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リアクション
第一章
・整備班、準備開始
タンカーがウラジオストクを出港した頃、天御柱学院内にあるイコンのハンガーでは出撃に備え、イコンの整備が行われていた。
整備科に所属する者達が整備主任の指示のもと、せわしなく動いている。
「出撃する機体は、イーグリット23機、コームラント14機ですか。他に、海京で待機する分の機体もありますね」
長谷川 真琴(はせがわ・まこと)は搭乗者と機体の対応表を確認しながら、機体を見て回っていた。
作業着に安全靴、ヘルメットも被り、眼鏡の上から安全ゴーグルを装着したいかにも整備士然とした姿で作業にあたっている。
「機体識別番号はよし、と。次は搭乗者に合わせたチューニングですね」
一通り機体表面のチェックを終え、今度は内部の計器類の細かい調整を行っていく。対応表には、これまでの実機、シミュレーター訓練によるデータを元にした、その人にとって最適な調整状態も記されている。それを参照しながら、整備班は一機ずつ、念入りに調整しているのだ。
「……とはいえ、さすがにこの人数では時間がかかりそうですね。山葉さんや辻永さんの機体は念入りに調整したいところですが」
「こっちは任せとけ」
真琴の言葉に反応し、佐野 誠一(さの・せいいち)がコームラントの整備に取り掛かる。C―01、山葉 聡とサクラ・アーヴィングが搭乗する機体だ。
実戦経験のある数少ないパイロットでもある彼らの機体、しかも長距離支援の行えるコームラントとくれば、念入りに見ておく必要があると考えたのだろう。敵を知る彼らが万全の状態である事が、他の面々をサポートする上でも、おそらく重要となる。
イコンの量産が始まったのはつい最近の事であり、今回出撃する生徒の中にあは、訓練がシミュレーターのみで、実機は始めてという者も多い。それでいて、今回が初稼動になる機体もあるという状況だ。
「では、お願いします。私の方では、辻永さんのEー01の調整を行いますので」
「じゃ、そっちは頼んだぜ」
軽く言葉を交わし、それぞれの作業に入っていく。
「真奈美、工具一式、取ってくれ」
「……はい、誠一さん」
パートナーの結城 真奈美(ゆうき・まなみ)とともに、内部を丹念に見ていく。
「ん、どうした?」
「いえ……なんでもないです」
なにやら複雑な心境のようだ。強化人間はパートナーに依存しやすくなりがちだというが、彼女もまた例に漏れず、誠一が自分以外の女の子と話すことには敏感だというところだろうか。
とはいえ、実際に作業が始まれば二人はうまく協力していた。
「ここの配線は動力部と繋がってるから、と。いつも通りやればいいって分かってても緊張するぜ」
「エネルギー系統は……特に調整がいりそうですね。放射ごとのタイムラグを、出来るだけなくした方がいいですから」
「だな。コームラントは装甲こそ厚いとはいえ、ビームが撃てなきゃ無防備だもんな。さすがに武器の性質上、連射出来るようにすんのは無理だけどよ」
コームラントのビームキャノンはイーグリットのビームライフルに比べれば射程も威力も上だが、その分融通が利きにくい。
敵に隙を与えないためにも、この欠点を少しでも解消する方向へ持っていきたい。
「こっちが終わったら、次は関節駆動系、それと肩部のブースターだな」
出撃まで、まだ余裕はある。
整備班の人間の数は限られているが、出来るだけ最高のコンディションに仕上げておきたい。
おそらく、彼らが念入りに調整出来る機体はこのC―01と、辛うじてもう一機といったところだ。
二人がC―01を整備している中、他の機体の調整も順調に進められている。
「え〜っと、整備依頼はこいつか。E―03、搭乗者はオリガ……なるほど、索敵用の装備の調整か。どれ、いっちょ始めるとするか」
アレクセイ・アスカロノフ(あれくせい・あすかろのふ)は、対応表と、別途添付されていた整備依頼を参照しながら機体の調整を行おうとする。
整備依頼が来たのは、搭乗者が今回の作戦に合わせて、普段の訓練とは異なる機体の状態を希望しているからだ。
「工具類、こちらに置いときますね」
彼を手伝うのは、パートナーのタチアナ・アスカロノフ(たちあな・あすかろのふ)だ。
「おう、ありがとよ」
整備用の工具を受け取ると、アレクセイは嬉々とした様子でコックピットに乗り込む。
「無線とレーダーを索敵用に、最大限使えるようにしなきゃな」
イコン整備の技術に加えて、電子工学の心得があることを生かしてレーダーをいじっていく。
レーダーの出力を強化したいところだが、機体の限界値以上まで強化することは、今の技術では出来ない。それでも、機体性能最大限にまで引き出すことは可能だ。
イコンの動力源は機晶石であり、そのエネルギーが各部に供給されることで機体を動かしている。そこで彼は機晶技術とライトニングブラストによってレーダーへの電力供給量の調整を行う。
同様のやり方で、無線通信も整える。索敵ということでイコン部隊の本体から離れることも予測されるため、長距離通信も行えるようにしているのだ。
「さすがに、ここまでやると他の性能がどうしても落ちちまうな。が、ある程度電子戦に対応させるためにはやむを得ないぜ」
現状ではまだイコンの電子戦機は存在しない。あくまでも、この調整によって得られる効果は擬似的なものだ。
「これが終わったら、次は迷彩塗装だな」
敵から発見されるのを防ぐために、アレクセイはE―03に迷彩塗装を施すようだ。索敵を行う機体が、逆に敵に見つかっては意味がない。
コックピット内でのレーダー、無線及び計器類の調整が終わったところで、その作業に移る。
時間は刻々と流れ、次第に出撃の時が近づいてくる。
「よし、こっから最後の確認だ。見落としがないよう、気を引き締めていけよ!」
アレクセイが近くの整備士達に檄を飛ばす。あと少しすれば、パイロット達がこのハンガーにやってくる。
(ふふっ、いつもにまして気合が入ってるわね、アリョーシャ)
彼の手伝いをしつつ、タチアナがそのようなことを考えていると、
「ターニャ、禁猟区を頼む」
と、アレクセイが言ってきた。
その彼が視線をある場所に移す。ハンガーに向かって、パイロットスーツを着た少女が歩いてきていた。
「あら、アリョーシャ? 禁猟区のお守りをあの子に渡すの?」
「ああ。気休め程度とはいえ、ないよりマシだろ」
「じゃあ、用意してくるわね」
タチアナがお守りを用意するため、一度彼から離れる。
機体の最終調整も、いよいよ大詰めだ。
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