天御柱学院へ

なし

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蒼空学園へ

【学校紹介】新校長、赴任

リアクション公開中!

【学校紹介】新校長、赴任

リアクション


・タンカー防衛戦 後


 左舷側、前衛。
「4機か、後ろは……大丈夫だね」
 E―22からの連絡を受け、支援に入ったのはイレイン・ハースト(いれいん・はーすと)近衛 涼子(このえ・りょうこ)の乗るE―16だ。
「11時の方は、いい具合に分散してるよ。あとは、こっちを崩せば大丈夫みたい」
 11時の方角は、現在翔達が防衛している。一方、船尾側であるこちらには、4機が編隊を組んで向かっている。
『こっちを崩せば、あとは一機ずつ止めるだけだよ!』
 通信。夕条 媛花(せきじょう・ひめか)からだ。
 後方にはコームラントが控えている。ならば、ここはイーグリット同士で連携し、少しでも長距離射程の距離を確保しておく必要がある。
 E―16とE―22の二機がビームライフルを放つ。距離を維持したまま、それぞれの機体が敵機の左右に回りこむ。その際に、一方が低高度、もう一方が高高度と、高低差をつける。
 上下からのビームライフルの弾幕。敵機も固まっていては不利だと判断したのか、二機ずつに分かれ始める。
「よし、もう少しだ」
 後方のコームラントの射程に入れるのが優先事項だ。このままイーグリット二機で一体を包囲し、撃破することを当初は狙っていたが、敵の方が練度は上だ。さらに、機関銃による射撃をまともに浴びた場合、さほど装甲が頑丈でないイーグリットは大ダメージを食らいかねない。
 だからこそ、協力して牽制、誘導を行う必要がある。
 そこへ、後衛からのビームキャノンによる砲撃が飛び交ってくる。一機が撃った直後、別の機体がトリガーを引く。連射が出来ないのなら、時間差で複数機であたればいい。そうすることで、長距離射程の連射を可能にしているのだ。
(敵が乱れた! よし)
 その流れをついて、さらに敵機へ対してビームライフルを放つ。一つは足止めのため、もう一つは敵を回避させ、目標座標に誘導するため。
 二機のイーグリットで一機を追い詰め、とどめを刺すのは後方のコームラントだ。それさえも避けられそうだと判断したら、即座に加速し背後からビームサーベルで一閃すればいい。
 急降下し姿が消えたように思わせ、ブースターを最大出力で上昇。その勢いに任せればダメージも期待出来る。
 三次元での戦闘とは、そのように空間をどれだけ把握して動けるかにかかっている。

