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ハート・オブ・グリーン

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SCENE 02

 大規模な作戦の成否を分けるのは、後方支援の優劣にあるというのは決して言いすぎではない。その点では、本作戦の拠点は評価して良さそうだ。
「せっ!」
 瓜生 コウ(うりゅう・こう)は深々と、最後の杭を打ち終えた。テントを設営し最低限の器具を用意する。
 探索開始早々、岩場に囲まれた空地を発見できたのは幸運だった。すなわちここを、全部隊支援のベースキャンプとするのである。堅牢なバリケードも設置していた。
「といってもアイアンゴーレムが重火器で攻めてくればひとたまりもなかろうが、な……」
 そうならないことを祈るばかりだ。ただし簡単に発見されるつもりはない。最低限のカムフラージュも済ませている。
 流れる額の汗も拭わず、コウは秦 良玉(しん・りょうぎょく)に呼びかけた。
「連絡を頼む。急作りだがベースキャンプは完成した、とな」
「任せるのじゃ。暗号鍵は、常用のもので良いな?」
 良玉は手慣れた仕草で通信機のスイッチを入れ、チューニングと暗号コードを入力した。
「聞こえるか? 李少尉、李少尉応答せよ……」
 多少音質は割れているものの、李梅琳からの応答が入った。
「先行隊が異常植物と遭遇した模様!」
 良玉は通信機から振り返った。予想していたこととはいえ緊張が走る。しかも強力な攻撃だという。
「思ったより早いですわね」
 沙 鈴(しゃ・りん)は資材を担いだまま首だけ良玉に向けた。鈴は物資調達と資材管理に活躍している。事前に時間をかけ準備はしてきたのだが、やはり現場に来なければ気づかない必需品や不足品があるのは事実、それを現地調達して整える必要があった。
「位置は割り出せる?」
 鈴の問いかけに対し、良玉が即座に回答する。遠くはない。異常植物のテリトリー外、ギリギリ安定している位置を選んだ判断は正しかったようだ。
「我々が浮き足立つわけにはいくまい。だが、緊急に備えることも必要だ」
 コウが視線を滑らすと鈴は得たりと頷き、綺羅 瑠璃(きら・るー)に命じる。
「万が一の場合、急行できるよう準備をお願いしますわ」
「了解です。毒を持った植物はないとのことですが、念のため毒消しも用意しておきます」
 瑠璃は衛生兵として、包帯や薬品を預かっているのだ。またたく間に必要最低限の物資を鞄に詰め終える。
「戦力を分析するに機銃のほうが有利だ。急行となればオレが……」
 と、コウは瑠璃を見て、
「彼女と赴く。あなたにはここを守ってもらいたい」
 鈴に告げた。構わないか? と一言加えたのは、コウはイルミンスールの所属、鈴以下三人が教導団という事実に配慮したものである。このところ共同作戦が続いたとはいえ、両校は決して盟友関係とは呼べない。東西のシャンバラに別れている上、学生レベルでは対立感情を抱く者も少なくなかった。事前討議ならびにここまでの道中で、コウと鈴は信頼関係を築き上げたとはいえ、一方的に判断を押しつけるのには抵抗があるのだ。
 ところが沙鈴は、笑みを浮かべた。
「コウ殿の判断、正しいと思います。その通りに致しましょう。……今日のわたくしたちは共に戦う戦友、所属学校の分け隔てなく任務を全うせよとは李梅琳隊長、ひいては金鋭峰団長の厳命でもあります。無用なお気遣いはされませんよう」
 教導団で教官を務めるだけあって、鈴は人心の機微に聡い。とうにその配慮を見透かしていた上、コウを楽にさせるよう、口調と言葉を選んで語るだけの度量があった。
(「さすがは……」)
 コウは内心舌を巻く。頼もしさと、ある種の気品すら感じた。鈴らと組めたことに感謝しつつも、
(「できれば敵に回したくない相手だ」)
 敬意と共に思うのである。

 数分後、梅琳から勝利の報告が入った。この調子で進めたい。