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【学校紹介】新校長、赴任

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【学校紹介】新校長、赴任

リアクション


・侵入者との戦い


 研究者達のいる部屋の扉の前で、フォックス・エイト(ふぉっくす・えいと)は見張りを行っていた。
「異常はないでござるな」
 隠れ身で姿を隠しつつ、じっと待機している。が、その手にはいちご大福が握られている。
(ちょっとだけなら……)
 その時、目の前の天井が抜けた。そこからは、二人の人影が現れる。
「狐くん、そいつ、侵入者だよ!」
 理恵と、艦内に侵入していた敵だった。フルフェイスのヘルメットに、全身にフィットした黒い強化服を着ている。さながら忍者のようでもあった。
「こいつを追い払えばいいでござるか?」
 このまま研究者の詰める部屋に通すわけにはいかない。
 二人で目の前の侵入者を遠ざけることにする。ちょうど、巡回組も近くにいるため、挟みうちにすることも出来そうだ。
「これで、どう!?」
 サイコキネシスで、落とした天井をぶつけようとする。が、敵はナイフでそれを切り裂き、通路をかけていく。
「侵入者が出たようだね。ここは美しく迎え撃とうじゃないか!」
 桃太郎がカルスノウトを構える。正面から、敵が勢いよく駆けてくる。
「こいつを食らいな!」
 アンナがサイコキネシスで、近くにあった備品を敵にぶつけようとする。しかし、軽快な身のこなしで敵はそれを難なくかわす。
「これなら、どうかな?」
 桃太郎がツインスラッシュを放つ。相手はそれを手に持ったファイティングナイフでさばく。彼の連撃を、ものともしない感じだ。
「く……」
 そのまま彼を弾き飛ばし、敵は離脱しようとする。しかし、
「!!」
 ブラインドナイブスによる一撃が、侵入者の身体をかすめる。隠形の術で待ち伏せしていた{SFL0017517#ライザ}が隙をついたのだ。
 そこを、ローザマリアがスナイパーライフルで気絶射撃する。銃弾は命中し、侵入者は倒れた。
「そのままそいつを縛って!」
 敵から情報を聞き出すためにも、ここで拘束して生け捕りにする必要があると彼女は踏んだ。
 その場に居合わせた者達で、侵入者を捕らえる。
「まずは、その面を拝ませてもらうとしようか」
 が、そこで、敵の体内から奇妙な音が聞こえてくるのを、超感覚を持つ者が感じ取った。
「まずい!」
 咄嗟に敵の身体から飛び退く。直後、侵入者の身体が爆ぜた。
「自爆……!?」
 どうやら、意識を失ったら自爆するように、体内に仕掛けが施されていたようだ。敵に捕まるくらいなら、一人でも巻き添えにして機密を守れということか。
 もう、敵の身体は原型を留めてはいなかった。
「……一人ではなさそうね」
 自爆するようにも仕込まれていたことを考えれば、たった一人だけを送り込んでいるとも思えない。使い捨ての駒なのかはともかく、中から研究者や校長達を抹殺しようとするなら、同じような輩はいるはずだ。