 後衛。
 11時、8時の方角から迫り来る敵影をレーダーで捉え、コームラントに搭乗する者達は速やかに砲撃準備を始めている。
「距離、800じゃ。ここからならいけるぞ!」
 C―06の朱点童子 鬼姫(しゅてんどうじ・おにひめ)が、敵機の位置を穂波 妙子(ほなみ・たえこ)に伝える。
「了解や。いっちょやったるで!」
 船尾に最も近い位置に、彼女達の機体はいる。前線ではイーグリットが敵機の注意を引きつけている。
 撃つのは今だ。
 ビームキャノンのトリガーを引く。発射されたビームは、加速をしながら敵のイコンへと迫る。
「く、外したか!」
 砲撃は、敵機の肩をかすめるにとどまった。その射撃位置を敵機が確認したらしく、機関銃での牽制射撃を行いながら、タンカーへと近づいてくる。
「近付けさせて、たまるかいな!」
 すぐに次弾を発射する。
 だが、敵機も軌道を読んで旋回している。射程が長くとも、気付かれていれば回避される可能性の方が高い。
 それを埋めるためには――
『今や、C―08!』
 付近で照準を合わせていたコームラントを把握していたため、そちらに指示を送る。敵が自分の攻撃に注視しているのなら、その隙を狙えばいい。
『了解だよ!』
 高峯 秋(たかみね・しゅう)がそれに応じる。
「イコン操縦はボクに任せて。アキ君は、狙い撃つことに集中してて」
「うん、任せるよ、エル」
 操縦、状況把握はエルノ・リンドホルム(えるの・りんどほるむ)の担当だ。機体の位置を合わせ、秋がビームキャノンの照準を合わせる。
「よく、狙って――」
 トリガーを引く。
 敵機はC―08の砲撃位置に、まんまと嵌った。回避行動を取るために、移動した先がちょうど彼らが予測したポイントだったのだ。
「当たったのは、脚部か……!」
 敵機に被弾はした。目視でギリギリ捉えることの出来る敵の機体からは右足が失われている。
 急旋回して、機関銃を放とうと動く。だが、損傷によってその機体はバランスを崩しているようだ。
 ブースターでの加速の勢いをコントロール出来ていない。
「もういっちょ!」
 そこを、C―06が砲撃する。これもまた、被弾。左腕を失った。それでも、まだ武装である機関銃は失っていない。
「これで、終わりだ!」
 その機体に、一機のイーグリットがビームライフルを撃ちながら迫っていく。降り注ぐ機関銃からの弾幕をくぐり、天海 総司(あまみ・そうじ)ローラ・アディソン(ろーら・あでぃそん)の駆るE―15はビームサーベルを引き抜いた。
 急下降し、すぐに上昇。最高速度を出し、弱った敵の機体の背後に回りこみ、一閃。
「これで丸裸だ」
 敵の機関銃が、海へと落下していく。
(こちらの損傷率は3%よ。装甲が少しはげた程度ね)
 ローラが精神感応を用いて伝える。
(了解だ)
 すぐに、次の敵機へと向けて機体を駆る。
(こちらの中にもスパイがいると思ったが杞憂だったみたいだ)
(そうね。でも、この状況だと裏切る者はいるかもしれないわ)
 彼らは護衛をするとともに、味方をも警戒していた。天御柱学院が事前に生徒を審査していたとしても、入学後にスパイとなっている可能性だってある。常に学院の名簿にある全生徒のデータが最新であるとは限らないのだ。
 それだけではない、今回がほとんどの者にとって初の実戦でもある。それでも、新校長を守るという大役だ。失敗し、後ほど何らかの処分を受けることを恐れ、敵に寝返ろうとする輩がいないという可能性もゼロではない。
(敵はあくまで沈めようとしているみたいだ。それに加担している機体は今はないが、敵が優勢になった瞬間に動きだすかもしれない)
(わかったわ。レーダーには気をつけるわね)
 ブースターで加速し、上昇。タンカー上空から全体を見渡せる位置に、E―15は飛ぶ。
 
 一方、別の機体に対しても狙いを定めるコームラントがあった。
「敵の射程外から攻撃するのは、戦いの基本だぜ」
 雨月 晴人(うづき・はると)アンジェラ・クラウディ(あんじぇら・くらうでぃ)の乗るC―13だ。彼らもまたイーグリットが応戦し、乱したところへと砲撃を繰り出そうとうする。
(一機、また離れていくよ)
(オーケー相棒!)
 すぐにその機体に向けて照準を合わせる。
(オレ達ならやれるさ、いくぜ!)
 トリガーを引くと、機体の両手に納まったビームキャノンから光が発射される。それが、敵の機体をかすめていく。
(もう一発!)
 すぐに次弾の準備に入る。だが、敵も間合いを詰めてくる。
(やっつけるぞ〜、やっつけるぞ〜!!)
 敵の位置は、アンジェラから精神感応で即座に晴人に伝わってくる。そこへ彼は機体を動かし、撃つ。
 当たらなくても、威力の高いビーム兵器だ。敵をかき乱すには十分だ。それに、コームラントは一機だけではない。
 敵が距離を詰め、機関銃を放ってくる。射程距離には入っている。
「コームラントの装甲を舐めてもらっちゃ困るぜ!」
 機動性は敵に劣るが、関節部に当たらない限りは敵の攻撃を耐え凌ぐことは出来る。C―13は、ビームキャノンを撃ちながら、接近する敵を撹乱していく。だが、なかなか決定打を与えることは出来ない。
「だったら、これでどうだ!?」
 装甲の頑丈さを生かし、飛行する敵の機体に向かって飛び込んでいく。
「死ねえぇぇ!!!」
 この叫びは、アンジェラのものだ。そしてコームラントは、敵の機体に激突する。装甲強度では勝っている。
 弾き飛ばされた敵の機体には、亀裂が入っている。
「この距離だ、食らっとけ!」
「アアアアァ!!!」
 ほとんど至近距離で、ビームキャノンをぶっ放す。それを避けることは、彼らより練度のある敵機のパイロットでも出来なかった。
「しゃあ、いけるぜ相棒! この調子でタンカーを守ろうぜ!」
「イヤッハー!!」
 次第に高揚していく二人。
 だが、さすがに無理がたたったのか、機体の性能が落ちていた。
(出力、20%低下、機体損傷率、18%。ビームキャノンのエネルギーも半分以下になってる)
(く、こっからは無理せず他のサポートか)
 まだ敵の機体は十数機残っている。
 タンカーが海京へ到着するまで、あと1時間半。あと少し、持ちこたえればいい。

