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リアクション
・敵機確認――左舷
右舷側と同様に、こちらでも索敵を中心に動く機体があった。
茅野 茉莉(ちの・まつり)とレオナルド・ダヴィンチ(れおなるど・だう゛ぃんち)の搭乗する、E―23である。
迷彩塗装が施されており、機体が捉えにくくなっている。
「右舷側で敵機発見か」
ちょうど索敵をしている最中に、右舷側からの連絡が入ってきた。間もなく交戦することになるだろう。
「茉莉殿、11時の方向に敵影だ。レーダーに映っているのは、4機。距離は1500」
レオナルドが茉莉に知らせる。
「まずは報告しないとね」
無線を飛ばし、左舷側の警戒を促す。
「敵の機体の形状は分かる?」
「装備は機関銃のようだ。編隊を組んでこちらに向かってきている」
「まとめて相手するのは分が悪そうね。ここは、敵機の性能を知るためにも、切り崩す必要がありそうだわ」
こちらは右舷側のように、明確な連携を取ってはいない。
とはいえ、即席ではあるが、近くの者と示し合わせて動く事くらいは出来る。訓練を積んできたのは、皆同じなのだ。
「あの中に敵の頭がいれば、その機体を倒せば良さそうだけど……ここからじゃまだ分からないね」
C―07に乗っている名草 莉音(なぐさ・りおん)が、レーダーを注視する。
「将を射んとすればまず馬を射よ、と言う」
「何、兼続様?」
彼女のパートナー、直江 兼続(なおえ・かねつぐ)が助言を行う。
「将を狙うなら、まずは馬を倒す必要があるということだ。さすれば、大将が出てくるだろう。幸い、この機体は守る方が易い。遠距離型……戦国に例えるなら鉄砲だ。かつて長篠の戦いで織田が鉄砲隊で武田騎馬軍団を壊滅させた様に、前衛が敵の動きを止めてくれているところを、着実に狙撃して倒すのだ」
「ん……分かった。まずはザコからってことだよね。長篠の戦い、そのイメージで頑張るね」
まだ敵影を捕捉出来てはいないが、すぐに撃てるように準備を進める。
「来たか……!」
綺雲 菜織(あやくも・なおり)が声を漏らす。
(左舷側は、今のところ11時の方向のみです)
(ならば、あれを止めなくてはな)
そのためには、他の機体とも協力しなくてはならない。
(美幸……怖いか?)
精神感応で、パートナーに問う。
(私だって怖い。相手は、ヴァーチャルじゃない、本物の敵なんだ。だが、それでも共に戦って欲しい)
(……はい)
E―13の機体は、近くに待機しているコームラントの付近まで飛んでいく。
『前線にいるイーグリットは、敵の牽制を』
無線で連絡が入る。まずは敵をバラバラにして、一対多にする必要がある。
『こちらE―18、協力します』
『E―12、いきます』
『E―14、敵を迎え撃つわ』
現在、前線に出る機体は四機。もっとも、一機はあくまで索敵優先なため、まだ分が悪い。仮に、コームラントが砲撃準備に入っていても、だ。
『E―01、敵機の牽制に協力する』
そこで動いたのが翔だ。しかし、それに乗じて動くイーグリットがもう一機。
『E―21、いきますわ』
ヴィヴィアン・アンダーウッド(う゛ぃう゛ぃあん・あんだーうっど)、キアラン・ウェッジウッド(きあらん・うぇっじうっど)の搭乗するE―21だ。
『辻永 翔、あなただけにかっこはつけさせませんわよ』
どうやら、彼女は翔をライバル視しているらしい。
「お嬢様、雑用は全てこのキアランがお引き受けしますから、安心して戦闘に集中なさいませ」
攻撃担当がヴィヴィアン、その他の機体管理をパートナーが行うようだ。
機動力を生かしたイーグリットが、敵機に接近していく。ただし、そこから近接戦に持ち込むわけではない。
距離を保ちつつ、ビームライフルを構える。射撃姿勢を取ったまま、学院のイコンは宙を駆けていく。
『目的は倒すことじゃありません。タンカーを守ることです』
E―18から伝達がある。積極的な攻撃は、今回の作戦にそぐわない。それは事前にも言われていることだ。
「凛、下手を打って敵機を通すよりも、確実に1機は止めるぞ。操縦は任せる」
「はい、智宏さん」
E―18の星渡 智宏(ほしわたり・ともひろ)と時禰 凜(ときね・りん)は、敵機牽制のためにビームライフルを放つ。
それを合図に、他の機体と四方を囲うようにして、敵のシュメッターリングの誘導を図る。
(当たらなくてもいい。さあ、こっちだ)
だが、敵もなかなか分散しない。編隊を組んだまま、撃ってくる。ビームライフルと敵の機関銃では、火力は相手の方が上だ。しかも、機関銃の割にはイーグリットのライフルとさほど射程距離が変わらない。
(智宏さん、回避します!)