            * * *

「みんな、下がって! 何か来るわ」
 雅香が声を張った。
 その直後、研究者達の部屋にも侵入者が現れた。排気ダクトの中に潜んでいたのは、一人だけではなかったのである。理恵が通路に降りた後に、その者は部屋を目指して行動を開始したのだ。
 彼女は女王の加護によって、その気配を察知していたのである。
「な、なんだお前は!?」
 研究者の一人が叫ぶ。だが、それに答える侵入者ではない。即座にナイフを構え、強襲しようとする。
「やらせません!」
 がサイコキネシスで、敵の動きを封じようとする。彼にとって予想外だったのは、敵が飛び道具では、なく、近接戦用のナイフを持っていたことだ。これははじけない。
「く……僕一人じゃ」
「お兄ちゃん!」
 美奈もまた、サイコキネシスを侵入者に行使する。二人分の力を受け、敵の動きが弱まる。
 侵入者は、研究者は一度後方へ飛び、体勢を立て直そうとする。二人分のサイコキネシスを浴びてはいるのだが――
「な……跳ね返され……うわあッ!」
 二人の念力が、はじかれた。
「お兄ちゃん、あいつも多分……」
 超能力の使い手だ。
 サイコキネシスを跳ね返したのがその証拠だ。
「でも、能力は同じ。なら――」
 敵が同じようにサイコキネシスを使おうとしたら、それをはじき返せばいい。
「伏せて!」
 そこへ、雅香がハンドガンのトリガーを引く。敵の意識が外れている時に、銃弾を撃ち込もうとしたのだ。
 だが、それは敵の念力による力場の固定された。そのまま、彼女の方へ跳ね返ることだろう。
 しかし、
「まだ、勢いは死んでません」
 サイコキネシスで銃弾をコントロールしようとする、勇。それを手伝う、美奈。
「いっけええええ!!」
 それは、敵のサイコキネシスに打ち勝った。銃弾は敵の手の甲に当たり、握っていたナイフを落とす。
 しかし、直後に目のあった研究員――中尉に手を伸ばす。その手には隠し持っていたらしい、もう一本のナイフが握られている。
「中尉さん!」
 咄嗟に椿が彼を突き飛ばす。それによって、敵のナイフは空を切った。
 そして、二発目の銃弾が敵の身体を貫通した。
「やった……の?」
 そのまま敵を捕縛しようと動くが――
「その人から早く離れて!」
 雅香が叫ぶ。
 直後、敵の身体が爆ぜた。その爆発の圏内には、中尉と椿がいた。
「――ッ!!!」
 だが、二人は無事だった。勇と美奈のサイコキネシスによって、爆風がそれたからだ。
「大丈夫ですか!?」
 すぐさま中尉達に駆け寄る二人。
「ああ、なんとか、大丈夫です。助かりました」
 敵が目の前で命を散らしてしまったのは、口惜しいが、研究者を守りきれたことにひとまず安堵を覚える。
「ふう、よかった、です……」
 へな、と力が抜けたように膝をつく。能力の行使と、戦いの緊張からの解放で力が抜けてしまったようだ。
「もう敵はいないようね」
 雅香の女王の加護による勘でも、この部屋にはもう近づく悪い気配はない。