            * * *

「思っていたより苦戦しているようだ」
「相手の力を過小評価し過ぎた結果だと思われます。先日収集したデータ以上の性能を発揮しているせいもあるかと」
「この前の私と同じ過ちを犯しているということか。情けないものだ」
 漆黒のイコンは、静かにタンカーの周りで繰り広げられている戦いを見ていた。
「荒いな。ほとんどの者は素人に毛が生えた程度と見える。落ち着いて見れば分かるというのに」
「既に3機が墜とされ、敵に対して焦りと憤りを感じているのでしょう。プライドもあるのかもしれません」
「格下の相手にコケにされて、ムキになっているということか――私達も出るぞ、ルイーゼ」
「はい、カミロ様」
「戦場取り乱した部下をまとめ上げるのは、指揮官の役目だ」

            * * *

「皆さん……やる気あります……逃がしません」
 後衛のC―14に乗る神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)が呟く。乱れた敵の機体は、コームラントでの攻撃範囲内に入っている。
「前は、任せておいても大丈夫そうだな。しかし、お前がわざわざここまで出るとは……まあ、少しでも支援しなければいけなさそうだけよ」
 シェイド・ヴェルダ(しぇいど・るだ)が紫翠を補助する。レーダーに映る機影を確認し、機体を動かす。
 そこに、紫翠が照準を合わせて砲撃を行う。
(しかし……校長……どんな人なのでしょう?)
 守るべき者の正体が分からず、ずっと疑問を感じ続けているものの、任務である以上、出来ることをするまでだ。
 前線に出ている機体を援護するために、ビームキャノンを放つ。付近には同じように後方支援のために態勢を整えているコームラント達がいる。
 葉月 エリィ(はづき・えりぃ)エレナ・フェンリル(えれな・ふぇんりる)の乗るC―11と、沙耶アルマの乗るC―12だ。
 三機は一斉に射撃を行うのではなく、時間をずらしながら敵の機体を狙っていく。こちらの攻撃が避けられたとしても、前線のイーグリットがいる。敵機の連携が乱れている以上、こちらは隙を見せた敵から確実に潰していけばいい。数では勝っているのだ。
「エネルギー残量60%。まだ撃てますわ」
「だけど、ムダ撃ちは避けたいところだよ。狙いをうまくつけて……」
 C―11の搭乗するエリィは、カメラ越しにシャープシュータ―で狙いを定める。エレナがレーダーから分析した敵機の移動予測座標、及び前線のイーグリットからの通信によって、照準を合わせる。
 それを、他の二機にも連絡し、援護を行えるように示し合わせる。
「了解、それでいこう」
 三機がビームキャノンを放っていく。敵の機体を一発で仕留めるに至らなくても、確実に戦力を削っていく。
「まずい、一機だけ無傷みたいだ」
 しかし、動ける機体は否応なく学院勢の中を突破してくる。コームラントの性質上、距離を詰められ過ぎるのは危険だ。
 そこへ、さらに後方からビームが飛んでくる。単純な前衛、後衛の二枚板ではないのだ。
「最終防衛ライン、援護する」
 イングリッド・ランフォード(いんぐりっど・らんふぉーど)キャロライン・ランフォード(きゃろらいん・らんふぉーど)の駆るC―09だ。
 自分達より前にいるコームラントの連携砲撃で撃ち漏らした敵を狙うのが、彼女達だ。
(敵もこれだけの砲撃を突破するのは難しいはずですぅ)
(だが、技量は向こうの方が上だ。このまま食い止めておきたい)
 敵機はちょうどコームラントの砲撃と、イーグリットのビームライフルの両方に挟まれる形になっている。そして、今敵を狙えるコームラントは四機。
(他の機体の穴を埋める。死角になってしまいそうな場所が、私達が狙うべき場所だ)
 こちらはタンカーを守りながらのため、必要以上の追撃や、回り込みは行えない。背中は常に艦に向いている。対し、敵は必要に応じて後退することも、上昇、下降も自由自在だ。三次元的な戦い方のパターンは、こちらの方が限られてくる。
 空間を把握、座標を指定。
 前線とも協力し、出来る限りそこまで誘導していく。敵に気付かれないようにするのは難しいが、こちらには火力がある。
 一発、二発、三発と、コームラントによる砲撃は着実に敵を追い詰めていく。
 だが、敵も装甲に被弾しながらも、動けるものはそのまま直進してくる。
(そう簡単にはいかないか)
 機関銃によるスプレーショットが、連携しているコームラントを襲う。装甲強度で分があるとはいえ、関節駆動系に被弾すれば、戦闘の続行は極めて困難になる。
『敵はそれほど装甲強度が高くない。武器さえ壊せれば、勝てる!』
 逆に言えば、敵は機関銃を壊せれたら終わりなので、回避する際に必ず射撃軸上から武器を外すように動く。パイロットに負担がかかるような急激な動きさえも辞さないほどに。
「しまった!」
 だが、長距離射程のコームラントでは、接近戦に弱い。さらに、敵はこちらの機体の破壊ではなく、あくまでタンカーを狙っている。こちらが敵を倒すのが目的で動いてるわけではないのと同様に、敵も学院のイコンを倒すために動いているわけではないのだ。
(このままだと、ヤバイな)
(なら、力づくでも止めますぅ)
 C―09が向かってくる敵機の前に踊り出る。そして、両手で持ったビームキャノンを――思いっきり振りかざす。
(おい、キャロ!?)
 そのまま敵の機体を殴りつけ、機関銃を破壊する。
 だが、武器を失ったのはこちらも同じだ。衝撃に耐え切れず、ビームキャノンは大破した。
(武器がなくなった以上、戦闘は不可能だ。引こう)
 同士討ちであれ、なんとか敵機を止めることに成功する。