敵の攻撃を避けるため、急旋回するE―17。
(敵機、C―07の射程に入りました)
(よし、注意をこっちに向けて……)
ビームライフルを、敵機のうちの一機に向かって放つ。敵の意識は、智宏の駆るイーグリットに向いている。
その時、一筋の光条が敵機を貫いた。
「当たった……」
C―07の名草 莉音(なぐさ・りおん)が目を見開く。狙いを定めていたとはいえ、当たったことにびっくりしたようだ。
「このやり方なら、いけるぞ。敵は前衛に阻まれて動けない。かといって、こちらにまで注意を向けることは出来ない」
だが、被弾したものの、完全に仕留めるには至らなかったようだ。
「今が――チャンスね」
攻撃を受けた機体に向かい、神村 理緒(かみむら・りお)と不破 修夜(ふわ・しゅうや)が乗ったE―14が接近する。
ビームサーベルを引き抜き、とどめを刺そうと迫る。
が、そこに敵の機関銃の銃弾が飛んでくる。それらを受け流そうとするが、数発被弾してしまう。
「く……やっぱり生身のようにはいかないのね」
「だが、損傷率は10%だ。まだ、問題ない」
そのままビームサーベルで敵のシュメッターリングのコックピットを貫く。コントロールを失った敵の機体は、海に向かって堕ちていった。
「残るは、三機」
しかし、そこで敵の動きが一変する。一気に高度を上、上空から機関銃を乱射する。
「体勢を立て直そうということですか」
ならばと、E―12を駆るシフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)とミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)は、間合いを十分に取り、ビームライフルでの牽制を行う。
だが、なかなか敵を引き離すのは難しいようだ。
「なんとか、味方の攻撃範囲まで誘導出来れば……」
『E―12、そのまま攻撃を続けてくれ』
翔からの通信が入る。
『はい。分かりました』
その機体とは別方向から、翔もビームライフルを放つ。
『今だ、聡!』
ビームキャノンの光が一ヶ所に固まった敵機に向かって飛んでいく。聡の乗るC―01が、敵機に悟られないように移動し、砲撃体勢に入っていたのだ。
『ち、外したか!』
それでも、彼の攻撃によって敵の三機は分散した。まるっきり効果がなかったわけではない。
しかし、敵もこちらの二種類のイコンの性能を知ってしまった。ここからはそう簡単に攻撃が当たることはないだろう。
イコンはマッハで空を駆ける。最高速度でマッハ2.7くらいは出る地球の最新鋭の戦闘機ほどではないが、それでも機動力に優れたイーグリットは、航行速度がマッハ1.2ほど、瞬間最高速度はマッハ1.8にまで到達する。
コームラントでさえ、マッハ1は出るのだ。敵のイコンは二機の中間くらいの速度である。
と、くれば、長距離砲撃を当てるのは易いことではない。着弾のコンマ5秒くらい前でも、瞬間的に回避行動を取れば、致命傷は避けられるのである。
戦闘が行われているのは空中だ。全ての退路を塞ぐのも難しい。だからこそ、イコン戦において一騎打ちが行われることは少ない。リスクが大きい上に、効率も悪いからだ。
分散した一機に、E―21が急加速して迫る。
「あたくしの前を通ろうなんて、十年早くてよ!」
これみよがしとばかりに、白兵戦を挑むつもりだ。
(お嬢様)
精神感応でヴィヴィアンに話しかけるキアラン。
(精神感応は本当は嫌いですのに……他人に考えを読まれるなんてぞっとしませんわ)
ため息を吐き、パートナーに応じる。
(何ですの?)
(少しだけ、後退して下さい。コームラントの射程まで念のため誘導した方がいいでしょう)
(こういう場合は、先手必勝というものですわ)
機動性ではイーグリットに分がある。
(そういうことでしたら……それからお嬢様、無事に戻ったらお茶でも淹れて下さいませんか?)
(どうしましたの、急に?)
(いえ、少々。ダージリンを上手く淹れられることでお嬢様に敵う者などおりませんから……ね)
どうやら、自分の身を省みない戦い方をしないように、暗に諭そうとしているようだ。
(そういうことでしたら、ちゃんとやるべきことをやって下さるかしら。そうすれば、淹れて差し上げますわ)
(では、それを愉しみに、キアラン・ウェッジウッド、頑張らせて頂きます」
不敵に微笑み、火気管制の管理に努める。
だが、一対一を仕掛けたことにより、残りの敵は二機になった。
『後衛へ。速やかに砲撃準備を』
前衛のイーグリットから、後衛へ伝達。
ヴィヴィアンが一機を引きつけている間に、自分達も連携して他の機体を誘導。一機を囲い込み、確実に仕留めるつもりだ。
だが、その時、戦況がまたも変化する。
『こちら、E―22。8時の方角からも敵機、来るよ!』
夕条 媛花(せきじょう・ひめか)が無線越しに叫ぶ。
敵の別働隊が、このタイミングで迫ってきたのだ。こちらの数も4機だ。
(前衛ですぐに動けるものは少ない……こういう時は)
後衛のイーグリット数機に進言して牽制のために出てもらうか、あるいはこちらの射程に来るまで様子を見るか。
教官はこちらからの交戦を避けろとは言った。ただ、状況を考えれば陽動、牽制のためにビームライフルを撃つのはやむを得ない。自分達の実力を考えれば、敵機の射程に入るのを待っているのは危険過ぎる。大事なのは、実際の状況を把握することだ。
これは訓練ではない。自分の頭で、臨機応変に対応し、仲間と協力しなければならないのだ。
「お姉ちゃん、まずは私達が少し前へ出て、牽制を。他のイーグリットが来るまでの時間を稼ぎましょう!」
夕条 アイオン(せきじょう・あいおん)が言う。
敵機の方へと機体を飛行させていく。相手の射程内に入らないよう、距離感覚には注意して。
牽制をするだけなら、ビームライフルの射程圏内である必要もない。自分達の機体を認識させ、注意を向けさせればいい。そのまま敵機が向かってきたら、コームラントの射程圏内まで誘導する。
もっとも、敵もレーダーで確認はしているだろうから、二機以上が必要だ。そして、レーダーに反応させたとしても、それが長距離砲撃機だと悟らせてはいけない。
彼女達の連絡に応じ、数機のイーグリットが前線に向かう。彼女達は中距離を維持し、すぐに後衛に戻れる位置からビームライフルを放つ。
四方から迫る敵。ここからが正念場だ。
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