            * * *

「あー!!」
 艦内を巡回していたケイが、突然奇声を上げた。
「ケイさん、どうしましたー?」
 が、あげははその原因にぴんときたようだ。
(ケイさん、虫がいるんですねー。ばりむしゃもぐもぐですねー)
(あー! あ、ああ、ああああ!)
 どうやらその通りらしい。
 が、彼女は気付いていなかった。
 ――すぐ後ろにそれが迫っていたことに。
「ひゃあ!!」
 闇雲にケイが匕首を振り回す。そして、それが金属とぶつかる音が響く。侵入者のナイフを、彼は受け止めたのだ。
「ケイさん、ナイスですよー」
 そこには、紺色の人影があった。強化服に、フルフェイスのヘルメット。
 姿を発見したあげはが、サイコキネシスで敵を転ばせようとする。が、そこで気付いた。
(この人も、超能力を使えますねー。ケイさんのこの反応、強化人間のようですー)
 敵は力場を展開し、彼女のサイコキネシスをかき消した。そして、次の瞬間――
(ん、消えましたー?)
 敵の姿がない。
「あー!」
 見えないが、強化人間の気配がするというだけで、その居場所はおぼろげに感じ取れるものらしい。相手も精神感応を持っているようだ。
 だが、姿が見えない上に、動きが早い。このまま戦うのは分が悪かった。しかも、すぐ近くには校長がいると思しき部屋の扉がある。
「そこか!」
 戦っている姿を見て、艦内を回っていたがスプレーショットを放つ。敵の強化服には光学迷彩のような装備があるようだが、彼女の射撃によってその機能が壊れたらしい。
 紺色の姿があらわとなる。
「翼!」
 彼女のパートナーの麻上 翼(まがみ・つばさ)が、自らのガトリング砲の光条兵器で敵を撃つ。シャープシューターで狙いを定めて。
「動きが、早いです!」
 しかし、その砲撃を壁を蹴り、跳躍しながら紺色の闖入者はなんなくかわしていく。さらに、彼女の放つ光条砲弾を跳ね返す始末だ。
「止めるぞ。この先の例の場所には近付けさせるな!」
 敵を追い詰めるため、二人は攻撃を行う。だが、相手は相当な超能力の使い手であるばかりか、身体能力も高いようだ。
 実弾は力場で減速させナイフで弾き、光条砲弾は跳ね返す。
 もし、他の二名の侵入者と戦った者がこの紺色の敵を見たら、気付くだろう。他とは明らかに一線を画した相手であると。
「この扉には、触れさせません!」
 コンスタンシアが向かってくる紺色の人影に迫っていく。スウェーで敵のナイフをかわしながら、ツインスラッシュを繰り出す。
 だが、間合いは彼女に分があるにも関わらず、敵に攻撃が当たらない。全て避けられてしまうのだ。
(私の動きが、読まれてる!?)
 そうとしか思えない動きだった。彼女が攻撃を繰り出そうとした瞬間には、もう回避行動に移っている。フェイントで引っ掛けようとしても、それさえも読まれているかのようだった。
 ふと、横目に扉の方を見る。ちょうど、大佐がそこに差し掛かったところだった。
(まずい!)
 そこへ、追いかけてきていた悠達の銃撃が飛び交う。その隙に、コンスタンシアは大佐を守るために駆け出す。
 敵は銃弾を避けながらも、確実に大佐に近づきつつあった。
「『ファーストコントラクター』と思しき反応を確認」
 紺色の侵入者が呟いた。
「直ちに目標を捕捉、これより対象を消去します。障害になるものも、同様に排除」
 ぶつぶつと何事かを口にしながら、扉へと近づいていく。
「侵入者か」
 大佐がその姿に気付いた。
「排除しま……」
 あと3メートル、というところで、咄嗟にコンスタンシアが爆炎波を飛ばした。それによって、敵は扉から離れる。
「大丈夫ですか!?」
「ああ。助かった」
 分が悪いと悟ったのか、敵は甲板に向かって駆け出していく。
 コンスタンシアは深追いせず、そのまま大佐を守るために残った。
「しかし、あの動き……只者ではなさそうだ」
 大佐は冷静に、甲板へと駆けていく敵の背中に視線を送った。
 この時、この場の者は誰も気付いていなかった。
――敵が、大佐を前にして一瞬攻撃を躊躇したことに。
 だから、コンスタンシアが間に合ったのだ。
(あのまま私を殺すつもりだったら、確実に仕留めていたのだがな)
 大佐は、コンスタンシアに気付かれないように、袖口から出そうとしていたものを、再び袖の中に戻した。

 甲板まで出た侵入者は、学生達に追い詰められていた。
「もう逃げ場はない」
 後ろは海だ。
 さらに、少し離れたところではイコン同士が戦っている。泳ぐにしても、瞬間的には超音速に至るイコンの側では、ソニックブームに巻き込まれる。交戦している高度は低いため、海面にはそれによる衝撃が伝わってくるのだ。
 しかし、
「何ッ!!」
 敵は躊躇うことなく、海に飛び込んだ。
 そのまま、その姿は沈み、見えなくなっていった。遠くで浮かび上がる気配もない。だが、どちらにしても、これで侵入者が艦から消えたことに変わりはない。
 艦内には、もう敵は残っていなかった。
 全ての通風孔を調べ、光学迷彩のような姿を消す手段にも警戒したが、完全に敵は姿を消したようだ。
 これで、タンカー内部の当面の危機は去ったのであった。