 前線で戦況が一気に変化したのは、その時のことだった。

「黒い……イコンっ!?」
 E―12のシフが、その機体を捕捉した。他の量産型とは異なる、漆黒の機体。
 その周囲だけ空気が違って見えるほど、圧倒的な存在感を醸し出している。
「あいつは……!!」
 忘れるはずもない。翔や聡が戦ったイコンだ。
『みんな、気をつけろ。あいつは別格だ!』
 すぐに警戒を促す、翔。
「ようやくボスのお出ましってわけか」
 直哉結奈が乗る、E―17の機体が、その黒いイコン――シュバルツ・フリーゲに向かって加速する。
『よせ、一人で戦おうとするな』
『なに、まずはお手並み拝見だぜ!』
 E―17が黒いイコンに近づいていく。
(兄さん、無闇に突っ込んじゃダメ)
(分かってる、敵がどう動くか見るだけだ)
 ビームライフルを抜き、射撃を開始する。
 敵のイコンはそれをものともせず、軽快にかわしていく。
(あれを倒せば、いいんですわね)
 だが、向かったのは一機だけではない。ヴィヴィアンの駆るE―21もまた、接近していく。
 機関銃の弾幕を避けながら、二機は間合いを詰める。
 E―21は黒いイコンの前で急降下し、敵の下に潜る。その前方には、E―17がいるため、死角になっていたはずだった。
「食らえ!」
 E―17がビームライフルを引き抜き、一閃する。だが、その軌道は読まれていた。
「もらいましたわ――アンダーウッド・スラッシュ!」
 下降していたE―21が上昇しながら、黒いイコンを斬りつけようとする。だが、こちらも最小限の動きだけでかわされてしまった。
「単調過ぎるな。その程度では自分から的になりに来たようなものだ」
 そのまま、黒い機体は二機に向かって機関銃の銃弾を撃ち込む。機体の両肘、両膝の関節に向けて。
(お兄ちゃん、関節をやられた。機体のバランスが)
(くそ、制御が出来ねえ……!)
 そのままフラフラと、E―17が海面に向かって墜ちていく。さらに追い討ちをかけるように、銃弾が装甲に当たる。
(ヤバイ……脱出だ!)
 非常用のトリガーを引き、二人は機体の背中から勢いよく飛び出す。そのまま、パラシュートが開き、海へと着陸していく。
 一方の機体は、水面に撃ち付けられていた。
(お嬢様、損傷率が70%を超えました。このままでは、この機体も危険です)
(仕方ありませんわ。悔しいけれど、離脱するしかなさそうですわね)
 水面ギリギリを飛行しながら、E―21も戦線から離れる。
「カミロ様、よろしいのですか?」
「構わん。弾の無駄だ。タンカーを沈めるのが任務だということを、忘れるな」
 敵機はそれ以上の追撃は行わず、ただタンカーを目指して飛んでくる。
『総員に告ぐ。敵の相手を正直にする必要はない。タンカーだけを見据え、それ以外は無視しろ。任務を忘れるな』
 カミロが交戦中のシュメッターリングのパイロットに、伝達する。
「な、待て!」
 それにより、生徒達に阻まれていた敵機に変化が起こった。攻撃することを止め、一様にタンカーを目指して加速し出したのだ。
(いかせるか!)
 E―17が、ビームライフルを放つ。だが、敵は回避するだけで応戦してはこない。
(まだ、諦めない!)
 後衛のビームキャノンの軌道を読みつつ、移動を行う。だが、こちらの牽制はもはやほとんど効果をなしていなかった。
