった。
「それに、『彼』が完全に目覚めた方が、こちらとしても都合がいいだろう。その方が、貴重なデータが集まるのだからな」
二人は艦橋へ向かって歩いていく。
「艦長、内部の状況は?」
「乗員の配備は完了しました。研究チームの方々は別室にて待機しております」
「先程、学院から派遣された協力者が到着した。彼らに乗艦許可を」
諸々の作業が終わる頃、学生達がロシアの地に降り立った。軍の人間の誘導によって、彼らはタンカーの中に足を踏み入れる。
ウラジオストクを出たタンカーは、ロシア軍によって太平洋上の日本の領海付近まで護送される。そこからは天御柱学院のイコン部隊への引継ぎが行われる手筈となっていた。
「彼らは大丈夫なのでしょうか? 見たところ、普通の学生のようですが」
「『契約者』を普通の人間と並べて考えるものではない。彼らは『選ばれた』者達だ。軍の下っ端共に比べればよっぽど役に立つだろう」
契約者が公の存在となっておよそ十年。それでも、彼らが一般の地球人より高い能力を手に入れるという事実には、懐疑的な者は多い。この艦長もその一人であった。
「艦には選りすぐりの兵も乗っております。女子供に引けを取るはずはありませんよ」
そこまで口にして、艦長ははっとした。目の前の人物も女性なのだ。
「失礼しました」
その言葉をさほど気にした風でもなく、大佐は続ける。
「そういった思い込みは命取りになるぞ。パラミタと関わる者達に常識が通用すると思うな」
それでも、釈然としない様子の艦長。
「……肝に銘じておきますよ」
「ところで、乗員、及び艦内に問題はないだろうな?」
「全員身辺調査の上、選び抜いた軍の者です。艦内も隅々まで調べましたが、異常はなしとのことです。不審な姿は見当たりませんでした」
艦長の話を聞き、大佐が中尉を見遣る。
「中尉、資料を」
「はい」
彼女が受け取ったのは、今回の作戦に関わる人物の個人情報一覧だった。
「嘘はないようだな」
「少しは信用して下さいよ」
苦い顔をする艦長。
「念には念を、だ。あとは任せる――行くぞ、中尉」
二人は艦橋から研究チームの待機する別室へと向かった。そこに、派遣されてきた学生も集まることになっている。
かくして、タンカーは海京へ向けて出港した。
* * *
(契約者達が来たか)
(そのようですね。ただ……)
(招かれざる客もいるみたいだね)
(でも気付いてないみたいよ)
(どうする、追っ払う?)
(いや……まずは様子を見ることにしよう)
(『今』の契約者のお手並み拝見ってわけかい?)
(そんなところだ)
ファーストコントラクターと呼ばれる新校長「達」は、ただ静観していた。まるでこれから起こることに対し、人々が何をなすのかを見定めるかのように――
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