 多少被弾しても無視し、ただひたすらにタンカーを目指していく。
『敵は強引にでも突破するつもりです!』
 そうなると、敵がすることは回避と前身のみだった。装甲が傷ついても、武器だけは壊さないようにしながら、飛び続けている。
(音が近い。そろそろですか)
 敵がタンカーに近づきそうになったとき、短時間ではあるが水中に潜んでいた鳴海 和真(なるみ・かずま)劉 邦(りゅう・ほう)のE―20が動き出す。
 そのまま水の中から飛び出し、敵に不意打ちをするためだ。突破したつもりになっている敵を混乱させるために。
 ザバっと音を立てて、E―20の機体が飛び出す。
 だが、そこで和真にとって想定外のことが起こった。
『俺様は元皇帝様や! 直々にぶちのめされること、光栄に思え!』
 突然敵に通信を飛ばす、劉邦。
 だが、敵は一瞬反応を見せるも、E―20の機体を無視し、タンカーに向かっていく。
『おい、無視すんなやコラァ!!』
 そのまま機体を操縦し、敵機の背後からビームサーベルを引き抜いて斬り上げようとする。だが、堂々と自分の存在を知らしめているのだ。その一撃は軽くかわされてしまう。
「まだ、終わったわけではありません」
 攻撃を担当する劉邦に対し、敵機の行動予測を伝える和真。
 だが、敵は機関銃で牽制を行うだけ行って、突破を試みる。それを追撃するが、早く止めなければ、自分の射撃がタンカーに当たる位置にまで到達してしまう。出来る限り、タンカーの近くでの戦闘は避けたい。
 そこへ、タンカー付近からコームラントの砲撃が飛んでくる。回避行動を取った瞬間に、イーグリットが距離をつめ、敵の動きを止める。
「そいつは任せた。頼むぞ」
 そのコームラントは、グンツ・カルバニリアン(ぐんつ・かるばにりあん)プルクシュタール・ハイブリット(ぷるくしゅたーる・はいぶりっと)が搭乗するC―10だった。
 彼らは迫り来る敵機に向かって、片っ端からビームキャノンを放つ。
「これ以上、校長に近付けさせるわけにはいかない!!」
 コームラントであるにも関わらず、最大速度で移動しながら、敵に砲撃を行っていく。その間に、仲間の機体がそれぞれの敵機に向かう。コームラントは射程の都合上、タンカー側への砲撃は出来ない。ここまできたら、イーグリット対敵イコン――シュメッターリングとの白兵戦となる。
「機関銃の弾など、大したことはない。これでも食らえ!」
 ビームキャノンを撃てる限り、撃っていく。さすがに敵機も厄介だと感じたのか、完全無視ではなく、機関銃をC―10に向かって放ってくる。
「被弾。損傷率45%」
「まだ問題ない!」
 眼前には三機が迫っている。ビームキャノンを撃つ際のタイムラグもあり、一発撃ったら蜂の巣状態だ。しかも、
「まずいですな。ビームキャノンのエネルギー残量が、20%しかない」
「ならば、これで仕留められるだけ仕留めるまでだ」
 その最後の一撃を放つ。
 が、それは空しくも空中を一直線に抜けていった。
 無防備になったC―10に、敵の機関銃の一斉射撃が来る。
「ぐおッ!!!」
 装甲は被弾し穴だらけになり、駆動系も、もはや制御不能に陥った。そのまま機体は海面へと落下していく。

「さて、通してもらおうか」
 シュバルツ・フリーゲと対峙しているのは、翔達だ。この指揮官の登場で、一気に戦況が覆ってしまった。
 なんとしても、ここで抑えたい。
『皆さん、教官が言っていた時間まであと少しです。ここは何としても抑えましょう』
 E―12の機体が通信を飛ばす。
『了解。ここは絶対に、通さない!』
 C―07がビームキャノンの照準をシュバルツ・フリーゲに合わせる。
『一機や二機じゃまだ足りねえ。俺もいくぜ』
 聡のC―01も、武器を構える。
 二機のコームラント、そして前線には二機のイーグリットがいる。
「相手は4機か。どれほど出来るか、見せてもらおう」
 漆黒のイコンが加速する。
 E―12が上昇し、敵機より高い位置からビームライフルを放つ。縦に来る攻撃を避けるには、高度を落とすのが最良だ。
「上にいるからといって、優位になれると思うな」
 斜めに構え、機関銃で応戦してくる。そこへ、コームラントのビームが放たれる。こちらは、高高度と低高度、それぞれを補うような位置にいる。
 シュバルツ・フリーゲは急降下を始める。
(下がりました。ミネシア)
(おっけー、狙い通りにやるよ)
 黒いイコンを追うように、E―12も急降下を始める。ライフルで射撃するのは、海面だ。
 ビームを受けて水柱が上がる。
(さあってヤっちゃうよー!)
 コックピットのハッチを開け、ミネシアが水飛沫をサイコキネシスを繰り出す。その水で、敵機の動きを鈍らせようとしてのことである。
 ハッチを開けたのは、機体内部から能力が使えないからだ。
(これで、どうですか?)
 海面ギリギリで急旋回、機体を横身にしてコックピットに攻撃が当たらないようにし、ビームサーベルを叩きつけようとする。機体の速度はイーグリットの限界に達し、その衝撃を受けた海面の水はさらに波打つ。状況は整った。
「なるほど、考えたようだな。だが……」
 黒い機体が急旋回しながら水飛沫を避け、さらに上昇する。
「まだ甘い。念力の類が使えるようだが、音速の衝撃波には耐えられまい」
 上昇しながら、E―12の機体に銃撃を行う。ハッチに当たりこそしないものの、機体の急所の全てを破壊し、制御を奪う。
(シフ、ヤバイ、ぶつかる……脱出するよ!)
 コックピットのハッチが開いていたことにより、そのままサイコキネシスで勢いを殺して海に飛び込む。
 そして上昇する敵機に、翔とアリサのE―01が迫る。
「今度こそ、倒す!」
 ビームサーベルを構え、敵の懐に飛び込んでいく。だが、そのまま繰り出した一閃は、空を切る。
「翔、一度下がるぞ」
 続いてビームライフルに持ち替え、牽制をしつつ距離を取る。そこへ、コームラントの砲撃が飛んでくる。
「そのパターンは見切っている。芸がないな」
 ビームの軌道から外れた場所へ加速する、黒いイコン。
「こっちの動きが、読まれてる?」
「さすがに、指揮官ともなればこちらの戦術などお見通しということか」
 C―07の中で二人が言葉を交わす。
 そして、莉音が敵機に対して通信を飛ばした。
『どうして、こんなことをするの……?』
 素直な疑問だった。
「カミロ様、通信です」
「せっかくだ、近くの全機に繋げろ」
 敵からの声が響く。
『シャンバラを脅かす、地球文明を排除するためだ。そのための危険因子を始末するのが、我々の役目だ』
『この声……お前はやっぱり、この前の!?』
『おや、随分と早い再会になったようだな。だが、ほとんど進歩はしていないと見える』
『なんだと!?』
 キッとカメラ越しに映る敵機を睨む。
「翔、挑発に乗るな」
「分かってる。だけど……」
『だったら、今の俺達の本気を見せてやろうぜ!』
『聡……』
 コームラントが照射準備に入る。
『俺達が援護する。お前は思う存分そいつと戦え!』 
『ああ!』
 翔の駆るイーグリットが、シュバルツ・フリーゲに迫る。彼の後ろからは、二機から発射されるビームが飛ぶ。
 イーグリットが敵機に迫った瞬間、相手の姿が消えた。急下降したのだ。
「後ろか!」
 だが、その機体は背後からE―01に銃撃を――繰り出さなかった。
「一対多ならば、厄介な方から叩くものだろう?」
 急加速し、コームラントの方に近づく。
「へ、自分から飛び込んでくるとはな」
「聡さん、次弾の発射準備は完了しています」
 C―01が、次の砲撃を行おうとした、まさにその瞬間――
「ビームキャノンの発射口に、被弾!?」
 敵は発射直前のビームキャノンに銃弾を撃ち込んできたのだ。武器の無力化を図るため、発射のその瞬間を狙ったのだ。
「聡さん、エネルギーが逆流します」
 直後、ビームキャノンが爆発。
「損傷率、60%」
 続いて、無防備になった機体に敵の非常なる連射が迫る。
「くそ、脱出するぜ!」
 すぐに、コームラントから脱出する二人。
『聡、大丈夫か!?』
『ギリギリ、ってとこだ。すまねえ』
 すぐに翔が距離を詰める。
「接近戦が得意だということは既に知っている」
 敵機が後退しながら機銃を撃つ。だが、速度はイーグリットの方が上回っている。
「武器さえ壊せば、今度こそ……!」
 ビームサーベルで、敵の機銃を狙う。
「同じ手が二度通用すると思うな!」
 黒い機体が急下降する。そのまま、海に背を向けた姿勢のまま、真上に位置するE―01の機体に射撃を行う。
「カミロ様、この態勢の維持は機体に負担がかかりすぎます」
「すぐに終わる。気にするな、ルイーゼ」
 銃撃により、翔達のイーグリットが被弾する。
「アリサ、機体は?」
「損傷率40%。機体性能が30%低下している。このままではまずいぞ」
 一度、後退し距離を保とうとする。そこへ、C―07の砲撃が来る。
 援軍はそれだけではない。
 タンカーの進行方向上には、人工の海上都市、そして天沼矛が見える。そう、なんとかタンカー到着の1時間前までは持ちこたえたのだ。
 海京からは、十数機の学院製のイコンが飛んでくる。
「時間切れか」
「どうなされますか、カミロ様」
「今の戦力でこの数を相手にするのはリスクが大きい。任務は失敗だが……引くぞ」
 すぐに、敵は全機に告げた。
『時間切れだ。全機、速やかに帰投せよ』
 最後に、指揮官は呟いた。
「敵の戦力は掴んだ。近々、攻め込むことになるだろう――芽は、出る前に摘み取らねばならん」

            * * *

『ち、時間切れかよ』
『いくぞ。こうなった以上、長居は無用だ』
 タンカーへと向かっていた敵機が離れていく。
「な、逃げる気か!?」
『ふん、命拾いしたな、ガキ共』
 敵機は機関銃で牽制を行いながら、タンカーから離れてく。艦の進行方向上からは、天御学院に待機していた残りのイコンが向かってきていた。

 その頃、海上では、撃墜された機体のパイロットの救助も行われていた。もちろん、機体の回収もである。
「実戦初日でここまで機体を大破させたのは、俺達くらいだろうな」
 多くは、原型を留めていたが、グンツの駆るコームラントはもう修復不能なくらいに大破していた。
「整備の連中への言い訳はもう考えたのか?」
「いや……こりゃ、しばらくシミュレーターだろうな。にしても……」
 タンカーを振り返り、呟く。
「新校長って、結局何者なんだろうな」


 生徒達の初出撃は、大勝利とはいかなかったものの、なんとか任務を成功させるには至ったのである。